、明日は帰ったら出かけるからな。泊まりの準備しとけ」

「え?どこ行くの?」

「俺様の家の牧場」

……………………………牧場まで持ってるんですか、跡部さん………………。



Act.30  そんな本は、知りません



ちゃん、明日暇?」

朝練の前に、部室で準備をしていたら着替え終わった侑士が聞いてきた。
明日……えーっと、今日牧場行って……泊まりの準備とか言ってたから、明日はきっといないんだろうなぁ。
言葉を発しようとしたら、景吾が私の頭の上にぽん、と手を乗っけながら、ニヤリと笑って侑士に言い放った。

「悪いな、忍足。は俺様と先約がある」

「〜〜〜跡部!自分、ちっとは遠慮したらどうや!?」

「はっ……遠慮なんて言葉は、俺様の辞書にはねぇ」

「自分はナポレオンか!ちゃん、こんなヤツとよぉ四六時中一緒におれるなぁ!?」

ポリポリ、と頬を掻く。
……んー、慣れよね、慣れ。
人間、流されるのも大事ってことよ!(威張るな)

「…………跡部、覚えとき」

「残念だな、忘れることにする。……、行くぞ」

ズルズルとひっぱられて、コートへ連行される。

「ねぇ、景吾。牧場って何がいるの?」

「あぁ……馬に牛に、羊に山羊……それから」

「……そんなにいるんだ〜、すごいねぇ……」

「ちなみに、うちのジェラートは美味いぞ」

「えっ、ホント!?楽しみ〜vv」

くっ、と景吾が喉の奥で笑う。
……なにかしら。馬鹿にされてる気が果てしなくするのだけど。

「お前は、本当に食うこととなると嬉しそうだな」

「…………ほっといて。食い意地張っててすみませんね」

「別に悪いとは言ってねぇだろうが。美味そうにお前が食ってると、俺様まで食ってるものが美味く感じるからな」

「美味しいものは美味しく食べるべきでしょーが」

本当に美味しいんだもんよ、跡部家の料理。

「それから、乗馬もさせてやる」

「乗馬!?うわー、私、馬なんてポニーくらいしか乗ったことないよ」

「楽しみにしてろ。俺様が直々に教えてやる」

うっわ、馬に乗る景吾……。

―――想像中―――

お、王子としか言いようがないね、こりゃ!!(ガッツポーズ)
王子様の衣装でも着ればいいんだ―――!!!





部活が終わって早々に帰る。
荷物の準備は昨日のうちにしておいたので、大きめの鞄1つだけを持って、すぐに出掛けることが出来た。

いつもの車に乗り込む。

「2時間くらいか……それまで寝てるといい」

景吾の言葉の通り、2時間たっぷり寝て。
ついた場所は、明かりもポツポツとした広い牧場。

「もう暗いからな……こっちに別荘がある。今夜はそこに泊まるぞ」

景吾に案内されて、牧場の一角にある別荘へ。
まぁ、それが半端じゃなく大きいのもお約束。

「いらっしゃい、景吾さん」

「あぁ。……、この牧場を管理してもらっている、谷山さん夫妻だ」

「あ、はじめまして!です」

「はじめまして。景吾さんがこの牧場に誰かを連れてくるなんて、初めてですね。……今日は、腕によりをかけて料理を作りました。どうぞたくさん召し上がってくださいね」

「あ、ありがとうございます!」

、部屋はこっちだ」

トントン、と景吾が階段を上っていく。
谷山さんたちに頭を下げて、景吾の後をくっついていった。

あてがわれた部屋は、これまた広いお部屋。
事前に来るのがわかっていたからだろうか、きちんと整頓されていて、暖かそうな毛布なども置いてある。
窓からは、牧場が見渡せるみたいだ。

「うわぁ〜……」

「気に入ったか?」

「うん!」

「……それならいい。すぐに飯らしいから、荷物置いて行くぞ」

鞄を置いて、景吾にくっついて食堂へ。
跡部家のテーブルは、すごーく大きくて長いんだけど、ここの別荘は普通の木のテーブル。
なんだか、景吾と近いので少し照れる。
だって景吾ってば、テーブルマナー完璧だからさー……いや、そりゃ私だって跡部家にお世話になってる以上、大分慣れたけど。それでも完璧な人の前だとすごく恥ずかしい。
お箸の使い方とかすごいキチンとしてるしね。

いただきます、と手を合わせて料理を食べる。

「……おいしいっ……うわっ、チーズが濃厚……!」

「それはこの牧場で作ったチーズなんですよ。牛もいますからね。……よかったら、明日の朝、乳搾りの体験もしてみますか?」

「えっ、いいんですか!?」

「えぇ、もちろん」

「ありがとうございます!……へへ、やった〜」

「ったく、顔緩みすぎだぞ」

「だって楽しいし、料理はおいしいし……わぁ、ハンバーグもおいしい〜」

幸せだ〜vv
ここまで来る間、なんにも食べてなかったから、なおさらおいしい。

景吾がまた喉の奥で笑ってる。
その笑いに、私は軽く睨みながら(でもおいしいものを食べているからにやけている可能性大)呟いた。

「……景吾、おいしいからおいしいと言ってるだけだからね?」

「あぁ。お前の顔を見てたらよくわかる」

「え。……やっぱ顔に出てる?……おいしすぎるんだもん、しょーがない」

「そりゃ良かったな」

ぱくぱくご飯を食べて、ご馳走様をする。
谷山さんに挨拶をして、部屋に戻った。

谷山さんがお風呂を沸かしておいてくれたらしく、ささっとお風呂に入る。男女別だったので、今日は景吾が上がるのを待たなくても良かった。ついでにご飯も食べたあとだから、歯磨きもしておく。

ほこほこと湯気を上げながら部屋に戻って。

はぁ〜、とベッドに飛び込んだ。
ふかふかだ。お日様のにおいがする。

同じくふかふかの枕をぎゅーっと抱きしめた。

最高に幸せ……!

そのままうとうととしていたら、コンコン、というノックで目が覚めた。

「俺だ、入って平気か?」

「うん、どうぞー」

「……寝てたか?」

私がベッドでゴロゴロしてたから、そう思ったのだろう。

「ううん、ちょっとうとうとしてただけー」

「そうか。……明日は、起きたら下に来いってよ」

「あー、乳搾り〜!わかった!」

「それで、終わったら朝食で……その後乗馬な」

「了解!…………楽しみ盛りだくさんだねぇ。景吾、サービスしすぎじゃない?」

乳搾りに乗馬〜。楽しそう〜vv
あ……景吾も乳搾りやるのかな!?←素朴な疑問

ふと景吾を見たら、なんとも言えないびみょ〜な顔をしていた。

「…………お前、気づいてねぇな」

「はい?」

「…………いや、明日言う。……今日はもう寝ろ。髪の毛、ちゃんと乾かせよ?」

「はーい。おやすみなさ〜い」

「あぁ、おやすみ」

ちゅっ。

私は景吾の唇が触れた頬を押さえて、叫んだ。

「馬鹿―――!!!」

「オヤスミのキスは、基本中の基本だろ?」

「なんの基本だ!」

枕を投げようとしたら、すでに景吾は扉の外へ。
〜〜〜〜〜!!!

はぁ、と息をついて、ドライヤーを手に取った。


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