5月の第2日曜日。 私たちの都大会が始まった。 私たち氷帝学園は、シードだから3回戦からの出場。 この大会から、亮と樺地くん、景吾が選手登録されて、出場することになった。 …………結局亮が、ジャンケンで負けたんだって。 3回戦は5試合全部やって―――レギュラーが出場した試合は、1ゲームも落とさずに勝利。他の2試合も、圧勝だった。景吾なんて、ラリーさえまともに続かない(サービスエースだったり、リターンエースだったり)一方的な試合で、応援する時間もなかった。 4回戦はこれまた、圧勝。樺地くんや景吾が出る間もなく、勝負をつけてしまった。 お昼を挟んで次は、準々決勝。 ――――――つまり、不動峰中学との対戦ということで。 私は今、悩んでいた。 「不動峰……聞いたことねぇな」 「ノーシードだろ?今回も貰ったな」 部員たちの会話が聞こえる。 ……それを聞きながら、私ははぁ、と1つため息をついた。 何を悩んでるのかというと。 …………このまま、何にも言わずに話を進めていいのか、ということ。 このまま話を進めれば―――私たち氷帝学園は5位通過となって……青学と対戦することになる。 原作どおり、進めば、その先に待ってるのは私たちの『敗北』で。 だけど、原作通り進まなければ、亮たちは強さを手に入れることが出来ない。 はたして……どうするべきか。 私は、ドリンクを飲んでいる亮に近づいた。 「どうした、?」 「…………亮、強くなりたい、よね?」 「はぁ?当たり前だろ、何言ってんだ?」 「…………だよね……」 じゃあ、やっぱり、都大会はそのままで行くべきかな……不動峰戦が、亮をさらに飛躍させるキッカケになるから。 でもそうすると……やっぱり、5位になることで、関東大会の初戦が……青学になる。 ……いくら、後で、全国推薦枠で出れるとはいえ、やっぱり……負けたくはない。 勝ちたい。勝つために、みんな、ずっと頑張ってきたんだもん。 ぐるぐる頭の中で考えながら、歩いていたら、ぐいっと手を引かれた。 「わっ!?」 ドスッと背中から誰かに当たる。 「……、壁とキスするくらいなら、俺様にしとけよ」 耳元で聞こえる景吾の声。 はっと気づけば……目の前に迫っている壁。 あ、危な……本当に、壁とちゅーしちゃうトコだった……ちゅーどころじゃすまなくって、頭を突き合わせてたかもしれない。 「あ、ありがと、景吾……」 未だ景吾に支えてもらっていたので、景吾から離れようとしたんだけど。 ぎゅっ、と込められた力。 「……何か悩んでるんだったら、聞くぞ?」 「え?……そんな、悩んでなんてないよ」 これは……言えないしね。 だって最近、景吾ってば私が『マンガとして景吾たちを知ってる』ってことを忘れてると思うし。未来のことを知ってるとか、思ってもいないだろう。 それに、仮に覚えてたとしても……誰だって嫌だよね。『うちの学校、関東初戦で負ける』なんて言われるのは。今まで練習してきたことを、否定されるようなコトだし。 だから、これは、言えない。 もう1度笑って、景吾に離してもらおうと思ったら、はぁ、と景吾が息を吐いた。 「…………お前な……そんなツラで『悩んでねぇ』なんて、よく言えるな」 「……え?」 「泣きそうな顔してる」 体を反転させられて、向き合う形になった。 景吾の大きな手が、頬の辺りを撫でてきた。 ……泣きそう? …………そんなに、思いつめてるように見えたかな。 キョロキョロと辺りに誰もいないことを確認して、ぽす、と景吾に抱きつく。 景吾も、ぎゅっと抱きしめてくれた。 「………………景吾、勝つのは氷帝だよね?」 「あーん?」 「……どんな学校とやっても……勝つのは、氷帝だよね?」 「……当たり前だろ?」 原作どおり進むのか、進まないのか。 それはまだ未来のことだからわからない。 そう、私が生きてるのは、今。 …………だから、未来は変えられる、と信じて。 亮だってたくさん練習してきた。橘さんに勝てるかもしれない。 ――――――信じて。 「…………景吾、ありがとう」 「……もう、いいのか?」 「うん。解決した。……ありがと」 ぽん、と頭の上に乗っかる手が優しい。 流れるままに、任せてみよう。 ……私が出来ることは、精一杯やって。 私は、不動峰のデータを、頭の中からひねり出した。 NEXT |