HRが終わってすぐ、私たち3人は屋上へと向かう。 私は先陣切って屋上へ続く階段を、やや駆け足で上っていった。 「白組だった人!よろしくー!」 バーン、と屋上のドアを開け放ちながら、テンション高く叫ぶ。 扉の先にいるのは、いつものメンバー(3年のみだけど)。 今日、どのクラスでも組分け抽選会が行われているので、組分け発表ということで放課後に、みんなで屋上で集まることにしてたのだ。 「え、……お前、白になったのか!?よっしゃ!!」 売店で買ってきたのか、放課後だというのにパンを食べていた亮が、驚くと共に、笑いながらガッツポーズをしてくれた。 Act.13 組分け結果は、天国と地獄 すでに円座になっているみんなの中に加わる。 どうやら、A組(私と景吾と侑士ね)が1番最後だったみたいだ。すでに、亮もジローちゃんもがっくんも来ていた。 「うん!亮も白?よろしくー!」 「あぁ、一緒だな!頼むぜ、女子の戦力が意外と重要だからな」 「おー!私、こーゆーイベント燃えるのでがんばりまっす!」 イベント系、特に体育祭とかそーゆーの燃えるタイプです。意気込みだけなら負けやしない! 「跡部と忍足は?」 何気なく聞いた亮の言葉に、キラーン、と侑士の眼鏡が光る。 「ふっふっふ、宍戸、よぉ聞いてくれた……」 「あー……聞かねぇでもわかったから、もういい」 侑士の顔を見て何かを察したのか、亮はうんざりした顔でヒラヒラと手を振った。 「言わせろや!……俺も白組や!」 「わかったわかった」 意気込む侑士とは正反対に、亮は超適当そうに答えた(酷) 「残念だったな、宍戸。が頑張っても、この伊達眼鏡バカが足引っ張ると思うぜ」 「跡部、一緒になれんかったからって、ひねくれんなや」 「うるせぇ、黙れ」 景吾が侑士をギラリと睨む。 ……景吾さん、怖いのー……(ガタガタ) 「……ってことは、跡部は何組なんだ……?」 恐る恐る聞いたがっくんの言葉に、景吾はチッと小さく舌打ちをする。 ちらっ、と、なぜか私と侑士を見てから答えた。 「……俺様は赤だ」 景吾の答えに、がっくんがその可愛い顔を盛大に歪めた。 「うわ、お前今年赤かよ!したら、今年は、真っ赤な薔薇が大量に宙を舞うじゃねぇか!」 「黒い羽根が舞った去年思いだすなー……あれ、片付けんのマジで大変だったんだぜ?」 「つーか、羽根とか薔薇とかは普通ありえへんやろ」 「???羽根?薔薇?何?え?」 運動会と羽根と薔薇がどうにも結びつかなくて、聞いたら―――去年、景吾は黒組だったらしく、そのときに、黒の羽根をモチーフにしたんだって。黒組全員が黒い羽根を持って景吾の周りを飾り、登場の際には羽根が舞ったらしい。……これもきっと、氷帝の跡部伝説に違いない。 「とにかく、なんでも金使うからな、この学校は。つーか、運動会全体ですげー単位の金が動く。色んなトコから寄付が来てるし」 うちもしてるぜ、と景吾がサラリと言った。 ……うん、きっと跡部家が1番寄付してるのは間違いないよ……サラリと言うレベルじゃないってのもわかってるよ……(遠い目) 「その寄付とかで各競技ごとに賞品が出んだよなー。……ここだけの話、今年は跡部んとこを始めとして、すげー額の寄付金とかが集まってるらしいから、賞品がヤバイぐらい豪華なんだぜ!」 まだ他の奴らには内緒な!と一応口止めをしときながら、がっくんが小さな声で言った。 『マジか!』とか『どんなのがあるんだ!?』とかみんなは言ってるけど、その前に私は、『各競技ごとに賞品がある』という事実に目を丸くしていた。 え、だって……中学校の運動会だよ!? うちの学校の運動会なんて、優勝しても先生がジュースおごってくれたりするだけで精一杯だったっつーの! それが……各競技ごとに賞品!?しかも、寄付金から!? あ り え な い ! どこまで氷帝学園というものは、世間の学校からかけ離れたところにあるんだろう……。 改めて、同じ人間といえど、色んな世界があるんだな、と思った、、2度目の中3の秋。 「とりあえず、MP3プレイヤーと、DVDプレイヤーはあるっぽい!後、家が旅行会社やってるヤツからの寄付で、旅行券とかだなー、俺が見たのは」 「エェェエエェェ!?」 「去年あったのはバッグやシューズ……」 どんどん上がっていく豪華賞品の羅列に、私の目の前にはチカチカと星が舞い始めた。 下手な雑誌の懸賞より、よっぽど豪華なその賞品たち。 ……最後に補足で『後、2位と3位には学食券な』というのが、やたら庶民的に聞こえてホッとした。 全部聞き終えた私たち(景吾除く)の目には、ギラギラと野望の炎が宿っていた。 だって……頑張れば、MP3プレイヤー!DVDプレイヤー!旅行ォォォオオ!!!(興奮) 「こ、今年はまたすげぇな……っ!」 「球技大会では『箱根1泊旅行券』が1番トップだったのに、何この違い……!」 あの時は『超豪華!』と思った箱根1泊旅行券が、急にランクが落ちたように思える。いや、あれもあれですごいけど!(だって13人分の旅行券だもんね) 「球技大会は、一般の寄付、受け付けてねぇからな。学校の予算だけでやることになるから、せいぜいがそのくらいだ。……だが、運動会はイベントが多い氷帝の中でもトップ3に入る大イベントだ。こぞって、色んなところから寄付が来る」 景吾がわかりやすく説明してくれる……のはいいんだけど、いくらわかりやすくても、頭が次元についていかないことにはどうにもならない。 「ま、どの家がどれだけの賞品を出せるか……っていう、家同士の見栄の張り合いってのもある」 「跡部が入学してから年々すごくなってんだよなー……けど、今年も跡部んちがブッチギリ」 「当たり前」 何を出したのか気になるけど……聞いたら、本番までに無用な緊張(賞品取らなきゃ!という無意味な意気込みとか)を強いられそうな気がしたので、ここは聞くのをやめておいた。きっと私の選択は正しい。 「……よっしゃ!頑張ろうぜ、!もちろん優勝チームには豪華賞品だからな!」 「う、うん!白組、優勝目指してガンバロ!他のみんなは?」 「ジローは俺と同じ黒だったよな」 「え、そーだったっけ?俺、寝てたからよく覚えてないやー」 私たちが話していた今も、うつらうつらと寝入っていたジローちゃんは、まだ眠たそうにアハハ、と笑った。そんな姿に、みんなは苦笑を漏らした。 「そーゆーヤツだよな、ジローって……クソクソッ、なんでは黒じゃねぇんだよー」 「岳人、残念やなー。自分も白やったらよかったんになぁー」 「…………マジ、侑士ウゼェ!そんなん言うなら、お前、代われよ!」 「こればっかりはなー、規則やからなー。堪忍な、岳人」 ニッコリ笑顔で言う侑士に、がっくんが体当たりをした。 結局、後で2年に聞いたところによると。 テニス部主要メンバーは、 赤:景吾・チョタ・樺地くん 白:侑士・私・亮 黒:がっくん・ジローちゃん・若 という組分けになったみたいだ。 見事に3つの組に分かれた私たち。 これからの1ヶ月は、この組で行動することになる。 ほぼ進路が決まっている中3が主導になって、1ヶ月で進めていくのだ。 そのために、LHRの時間が各組ごとの時間に割り当てられたりする。その中で、誰がどの種目に出場するのか、応援合戦はどうするか、グッズはどうするのか、などなど、決めることはたくさんある。 中3は明日から、組ごとに会議が開かれることになっていた。 これからは1日も無駄に出来ない。 運動会まで、忙しい日々になるだろう。 けれど、それ以上に楽しい日々になることを、願って。 NEXT |