「とりあえず、これで一応メンバー決定するから。……あ、メンバーは極秘で。ぜっっっったいに他の組の奴らにバラすなよ。聞かれてもすっとぼけろ」

「……へ?なんで?」

「ここが勝負の分かれ目だ。相手の出方の裏の裏の表まで読んだ方が勝つ」

…………氷帝学園の運動会は、奥が深い模様です。



Act.15 番までの、厳しい掟



なんとか出場メンバーも決まった。
私は結局、自分が何に出るかあまり把握していない。
亮が言っていたけれど……ちょっと数が多すぎて、覚え切れなかったのです(汗)後で確認しなくては。

メンバー決定後は、すぐに白組全員に緘口令がしかれた。
どうやらこれは、全組通して毎年恒例らしい。
メンバーは(やろうと思えば)直前まで入れ替えできるから、確実に勝てるものや、敢えて捨てにいった競技などを読まれると、それが勝利に絡んでくる……かららしいけど、真意は定かじゃない。なんかもう、毎年の恒例、ということで疑問の余地はないみたいだ。
そんなわけで、ほぼ1ヶ月間、お互い腹の探り合いをするらしい。……これもまた醍醐味、だそうな。

まぁ、みんなはいいよ。
学校だけだものね、腹の探り合い。

だけど私には、家に帰っても、違う組の人がいるのです。

その人は、私よりも1枚も2枚も上手です。

………………。

これから1ヶ月、1日中気が抜けないってことじゃないですか……!

家に帰って、夕食までは、不気味なほどいつもどおり。他愛のない話で、運動会の『う』の字も出てこなかった。

で、今現在。

部屋で2人きり。

表面上はいつもどおりで、お互いの時間をそれぞれ楽しんでいた。
私はぼんやりとテレビを見ていて、景吾は本を読んでいる。

いつもどおりなんだけど……微妙に空気が違って、ちょっと怖い(汗)

動くべきか動かずにいるべきか迷っていたら、先に景吾が口を開いた。
だけどやっぱり、運動会の話ではない、なんてことない会話だった。

、そーいや明日の化学は実験だってよ」

「え、ホント?どこ情報?」

「岳人からだ。今日はあいつのところが化学だっただろ?」

「あ、そっかー。じゃ、確実だ……あー、実験ノート書くのやだなー……今度いつ提出だっけ?」

「来週の木曜じゃなかったか?でも、簡単な実験だったって言ってたぜ」

「そかー。ならノートも簡単でいいやー」

「そうだな。それで、お前は何の競技に出るんだ?」

「えっとねー…………って!」

思わず口を滑らしそうになり、ハッと口を閉ざす。
景吾が何もかも見透かすような目で(眼力は今尚健在だ)こちらを見ていたので、視線を逸らした。

「……さすがに、ひっかからねぇか」

「け、景吾、やめてよ……ッ」

絶対来る、絶対来る……と思っていた。
それなりに、言われたらどう対応するかも考えていた(予定では、大人な態度で冷静に切り返すつもりだった)
だけど、私の心構えなんてまるで無視して、景吾さんは何気ない口調でサラリと日常会話の中に、潜ませるなんて高等手段を使用してきた。
うっかりしたら、スルッと答えてしまいそうなくらい、自然な感じで。

この攻防戦、明らかに私が不利だ……!!
こんな感じで1ヶ月間も過ごせと言うのですか……!
心労で、ちょうど本番のころには心身消耗で倒れるよ……!

私は相当悲痛な顔をしていたのだろう。
私の顔をじっと見ていた景吾は、クッ、と喉の奥で笑った。

「景吾さん……ッ、笑い事じゃないですよ……!」

それでもおかしそうに笑ったままの景吾は、本を閉じて、身を寄せてきた。

「…………答えねぇなら、カラダに聞いてやろうか?」

私の反応を知って、またこの人は―――!!!!!(絶叫)
からかう気たっぷりで笑いながらにじり寄ってくる景吾さん。
だけど、する、と首筋に触れた手が思いのほか熱くてビックリした。
危険信号が頭の中で鳴り響き、即座に身を離す。

「ちょっ、ちょちょちょちょっ!禁止!それナシ!ってか、そういう発言ダメ!」

「あーん?……ま、とりあえず宍戸のヤツはリレー確定だろうな」

ギクッ。
思わず体がビクついてしまった。

そうなのです、亮は満場一致でリレーの選手確定なのです。

景吾が、魅惑の笑みをたたえながらこちらを見た。

…………あぁぁぁぁ、バレたー……!!!

ごめん、みんな……!と心の中で謝っておく。
けど、景吾は1つ息を吐き出して、続けて呟いた。

「……ま、それは妥当だな。毎年宍戸のヤツはリレーに出てるし、聞かなくても確実だってのはわかってた」

聞かないでもわかったのなら、聞かないで欲しかった(泣)

まんまとやり込められたのが悔しくて、私は頭の中で、今日もらった色んな情報を駆け巡らせる。

「……っ……黒組こそ、チョタと樺地くんは棒上旗取り確定でしょ……!?あんな体格いい2人が出ないはずないもんね……!」

「……ほぉ、中々やるじゃねぇか。誰に聞いた?」

「……さ、さぁね?」

「…………おもしれぇ」

ニヤ、と景吾の笑みが深くなる。

「1ヶ月、ちゃんと黙ってられるか?」

「……ッ……ま、負けない……ッ」

「―――上等。なら、今からそのカラダに聞いてやる」

「だからそれ禁止だって!む……ん……ッ」

「……どこまで我慢できるだろうなァ?

悲鳴は景吾の唇に吸い取られて。
ゆっくりとベッドに身が沈んでいった。




とりあえず、今日のところは……頑張って堪えました。

だけど、これが1ヶ月続くのかと思うと。

とたんに、未来に自信が持てなくなりました(泣)




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