お風呂に入るから!と景吾を部屋に強制送還したあと(ちなみに当然のようにお風呂についてこようとする景吾に困らされた)。
男子風呂よりは狭いけれど、それなりの広さを持つ女子風呂を貸切状態で使用した。ゆっくりとお湯につかって今日の疲れを取った。身体の疲労も……精神的な疲労も。

ちゃん、ちゃん」

お風呂から出て、ペタペタと宿泊寮内を歩いていた私は、誰かの呼ぶ声に足を止めた。
廊下の角から顔をのぞかせて、ちょいちょい、と手招きをするのは……白石くん。

「うん?なになに?」

髪を拭きながらそちらに近づいていくと、きょろきょろと周囲を伺うようにした白石くんは、

「よっしゃ、さすがに跡部おらんな。……ちゃん、時間ある?ちょおおいで」

「え、ちょっ……」

毒手に拉致られました。



Act.6   対言えない、頭の中


連れていかれた先は、白石さんのお部屋。
すなわち、幸村・不二・白石、という、ある意味でとっても恐ろしいお部屋ですよ……!影からそっと見ていたいお部屋ナンバーワン!
イヤァ、なに、怖い……!私何かした……!?呪われる!?もしくは毒草的な何かで消される……!?

「つかまえたでー!」

会心の笑顔を浮かべた毒手様に手を引かれながら入っていくと、そこにいたのは、幸村くん、不二くん……だけではなく、その他に、英二やブンちゃん、千歳くんもいた。

「え、ちょ、どーゆー状況、これ?……私、なんかしたっけー!?」

「あ、大丈夫やって、取って食おう思てへんよ。……いや、俺としてはいつでもOKなんやけど」

「そうは行かないよ、白石」

「フフ……抜けがけはなしだよ」

「まぁ、その話はあとでじっくりするっちゅー方向で……あぁ、ごめんな。ちょおちゃんと親交を深めたい思てな」

「へ?」

ちゃんと話したい思てたんやけど……なかなか話す機会なかったから。あ、強引に連れてきてしもたのは堪忍な」

茶目っ気たっぷりに手を合わせる白石くんに、私の頭はボーン!!と爆発しそうだった。
この人(だけに限らず、王子様たち全員)は自分がイケメンだということを自覚しての行動が多すぎる……!!

「いやいや、そんなことは全然気にしてませんとも!むしろ、気を使ってもらってすみません!」

「そんなのえーってえーって。……あ、ほな、紹介すんな。俺と同じ、四天宝寺の千歳」

「四天宝寺3年、千歳千里ばい。よろしく」

「うん、よく知ってます!試合も見させていただきました!才気煥発の極み、ぜひ今度見させてください……!」

「さすがちゃん、よぉ知っとるなぁ……ここに来とる中学生のこと、ほぼ知っとるやろ?」

「いやいや、全国区のプレイヤーは必然的に耳に入るというかなんというか……それだけみんなが実力者ってことだよ!」

「フフ……それでも、中学生の名前と顔を一致させていることには驚いたよ」

それは向こうの世界で穴が開くほど君達を見つめて知っていたからです。

……とは当然言えないので。

「景吾とか侑士とか、氷帝メンバーに話も聞いてたし!……みんなも、大体お互い知ってるんだよね?」

これ以上私に矛先が向けられるとボロが出てマズイので、そっと話の中心をみんなにずらす。

「まぁ、全国トップ校になると、大体どこかで繋がりもあるね」

「近くだったら交流試合とか……あ、それこそ前みたいに、合同練習が組まれることもあるぜぃ」

「えー、ずるいずるいー!立海ってば氷帝と合同練習してたの!?俺たちも竜崎センセに言ってやってもらえばよかったー!」

「えぇやんか、菊丸くん……君らは高校行っても望みあるやろ。……俺らは遠すぎて言い出すのすらためらわれるわ。気分は遠距離恋愛やで」

「その例えが正しいかはわからんばってん……近くに強豪校が揃っとるのは羨ましいばい」

「そこは関東の強みかもしれないな。関東圏は学校数が多いから、練習試合の相手にも事欠かないからね」

「テニススクールで他校の奴らに会うこともあるし」

プーッとブンちゃんがガムをふくらませるのをぼんやり見ていた。
情報交換を行う中学生男子……イイネ!
私は、風呂あがりで若干ゆであがっていた脳みそが、さらにぽわーっとなっていくに任せて、思う存分イケメンたちを見ることに―――。

「……ってちゃうねん!俺らの情報交換はいつでも出来るねん!この貴重な時間、無駄に使てる場合ちゃうわ!」

いきなりの白石さん覚醒。

ギラリ、と白石さんの目が光る。……エ、ナニ、コレ……。

ちゃん……俺たちは、君のことが知りたい」

「……はい?」

なにを言い出すのかな、この子は……?全然意図が読めない。
全力でハテナマークを飛ばしていると、真剣な表情の白石さんのお隣……幸村さんが穏やかながら、逆らいがたい笑みを浮かべた。

「絆を作るには、やっぱり、お互いのことを知ることが大事だと思うんだよね」

「え、うん、ソウダネ……」

「で。ちゃんのこと、教えて欲しいな、って。趣味とか得意な教科とかからでいいから」

ニッコリ笑った不二くんの笑顔……もちろん、逆らえない。

っていうか、『からでいい』って何!それ以降があるってこと!?

「え、えと……苦手な教科ならとことんあげられますが……氷帝の授業難しくて」

「あー、俺、聞いたことある!氷帝の授業、高校レベルだって!……んじゃ、ちゃんもあんま勉強好きじゃないんだ?俺と一緒!」

ニカッと笑う英二にほんわかしながら、私は一生懸命答える。

「得意じゃないんだけど、部にいるために必死でやってるんだ……厳しい部長様がいらっしゃるので」

「あー……なるほどなぁ……」

「俺からも質問えぇ?」

「うん?なに?」

「関西弁は嫌いですか。同い年の男と付き合いたいと思いますか。遠距離恋愛は可能ですか」

「……えぇぇぇええぇぇっ!?」

「白石、質問が個人的すぎるよ。……まぁ、2番目あたりは僕も気になるところだけど」

「ちょ、ちょ、ちょっと待った!み、みんな落ち着いて!」

っていうか私が落ち着け!(言い聞かせる)

「そ、そそそんな情報を知って、いったい何に……!」

「僕たちが少ない時間で跡部……じゃなくて、氷帝の奴らからちゃんを奪……いや、ちゃんのことをもっと知るには……何かこう……今まで誰にも言っていないこととか、これは!っていうことを知りたいんだよね」

「へっ!?それってどういうことでしょうか……!」

「距離を縮めるには、やっぱ深いコト知る必要があるだろぃ?たとえば……跡部にも隠してることとか、なんかねぇの?むしろ、跡部だから言えないとか!」

ブン太くんよ……そんなニッコリ笑顔で言われても!

「え?えー?……そ、そんなの、ないよー!」

「ちょっとどもったね」

「間もあいたね」

「あーやーしー!」

何、このコたち……!怖い!(ガタガタ)

「も、もうこの辺で勘弁して〜!」

「まだ離さへんでぇ〜」

「俺も色々聞きたいばい」

私も、ぜひ新たに接触する千歳くんとは話したいけども!!
出来るならば、普通の世間話から入りたいところなんですけれど……!

「で?何隠しているのかな?」

ヒィ、それを許してくれない方々!
黒いオーラがにじみ出ているのが怖い!

お風呂から出たばかりだというのに、ダラダラと背中を変な汗が伝い落ちる。
みんなの笑顔に言い知れないプレッシャーを感じる。
私はその空気の中で、ない知恵をとことんまで振り絞って―――ぐ、と拳を握りしめた。

みんなは私が何か言うと思って、身構える。
それを見ながら私は、口を開いた。

「……ア、ソロソロ時間ダ、帰ラナキャ(棒読み)」

「……ちょ、いきなりそんな棒読みで言われても」

「明日モ朝カラ入レ替エ戦ダシ、タイヘンタイヘン……ではサラバ!」

「あ、コラ!」

ちゃん、俺もっと聞きたいこと……」

可愛らしい英二の声に後ろ髪をひかれる思いだけど、聞こえないフリ!
シュバッと立ち上がって、これ以上引き止められる前に部屋を飛び出す。
どくどく、と動悸する心臓を抑えて私は一人、天を仰いだ。

おいしい状況だったけど……怖かった……。

そして絶対に言えない。
景吾にも言っていない秘密―――その一瞬で思い浮かんだこと。


あなたたちで、四六時中妄想してた(むしろ現在進行形でしてる……!)なんて……!


それだけは心の奥深くに絶対隠しておこうと、改めて決意した。






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