合宿がようやく終わって家に帰ったら。

「…………えぇぇぇぇぇ!?」

クマやイルカやウサギやワンコやネコが待っていました。






バスの中で、いつの間にか寝てしまった私。景吾に起こされたら、すでにバスは跡部家の敷地内に入っていた(みんなは降車済みだった)……跡部家の敷地はそうとう大きいから、マイクロバスが入っちゃうんだな、これが。どんだけでかいかなんて、今更言う必要もないだろうけどね……(遠い目)

疲労と寝ていたことで、半分ぼやーっとしながら、玄関に入ると、宮田さんたちが待っていてくれた。
『ただいま〜』と挨拶をして、景吾と2人で2階に上がる。私たちのバッグは、いつの間にやらお屋敷の誰かが持って行ってくれたので、すでに手ぶらだった。荷物はないが、それでも疲れで重い体をなんとか引きずって、ドアノブに手をかける。景吾も同じように、隣の部屋のドアノブに手をかけるのが、視界の端で見えた。

「シャワー浴びたら、お前の部屋行く」

「…………おーけぃ」

私の部屋に来るってー……なにしにー……あー、ダメだ、疲れて思考能力もあまりない。もういいや、と半分諦めてドアノブをくいっと回して部屋に入れば。

こちらを見つめる、つぶらな瞳が数十個。


………………24の瞳(いや、それよりも明らかに多い)…………?


「って…………えぇぇぇぇっ!?」

疲れも眠気も一気にどこかへ吹っ飛び、代わりに驚きがこんにちは
部屋を間違えたのかと思えば、そんなはずはない。大きなぬいぐるみたちに囲まれてはいるが、ベッドサイドのテーブルにのっているテディベアは、間違いなくホワイトデーに景吾に貰ったものだ。

「えっ、ちょっ……えぇぇぇぇっ!?」

人間、驚きすぎると言葉が出なくなるのよね……(ホロリ)

ここ数ヶ月で、何度こんな体験をしたことか……今更ながら、私って元の世界では平穏な生活をしていたんだな、と思う。

それでもって……

ここ数ヶ月で、こんなサプライズを起こすのは、大抵が、隣の部屋にいる人間の仕業だということもわかってきていた。

ぐるっと振り返って、部屋を飛び出る。
と、どうやら私の叫び声を聞いた景吾も、部屋から出て来てくれたらしい。

!?どうした!?」

バタバタと駆け寄ってきてくれる(隣の部屋って言っても少し距離がある)景吾の服を、思わず、ぐわっと掴んだ。

「け、けけけ、景吾さん!これは一体全体、どういうことなんでしょうか!?」

ビシッ、と私の部屋を指差して、おろおろしていたら、景吾が訝しげな顔をする。

「あーん?」

服を掴んだままの私の肩に手を添えて、軽く抱き寄せてくれた。
そのままゆっくりと私の部屋に歩いていく。

私は、部屋の中のラブリーでつぶらな瞳の彼らを、再度ビシリと指差した。

「あれ!あれ、一体ナニ!?景吾、あれに覚えある!?」

「…………あぁ、そういえば。忘れてたな……」

「やっぱり景吾か―――!!!しかも、忘れてたって、どういうことよ―――!(大絶叫)」

原因を作ったのはやっぱり景吾さんでした。
…………この人はもう、一体、何度人の心臓をひっくり返してタコ殴りにするくらいの衝撃を与えれば気がすむのだろうか……!
生物の心臓は3億回鼓動したら寿命だって言うけど、確実に私、死期を早めてる気がするよ……!ここ数ヶ月のドキドキ度が半端ないもの……!

しかも、忘れてたって……!あなた、いっつも無駄に記憶力よろしいじゃありませんか!
どうして、こういう肝心っていうか、すごいことを忘れられるの―――!(泣)

「これ、ナニ!なんでこんなラブリーでつぶらな子たちが、私の部屋にたくさんいらっしゃるの!?」

テンパっていたら、景吾がずかずかと私の手を引いて部屋の中へ強制突入。
椅子に座らせられて、ぽいっと手近にあったイルカさんを投げられた。

ラブリーなイルカさんを受け止め、思わずぎゅっと抱きしめてふかふか感を味わってしまったが、すぐに事態を思い出して景吾を見る。

「せ、説明プリーズ!」

景吾が椅子を引き寄せて、近くに陣取る。
小さなサメのぬいぐるみを手にとってしげしげと珍しそうに眺めた。

「お前の部屋に、物が少ねぇな、と思って前から頼んであったんだよ。合宿中に宮田が運び込んでくれてたみてぇだな」

「物が少ないって!景吾さんに買ってもらった服とかバッグとかい〜〜〜っぱいあるんですけど!」

「だが、こーゆーもんはねぇだろ?…………で?嬉しくねぇのかよ?」

「いやっ、嬉しいけどっ!こんな可愛いぬいぐるみいっぱいで、ホント嬉しいけど……で、でも……」

何事にも、限度ってものが…………あぁ。



この人に限度って言葉はないんだった…………(遠い目)



「でも、なんだよ?」

「…………なんでもない…………」

はぁ、と小さく息を吐いて、不思議そうな顔をしている景吾を見る。
…………本当にこの人には驚かされてばかりだ。
この先もきっと驚かされ続けるんだろうな……。

抱きしめていたイルカさんを、改めて見直す。
つぶらなお目目が超ラブリーで、中の素材が柔らかいのか、思うままに形を変える。……ぶっちゃけ、ものすごく可愛い。本当に可愛い。

周りを見回せば、たくさんのつぶらなお目目の持ち主がいる。
…………いや、やっぱりたくさんすぎないか?(汗)

本当にこんなにいいのかな(いや、昨今のぬいぐるみって高いのよ!?しかも、景吾が買うんだから、1つ1つがかなりのお値段に違いない……!)……と思って、ちら、と景吾を見れば、私の意識を見透かしたように、余裕そうな笑いを返された。
もう1度あのぬいぐるみたちに目をやって―――その可愛さに、心の白旗を揚げた。

「………………ありがとう」

ぎゅっ、とイルカさんを抱きしめて、景吾に言えば。
にやり、といつもの微笑み。

しかし、ふと表情を引き締めて、近づいてきた。

「……それで、この場合抱きしめるのは、これじゃなくて、こっちだろ?」

言い終わる前に、景吾の方が抱きしめてくる。
もちろん、イルカさんは景吾の神業的な手さばきによって、素早くテーブルの上へその身を移されておられた。
イルカさんを抱きしめていたマイハンドは、いつの間にか景吾さんの背中に回され……って、あぁぁぁ、実況中継してる場合じゃないぃぃぃ(汗)

「け、景吾さぁぁん…………!」

「…………」

ばっちりシカトの方向です。
……景吾さんはさー、練習後に香水をぱぱっと吹きかけてらっしゃるから、ふんわりイイ匂いするけど、私、汗臭いんですが……っ!

「…………ようやく、家に帰ってきたって感じだな……」

ぽつりと景吾が呟いた。耳元で(汗)
さっきから鼓動の速さが加速するばかりの私の心臓は、いつ限界を迎えてもおかしくないです。

ぐぐぐ、と手を伸ばして、手探りでその辺にあるぬいぐるみを引き寄せ、景吾の顔に押し付けた。

「け・い・ご・さぁ〜ん!お願いだから、早く、シャワー、浴びさせて……!私、ものっすごい汗臭いから……!」

ぬいぐるみ(クマさんでした)とちゅーをなさることになった景吾さんは、べりっとぬいぐるみを剥ぎ取ると、1つため息をついた。

「……わかった。また後で来る」

「(後で来るのか)…………了解」

立ち上がって景吾がドアに向かって歩いていく。
私は景吾と今さっきまでちゅーなさっていたくまさんを撫で撫でしながら、元の位置に戻そうと手を伸ばした。

いつもの部屋。

自分の部屋。

シャワーに行く前に、ドサッとベッドに腰を落ち着けた。

…………いつの間にか『我が家』になってるこの部屋は。

やっぱりどこよりも、1番落ち着いた。




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