その後、あっさりと3年生の中では優勝。
なんだか、挨拶する時点で他のクラスがビビっていたのは……やたらと威圧感をかもしだしていた景吾と侑士の所為だろう。
そのおかげで、私たちのクラスは1セットも落とすことはなかった。
とりあえず、私は今現在、まだ1度も痛い目には合っていない。というか、痛い目に合う前に、景吾や侑士がバシバシと敵を全滅とかさせてくれちゃったりするものだから、狙われる暇すらない……!ちょっと、どこかのドッチボール大会とかで、これは軽く優勝できるのではないだろうか。

ちなみに、亮はサッカーで、樺地くんはバレーボール、チョタは長身を生かしてバスケのそれぞれで優勝していた。ジローちゃんはバレーに出たみたいだけど、途中でおやすみタイムに入ってしまって、2回戦で負けたらしい。

そして、これからは、それぞれの学年の優勝チームで行われる、決勝リーグ。

まずは、1年生対2年生の対決。
これはあっさりと2年生が勝ってしまった。やっぱり学年の差?1年と2年じゃ体格が違うからね……まだ成長途中の1年生じゃ、キツイだろう。

続いて、私たち3年と1年の対決。これもやっぱり、あっさりと私達が勝った。
景吾と侑士が頑張るまでもなく、他の男子がバコバコと当てて、さくっと試合終了。



ということは、つまり。

最後の3年対2年の試合で、勝った方が優勝チームと言う事で。

なんだかもう、お決まりの展開になっていた。




さすがに、この試合が優勝決定戦ともなると、みんなの気合の入り方が違う。
ところどころで『箱根!温泉!一泊旅行!』という声が聞こえてきた。

かくゆう私も、心の中で散々叫んでるけどね!

だって、箱根だよ!?温泉だよ!?一泊旅行だよ〜〜〜!?(叫)

行きたいッ!ぜひとも行きたいですっ!
それが、後1試合勝つだけで行けるんだもん、そりゃ、気合だって入りますさ……!(拳を握る)

「後1試合で優勝だ。負けることは許さねぇ。全員、持てる力の全てを出し尽くせ」

試合前、最後の作戦会議で景吾がそう言うと、全員が『おぉ〜!』と腕を突き出した。
ま、待ってろ、箱根〜〜〜!!

意気込んで整列しようと思ったら、侑士が近づいてきて、コソッと小さく呟いた。

ちゃん、気をつけろや。……このクラス、かなり強いで」

「へ?」

「……去年、1年ながら優勝したクラスやねん。うちの学校は、中学3年間クラス持ち上がりやから、おそらくメンバーの入れ替えはないはずや……せやから、気ぃつけとき」

「!!!えぇぇっ!?そ、そうなの!?」

「特に、あのデッカイヤツ……アイツには要注意や。野球部の2年生エースで、ヤツの投げた球で骨折ったヤツもいるそうやで……」

「ほ、骨……!?」

相手チームの中に、チョタくらいの身長の人が1人いる。それが野球部エースの子だろう。
…………た、確かに強そう……!

「試合、始めまーす!」

審判の人が、ピッピーと笛を大きく鳴らした。
なんだか怖くなってきた私は、心持ちビクビクしながら整列する。

「それでは、2年E組対、3年A組の試合を始めます」

ペコリ、と礼をして、みんながそれぞれ散っていく。
今回は、景吾と侑士が内野で、外野にはアメフト部の子。さっきもこれで勝ってきたし、大丈夫だとは思う。

ジャンプボールは景吾と例の野球部エース。
10センチくらい身長差があるんだけど、景吾がまたありえないジャンプ力で私達の方にボールを落とした。
それを掴んだ侑士が、まず相手を1人当てる。
人に当たったから、勢いを失って地面に落ちたボールを……殺人マシーン野球部エースが拾った。

ひ、ヒィ、怖いっ……!

ちらっと野球部エースの子が視線を動かす。どこを狙うか品定めをしているようだ。
お願いだから、私は狙わないで……!

と思っていたのだけど。

ばひゅんっ!

「わぁっ!?」

私の方向にボールが飛んで来た!(泣)

イヤ―――!どうして私ばっかり狙われるの!?やっぱり、的が通常よりも大きいから!?酷いよッ、身体的差別だ―――!(泣)

恐ろしい速度のボールを、どうにか紙一重でかわす。
転びそうになるのを、『転んだら、転んだだけで痛いし、更に剛速球までついてくるオマケつき』というとんでもない事態を避けるために、もう意地で我慢……!

ひゅんっ、と飛んでいくボールを、しゃがんで避ける。
景吾が寄ってこようとしているのが見えた。

!」

「うわわ、だ、大丈夫〜!景吾は他の女の子達の前にいてあげて〜!」

景吾や侑士は、相手が怖がって滅多に狙ってこない。
だから、景吾たちが狙われやすい女の子たちの前に立っていれば、必然的にそちらの方向が狙われることはない。

優勝するために……というか、箱根のための、作戦よ!

景吾が女の子達の前を離れた瞬間、きっと野球部エースたちは、か弱い女の子を狙い出すだろう。
本当なら、私も景吾の後ろとかでヒッソリとしていたいのだけど……なんだか、私が一緒にいる方向が、狙われやすい気がしてきたので(やっぱり的が大きいから?)、私は1人離れて、とりあえずみんなを巻き込まないようにしていた。最悪の場合、私だけが犠牲になるようにね……!(苦笑)

まぁ、私は1人でもなんとかなるし、万が一当たっても頑丈だから平気だろうけど……普通の女の子だったら、ホントに骨折れちゃうよ……!

ちゃん、俺が今行くでー!」

「ゆ、侑士も女の子たちの前にいて―――!……うひゃっ」

ゴウッ!

なんだか、ただの投球にはあるまじき効果音が聞こえて、私の足付近をボールが掠めていく。野球部エースのボールは、なんだかもう、人外だよ、人外……!

なんとか避けて、後ろへ下がろうと思ったら……逃げようとしている、男子に躓いた。

人外のボールを捕球している外野(なぜ捕れるんだ!?)の子が、チャンス、とばかりに振りかぶる。目が、ピンポイントで私を狙ってるよ……!

ダメだ、私が避けたら、後ろの男子に当たる―――!
そうなったら、取るべき選択肢はたった1つだ。

優勝のために!箱根のために!

頑張れ、私!(喝)

ボールを持った腕が、大きく振り下ろされた。
飛んでくる早いボール。それをじっと見て―――。

ドゴッ!

「……っ……ケホッ……」

ボールの勢いで少し後ろに下がり、また男子とぶつかり、尻餅をついた。
尻餅をつきながらも、腕の中で飛び出して行きそうなボールを、必死に押さえ込む。
当たった衝撃で、胸が詰まって苦しい。

ボールを抱えて座り込んだまま、ケホケホッと数回咳き込んだ。
景吾と侑士が駆け寄ってくるのを、少しにじむ視界で捉えた。……衝撃で、目に涙が浮かんだみたいだ。

「……っ!?」

ちゃん、平気か!?」

「だ、大丈夫……と、捕ったよ、ボール……!」

頑張った。

よくやった自分!(自画自賛)

優勝のため、箱根のため、学食のために……もう、自分の庶民感覚に万歳だ!人間、自分の欲のためには、最大の力を発揮するのよ……!

捕ったボールを、とりあえず景吾に渡す。

「あ、当ててきて……!」

「任せろ」

景吾がセンターライン付近まで近寄ると、ものすごい速度で(そりゃもう、野球部エースも顔負けくらいの速度で)ボールを投げた。……あ。当たった男子が倒れた。

ちゃん、手ェ貸すで」

「あ、ありがと……はぁ……もう1度同じことやれって言われても、もう無理……!」

侑士に手を貸してもらいながら、立ち上がり、尻餅のせいで、ジャージについた土を払った。

「よくやったな、ちゃん……!」

侑士が、頭を撫でてくれる。
ホント、よく頑張ったよね、私……!

「……、平気か?」

相手を2人ほど当ててきたらしい景吾が、戻ってきた。
ぺいっ、と侑士の手を1回はたくと、少し乱れた髪の毛を整えてくれた。

「うん、大丈夫。……捕ったときは、衝撃で胸が詰まったけどね……!……あ、景吾たち、そろそろ例の位置について……!」

相手ボールになっているので、景吾たちは、また女の子達の前に立たなくては。
そうでないと、私が頑張った意味がなくなる……!

「せやけど、そないしたら、またちゃんが」

「わ、私はまだなんとか逃げられる……!残り時間もあとちょっとでしょ?なんとか頑張るよ……!だから、2人は行って!箱根のために!」

ぐいぐいっ、と景吾たちの背中を押すと、しぶしぶ動き出した2人。
残り時間も少ないし……なんとか……する!

箱根箱根箱根箱根……!(言い聞かせる)

ボールを持った野球部エースが、また視線を動かす。
……お願い、もう私は狙わないで……!
狙うんだったら、他の男子に!(酷)…………だって、他の男子は狙われずにのんびり逃げてるんだもん……!弱者(女子)イジメをやめて、正々堂々男同士で体当たりの勝負を要求します……!

バチリ。

………………………………視線が、かち合った。

「……やっぱり、女子だよな」

イヤ――――――!!!(絶叫)
だから、正々堂々男同士のぶつかり合いを……!

慌てて後ろへ下がろうと思ったら。

ズル……ッ。

相当慌てていたのか、それとも度重なる連戦のおかげで、足に来ていたのか。

…………………とにかく、滑ったわけで!

「うわっ……」

「今だ!」

相手コートからそんな声が聞こえる。
ゆっくりと視界が空に切り替わっていく。

野球部らしい、綺麗な構え。
ピッチャー振りかぶって、第○球、投げ……投げ……

投げないで!(泣)

「……!」「ちゃん!」

景吾と侑士の声が聞こえるけど、答えられないよ、ごめんねー!(泣)

痛いの、少しくらい我慢しよう。
私1人当たっても、まだ人数的にはうちのクラス勝ってるから、大丈夫だしっ!

転んで痛いのは―――そりゃ当たり前のことだ、我慢だ我慢!

ぎゅっ、と目を瞑った。

………………どうか、少しでも痛くありませんように!(願)

……バゴッ!

すさまじい衝撃音。

…………………………………あれ?

衝撃音が鳴ったわりに……私の体には、どこにも衝撃がない。
というか、本来なら地面に転んで、痛いはずなのに、その転んだ痛さもない。

「……っ、ちゃん、大丈夫か……っ!?」

ちょうど真上から聞こえてきた、心臓に悪いエロボイス。
ゆっくり目を開けて見れば、眼鏡がキラリと反射しているのが見えた。

「ゆ、侑士っ!?」

背後から抱きかかえるようにして、私を支えてくれたのは、侑士だった。
侑士が支えてくれたから、地面に転んでアイター!の事態は避けられたらしい。

そして。

「……いい加減にしろよ、テメェら……ばっかり狙って……覚悟は出来てんだろうな、あぁん?」

私の前で、文字通り楯になるかのように立ち、低く呟いたのは、他ならぬ景吾さん。
腕にはボール。

どうやら、景吾が私の前に飛び出て、あの人外の剛速球を捕ってくれたらしい。
あの衝撃音は、景吾が捕球した音だったのね……!

「あ、跡部先輩……!?」

「……はっ!」

小さく吐かれた景吾の吐息と共に、景吾の右腕から光速の球が投げられる。
それはピンポイントで野球部エースの右腕に当たると、跳ね返ってそのまま景吾の手に吸い込まれるように戻り、景吾はそのボールで、もう1人を当てる。

ど、ドッチボール版、破滅への輪舞曲……!

「け、景吾スゴイ……っ」

野球部エースを当てて、満足したらしい。
戻ってきたボールを、他の男子に手渡すと、景吾がツカツカと寄ってきた。

「……おい、忍足。それでテメェはいつまでを抱いてるつもりだ?……さっさと放せ」

……はっ!景吾の美技(いや、冗談抜きで)に酔いしれていたから忘れてたけど、私、侑士に支えられたまんまだった―――!

「たまにはえーやんか。役得や、役得」

「……そろそろテメェ、1回地獄見ておくか?」

「残念やな、今の俺は天国におるんや……ちゃんを抱きしめて、あぁ、ホンマ、天国や……!」

ドカッ!

景吾の長い足が侑士にヒット。
私を支えてくれた腕がなくなり―――今度は、景吾が私の手を引っ張った。

「……いっぺん死んで来い」

小さく景吾が何かを呟くと同時に、ピピ―――!と、終了の笛の音が鳴り響いた。





第1セットを先取し、おまけに、野球部エースを当てたということで、盛り上がった私達は、第2セットも連取。

「……2−0で、3年A組の勝ちです!」

審判の声と共に、歓声があがった。

「優勝だぁっ!」

恐怖をかいくぐって来た女の子達の中には、泣いている子もいる。
あぁ、私まで泣けてきそう……!

ぽん、と頭に手が乗った。
続いて、もう1個手がぽん、と頭に乗る。

見なくても、誰だかわかる。

「勝ったね!景吾!侑士!」

後ろを振り返ったら、やっぱりそこにいるのは、景吾と侑士。

「当たり前だ。俺様がいて、負けるわけねぇだろうが」

「うわっ、まるでさも跡部だけが頑張ったかのように……ちゃん、頑張ったなぁ〜。お疲れさん」

「景吾と侑士の2人が頑張ったからだよ〜!2人こそ、お疲れ様!」

「……ったく、お前は……」

くしゃくしゃ、と景吾が頭を撫でる。
侑士がそのくしゃくしゃになった髪の毛を元に戻しながら、ニコリ、と笑った。

ちゃん、箱根には一緒に行こうな。めくるめく温泉旅行や……!」

「誰がテメェとなんて行かせるか。……箱根には、俺様とは、2人きりで行く」

「えっ!?」

「〜〜〜えぇ加減にしぃ、跡部!じ、自分……2人きりになって、ちゃんになにするつもりや!?」

「何って……そりゃ、恋人同士の男と女がするといったら、1つだろ?……まぁ、他にも色々するが」

「……っ……ぜっっっっっったい、跡部と2人きりなんてさせへん!俺も、絶対一緒についてったる!」

なんだかやけに意気込む侑士に、ゲシ、と景吾がもう1発ケリを入れ……更に、ゲシゲシと何度か踏む(痛)
地面に蹲ってしまった侑士を置いて、ぐいっ、と私の手を引きながら、景吾が身を反転させた。

「け、景吾……ゆ、侑士はあのままでいいの……!?」

「ほっとけ。そのうち復活する。…………着替えに行くぞ」

「う、うん……だけど、侑士は……」

「もうアイツの名前は出すな」

「………………えーと……」

「……お前、ここで口塞がれたいか?」

「いえっ!(汗)」

ゆ、侑士、ごめんね……!
こんな大勢の生徒が居る前での羞恥プレイは、無理!

ちらっと1度侑士を振り返って、私は景吾に促されるまま、更衣室へ戻っていった。



3年A組、男女混合ドッチボール。

優勝しました!




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