ドンッ、ドドンッ。

なぜか打ち上げ花火まで上がるほどの、ありえない豪華さ。
…………というか、なんで打ち上げ花火をする必要があるの?

「氷帝学園中等部、球技大会を始める」

私の素朴な疑問を大いに無視して、景吾の開会宣言で、ここに球技大会が開幕した。






ちゃん、移動するで」

開会宣言をする景吾とは違って、一般生徒の方にいた私は、侑士と一緒にいることにした。
球技大会などのイベントは、全て各委員会に委任してある。生徒会はただ、報告を聞いたり、許可を出したりするだけ。だから私は一般の生徒となんら変わりはない。だけど、景吾は生徒会長として開会宣言をするので、本部に行っていた。

初めての球技大会で勝手がわからないので、とりあえず誰かにくっついてないと不安で仕方が無い。だから、侑士と一緒に行動しているのだ。さっきだって、侑士に発見されなきゃ、どこに集合するのかわからなかったし……!

「侑士、ドッチボールってどこでやるの?」

「グラウンドのテニスコート側やて。俺らは―――確か、Bコートやったんちゃうかな」

「ふーん……なんかさ、結局あんまり練習もしないで当日迎えちゃったよね……」

「まぁ、しゃあないやん。俺たち部活あるし、ちゃんは生徒会の仕事もあるしな。ま、ちゃんは逃げとったらえーって。俺が守ってやるで」

「……えーっと、ありがと……」

うわ、侑士までどーしてこーゆーことをサラッと言うかな……!
ホントに景吾を含めて、この人たち中学生……!?

ちゃんが当てられそうになったら、サッと出て行ってそのボールを取る……イヤ、待ち……ここは、役得とばかりに抱きしめて、敢えて当たるっちゅーのも……

バゴッ!

鈍い音と共に、侑士の頭がのけぞる。
当たったものは、ドッチボール用の、ボール。

「忍足、いい加減にしろ!」

本部(20メートルくらい離れてる)にいる景吾が、大声で怒鳴っていた。
も、もしかしてボール投げたの景吾……!?

「……ふっ、いい加減って、どんな加減や跡部……!」

侑士があっという間に復活して、そのボールをブンッと投げ返す。
景吾はひょいっとそれを取ると、超高速移動でやってきた。

諦めが悪いんだよ……男の未練は醜いぜ?あーん?

諦めたらそこで試合終了やて、有名な言葉があるの知らんのか

お前は……!

ほな、離し。跡部なんかの顔見てるより、ちゃんの顔見てたいねん。……ちゃーん、ほな、会場行こか。跡部は本部で仕事あるんやって」

話を終えた侑士が、ニッコリ笑顔でこちらを向く。

「あ、そうなの景吾?」

「んなもんねぇよ、勝手に作るな伊達眼鏡!テメェこそ、岳人のお守りしてなくていいのかよ」

「違うクラスの岳人を、なんで俺がお守りせなあかんねん。跡部、遠慮せんと本部に行ってき。生徒会長として、色々やることあるんやろ?」

「ねぇっつってんだろうが!そんなもんは昨日のうちに終わらせて、運営委員に任せてある。…………だよな?。俺たち、昨日ベッドの上で、仕事しながら―――なァ?」

ニヤリ、と景吾が笑って私の肩を引き寄せる。
……って、ちょっと待ってくださいよ!
なんて発言をしてるんですか―――!!!

「わ―――!何言ってるんですか、景吾さん!!!」

「なっ……ちゃん……昨夜、何しとったんや!?」

「えっ、ちょっ……」

「俺に言えないコトしとったんか!?」

「わーん!景吾のバカ―――!」

くっくっく、と景吾が楽しそうに喉の奥で笑う。
そ、そんな……!昨日は、し、してないけど……ちゅーは……あぁぁ、でもそんなの言えるわけないじゃないですか―――!!!

「ほら、行くぞ。……Bコートだったな」

ぐいっ、と景吾が手を引っ張ってくる。
そのまま私は一緒に歩き出した。
復活した侑士が、私の隣に並ぶ。

……今の言葉は、なかったことにしとこ

小さく侑士が何事かを呟いた。
よく聞き取れなかったんだけど―――改めて聞いてさっきのことを突っ込まれてもイヤなので、あえてスルーの方向で!(オイ)

「ねぇ、私、イマイチまだよくわかってないんだけど……とりあえず、各学年で予選やって、学年ごとに勝ち残ったクラスで、決勝リーグ……それで勝ったところが最終的な優勝、ってことでいいの?」

「あぁ。予選はトーナメント戦。俺らの相手は……確か、岳人のところだったな」

「がっくんのトコ?」

「あいつ、しょぼくれとったで。俺らがドッチ出るの知らんかったみたいで、この間ポロッと言ったら、『俺もドッチにしちまったじゃねーか!侑士のアホ!』って言われたわ」

「……あはは、がっくん、ドッチなんだ……うわー、やだなぁ。ムーンサルト殺法とかやってきたら、どうしよう……!」

びよーんって飛んで、バシッと鋭い球……!がっくん、ちっちゃいくせに、さりげなく力もあるし、イヤだなぁ……。試合前に、当てないでってお願いしておこう。

「大丈夫やて。俺らがおるし」

「忍足も楯くらいにはなるだろ。いざとなったら思う存分使え」

「…………えーっと」

なんだか最近、景吾の侑士に対する態度が、激しく厳しい気がするんですけど。
い、一体何があったのかしら……?

「まぁ、ちゃんが当たる前に、俺らが全滅させたるけどな」

「忍足にしちゃ、なかなかいい発想するじゃねぇか」

あれ?そうでもない……?
うーん……?

、行くぞ」

「あ、うん!」

とりあえずは、ドッチボールのことを考えなきゃね!
サッカーゴールが設置されているグラウンドを突っ切り、テニスコート側へ。
ラインが引かれて、ドッチボールのコートが3面取られている。

「あー、!」

ドンッ、と腰に感じる衝撃は、もう慣れたもの。
振り返りつつ、そのおかっぱ頭を撫で撫で。

「がっくん、おはよー」

「おぅ!」

ニカッと笑うがっくん……あぁぁ、この子はなんて可愛いのか……!見てるだけでなごむよ、ホントに……!
ほわー、としながら、がっくんを見ていたら。

「岳人……そろそろ離れような?」

侑士がニッコリ笑って、がっくんを引き剥がした。
……侑士、目が怖い。笑ってないよ、目だけが。

「むー、なんだよ侑士ー。もっと早く、お前がドッチに出ること教えてくれてたら、俺、バレーに出たのによー」

むー、とか言ってむくれちゃってるところが、たまらんよ、もう……!(アホ)

「あ、そうだ、がっくん、狙わないでねー?もちろん、全力を込めて逃げる気満々だけど、狙われないに越したことはない……!」

「おー!ってか、俺が、狙うわけねぇじゃん!もし、最後の1人がでも、俺は狙わないからな!」

「あぁぁ、がっくん、君はいい子だよ……!」

撫で撫でとその頭を撫でていたら、今度は景吾ががっくんを引き剥がした。

、行くぞ」

ぐいっと手を引かれて、コートへ連行されました。
Bコート第1試合なので、もうすぐ試合開始。

試合前に、元外野などを決めるために、1度みんなで集まってルールの確認などをする。

ドッチボールは、女子5人、男子8人の13人で行われる。
3人が元外野で内野は10人。元外野は中に戻ることが出来なくって、最終的に、内野に残った人数で勝敗が決するという、小学校でやったそのままのルール。予選は、5分1セットを、先に2セット先取した方が勝ち。だから、最大3セット行うってことだ。

「……で、なして俺が元ガイにならなあかんねん」

「あーん?強いヤツが内野と外野で1人ずつってのは、常識だろうが」

「なら、跡部が元ガイになればえぇやん!俺には、内野でちゃんを守るという使命が……!」

「心配するな。は俺様が守ってやるから、貴様は1人外野で、敵を当てまくればいい」

「俺の完璧な計画が……っ……」

「……ゆ、侑士……じゃ、次の試合は誰かに代わってもらうとか……!外野でも、十分侑士は強いと思うけど。早く終わらせるために、頑張って!?」

ちゃん……そやな、さっさと試合終わらせて、次の試合は……!ちゃん、次は、俺がちゃんと守ってやるからなー!」

侑士がやたらと張り切って、元ガイへ行く。
景吾がはぁ、とため息をついた。

「……ったく、あの馬鹿は。……、行ってくる」

ぽん、と1回私の頭を撫でると、景吾がセンターサークルへと歩いて行く。

試合開始は、ジャンプボールから。ジャンパーは、満場一致で景吾さんに決まったんだよね。

審判の係の子が、高くボールを上げる。

景吾が、ジャンプをして―――。

「って、飛びすぎ!」

思わず突っ込んでしまうほど、景吾さんはありえないほど高く飛んでくださり、私たちのボールになる。
悠々と戻ってくる景吾さん。

ボールを持った、バスケ部の男子が中々強い球を投げた。
だけど、当たることなく外野までそのボールは行って―――侑士の手に収まる。

「F・A・S……」

小さく侑士が呟いて、これまたありえないほどの速さでボールを投げる。
ドゴッと、あまり擬音的にはよろしくない音が鳴り響き、がっくんのクラスの男の子が地面に倒れた。…………倒れた?

「えっ……ちょっと、侑士のあの投球、怪我人出すんじゃ……!」

「あぁん?……たまには、忍足も使えんじゃねぇか」

「たまにはってなんやねん、跡部」

球の勢いで手元に戻ってきたので、侑士がもう1度投げる。
がっくんがいる方向だった。がっくんは持ち前のジャンプでなんとかそれを避ける。

「あっぶねー!侑士、狙うんじゃねぇよ!」

ストン、と地面に降りたがっくんが、侑士に向かって怒鳴る。

「あぁ、岳人やったか。すまんすまん。別に、いっつもちゃんに抱きついとってえぇなぁ、とか、その日ごろの行いをわからせてやろうか、とかは思てへんで」

「言ってるじゃねぇか!……っと、あぶねっ」

がっくんがひょいっひょいっと避けているうちに、敵にボールを取られた。

「まずは、確実に女子狙いだろ」

敵がそんなことを呟くのが聞こえた。
げ。……でも、確かに勝とうと思ったら、先に女子だけ当てて、人数減らした方が頭のいい戦い方かもしれない。

パチ、とボールを持ってる男子と目が合った。
やっば……慌てて目を逸らす。

「……的もでかいし、アイツにするか」

ギャー!的がでかいって、確実に私のことだよね!?
すみませんね、普通の女の子より的がデカくて……!

って、イヤ―――!に、逃げようっと!

振りかぶる男子。目線は確実に私狙い……!

「馬鹿っ、やめろ!は狙うなっ!」

がっくんの声が聞こえたけど、もう遅いよー!(泣)
ひゅっと音を立ててボールが飛んでくる。
わわわ、としゃがんで、第1球目を避けた。

!」

「だ、大丈夫、わぁっ」

景吾の声に答えながら、2球目も避けて、後ろに下がった。
よ、よかった……運動しててよかった……!無駄なところで役に立った……!

3球目は、がっくんがボールを持っていたので、違う女子を狙ってくれた。その子はがっくんに当てられて、外野に行ってしまった。
当たった代わりに、私たちのコートにボールが落ちる。

それを、景吾が拾い、ゆっくりとセンターラインまで近づいて行く。
がっくんの顔が引きつった。

「あ、跡部…………」

「……岳人、クラスメイトの指導が行き届いてねぇようだな……?」

「えっ……俺のせいなのか!?」

「あーん?……を狙うなんて、いい度胸してんじゃねぇか。…………忍足」

「堪忍な、岳人。……ちゃん狙う不届き者は、俺が成敗したる」

「……う、うわぁぁぁぁ〜〜〜!!」

………………景吾と侑士の2人で、ものの見事に全滅をしてみせた第1セット。
第2セットも2人が当てまくり、戦意喪失気味のがっくんたち相手に、勝利を収めた。

よ、よくわかんないけど、ごめんね、がっくん……!




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