今日は、ようやく。
ようやく退院できる日です。






昨夜あまりの嬉しさに眠れなかったよ……!
とにかく嬉しくて、起きたばかりの私は、ソワソワソワソワ。

に、荷物もまとめたし(というか、景吾がまとめてくれてた)、大丈夫だよね。忘れ物ないよね……!着替えも済ませたし、後は景吾が迎えに来てくれるのを待つだけ……!

私はベッドに腰をかけて、景吾を待つことに。
やっぱりソワソワしながら待つこと数分。



ガラ、とドアが開いて、景吾が入ってきた。

「おはよう、景吾!」

「あぁ。……やっと、だな」

景吾が少し早足で近づいてきて、もうすっかり指定席になったベッドサイドの椅子に座る。
でもそれも、今日で終わり。

「うん!やっと家に帰れる〜!」

「朝から、宮田たちが張り切ってたぞ。ハンスも、お前の為に料理作って待ってる」

「やった〜!うぅ……ハンスの料理久しぶり……!」

やっと帰れる。
何を聞いても笑い出しそうだった。

入院はたった2週間程度なんだけど……とにかく家に帰りたかった。家が懐かしかった。
景吾は毎日、私が寝るまでいてくれたんだけど……それでも、朝起きて、景吾が隣にいないとガッカリする。朝1番に、おはよう、って言えない。それだけのことなのに、寂しかった。

ぽん、と景吾が頭の上に手を乗っける。

「……じゃ、帰るか。準備は出来てんだろ?」

「うん!バッチリ!」

景吾に手を引かれて立ち上がる。
荷物を持とうとしたら、ひょいっとやっぱり景吾にすべて持っていかれた。

「持つな。重いだろ、コレ」

……そんなに重くはないと思うけど…………。
あの事件以来、ますます景吾の心配性は加速された気が、する……まぁ、仕方ないか……?

肩を引き寄せられて、歩き出す。
扉を開ける前に、1度振り返って今までいたベッドを見た。

「……今度病院に来るときは、赤ちゃん産むときだね」

「そうだな」

景吾が少し笑って―――キスしてきた。

「ちょっ、け、景吾……!」

「誰も見ねぇよ……」

「で、でも……んっ」

看護婦さんとか入って来たらどうするのさ―――!(泣)
私の心中を知ってか知らずか(知っていてもやるのが景吾だ)、わざと、ちゅっ、と音を立てて景吾がキスをしてくる。
3回ほどキスをして、ようやく離してくれた。

「…………続きは、家に帰ってからな」

「な、なんの続きですか……!(泣)」

「……聞きたいか?」

「や、やっぱいいです……!」

あぁぁ、色々怖い……!
ニヤ、と景吾が笑って、ドアをスライドさせた。

散々景吾と歩く練習をした廊下。
ゆっくりゆっくり、景吾と歩いてエレベーターへ向かう。

VIP専用の、1階直通エレベーター。
やたらとデカいそのエレベーターに乗るのは……私たち2人だけ。

乗り込んですぐに、また景吾が抱きしめてくる。

「景吾ー……ひ、人がぁ……」

「1階までは、誰も来ねぇって」

耳元で囁かれたら―――うぅぅ、反論できない(泣)
1階につくまで、ずっと抱きしめられてた。

チーン、と音が鳴って1階に着いたことを知らせる。

「け、景吾……!」

「……ちっ」

景吾が離してくれるのと同時に、ゆっくり扉が開く。
開いた先には、たくさんの看護婦さんとお医者さんがいた。
よ、よかった、ギリギリ見られてない、よね……!?

「退院、おめでとうございます」

主治医だった先生が、大きな花束を持って寄ってきた。
景吾にもう1度肩を引き寄せられ、一緒に歩く。

「ありがとうございます!」

花束を受け取った瞬間、自然に笑みが漏れた。
景吾がそんな私を見て、少し目を細めた後、主治医の先生に向き直った。

「世話になったな」

「今度入院するときは、お産の時ですね」

産婦人科の主治医の先生までいる。
ニコニコ笑いながら、見上げてきた(女医さんだから、私よりも背が低い)

「あの時はヒヤヒヤしたけど、経過は順調だからね。いつも通ってる病院の方には、こっちから説明しとくから、引継ぎは気にしないで。後は、無理しない程度に、散歩とかしてみてね」

「はーい!」

定期健診に行ってる病院には、このことをどうやって説明しようかと思ってたんだけど、そんな心配は無用だったらしい。
そうだ、家に帰ったら散歩も出来るし……うわ、やりたいことがいっぱい出てきた……!

「……、行くぞ」

景吾に手を引かれて、お医者さんや看護婦さんが両脇に並んだ花道?を歩き出す。
お世話になった人、みんなに頭を下げながら、裏口から出た。……まだ、玄関には報道陣がいるんだって。数は少ないらしいけど。

すぐ側にある駐車場。
そこに停めてあるのは……いつもの長い車じゃなくて、景吾のフェラーリ。

「景吾、自分で運転してきたの?」

「あぁ。折角だから、俺様の運転で、屋敷に戻ろうかと思ってな」

助手席のドアを開けてくれる景吾。
膨らんできたお腹に手を当てて乗り込むと、景吾はドアを閉めてくれて、運転席へ回る。

「シートベルト、ちゃんとしとけよ」

「了解〜。……久しぶりだねぇ、景吾の車乗るの」

「つわりやらなにやらで、ずっとドライブも行ってなかったしな……明日でも、体調良かったら行くか」

「うん!」

ゆっくり車が動き出した。
高校卒業と同時に景吾は車の免許を取ったので、もう4年ほど乗っている。前に海外旅行行った時も普通に運転してたから、慣れたものだ。

久しぶりに見る、病院の窓から以外の街。
……なんだか、ホントにニヤけてくる〜〜〜!

ニヤニヤしながら、窓の外を流れていく景色に目を向ける。
景吾は、大分安全運転で屋敷へ向かってくれた。






屋敷の前に着いたとき、不覚にも涙が零れそうだった。
はぁ、やっと帰ってこれた……。

景吾が車の中から、リモコンで門を開ける。

、玄関前で降りて1人で行くか?それとも、車庫まで一緒に行くか?車庫までだと、歩くことになるが」

「……んー、車庫まで一緒にいく。景吾と一緒がいい」

「わかった」

前を向いたまま、ぽん、と景吾が左手を私の頭に乗せる。……どんだけ視界が広いんだ、このお方は。
完全に開いた門を通り抜けて、玄関から少し離れた位置にある、この車専用の車庫へ。
巧みなハンドル捌きで、景吾がバックで車を入れる。

カコン、とギアを操作して、エンジンを停止させた。

「待ってろよ、開けるから」

先に景吾が降りて、助手席の方まで回ってくれてドアを開けてくれた。
よいしょ、と手伝ってもらいながら立ち上がる。

久しぶりに吸う、病院以外の空気。

「うー……やっと戻ってきた―――!」

「あぁ。……ほら、掴まれ」

景吾が出してくれた腕に掴まって、歩き出す。
1歩1歩玄関が近づいてくるたびに、嬉しくて心臓が高鳴る。

キィ、と景吾がドアを開けた。

「おかえりなさいませ!」

玄関に、執事さん、メイドさん、シェフまで勢ぞろい。
みんな揃って、迎えてくれた。

「おかえりなさいませ、様」

「宮田さん!ただいま帰りました!」

〜!ランチ、出来てるよ!今日は、の好物ばかりだから!」

「ハンス!」

みんなの顔を見て、お屋敷に戻ってきた実感がみるみる湧いてくる。
ぎゅっ、と景吾の腕にしがみついた。

景吾が、ぽんぽん、と頭を撫でてくれる。

やっと、帰ってこれた。
涙が出そうだったけど、嬉しくて嬉しくて……泣くよりも笑顔の方が勝った。
みんなも、笑ってくれた。

――――――ただいま。

小さく呟いたら、景吾が耳元で答えるように小さく言った。

――――――おかえり、




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