「まず、聞く。…………お前は、ドコから来た?」

「…………こことは違う、世界です」

「なぜ、それが言える?」

一瞬迷った末、私は言った。






「あなたたちが、マンガの人物として描かれていたから」





Act.2  ぶべきか、悩むべきか




その言葉を聞いた跡部景吾は、一瞬目を見開いた。
でも、すぐに冷静な表情に戻る。

そして、話してくれたのだ。

両親とマネージャーの話。

おまじないの紙のこと。

そして、おそらく、その魔法陣が私を呼び寄せた原因であるということ。


魔法陣と聞いて、某糸目の魔王様を思い出したのは、私の頭は相当テニプリに染まっているということだろうか。
…………黒魔術つながりでそれが出てくるんだもの。

とにかく、それを聞いて、とりあえず現状を把握した。
把握したら把握したで、色々不安になる。

「えーっと……あの、跡部……さん?」

「景吾でいい」

「じゃ、景吾くん」

「景吾でいいと言っている」

「………………景吾」

「なんだ」

俺様気質だ。本当に俺様気質だ。
うーん、私のほうが本当は年上なんだけどなぁ。頭を抱えながら、聞いた。

「…………私、戸籍、ないよね?……つーか、色々なさすぎだよね?」

家どころか住所もないし。
この世界の知識も学歴もないし。
働くにしても、戸籍ないし。

…………ヒィ、どうやって生きて行けと!

「あぁ……ちょっと待て……電話する」

景吾は、携帯電話を取り出すと、慣れた手つきでボタンを押す。
しばらくして電話口から、私まで聞こえるくらいの大音量の声が聞こえた。

『景吾〜〜〜!!電話くれるなんて、久しぶりね〜〜〜!!』

「おふくろ……やってくれたなァ?」

『あら?もしかして、おまじないやってくれたの?嬉しい〜!で?どうだった?どうだった!?』

「あんたらの暇つぶしのせいで、全然関係ねぇ人間1人巻き込んじまったじゃねぇか!」

『マネージャーさん、現れたの!?』

「文字通り、『現れた』さ。……紙の中から、な」

『すごいわねぇ、あの占い師さん。…………で、彼女は今いるの?』

「すごいとかじゃねぇだろ!」

『彼女は?直接話したいのだけれど、景吾?』

ぐっ、と景吾が詰まった。
どうやら、お母さんは景吾を従えているらしい(笑)。

「……、おふくろが話してぇだとよ」

ずいっと電話を突きつけてきた。
…………景吾さんの携帯……!(変なところで萌え)

ドキドキしながら、それを受け取って、とりあえず『もしもし』と言った。……やばい、ちょっと声が震えたかもしれない。

ちゃんっていうの?可愛い名前ねvv』

「は、はぁ……ありがとうございます」

『でね、あなたも事情はわかったかしら?ごめんなさいね、巻き込んでしまって』

「あ、一応事情は理解しました……えと、むしろ私としては感謝したいくらいで……」

『あら、本当?嬉しいこと言ってくれるわぁ〜!それで、あなたの生活のことなんだけど……』

「あの……おば…さま?私、実は、この世界の……」

『この世界の人間じゃないってコト?知ってるわよ、占い師の人にちゃんと頼んだから』

おいっ!思わず突っ込みそうになった。
景吾も隣で聞き耳を立てながら(顔が近い!)、キレそうな表情になってる。

『氷帝学園には……この世界には、どうしてもマネージャーになり得る子がいなかったのよ。だから、違う世界から呼んでもらったのだけれど……』

「はぁ……なるほど……えーと、でも、その……私には戸籍とか色々……」

『あなたの生活、すべて跡部家が面倒を見るわ』

「へっ?」

『戸籍も、明日には出来てると思うから。学校にも行かせるわ。もちろん氷帝学園だけどね?あそこなら大学までエスカレーターだから、心配しなくていいわ』

「やっ、あの……」

明日には戸籍が出来てる……って、どういう権力持ってるんだよ、跡部家!

『ごめんなさい、そろそろ時間なの。また日本に帰ったときに色々お話しましょうね。……景吾に代わってくれる?』

「あっ、はい」

なんとなく逆らえなくて(跡部家奥様の力か?)景吾、と言って電話を渡す。
景吾は、半分脱力しながら(それでも眉間にシワはたっぷり寄っていたけど)電話を受け取った。

「……俺だ」

『どう?……話した感じでは、いい子でしょ?』

「あぁ……まぁな」

『ふふ、景吾のタイプもちゃんと考慮したんだから』

「よけいなお世話だ。…………で。の戸籍と生活のことだ」

『戸籍は、今夜中には手配するから、明日にはなんとかなってると思うわ。学校は、氷帝学園ね。宮田に言って、編入手続きしてもらうから。うちの推薦があれば大丈夫でしょう。家はうちで暮してもらいなさい、いいわね?』

「あぁ……わかった。……じゃあな。親父にも伝えておいてくれ」

ぷつっと景吾が電話を切って、こっちを見た。

「…………、とりあえず、お前はここで生活してもらうことになる。いいか?」

「あっ、うん。…………って、ここで生活ぅ!?」

「なんだ、不満か?」

「いや、だって、跡部家だよ!?跡部家!」

「俺様の家がどうかしたか?あーん?」

「いや、だって……言ったよね?私の世界には、景吾たちが出てるマンガがあるって」

「あぁ、聞いたな」

「で、景吾はその中でもダントツ人気があるキャラで……って、そんなことを説明してるんではなく!とにかく!そのキャラと一緒に暮らすなんて……!全国の跡部ファン……いや、全世界の跡部ファンに申し訳ないよ……!」

テンパッていたら、ぐいっと景吾に頭を固定させられた。

その距離が近すぎて、さらにパニックになりかけたところを、青みがかった瞳が私を捕らえた。

―――目線を、外せない。

「だが、今、お前の目の前にいるのは、『跡部景吾』だ。キャラでもなんでもない。一人の人間の『跡部景吾』だ」

…………確かに、そうなんだけど…………。

「いいか?これは全面的に俺の両親が悪い。お前になにひとつ落ち度はなく、全てはこちらの責任だ。親がやったことの責任を取るのは、子供として当然だ」

「そ、そうなの?」

そうなんだ(キッパリ)だから、お前は遠慮せずにここにいればいい」

覗き込んでくる景吾の目に……そして、なんといっても、この顔と顔が近すぎる状況に耐えられず、私は頷いた。

「……じゃあ、よろしくお願いします」

「あぁ。…………とにかく、部屋が必要だな。お前のことも説明しなきゃならねぇしな」

「で、でも、説明って……!」

「大丈夫だ。うちの使用人は『両親の仕業だ』と言えば、全員納得する」

「(…………どういう両親なんだ、跡部家)」





とりあえず、宮田さんという執事さんの所へ連れて行かれた。最初、宮田さんは驚いたらしく、眉毛をピクリと動かしたけど、それ以降は動じなかった。どちら様でしょうか?と控えめに聞く宮田さん。
景吾は、この経緯をかなり端折って説明した。
つまり、
『両親の仕業で、が呼び寄せられた』
と述べただけなんだけど(端折りすぎだよ)。
だが、妙に納得した宮田さんは、それはそれは……と丁寧にお辞儀をしてきた。
私も慌ててお辞儀を返す。
その後、私は景吾の部屋の横に部屋を与えられた。
客室として使われていたらしい部屋は、私の元の部屋がすっぽり4つは入ってしまいそうなほど広くてビックリした。
しかも、ベッドは天蓋付き!どこのお姫様ベッドだよ、と突っ込みそうになった。

「服や日用品は、明日中には揃える。今日は我慢してくれ」

景吾の説明を聞きながらも、私はうわぁーと部屋を眺めていた。
…………元の時代の私の部屋って、一体何だったのかしら。

「何か欲しいものがあったら言え。なんとかする…………って、聞いてんのか、あーん?」

「うぁっ、ハイ、聞いてますとも!」

返事をしながら、私はベッドの脇にある電気スタンド(高級そう)を眺めていた。

「……そんなに珍しいか?そのスタンド」

いつの間にか隣に立っていた景吾が、耳元で話すからビックリして飛びのいてしまった。

「……なんだよ」

「び、びびびび、ビックリして……耳元で話さんといてください!(エロボイスが!)」

「…………いいじゃねぇか、別に。あーん?」

「!!!(生あーん!!)……ッ……よくない!心臓に悪い!!」

あぁ?と景吾が訝しげな顔で私を見る。
この人は、絶対自分の美しさを自覚しているだろうに……!なぜそうだと察しない!!
いろんな事があってパニくってるのに、さらにたたみかけて私の心臓を破壊する気なのか!?

「け、景吾さん!!!お部屋に戻らなくてよろしいのですか?」

「あ?話しようと思ってんだよ。文句あんのか」

「…………ないでございますよ……」

近頃の中学生、怖い……!

景吾はソファに座って、テーブルの脇にあった電話に手を伸ばした。

「ダージリン。の部屋に」

それだけを言うと、ガチャンと切る。

……内線電話?いや、それって本当に使うものなの?ただ単にオブジェだと思ってた……。

すぐにコンコン、というノックの音。

失礼します、と言って入ってきたのは、ホテルのルームサービスの特上版みたいなセット。
ティーカップを2つテーブルの上に出して、紅茶を注ぐ。
ふわぁっといい香りが鼻を抜けていった。

景吾は座ってその紅茶を優雅に飲む。
……またその姿が様になってるわけで。

、飲まないのか?」

「あっ……いただきます」

とりあえず、紅茶を飲む。……カップも温まってて、熱いお茶が……今まで飲んだ、どの紅茶よりもおいしかった。

「……おいしい」

思わず呟いた一言に、景吾がクッと笑う。

「だろ?最高級の茶葉を使ってるからな」

うぉ……無駄なところにまで、余すとこなくお金を使いますね、跡部家……。

「で、だ」

カチャ、とカップを置いて景吾が話を切り出す。

、お前のコトを教えろ」

「…………は?」

「お前の元いた世界での生活だ。……コレ」

ピラ、と取り出したのは、私がここに来たときに足元にあった、説明書。
あわわ、慌ててそれを分捕った。……だって、体重とか書いてあるし。

「コレを見てお前、驚いたな?ってことは、少なからず、違うトコがあるんだろ?」

「…………うん」

「まず、名前は。これはこれで合ってるな?」

「うん」

「年は」

「えーっと……18」

「4つ違うのか……知識はどうだ?向こうの世界での知識は覚えてるか?」

「まぁ……それは大丈夫」

「家族構成」

「……えっと、ごく普通の一般家庭です。2人とも健在でした」

一応私の身辺に関することを話して、景吾はふぅ、と息を吐いた。

「……とりあえず、年齢だけが違うみたいだな」

「そうみたいだね……えーっと……これから、お世話になります。よろしくお願いします」

「あぁ……よろしくな、

「そうそう、景吾。私のことは、14歳として扱ってね?……景吾もさっき言ってたけど、ここにいるのは1人の人間としての、私、だから」

景吾は、ポン、と頭の上に手を乗っけた。

「あぁ、わかってる。

―――こうして、私はこの世界で生きていくことになった。









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