合宿に来て早々、施設見学の時に気づいた。 「…………最新の機械がたくさん……!ナニコレ……!」 これは、ちゃんと使い方教えてもらわないとヤバイ! Act.2 初めての場所では、当然探索 U-17の合宿が行われている施設では、最新の機械やトレーニングマシンが揃っている。 私の役目というのは、みんなのサポート。当然、コートでやる練習だけでなく、こうした室内のトレーニング面でも関わることになるだろう。 マシンは最新のものだから、負荷のかけ方とか時間の管理なんかは機械が勝手にやってくれる。……とはいっても、マシンの使い方自体は機械が教えてくれるものではないし、最初の設定はちゃんと自分でやらなければいけない。トレーニングマシンの中には、使用方法に注意しなくてはいけないものもある。 マシンの使い方でみんなが背負う負担を減らすためにも、ちゃんとどのマシンがどんなものか知ってないと……! ということで、早速夜の空き時間を利用して、トレーナーの人につきっきりで教えて貰うことにした。 ノートに教わったことを書いていく。……心持ち残念な絵も足しながら。 マシン自体はオーソドックスなタイプのものが多いが、最新バージョンなので細かな追加設定ができるものもあった。 それに加え、このマシンを使った後にはこのマシン、というように、順序良くやると、効果がアップするらしいことも聞いた。 …………これは、勉強になるぞ……! ノートを取る手にも、力が入る。 ひと通り、トレーニングマシンの使い方を教わった後、私は部屋に戻ってもう1度ノートを確認する。脳みその出来がよくないから、いっぱい見ないとダメなのよ……! 「これは最初にSETボタンを押して、次にSTARTボタンを押す……と。さっきとは逆なのね……」 機械が苦手な子もいるかもしれないから、手順くらいは頭に入れておかないと。 明日から、いよいよ過酷な練習が始まるから、できることはしておきたい。 でも、ま……最初はちゃんとみんなとの関係性を作るところからだな……!私は一方的にどんな子たちか知ってるけど、中には初対面の子もいるわけだし! 「マネージャー業やるには、やっぱり信頼関係がないとね……!そしてあわよくば仲良くなってプリンスたちとお話して、かわいこちゃんたちを可愛がる……!」 特に後半大事。 だってせっかくの機会だもの……!こんな美形に囲まれるチャンスなんて、きっともう二度とこない! 使えるチャンスはとことん使いきってやる……! 氷帝チビーズはいつものとおりだとして……狙いは、リョーマに金ちゃんに……あぁぁ可愛い子たちは絞りこめない……!それに……まだあんまり話したことのない子とも、ぜひ絡む!比嘉中とか!金髪美人のクラウザーとかちょっぴり怖い亜久津さんちの仁くんとか! 一人怪しい笑みを浮かべ、くすくすと笑う。 こんなことができるのも、この部屋にいるのは私一人だという環境だからだ。 合宿所にはもともと女性は少ないみたい。だからか、女性の待遇がとっても良い。 選手はコーチの判断によって2〜5人部屋に押し込められているのに(景吾も4人部屋で渋い顔をしていた)、私はなんと1人部屋。 もちろん他の部屋に比べると大分狭いけれど、他人との共同生活を強いられる合宿で、一人になれる空間を持てることはとってもありがたい。 妄想してニヤニヤしてても怒られないし!(これ重要) ふふふふふ……と私は再度笑みを浮かべノートを閉じ―――時計を見る。 「まだ時間あるな……」 これは施設内もちゃんと把握せねば! 案内してもらったけれど、紙面だけで見ていた施設にいる感動と、その施設の充実具合に感心しすぎて、残念な頭には情報がほとんど入ってきていない。 それ以前に。 想像するだけだった夢の施設に、自分がいる、というこの状況。 断片的な情報だけで妄想していた頃と違って、自由に見ることも触ることも出来る。 そうなると。 ……探索しなきゃ何かがすたる!テニプリファンとして! 妄想力とやる気は満々! 意気揚々と、部屋をでた。 初日の夜だからか。 それとも夜はみんな部屋でおとなしくしているのか。 とにかく、廊下はとても静かで、誰もいなかった。 ……節電中なのだろう、ちょっと薄暗いのが難点だけど、まぁ、綺麗な施設だから怖くない!! ……と思うことにした。 「えーっと……あぁ、ここが高校生たちの使っている部屋か……」 2階の私がいるところよりも、扉からしてなんだかちょっと違う。 ふと目を奥の方にむけると、さらに豪華そうなエリア。 あぁ、あっちがコーチたちの部屋か……怖いから近寄らないようにしよ……。 言い知れないオーラを感じて、私はその場からちょっとだけ離れる。 ……ここにはあまりいたくないから、まだ時間も大丈夫だろうし(寮は結構門限が厳しい)、外に行って、他の施設も見てみようかな。 そう考え、踵を返して玄関へ向かう。 誰もいないから、ペタペタというスリッパの音がやけに響いた。 だから気付いた。 私以外の足音がしていることにも。 誰か知っている人かな、と思って音がする方向―――階段を見ると。 「…………あれ」 「なんだ、ここにいたのか」 髪をかきあげて近寄ってきたのは、景吾だった。 「お前に教えてもらった部屋に行ったのにいねぇから、部屋間違えたかと思ったじゃねーか」 「え、あ、ごめん!ちょっと探索してた!」 「探索?………って、お前、一人か?」 「え?うん、もちろん」 周りに私には見えない誰かがいない限り、私は一人で探検をしていた。 私の答えに、景吾さんの眉間にシワが数本寄る。 「……お前、男ばっかの宿泊寮で、のんきに1人で歩いてんじゃねぇよ」 「へ?」 「なんかあってからじゃ遅ぇんだぞ?」 「あはは、そーんなことあるわけないよー」 あ、私が誰かを襲うって意味だったら、あるかもしれない! 確かに、プリンスたちがいて、もし昼寝なんかしてたら、堪能しない自信はない……!むしろ、携帯持ってたら隠し撮りしちゃう自信がある……! 「……いいから、早く部屋に戻れ。施設見たいなら、明日の昼休みにでも俺様が付き合ってやる」 「んー……まだ時間あるし、今日中に探索したいなー……」 「(……ったく。相変わらず危機感がねぇな)……そういえば、明日は朝の6時から入れ替え戦だよな?ちゃんと起きられるのか、アーン?」 景吾の言葉に、ガーン!と頭に衝撃が走る。 「そ、そういえばそうだった……!」 「6時開始ってことは、その前に朝食……あぁ、掲示される発表も見なきゃならねぇか。中学生が試合だったら、お前も準備が必要だな」 「…………寝ます。もう、寝ます……!」 「よし、送ってやる」 満足気な景吾さんは、ぽん、と私の頭を撫で、きっちり部屋まで送り届けてくれました。 最後に、 「ほぉ……少々狭いが、ちゃんと鍵もかけられる個室とは……いいじゃねーの」 と言って、後ろ手に鍵をかけた景吾さんは、腰が砕けるほどの極上の笑みと……キスで(断じてそれ以上のことはなかったと宣言する!)若干の送り狼的な要素を残していきましたが! ……おかげでちょっと眠るのが遅くなり、翌朝眠かったのは完全に景吾さんの所為。ま、景吾さんも眠そうだったけどね! だからって、桃ちゃんの試合中に堂々と「あー眠い」って言うのはどうかと思うよ! NEXT |