私は最高にご機嫌だった。

ストテニ場について、景吾とちょっと打ち合って。
いい汗をかいて少し休憩。

普段、自分では滅多に動かない景吾が、わざわざスポーツドリンクを買いに行ってくれた。
そんな気遣いが嬉しい、心の中があったかい放課後。

ブー……ブー……。

ぼんやりと景吾が立ち去っていった方向を見ていたら、カバンの中の携帯がバイブ音を出していた。
汗を拭いていたタオルを放りだして、急いで携帯を取り出す。
相手を確認して、ほっと息をついてから、通話ボタンを押した。

「はいはーい、侑士〜?」







「………………なんでお前らがここにいるんだ!?」

俺は最高に不機嫌だった。

軽い打ち合いをして、目に見えて成長したの技術に満足していた。ミスも格段に減り、ラリーも途切れることなく続く。は、元々筋力があるから、平部員の男子と同等かそれ以上の強い球も打てる。だから、下手に平部員たちや準レギュと打ち合うよりは、と打ち合っていた方が断然面白い。
少しばかり休憩に入って、俺様が直々にのために、スポーツドリンクを買いに行った―――それまではよかった。

それまでは、最高に機嫌が良かった。

だが。

スポーツドリンクを買って戻り、ドリンクを飲みがてら、もう間近に迫った抽選会のことや、関東大会のことを話していたら―――

「あ、おったおった〜!ちゃ〜ん、来たで〜」

俺様が大嫌いな丸眼鏡を光らせて、見たくもないヤツが現れた。
しかも、大量にゾロゾロと人を引き連れて。

「すっげー!ストリートテニス場って、結構設備整ってるんだな〜!」

「へぇ……なかなかやるねー……ナイター設備もあるみたいだよ」

「じゃあ、部活終わった後でも来れますね……あ、さ〜ん!」

忍足の後ろに、向日、滝、鳳、そして樺地がいた。

俺は、飲んでいたスポーツドリンクをに渡して、一目散に忍足に詰め寄る。
何もやってない、という風に両手を挙げる忍足がとことん憎たらしい。

可愛さなくて、憎さ万倍だぜ……!

「おい、忍足……一応聞いておく」

「珍しいなぁ、跡部くんが俺になんや聞くなんて〜」

「〜〜〜〜〜!!!」

グイッ、とそっぽを向く忍足の襟首を、強引に引き寄せた。

「…………な・ん・で、お前らがここにいるんだ!?」

「数学のノートまとめたから、ちゃんに渡したろ思て電話したら、ストテニ場におるって言ーやんか。ちょうど俺も暇やし?足(鳳の車)もあったし?届けに行ったってもえーかなー、思てvv」

「よくねぇよ、眼鏡!大体、数学のノートなんて、明日でも事足りることだろうが!んなこと言って、邪魔しようとしてんのが見え見えなんだよ、あぁん!?」

「ふっ……わかっとらんなぁ、跡部……さっき、勝負できへんかったから、わざわざしにきてやったんやんかァ?ほな、ちゃん賭けて、勝負や、跡部!」

「……望むところだ、オラ、コート出やがれ!今日という今日は、叩きのめしてやるぜ、伊達眼鏡!」

「伊達眼鏡バカにすんのも、えーかげんにせぇよ!自分こそなんやねん、そのホクロ!つけボクロなんて、今時流行らへんで!?」

「このホクロは自前だバカヤロウ!知り合いの眼科、紹介してやろうか、あーん!?」

「心配せんでも、親父の病院に眼科くらいあるわ、アホ!」

〜〜〜コイツの顔見てるだけで、本気でイラつく。
今日という今日こそは、本気で叩きのめす……!






2人のあまりの剣幕に呆然としながら、私は完全に傍観者になってしまった。
…………なんだったんだろう、今の子供っぽいケンカは。
とても珍しいものを見た気がする。

そして今も、プンプン怒りながら、2人でテニスをやっている。

「テメェ、そんな球も取れねぇで、関東大会出る気か!?」

「うっさいわアホ!あのくらいの球、いくらでも取ったるわ!」

「なら取ってみろよ、バーカ。いくぜ、オラ!」

「甘いっちゅーねん!……ほーら、アウトやで〜」

「あぁん!?テメェ、いい加減目ェイカれてんじゃねぇのか!?今のどこがアウトだよ、ライン上じゃねぇか!」

……なんだか、こーゆー光景を見てると、普段は中学生にあるまじき色気たっぷりな2人(景吾と侑士のことね)も、ちゃんと中学生なんだー、と思っておねーさんは安心しますよ。

「……アイツら、いつの間にか論点ズレてんじゃねぇ?……なぁ、ー、後で俺らも打ち合おうぜ♪見てたらやりたくなってきた!」

「あっ、向日さんズルイですよ〜。さん、俺とも一緒に打ちましょう!」

「ん、じゃ、2人が終わったらやろう〜。あ、でも人来ちゃったら、ダブルスじゃなきゃダメだねぇ〜。今はまだ人いないから、シングルスで出来てるけど」

「…………でもこの試合(争い)、いつ終わるかわかんないよね」

滝くんのツッコミに、誰も言葉を返せなかった。
長い沈黙に耐え切れず、私は慌てて話題変換。

「……にしても、よくみんなここまで来たね!?」

このストリートテニス場、ものすごく遠いわけじゃないけど、そう近いわけでもない。電車乗って来なきゃいけないしね。

「鳳の車で来たから、結構近かったぞ」

え、チョタ?
くる、とチョタの方へ振り向けば、なんだか微妙な笑顔。

「忍足さんに泣きつかれたんですよ……俺が帰ろうとしたら『鳳!ちょお足になれ!』って来て……」

「え、侑士が?」

「えぇ。……しかも忍足さん、宍戸さん連れてきたんですよ?だったら……断れるわけないじゃないですか……」

「…………さすが侑士、頭が回る……ってあれ?じゃあ亮はどして来なかったの?いつもなら、いの一番に『自主練だぜ!』とか言って来そうなのに」

「宍戸さんは、芥川さんと一緒に補習らしいです。……というか、芥川さんを連れてくように、先生に言われたみたいで……同じクラスですから。来れなくて残念そうでしたよ」

「…………なるほど。そか、ジロちゃん補習か……テスト前だもんね」

「なぁなぁ、!俺、補習まぬがれたんだぞ!40点以下は補習だったんだけど、俺、42点だった!へっへ〜、偉い?俺、偉い?」

「……うんうん、がっくん、頑張ったねぇ〜vv偉い偉い〜♪」

42点で自慢しちゃうところが、もうたまらなく可愛いよ……!(鼻血寸前)

ぐりぐりとかわいらしいオカッパ頭を撫でてあげた。
あぁもう、なんでこの子はこんなに可愛いの……!?もうこの子は一生この可愛さのまま生きて……!そして、私を常に天国に導いて(ドキッパリ)
さらっさらなみそカットの頭を撫でて、ご満悦状態だったら。

ドシュッ、ドシュッと音が鳴って、がっくんの足元にボールが飛んで来た(つまり、私のすぐ側にボールが飛んで来た)

「「…………岳人?」」

…………2人とも、息がピッタリでvv(滝汗)

「えぇ度胸しよるなァ、自分……今日はジローおらへんけど、いっつも思っとったんや……自分ら、ちょおちっさいからって、いい思いしすぎやんなァ?……なぁ、岳人?」

「ゆ、侑士……」

「頭撫でられるなんて、俺様でさえそんな経験、そうねぇってのに……岳人、そろそろキッチリわからせてやろうじゃねぇの?あーん?」

「あ、跡部……うわぁぁぁぁ、ー!!!」

ヒシッと抱きついてきたがっくんを、役得とばかりに撫でるけど……でも……でも、それをしたら、また2人の怒りが増したのは気のせい……?(汗)

「「岳人……?」」

「うわぁぁ、―――!!助けて―――!!!」

「あ、あの、2人とも……」

恐る恐る話しかければ、景吾の不機嫌そうな顔と、侑士のニッコリ笑顔(うさんくさい)が返ってきた。

、ジュース買って来い」「ちゃん、悪いんやけど、ジュース買うて来てくれへん……?」

とっても怖い2人の表情で、今すぐ逃げ出したいんだけども、こんな状態のがっくんを置いていくのもなんなので、迷っていると。
右手にチャリチャリーン、と硬貨の感触。

ふと上を見上げれば。

「…………さん、俺の分もお願いします(黒笑)

………………ぎゃぁぁぁぁぁ、ブラックチョタ光臨〜〜〜〜!!!!

え、笑顔なのに、なんで背後から黒いモヤモヤが出てるの……!?
爽やかニッコリ笑顔も出来るのに、どうしてこう真っ黒な笑顔も発動できるの……!?

その笑顔を見た瞬間、がっくんが真っ白になって動きを止めてしまった。

「……あぁ、向日さん、寝ちゃダメですよ……俺、いっぱい話したいことあるんですよ?……あ、さん、すみませんけど、行ってきてくれますか……?」

「…………い、イエッサー!(半泣き)」

カクカク、と魂の抜けかけたがっくんを1人残すのは不憫だったけど。
3人の攻撃に、白旗以外の何を上げろっていうのよ……!

「…………ご愁傷様」

滝くんの呟きは、がっくんに向けられたのか、それとも私に向けられたものなのか。
それはわからないけど、とにかく私は自販機に向かって走ることにした。

すまーん、がっく―――ん!!!




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