「気合い入れていくぞ、テメーらァ!!」

「オォォォォ!!!!」

応援団は、必要以上に熱いのがお約束。



Act.31  援団の、練習成果



ちゃん、用意はえぇ?」

、そろそろ出番だぜ!」

学ランに白い手袋、長い白ハチマキをつけた侑士と亮。
オォォ……!美形は何を着ても美形……!神様、いろいろありがとう!

「う、うん!準備おっけ!」

髪の毛は詰襟の中にきっちり隠した。
手袋もしたし、ハチマキもきっちり巻けてる……はず!

「旗も持ったな?」

「もちろんです!」

私は、大きな旗を手に持っていた。
そう、私は応援団の旗手。

さすがに、中学生男子の動きを一緒に私がやるのには無理があったので、亮がほとんど無理やり『旗手』というパートを用意してくれた。
応援団は、パンチやキック、中腰など、かなりの運動量。しかも恐ろしいことに、それをゆったりとした動きで行うのだ。一介の女子中学生(だと信じたい)である私にとっては、ちょっと荷が重すぎた。

でも、旗手なら動きは別。アクションは基本的に、太鼓に合わせて旗を振ること。パターンはいろいろあるけど、それでも普通の団員に比べたらだいぶ楽……だと思う。それでも、練習の時には二の腕と肩の筋肉痛には最後まで悩まされ続けたけどね……!

「これより、各組による、応援合戦を行います。各組応援団は、所定の位置についてください」

アナウンスが流れ、私たちはいよいよ、定められた位置についた。
うぁー、ドキドキする……!

だ、誰かこっち見ないかな……と前方にいる侑士や亮に念を送ってみる。
じっと見ていると……念が通じたのか。
侑士がこちらを振り向いた。
緊張をほぐすように、ヒラヒラと手を振ってくる。私も振り返したら、今度は亮がこちらを向いて、一つ頷いた。
少し、肩の力が抜けた。

「ラストは白組です」

赤、黒が終わって、とうとう白の番。
今までの2つには、テニス部の誰も出ていなくて―――正直、クオリティは低くはないけど高くもない。
私たちの組が、きっと一番!
そう信じて。

私たちは立ち上がった。

「……これより!白組の勝利を願って、エールを送る!」

ハチマキをつけ、一番前にいる亮が大きな声を張り上げた。

ドンッ……!

お腹に響く、太鼓の重低音。

バサリ、と大きく一振り、旗を宙に流す。

「せぃやッ!」

気合いと腕の突き出しに合わせて太鼓が鳴り―――私もそれに合わせて、旗を振る。
リズミカルに。時に余裕を持って。
速いリズムの時には、結構な重量の旗を回した。
遅いリズムの時には、たっぷりと風になびかせた。
もはや、旗を振ることしか頭にない。すっかり、集中し切っていた。

たくさん練習してきたけれど、こうして本番を迎えると、あっという間に時間は過ぎていく。
後は……ラストスパート。

ドンッ……ドンッ……

一心不乱に、旗を振る。

ドン…ドン……ドドドド………

「ハッ!!!」

ドンッ!

と最後を締めくくる大きな太鼓の音とともに、旗を大きく一振り。

太鼓の余韻と共に、少しばかりの静寂。

「ハァ……ッ……ハァッ……」

私は、自分の乱れた息しか、耳に入らなかった。

「……ッ……ワァァァアアアア!!!!」

乱れた自分の息遣いは、割れんばかりの歓声にかき消された。
歓声を聞いて、ようやく我に返る。

誰からともなく、応援団の面々が集まる。

集まった私たちは、お互いの顔を見合わせた。

汗だくで乱れた息。髪は汗で顔に張り付き、激しく動いたからか学ランも少し乱れていて、正直、格好よくはない。
それでも、私たちは自然に緩む口元を隠すことをしなかった。

「……っ……あははっ!」

思わず笑ってしまった私を封切りに、みんなが笑いだす。
パンッ!パンッ!とみんなでハイタッチを交わした。

、よくやった!」

ちゃん、お疲れさん!」

亮、侑士と、極上の笑顔でハイタッチ。
やり切った爽快感が、体を包んでいた。

もちろん、応援合戦は、白組が優勝をいただきました。







「っふぅ〜……」

応援団で優勝を頂き、嬉しがるのもつかの間。
私はいそいそと学ランを着替えに校舎へと向かっていた。

昼休みは短い。もっと学ランを着ていたかったし、記念撮影もたくさんしたかったけれど、残念ながらタイムリミットだ。
写真は侑士がいっぱい取ってくれたから、後で焼き増ししてもらうかデータ貰おう。

外した手袋を右手に握りしめ、校内に入る。
みんな外でお昼御飯を食べるから、さすがにシンとしている廊下。更衣室までを駆け抜けることは可能だ。
まっすぐな廊下、誰もいないから走っていても文句は言われない。

タッタッタッ……。

走っていても、顔がにやける。
ものすごい楽しかった。もっとやりたかったと思えるくらい。しばらくは顔のにやけがとまらないだろう。
にやにやしたまま、何本目かの柱を通り過ぎた。

「随分楽しそうだな」

うひゃあ!?

突然聞こえてきた言葉。反射的に声が出た。
掛けられた声に、聞き覚えがありすぎた。
……聞き間違えるはずがない、この美声。

ソロリ、ソロリと。

…………ゆっくり後ろを振り返る。

「…………面白ぇカッコしてんじゃねぇか、。あーん?」

やっぱり、景吾―――!!!(絶叫)

「なっ、えっ……な、なんで景吾が、ここに……!?」

柱の影で腕を組んで待っていたらしい姿。
その体勢のまま、ゆったりとした動きで景吾が近付いてくる。
誰もいない廊下。窓際まで追いつめられた私に、逃げ場はなかった。

「お前を待ってたに決まってるだろ。……応援団の衣装から着替えるには、この先にある更衣室に行かなきゃならねぇからな」

「うっ……あっ……どう、して……」

「……なぜお前が応援団をやっていたかわかったか、って?」

あまりの衝撃に言葉が出ない私の後を、景吾が続ける。
その言葉に寸分の狂いもなかったので、ガクガク、と私は必死の思いで頷いた。

「……さっきも言っただろ」

トン、と景吾の右手が窓枠にかけられる。

「俺様がお前を見逃すと思ってんのか」

ゆるりと近づいてくる顔。
ごく至近距離で景吾の顔を見つめ続けるという所業に耐えきれず、思わず顔をそむけた。

「……こっち向け」

くい、と顎をひかれ、強引に顔の位置を戻される。
ヒィィ、やーめーてー!冷静なお顔が怖いのよ!美しすぎるその瞳に、汗塗れの私が映っていると思うと気が引けるのよ!

「……やってくれたな、。この俺様に、こんなこと黙ってるなんてな」

心の叫びはまったく景吾に届かず。
強い威力を持った綺麗な目が私を射抜いた。

「万が一俺様が気づかなかったら、そのまま黙ってるつもりだったのか」

「………………」

「……沈黙は、肯定か」

景吾の左手が、顔の真横伸びてくる。
完璧に逃げ場をなくした私は、為す術もなく立ち尽くすだけ。

ふっ、と景吾の目線が逸らされ、下方へ向かう。

「…………俺以外の男の服に、腕通しやがって」

「こ、これは……衣装で……」

「誰のだ」

「え、や……えーっと……」

「言え」

「…………手塚、国光様です」

ピクリ、と景吾の眉が跳ね上がる。
……私は確信した。

今、景吾の逆鱗に触れた、と。

「………………ほぅ」

景吾の目が、細められる。

窓枠に伸びていた手が、ゆっくりと学ランに伸びた。
ぷつん、ぷつん……と学ランのホックが外されていく。

「ちょ、け、景吾……」

「黙れ」

「……んっ」

無理やりに唇をふさがれる。ちょ、誰か来るかもしれないってのに―――!!!(汗)
ふさがれている間にも、景吾の右手は器用にホックをはずしきって―――バサリ、と上着をはぎ取る。

中には汗だくのTシャツだけを着ていた私は、急に触れた外気の冷たさに鳥肌を立てた。
だけどすぐにやや乱暴に今までの上着とは違う―――景吾の今まさに羽織っていた上着が、肩にかけられた。
そろりと離れていく、熱。

「……2分だ」

「…………はい?」

目線を逸らした景吾は、今まさに私からはぎ取ったばかりの学ランをバサリと肩にひっかける。

「……2分で、着替えてこい。これ以上俺様以外の男の服を着るんじゃねぇ」

「え、えぇ!?」

「…………それとも、ここで下も着替えさせられたいか?」

とんでもないことを口走った景吾さんに、ブンブンと全力で首を振る。

「今すぐ!今すぐに着替えさせていただきます!」

「そうしろ。……そうすれば、お前の頑張りに免じて、これで許してやる」

「了解いたしましたー!!!」

バヒュンッ、と私は更衣室に向かって走った。
だから、景吾の最後の言葉は聞いていない。

「……お前に関しては、な」

後日、景吾が亮や侑士に何をしたのかも、知らない。




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