Act.4   い部屋で、ボーイズトーク



練習初日が終わった。

午前中は入れ替え戦と基礎練習、そしてペアマッチを行い、その後は高校中学関係なしに、全員でみっちりサーキットトレーニング。

すべての練習終了後、プレイヤーにマッサージを施していたはトレーナーのミーティングに呼ばれた。これも特別マネージャー……つまり、未来のトレーナー養成に向けてのプログラムの一貫だろう。
甘えたがる他の奴らを蹴散らしてをミーティングルームまで送り届け、その後俺はサウナ室で汗を流すことにした。

昼間、と一緒に施設内を再度見て回った俺は、様々な設備が揃うこの施設にサウナ室もあることを知っていた。
厳しいトレーニングで全身に溜まった乳酸を取り除くには、ストレッチなどの他に身体を温めることも有効だからだろう。
ザッとシャワーを浴びた後サウナ室に入る。
すると、同じことを考えていたのか、すでに何人か利用しているヤツらがいた。

「跡部さん」

「……あーん?」

その中で真っ先に話しかけてきたのが、切原だった。

サウナに入っている間は、特に何かすることもない。
コイツの話し相手になるのも、まぁいいだろう。

切原はわざわざ少しだけ俺の方へ席を移動してきた。

「なんだ、切原」

「前から思ってたんスけど……先輩って、何者ッスか?……マジ、すごくないッスか?」

切原から突然出た言葉に、俺は目を少し見開き―――あぁ、とコイツがこんなことを言う理由に思い当たる。

「トレーニングの時のことか?」

「そうッス。昨日の施設見学の時、先輩も『こんな最新のマシン、初めて見る!』って言ってたのに……今日、マシンの使い方マスターしてたッスよね?」

「あぁ、そうだったな」

「僕も何度か使い方を教えてもらったよ。……ちゃん、ノート見ながらの説明だったけど……全部知ってたね。」

ちょうどその場にいた不二も会話に入ってくる。

「アイツのことだから、昨日のうちに教わっていたんだろう。……そういうことに、気のつくやつだ」

俺も知らないうちに、すでには動いていたらしい。
……ったく、どれだけ気合い入ってるんだ。頑張りすぎて、無理しなけりゃいいが……。

「ちょっといいですか」

「なんだ木手」

木手が会話に入ってくるのは予想外だった。
そもそも、木手はと大した面識もない。ほかにも、千歳や亜久津、天根などもとは初対面であるはずだ。

「……あのさんという方は、氷帝学園のマネージャーさんですよね」

「あぁ、そうだが?」

「練習中といいマッサージといい……非常に知識が豊富な方だとお見受けしたのですが、何か特別な勉強でもされているんですか」

「ほとんど独学だ。トレーナー用の講座を受けたりもしているが、大半は本やネットなどから知識を身につけている」

「……そうですか。とても興味深いですね」

「……あぁん?言っとくが、手ェ出すんじゃねぇぞ」

木手にだけでなく、その場にいる奴ら全員に向けてそう言ったんだが……誰も返事しやがらねぇ。

「跡部、俺も聞きたいことあるばい」

この状況を打破したのは、マイペースな千歳。
ヤツが介入してくるのも、予想していなかった。
俺は、なんだ?と目線だけで答える。

「……あん子、ホントに中学生ね?」

千歳の思いがけない言葉に、俺は一瞬答えに窮した。

「……俺たちと同学年だ。……なぜそんなことを聞く」

「いや……あん子、俺の周りにいる女子より、ずっと大人のココロを持ってるように思えたたい」

千歳の言葉に、俺とその場にいた忍足は、思わず目線を合わせた。
…………千歳は、飄々としているようで、しっかりと人間を見ている。才気煥発の能力もあるかもしれないが、もともと、内面を見る力を持っているのだろう。
千歳が感じ取ったのは、おそらく、の中の本質―――アイツは、もともと俺らよりも年上だった―――だろう。

「んふっ……まぁ、僕はあの子の能力がずば抜けたものであることを知っていましたけれどね」

「……そういえば、観月は都大会で会っていたな」

「えぇ。なかなかいいデータ収集を行なっていましたね。もっとも、他の仕事ぶりは、今日はじめて拝見させていただいて知りましたが」

さすがですね、と続けた観月に、その場にいた奴らが頷く。
…………まだ合宿は始まったばかりだというのに、すでにはコイツらに信頼感を与えているらしい。
自分の学校のマネージャーが―――俺の恋人が、評価されている。
俺は口元に笑みが浮かべた。

「それにさそれにさ」

ニヤー、という笑顔と共に言葉を挟んだのは……千石。

「元気で明るいから、その場にいるだけでこっちも元気になれちゃう♪可愛いし!」

「ケッ……別に、ツラは普通だろうが」

「そんなことないよ〜、わかってないなぁ〜、亜久津ってば。……女の子は外見だけじゃないよ〜?特にあの子みたいなタイプは、内面知るともっと可愛く見えるから!」

「わかる。わかるでー、千石クン。性格知るっての、大事やんなぁ」

「おっ、白石くんも話せるねぇ〜。……ちゃんってさ、俺らとそう背とかは変わらないけど……男子の中にいるとさ、やっぱり一回り小さいっていうか……女子なんだよねー!俺らと違って、柔らかそうな腕とか見てると、ほわ〜っとしちゃうよねー」

「特に、ここにおるのはゴツイ奴らばっかやしなぁ。あの子もよう動くからしなやかな筋肉しとるけど…元々の筋肉量が違うから体格差出るよなぁ」

「俺はあの子の背くらいがちょうどいいばい。……金ちゃんとかの相手しとると、首が疲れる」

「千歳はそやろな。……あ、そーなると、ちゃんの貴重な上目遣い見られるんちゃう?えぇなぁ」

「上目遣い!女の子の武器だよねぇ〜……あ、そうそう!今日さ、ちゃんが上着脱いだ時のポロシャツ姿がやっぱ体型が女の子って感じでさー……」

「…………自分ら、そろそろその口を閉じたろか?」

「そこのサウナストーブに放り投げてやろうか、あーん?」

俺(そして忍足もだろう)は、練習初日からの動きが認められていることを実感すると共に。
…………注目を色々と集めている事実を、心に留めておくことにした。





NEXT