ものすごい人数を3つの組で割るということで、中3だけでも180人ほどになる。
そのため、集まりで使われるのは、LL教室や視聴覚教室だ。

今日は第1回目の集まり。
まずは中心となる中3だけが、LL教室に集まった。

「おい、お前ら聞いてんのかよ!ったく……激ダサだぜ……!」

亮が教壇上で呟く声は、ざわめきにかき消されていた。



Act.14 り切る人間、承諾したワケ



「じゃあ、これから黒板に種目書いてくから、明日までに自分が出たいヤツ決めとけよ!各自、最低1種目は出るんだからな!最後のフォークダンスは全員参加だから数に入れないっての、覚えとけよ!」

亮の声に、『はーい』と気の抜けた返事がちらほら聞こえた。

「……ホンマに聞こえてるんかいな」

「ね」

隣で侑士が呆れて息をついたのに、私も同意する。やたらに騒がしいので、返事をしていても、ちゃんと理解しているかどうかは激しく怪しい。
まぁ……これだけ大人数になれば、うるさくないわけがないけれど。

「明日のLHRもここで集まるからな!ちゃんと来いよ!……以上、今日は解散!」

その騒がしい教室内で、亮は1人大声を張り上げていた。
なんだかんだで熱血少年の亮は、委員の子に組長を押し付けられたらしい。委員の子はいるけど……苦笑しながら遠巻きに状況をうかがっている。まぁ、この人数相手にあそこまで大声出せるのは亮ぐらいだろう。

その大声の甲斐があってか、一応みんな、『解散』の声は聞こえたらしい。
バラバラと人波が出口の方へ向かっていき、ようやく暑苦しい雰囲気はなくなっていった。

「ったく……」

ガシガシと頭をかきながら、亮がこちらへやってくる。

「聞いてんだか聞いてねぇんだか、わかりゃしねぇ」

「お疲れー。やっぱ、これだけの人数になるとねぇ……」

「半分くらいはどーでもえぇ思てるんちゃうか。いくら賞品かかってるとはいえ、運動部以外は、ほとんど観戦やろうし」

「文化部は大体が団体競技に出場だろ。……まぁ、それはそれでいいんだけどよ、問題は個人競技だぜ。ぱっと見たところ、男はまぁかろうじているが、運動部の女が結構他んとこに流れちまってる」

あらかた人が去って、残っているのは委員と少しの運動部、となっていた。
人口密度が薄くなったおかげで、教室が先ほどの倍くらい広く見える。

「そやな。……となると、俺ら、フル稼働っちゅーことか。……面倒やな」

「走る系の競技は、ほとんど俺らに回ってくるだろ。ただでさえ、出たいヤツ少ないからな」

話し合っている2人を、私はぼけーっと眺める。

「……大変そうだねぇ」

思わず呟いた一言に、2人は一瞬止まり―――侑士は苦笑し、亮はため息をついた。

「何、他人事みてぇに言ってんだよ。聞いてたろ?俺らの組、運動部の女子少ねぇから、お前もフル稼働だぞ」

「…………へ?」

「そやでー。ちゃんに頑張ってもらわな。リレーとかは確実やで」

「…………エェェエエ!?」

そ、そんなこと言われても!(絶叫)
そりゃ、頑張る気ではいたけども、リレーとかそんな花形に出る気なんて、ちっともありませんよ!

「そっ……エェェ!?ちょっ、バレー部とか女テニの子とかに挟まれるとか、無理だよ!」

「安心しろ、お前はそこらの運動部の女子と比較しても十分イケる。下手な運動部よりもバリバリ体育会系まっしぐらだ」

「た、体育会系なのは認めるけど、でも……」

ちゃん……豪華賞品やで〜」

「うっ……ゆ、侑士、私の性格読んでるね……!」

『豪華賞品』の単語に、いとも簡単に揺らいでいく私の心。
侑士がニッコリ笑顔になる。

「そらもう。リレーは花形やからな。賞品も豪華やで〜?」

「あぁぁ……そう言われると……!」

「テニス部で鍛えた運動神経だろ?賞品、イケるイケる」

「うぁぁ……!」

「頼むぜ、女子はお前に懸かってる」

「ちょ、亮……!そんなプレッシャーかけないでよ……!」

「大丈夫やて、ちゃんなら」

ぽんぽん、と侑士が笑いながら頭に手を載せてきた。
そんな風に慰められても、余計にプレッシャーが懸かるだけだよ……!(泣)

「っつーわけで、俺らはほとんどの個人競技は出場だからな。俺が適当にエントリーシートにお前らの名前書いとくから、後で確認してくれ」

「そんな、アバウトな……」

「誰も文句言わねぇよ、お前らだったら」

アァァ……!

「わかったわかった。……あー、けどな宍戸。絶対相談せなあかん種目あるやろ。自分、誤魔化せる思たら大間違いやで」

「…………ちっ。……まぁ、それについては後でじっくり話し合おうぜ」

「了解」

私が苦悩している間に、2人はなにやらゴソゴソと話していた。
ん?と聞いたら、なんでもない、と慌てて取ってつけたような笑みが返ってきたけど……深く突っ込むのはやめておいた。……ほら、いつものように深く突っ込んで何かあったら怖いじゃないか……(これまでの経験上)

「ところでよ、忍足……応援団やらねーか?」

「は?援団なんて面倒なもん、俺がやるわけないやろ」

「…………ぜってーそういうと思った」

侑士は『なら聞くなや』と言ってるけど、亮はそれを聞くでもなく、困ったように息を吐いた。

「仕方ねぇだろ、人数足りねぇんだよ」

「なんでや。あれ、有志やろ?委員とかかき集めれば、なんぼでもおるんとちゃう?」

「委員はほとんど参加してんだけど、それでも後2・3人足りねーんだよ。一応、最低人数が決められてるから、なんとかかき集めねーと」

あ゛ー、と唸った亮は、不意にピーン、と思いついたように顔を上げた。

「……なぁ、。お前、やってみねー?」

「へ?…………私ィ!?」

「オイオイ、宍戸、何言うてん!?援団は男子の競技ちゃうん!?」

「いや、厳密には決められてねぇ……と思う。けど、万が一男子限定だとしても……お前なら大丈夫だ!」

「そ、そんなバカな!わ、私も一応女の子……」

「お前よりも背が低いヤツなんか、いくらでもいるしよ!」

「エェエエェエエェ!?」

「援団の得点は結構デカい。援団には跡部が出ないってのは確実だろうし、ここで1発デカい得点が欲しいから、逃すわけにはいかねぇんだよ!」

「そ、そんな……しかも、なんで景吾が出ないって……」

「「ヤツが人の応援するタマか??」」

「…………あぁ…………納得」

2人の力説に私も頷いた。
ソウダネー、景吾さんは人の応援とか、シソウニナイヨネー(遠い目)

「一応全員に参加賞も出るし、投票数1番多い組には豪華賞品出るぜ」

「豪華……亮も私が物で釣られる女だと思ってるね……?」

亮は私の疑問には答えず、ガシ、と肩を掴んできた。

、お前なら学ラン着て、後ろの方に立ってりゃ、バレやしねぇ……!」

…………ピクン。

「頼む!……な?」

「…………わ、わかった、よ…………」

ひたすら頼み込んでくる亮を、無下に扱うなんてできやしない。
元々、頼まれごとには弱いのよ!(泣)

「マジか!?」

私の返事に、パッと亮が表情を変えるのを見たら、今更『やっぱやーめた』なんて言えるはずもない。

「だ、だけど!絶対私だってバレないように、しようね……!」

ただでさえ女子の風当たりが厳しい私だ、ここで男子の中に1人女子が混じってるとわかったら、また何か言われるに決まってる。男子のご機嫌取りだとかなんだとか……絶対言われる、断言できる(キッパリ)

「あぁ、お前なら男子で十分イケる」

「……そうキッパリ言われるのも、いささか悲しいものがあるけど」

「ちょ、ちゃんホンキか!?」

「う、うん……」

「なら宍戸、俺もやるで!ちゃんを1人で男たちの中にほっぽるなんてこと、俺には出来ん……絶対に出来ん!」

「え、侑士?」

ニヤ、と、いつも爽やかな亮にしては珍しく、『してやったり』の笑みを浮かべた。

「やっぱ、もう1匹釣れたな。……うし、じゃあ2人ともメンバーに加えとく。学ランとか借りるヤツも見つけなきゃだし、また連絡すっから」

「了解」

「わかった。……にしても、ちゃん、珍しいな。こーゆー目立つの、あんま好きくないんちゃう?」

「まぁ、ただでさえ副会長&テニス部マネっていう、何もしなくても目立つポジションにいるわけだからね……好きじゃないけど。でも応援団は……」

「……応援団は?」

「…………いや、なんでもない!ま、がんばろ、侑士!」

「?……おう、がんばろ、な」

侑士の疑問にあいまいに微笑みを返した。
こうして私たちは、白組応援団に参加することになった。

…………ちなみに、なんで応援団参加にあまり異議を唱えなかったかというと。

学ランが着てみたかった。

ただ、それだけの理由だったりする。

…………いいじゃんかー、学ラン着るとか、結構夢なんですよ、女子にとっては!

あまりにもちっぽけな理由だから、侑士には言えなかったし。
……景吾さんに言うのも、ちょっと怖いし(反対されるに決まってるし)しばらく言うの、やめておこうっと。





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