「来週の金曜は、球技大会だ。これから、出場競技を決める」

黒板の前に立っている景吾。
景吾は生徒会長兼クラス委員だから、こういう行事を取りまとめる位置にいる。
私は、副会長になったものの、クラス委員ではないので、いつもどおり席に座っていた。

「侑士、球技大会ってどんな感じなの?」

私は、隣の席の侑士に話しかけた。
侑士は、片肘を机につきながら、こっちを向いて、小さく笑った。

「あぁ、ちゃんは初めての球技大会やな……中々、白熱するで。各競技、優勝クラスには賞品出るねん」

「賞品?」

「競技によって、マチマチなんやけど……去年、俺らがサッカーで優勝したときは、学食の食券やったで」

「ホント!?うわ、ワクワクしてきた!」

元々スポーツ部。運動系のことは大好きな上に、賞品がかかってると聞けば、黙ってられない!
学食の食券……まだ1度も学食使ったことないから、これを機に行ってみるのもいいかもしれないし!

「例年通り競技種目は、男子がバスケ、バレー、テニス、サッカーの4つ。女子は、バスケ、バレー、テニスの3つだ。それに、男女混合の、ドッチボールがある」

景吾が、カツカツ、と黒板に文字を書きながら説明を始めた。
氷帝学園は、女子の人数が少ない。だから、競技が少ないのだろう。
…………でも、男女混合のドッチボールか。男子のボールとか受けるんでしょ?ドッチボールは嫌いじゃないけど、男子のボール受けるとなると別だなぁ……痛いのはやだし(汗)

ちゃん、何に出るん?」

「んー……マネージャーといえど、テニス部はテニス出れないから……結局は、バレーかバスケかなぁ……。侑士は?」

「俺は去年と同じで、サッカーにしよかと。確実に優勝狙いで」

「うん、頑張れ!……うーん、さて、私はどうしようかなぁ」

バレーとバスケどっちでもいいんだけど……うーん、悩む。

「5分時間をやる。何に出たいか考えろ」

景吾がそう言って、教壇から降りた。途端に、みんながざわつき始める。仲のいい子同士、何に出るか話し合ってるみたいだ。



教壇から景吾が1度席に戻ってきた。
ガタガタと椅子を反転させて、私の方を向く。

「ん?なに?」

景吾が、出場競技を書き込む紙を取り出す。
それを私の机に置きながら、衝撃的な一言を口にした。

「お前、ドッチな」

「……………………………………は?」

私の言葉を聞く前に、景吾はその紙に、サラサラと名前を書き込んでいる。

「男女混合のドッチは、女子が強くねぇと勝てねぇからな。お前、運動神経いいし、ドッチに出ろ」

「えぇぇぇぇ!?やだよっ!男子のボールとか受けなきゃいけないんでしょ!?」

「大丈夫だ、俺も出るからな。いざとなったら俺様が守る」

「な……!」

な、なんでこう言うことをサラリと言うかな、この人は……!
あぁぁ、顔が赤くなる……!

「なんやねん、ちゃんがドッチ出るなら、俺もそれに出るわ。跡部だけにいい格好はさせん」

侑士が隣から会話に加わってきた。
景吾がピク、と眉を動かして、低い声で呟いた。

「…………貴様はサッカーに出て、確実に優勝狙えばいいだろうが」

「跡部こそ、去年はバスケで優勝しとったやん。遠慮せんと、バスケで優勝狙っていきや」

「ハッ……1度頂点極めたモンに興味はねぇな。……、ちなみに各競技の中では、ドッチの優勝賞品が1番いいぜ?」

「……え?」

1番賞品がいいと聞いて、どうしてこう反応してしまうのか……!あぁぁ、庶民感覚がうずく……!

「優勝チームのドッチ参加者全員に、箱根1泊旅行券。副賞として、学食の食券が3日分」

「えぇぇぇぇ!?そ、それホント!?」

「嘘言ってどうするんだよ。……ま、球技大会の運営は、運動活動委員に委託してあるから、お前が知らないのも無理ねぇか」

箱根に1泊旅行……!学食の食券……!
どこまで豪華なんだ、氷帝学園……!!

「ま、旅行なんざいつでも連れてってやるが……中々、おもしれぇだろ?どうだ?ドッチ、出るか?」

私の頭の中で、『男子のボールに当たって痛い』と言うのと『箱根1泊旅行&学食』が天秤に掛けられた。
……ピーン、と針が傾いたのは。

「出る……!」

圧倒的に、箱根1泊旅行だった。
…………だって、旅行行きたいし……!温泉つかってのんびりしたいよ……!

クッ……と景吾が楽しそうに笑う。

「よし。…………と、そろそろ5分か……」

景吾は立ち上がって、もう1度教壇へ向かった。

「各自、出場したい競技は決まったか?出たいヤツに、手を挙げろ。まず、男子バスケ」

パラパラと手が挙がる。クラスは持ち上がりだから、基本的に出る競技は去年と変わらないのだろう。わりとアッサリ決まっていく。

「次、男女混合ドッチ」

私はここで手を挙げた。
隣の侑士も手を挙げている。

「侑士も、結局ドッチにするんだ〜」

「当たり前や。俺がちゃんを守らなくて、誰が守るねん。ちゃん、俺が全力をかけて守ったるからな……そんでちゃんは俺の魅力に気付いて……」

「忍足!テメェ1人でゲートボールでもやるか、あぁん?」

景吾が小さなチョークをビシッと侑士に投げつけた。
侑士は、それを軽く避けて、話を続ける。

ちゃん、頑張ろうな」

「う、うん……」

結局私たち3人は、男女混合ドッチに出場が決定。
………………はてさて。どうなるやら、球技大会。




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