「とりあえず、見学でもしとけ」 景吾さんの一言により、朝練を見学することになりました。 Act.6 力仕事なら、任せて下さい 人数多い多いとは思ってたけど。 相当多いね!!!(泣き笑い) 景吾の話によれば、今の時期は中3が引退して、1学年いないから、全員で140人程度らしい。 これが春になると、新1年生がドバッと入ってきて、たちまち200人の超大所帯になるんだって……。 大丈夫か私……レギュラーと準レギュくらいはまだ、顔と名前が一致してるけど……平部員とか顔も見たことない子ばっかりだしね。名前覚えるのに一苦労しそう…………みんな、Tシャツに名札貼ってくれないかなぁ……。 テニスコートの周りをウロウロ。 あんまりウロウロして邪魔になってもいけないから、時々立ち止まってみたりする。 うーん……平部員っていっても、上手いんだけどなぁ、みんな。 私がいた学校(高校)の生徒よりも上手いんじゃないかなぁ……普通の学校だったら、即レギュラーだろうに。 氷帝には人間的にありえないテクニックを持った人がいるからね……レギュラーの道は遠いんだろうな。 「おーい、見ててみそ!」 隣のコートからかかった声。 視線をそちらに移すと、宙を高々と舞っているがっくんが。 おぉぉ!生ムーンサルト!!! すっげー!ほんとにありえないほど飛んでる―――!!! スパァンッと軽い音がして、ボールがコートに落ちる。 「見たか?見たか?」 「見た見た見た!!!すっごい!すっごい飛んでたよ、がっくん!!!」 「がっくん……?」 はっ、思わずがっくんって呼んでしまったよ! おそるべし、元の世界の習慣……! 「だ、ダメ……?」 「イヤッ、そんなことねぇよ!いいよ、俺、今日から『がっくん』で!」 よっしゃ〜〜〜!『がっくん』の呼び名げ〜〜〜〜〜っと!!! 「でも、ホントすごいね!宙に浮いてるみたいだったよ!無重力少年だよ、がっくん!」 「へへっ……試合になったら、もっと飛んでやるからな。楽しみにしてろよっ」 楽しみにしておくよ、がっくん! はぁ……可愛い……私のほうが大分背が高いから、上目遣いなのが、更に可愛い……! おかっぱの頭をサラサラと撫でてやりてぇ……! ちょっと違う世界にトリップしてた。 でも、すぐに私は現実に引き戻される。 『うわあぁぁぁ』と言う悲鳴が聞こえてきたからだ。 悲鳴がしたほうを見てみれば、うずくまっている子がいる。 周りの子が、どうしたどうした、と集まっていた。 私も思わず近寄ってしまう。 「どうしたの?」 近くにいた子に聞いてみた。 「あ……なんか、足を捻ったみたいで」 「なっ……」 大丈夫か、と近寄っていった同級生(多分)の子の手を借りて、何とか掴まり立ちをしようとしているけど、上手くいかないみたいだ。 …………あぁ、もう!!! 「はい、どいてどいてー」 私は人の波を掻き分け、うずくまっている子に近寄る。 そして、かがんだ。 「はい、乗って〜。そこの子、この子が乗るのを助けてあげて〜」 「は!?え、でも……」 「いいから!おんぶしていった方が早いし痛まない!」 困惑している怪我をした彼を、強引に背負うと、立ち上がる。 おぉ、軽い軽い。まだ体格も小さいし……それよりもやっぱ、男の子は痩せてるのねー、女と違って、脂肪がないから……。 「えっ……あっ……」 「ハイ、他のみんなは練習〜。……ちょっと揺れるけど我慢してね」 ダーッと背負ったまま、コートサイドを駆け抜ける。 唖然とした表情のみんな(レギュラー含む)がこっちを見ていたけど、無視無視無視! コートを駆け抜け、ボールが確実に飛んでこないところまでいくと、ゆっくりと彼を下ろす。 「はぁっはぁっ……ちょっと痛むけど我慢してね」 息を整えて、彼の靴を脱がす。 慎重に靴下を剥ぎ取ると、ぷくっと腫れている足首。 完全に捻挫だ。 足を脱がせた靴の上に置き、立ち上がる。 「ちょっと待っててね」 言い残して、平部員の部室まで走って行き、奥のほうに転がっているバケツを拾った。 ……ったく、この部室汚すぎる!後で片付けてやる! バケツを手に持ち、ついでに、救急箱と放置されていた折りたたみ椅子も持っていく。 水場でバケツにたっぷり水を入れ、コートサイドへまた走る。 「はい、これに座って」 折りたたみ椅子を開き、肩を貸しながら、彼(古川君というらしい)を座らせた。 痛めた足を、水につけさせる。 「冷た……ッ」 まぁ、2月だしね。そりゃ水も冷たかろう。 本来なら氷で冷やすべきだけど、これだけの水温だったら氷より水の方が手っ取り早いし、固定する必要もないからいい。 「冷たいからって途中で足抜いたらダメだよ。足の感覚なくなるくらいまで、水につけておいてね。……んー、と。私戻ってくるまで、とりあえずそのままでいてね」 「えっ……あ、の……先輩はどこへ?」 「(先輩……いい響き……)え?あぁ……私、部室に行ってくる。ちょっと部室、汚すぎ。整理してくるから。絶対水からあげちゃダメだからね」 念を押して、平部員の部室へ。 まったく……本当に汚い。 床に落ちたプリントを拾い上げ、一まとめにして棚のうえへ。ほこりやらゴミやらをほうきで集め、その辺に落ちている紙袋へ投入。 それだけでも、少しこざっぱりした感じになる。 奥のほうが物置というか、ガラクタ置き場というか……とりあえず、なんともいえない状況になっているので、少しずつ崩しながら、ゴミはゴミとして、なんだかわからないものは、とりあえず取っておいて、1つのところへ固めて置いておく。 途中で現れた、生命力のしぶといアイツは、顔を背けながらほうきで潰しておいた。ごめんよ、ゴ○。これも部室をきれいにするためなんだ。お前の居場所はここじゃない。 整理をしてみると、コップやらなにやら色々出てくる。コップは、タンクを使うときに使用するから、分けておいた。 「よし」 なんとかどこに何があるかわかる状態になった部室。 また後で、部員に捨てていいものがあるか聞こう、と思いつつ、後にする。 コートへ戻り、古川君の元へ。 「えーっと……さっきから、何分くらい経った?」 「20分くらいですかね……あそこに時計があります」 壁に埋め込まれた時計を見ると……おぉ、8時過ぎてるよ。 「授業は何時から?」 「授業は8時45分からですが、HRが8時半からです」 「じゃあ、もうそろそろ練習も終わるね。…………ん、じゃもう足あげていいよ」 足をあげてもらい、部室に置いてあったタオルで水気を取る。 「多分捻挫だと思うけど、ちょっと腫れてるねー……一応、念のために病院行った方がいいかも」 「わかりました。……ありがとうございます」 「いえいえ。一応、テーピングしておこうか?固定だけしておいて、無理はしないようにするだけだけど」 「えっ……先輩、テーピングも出来るんですか!?」 あまりの驚きように、思わず苦笑する。 ……そりゃー、ドリンクもまともに作れない子がマネージャーやってたら、テーピングどころの話じゃないだろうなー…………。 「簡単なものだけなら、ちょっとはね。これから少しずつ勉強していくつもり。…………じゃ、ちょっと足上げてくれる?」 足を上げさせて、先ほどと同じように、靴を台にする。 手早く捻挫用のテーピングをすると、ほぉ……というため息がどこからか聞こえた。 「!?わっ、いつの間に……!」 みんなが輪になって集まっていた。 「ちゃん、やるなぁ〜……まさか、テーピングまで出来るとは思わんかったで」 「や、本当に少ししか知らないよ!?……よし、じゃ、無理はしないようにね。歩くときは、必ずつま先の方に体重掛けるようにしてね。かかとから歩くと、悪化するから」 「は、はいっ!ありがとうございました!」 「いえいえー、お役に立てたのなら幸いですよ」 テープを救急箱に戻す。 ふと景吾と視線がかち合った。 …………うわー、満足そうに微笑んじゃってるよ、景吾さん…………。 「今度のマネージャーさん、すごいな…………」 どこからか声がする。 ……おぉ、お褒めの言葉ありがとう。 「古川背負ってコート駆け抜けてったのがすごかったよな」 ガクッ……。 そ、そこね……コートを全力疾走してた、ってトコがすごいのね……。 「今度から、なんかあっても平気だな……もう痛みを我慢する必要はないんだな……!」 ……………………今まで、相当マネージャーさんが酷かったんだな、かわいそうに。 よしっ、これからはお姉さんが頑張るからね! 「朝の練習は終了だ!各自、着替えて教室へ戻れ!」 景吾の声(&指パッチン)で1年生がバーッと雑用をはじめる。 おぉ、早い早い。人数が多いから、あっという間にボールが拾い上げられ、ネットがあげられる。 「、ご苦労だった」 ポン、と景吾の手が頭に乗っかる。 ……どうも景吾、人の頭に手を乗っけるのが好きみたい。 「……少しでも役に立てたんなら、嬉しいです」 「少しどころじゃねぇな、お前のおかげで部員の士気も上がる」 「そ、そう?…………景吾は着替えないの?」 「あぁ。……俺、今日は授業には出ないからな」 「はっ!?何言って……」 「レギュラー全員、そう言ってるぞ。授業出るより、お前と話がしたいってな」 「なにぃぃぃ!?ちょ、そんなこと許されるわけないでしょー!?みんな、ちゃんと学生の義務である授業を……!」 「授業受けるより、と話をしてるほうが、有意義に時間を過ごせるそうだ」 …………………………………………間違ってますよ、その考え。 どう考えたって、授業の方が有意義だと思いますが。 「おいっ、部室がなんかキレイになってるぞ!?暗黒地帯がなくなってる!」 ……………………遠くの方から声が聞こえてきた。 暗黒地帯って……確かに、ゴチャゴチャしてたけども。 「…………お前がやったのか?」 「あー……ちょっと入部前から出過ぎたことかとも思ったんですが……放っておくことも出来ずに、先ほどやってしまいました……ごめんなさい」 「なんで謝るんだ、悪いことじゃねぇだろ」 いや、でもさすがにちょっとやりすぎたかなー、と。 一応まだ部外者だし……部外者に勝手に部室掃除されたら、嫌かな〜、とも思ったし。 「部室がキレイなのはいいことだ。だから、お前はマネージャーとして当然のことをした、そうだろ、あーん?」 「…………そうですね」 「よし。…………じゃ、レギュラーの部室に行くぞ」 NEXT |