ダッシュでジュースを買って帰れば、コートから離れたところで、なにやらがっくんが正座をさせられていた。 それを取り囲むみんな。 ………それ、典型的なイジメの光景だから……! 「ちょ、ちょちょちょ、ちょっとみんな!」 止めようと声をかければ、ニッコリ笑顔の侑士が振り返った。 「あぁ、ちゃん、ちょお待っててなvv」 「心配するな、。すぐに終わる。…………で、岳人?もう1度三か条言ってみろ」 「…………触れない、甘えない、抱きつかない……!(泣)」 小さい声で何を言っているのかはわからなかったけど。 …………近寄って聞き取る勇気はなかった。 Act.63 カウントダウンは、萌えと絶叫 私が自販機に行っている間になにがあったのかはわからないけど。 がっくんがとりあえず、ものすごい憔悴していた……あぁ、心なしかさらさらみそカットも、ツヤがなくなってる気がする……!か、かわいそうに……真っ黒族の攻撃はさぞ辛かったでしょうね……!(特に景吾は実証済み、チョタは……考えたくもない) 「さん、すみません。重かったですよね!(爽)」 あまりの恐ろしさに呆然としていたら、笑顔のチョタが近寄ってきた。 ついさっきまで黒い笑みだったのに、今は爽やかな大型犬の笑顔。……この子は一体どんな生活を送ってきたのかしら……!どうしたら、こんなに変わり身が早くなるの……!? 「そ、そんなことないよ!(汗)あ、ハイ、チョタ!ポカリ!」 「あぁ、ありがとうございます」 「侑士、景吾も。あ、樺地くんと滝くんのもちゃんとあるからね。…………そ、それからがっくん……」 がっくんの手に、そっとポカリを握らせた。 「げ、元気出して……?」 「うぅぅ……〜〜〜!!俺、俺……やっぱり……「「「岳人(向日さん)??」」」 何かを言いかけたがっくんを遮って、景吾と侑士、そしてチョタがハモった。 あまりの威圧に、がっくんは再び黙り込んでしまう。 ―――後日談になるけど、それからしばらく、私はがっくんに抱きつかれなかった。 1週間後、たまたま真っ黒族(景吾・侑士・チョタ)がいなかった部室で抱きつかれるまでは、ね。なんだかその時は『やっぱり、俺、無理だ……!俺、もっと強くなる……!』とか言ってた。でもその意味を考えるよりも、シクシク泣きながら抱きつくがっくんが可愛くて仕方がなかった!←バカ――― まぁ、色々とゴタゴタがあったけど、なんとか一段落?したので、コート付近へ戻ったら。 さっきまでは空いていたコートを、他の人が使っていた。 「あー……人来ちゃったかー……せっかくもう1プレイと思ってたのになー……」 「ま、下手なヤツだったらどかせばえぇやん?」 「バーカ、ここに来るヤツよか、俺様たちの方が強いに……あーん?アイツは確か……」 景吾が目を凝らしてプレイヤーを見ている。 私は特にプレイヤーを見もしないで、ドリンクを飲んでいたんだけど―――よく見れば。 「あっ!」 桃ちゃんと…… いい男が飽和状態のこの世界の中で、紅1点(イヤ、桜乃もいるけど)の橘杏! うわ、うわ……ホンモノ……うわー、超可愛い!ちっさい!スカート短い! っていうか、そんな……あなた、セーラー服でテニスしたら、色んなトコが見えちゃうよ!(親父) あぁぁ、ほら、言ってる側からお腹がチラチラチラチラッ!うわ、お腹白……ッ!(変態) 「跡部、知り合いか?」 「青学レギュラー、桃城だ」 「女の子の方は、不動峰の橘部長の妹さんだよ。杏ちゃんっていうんだよ!可愛いよね〜!」 「…………お前、なんでそんなに力入ってんだよ」 「えっ?いや……(ちょっと会えた興奮で声が大きくなってしまった)」 まさか心の声を言うことも出来ないので、もごもごと口を動かしていると、なぜだか景吾がニヤリと笑った。 「安心しろ。……お前以外の女なんてどうでもいい、俺様の目はお前以外に向けられねぇよ。……1番可愛いのはお前だ」 ……………… ………………………………ぐはっ(吐血) な、ななななななにを言うのよ、この人は! どうしてこういう恥ずかしいセリフを臆面もなく言ってくださっちゃうのよ! 「え、ちょ、け、景吾さ……」 「あーん?わざとアイツを強調して紹介して、俺様の気持ち、試そうとしてたんじゃねぇのか?……なかなか、可愛いコト、考えるじゃねぇか」 違―――っ! …………まぁ、でっかい上に平々凡々な私より、ちっちゃくて可愛い杏ちゃんの方が、景吾のタイプなのかなー、って気持ちがなかったわけじゃないけど……(恥) ニヤ、と笑った景吾の顔が憎い……!あぁもう、何なのよー……! 「はいはい、そこら辺で終了してくださいね?(ニッコリ)」 チョタの笑顔で、場面が凍りついた。 …………ま、恥ずかしさが吹っ飛んでくれたのは、喜ぶべきなのか……。 シーンと固まってたら。 「あっ!先輩じゃないッスか!ちわッス!」 コートの中からかかる声。 もちろんそれは、今までコート内でテニスをしていた人間、青学レギュラー桃城武だ。 「桃ちゃん〜。こんにちは!」 「なんでココにいるんで……あぁ……どーも」 ペコ、と桃ちゃんが景吾たちに向けて頭を下げる。 杏ちゃんは最初、嫌そうな目つきで景吾を見ていたけど……ふと私を見て、不思議そうな目を向けてきた。 「え、えと……こんにちは。氷帝学園3年の、です」 「あっ……あなたがさん……不動峰中2年の橘杏です」 「はじめまして〜(本当は一方的に知ってたけど) 不動峰中の部長、橘くんの妹さんだよね?」 「あ、はい!」 「都大会のときはお世話になりました〜」 「あの時はまんまとやられたぜ。……だが、関東大会へは、全員正レギュラーで臨ませてもらう。…………二度とあんな間違いはない」 「景吾ってば、またケンカ売るような……ごめんね、杏ちゃん」 いえ、と杏ちゃんが頭を振って、ニッコリ微笑んでくれた。 わぉっ……か、可愛らしい女の子の笑顔……!ここのところ、ほとんど男子と一緒にすごしてるから、なんて新鮮で愛らしい……!(バカ) 「さんと会えてよかった。ずっと、どんな人かな、って思ってたの。兄や神尾くんからも話を聞いていたし」 「そ、そそそそう!?っていうか、私こそ杏ちゃんと会えてよかったよ!いや、もう、ホントに!どうぞこれからよろしくね!?(ハイテンション)」 「ハイ、こちらこそよろしくお願いします」 「おいおい、ずるいぜ、橘妹。俺も先輩と話したいってーの」 ずい、と桃ちゃんが杏ちゃんの頭を押しのけながら前に出てくる。 あぁぁ、私も杏ちゃんの髪の毛触りたい……!(違) 「先輩、あの時はテーピングありがとうございました!おかげさんで、今は特に意識することもなくプレイ出来てるッス!……ほらっ」 桃ちゃんが、ぴょこん、ぴょこん、と飛んで、ものすごい破壊音を立てて、ダンクスマッシュをして見せてくれる。 …………こわー……っ! この前よりも、数段ダンクスマッシュの威力増してない……!? ニコニコ笑ってくる桃ちゃんに、乾いた笑いを返していたら、後ろの方にいた侑士が出てきた。 「…………おい跡部、コイツ、ホンマに青学レギュラーなん?大したことなさそーやん」 「あ?……上等じゃねーか、コート入れよ。勝ったら先輩貰うぞ、コラ」 「アホ。ちゃんは俺らのもんや」 「っていうか、俺たちダブルス専門だし。お前、その娘とでも組んでやる?」 今度はがっくんがぴょいっと現れた。 どうやら、さっきのショックからは復活してるみたいだ。……無理やりテンション上げてるような気もするけど……。 「あ、ほなら俺はちゃんと組んでやるで〜。岳人となんか組み飽きとるわ」 侑士がニッコリ笑顔を向けてきたんだけど、その瞬間に景吾がまたガスッと蹴りを入れていた。……景吾さん、足クセ悪い……! 「ふざけんな。こんなくだらねぇことにを引き合いに出すな。やるならテメェらで勝手にやれ」 言い放つと、私の手を引っ張ってきた。 コートの中から、桃ちゃんが大声を張り上げる。 「跡部さん、なんならアンタでもいーッスよ?」 「あーん?……生意気な口聞くじゃねーの」 なんだか剣呑な雰囲気になってきた…………? ど、どうしよう……! 「え、えーっと…………」 …………………だ、だめだ!今日は話題変換使いすぎちゃって、もうネタ切れだ! あぁぁぁ、どうすればいいですか、どうすればいいですかー!(滝汗) 「ねぇ」 そんなときに聞こえる、まだ成長しきってない、男の子の声。 階段を一段一段上ってくるその子は、声どころか、身長もまだまだ成長しきっていない。 ようやく見えてきたのは――― 「サボりッスか、桃先輩?」 「越前っ!?」 うぎゃ―――!!!!!(大絶叫) あぁぁ、以前骨抜きにされてしまうところだった、青学チビーズ可愛い子ちゃん代表、越前リョーマ―――! いや―――!可愛い―――!可愛さならがっくんも負けてないけど、でも違うタイプの可愛さー!!!(壊) 「……お前が例の、青学1年レギュラーか」 「どっかで会ったことあったっけ?……あぁ、そっちのデッカイ人は、前に会ったことあるよね……さん、だっけ?」 「お、覚えててくれてありがとう、越前くんっ!」 覚え方が酷いとか、そーゆーのはもう、どうでもいいよ!か、感激でお姉さん、前が見えない……! ……って、あぁ、ダメよダメ!こんなところで青学チビーズに骨抜きにされるわけには……! 「へぇ……なんなら、お前ら2人、まとめて面倒見てやるぜ?は俺らのもんだ!」 あぁ……氷帝チビーズ、愛しのがっくんがいた……! この子がいる限り、私、まだ大丈夫……!(何がというツッコミはなしで) 「……なんスか、桃先輩。なんの話、してんスか?」 「いや、試合で勝ったら、先輩、青学に貰おうかなー、と」 What!? また、この人たちは、人のことを犬の子みたいに……!前にもあったよね、こんな会話!あの時は、魔王様だったけど! っていうかね、私なんか貰っても、高いところの物を取るのに役に立つくらいだよ!?だから、そんな引き合いに出されるようなものでは……!(滝汗) 「へぇ……それ、なかなかいいッスね」 「ちょ、ちょっと………!」 「はやらねぇっての!」 「……しゃーないなぁ……岳人、言ってわからんやつは、身を持ってわからせてやるしかないよな?」 侑士が言うと、エロい方面に聞こえるからやめてください(懇願) 「やっと侑士やる気になったのかよ。……ほら、1年。さっさと準備しろよ。相手してやるぜ」 がっくんの言葉に、すぅ、と桃ちゃんとリョーマが息を吸うのが見えた。 そしてその後、 「「やだね」」 …………綺麗にハモった。 「先輩は欲しいけど、越前とダブルスなんて、冗談じゃねぇぜ!だったら、2人相手にシングルスの方がマシ!」 「よく言うよ!俺こそ、桃先輩がいるより、1人で相手した方がマシだね」 「うるせー!お前、先輩に向かって……とにかく!コイツとだけは組みたくねぇな、組みたくねぇよ!」 「俺の方こそ願い下げッスよ!…………それよりさぁ」 ―――リョーマの声に、ピン、と場の空気が張り詰めた。 ザッ、とリョーマが足先を景吾に向け、歩き出す。 まっすぐな視線。 「……そこのサル山の大将、シングルス、やろーよ」 中学1年生とは思えないオーラに、飲み込まれそうだった。 思わず、ゴクリ、と喉を鳴らして唾を嚥下する。 「俺がシングルスで勝ったら、さん貰う。1番わかりやすくない?」 「…………あせるなよ!」 「逃げるの?だったら、さん、貰っちゃうけど?」 「バーカ。…………関東大会で、直々に倒してやるよ。青学、お前ら全員、完膚なきまでにな。もちろんは渡さねぇ」 …………あのー……なんか、方向間違ってません……? ものすごく突っ込みたかったけど、この睨み合いに横槍を入れられるわけもなく。 じっと時がすぎるのを待つだけ。 「……今日はこの辺にしておいてやるぜ」 沈黙を破ったのは景吾。 その声を受けて、リョーマが少し、肩をすくめた。 「フン……行くぞ、」 「え?あ、う、うん……!えーっと、じゃ、みんな、またね!」 強引に手を引っ張っていく景吾に連れられながら、コート上にいる桃ちゃん、リョーマ、杏ちゃんに手を振る。……と、またぐいっと景吾に手を引っ張られた。 これがきっと、始まりだった。 関東大会への、序章だった。 NEXT |