「景吾!聞いたよ、今週の日曜日試合なんだって!?」

家に帰ったとたん、が目を爛々と輝かせて待っていた。

「…………誰に聞いたんだ」

屋敷の者には全員緘口令を強いた。会社のヤツにも、絶対言わないように念を押した。……一体、どこから漏れた?

「散歩してたら、近所のおばさんに『今週の試合、ご主人様に頑張るようにお伝えください』って言われた!……なんのことかわかんなくて、ビックリしたじゃん!なんで言ってくれないのさ〜!」

「……(出元はそこか……)お前、言ったら絶対来るだろうが」

「行く!絶対行く!」

「ダメだ。……お前な、この間あんなことがあったばかりなんだぞ?」

「あれはあれ!一億分の一くらいの確率が、たまたまあの時だったんだよ。……景吾の試合行きたい!結局、あのときだって試合見れなかったし!随分景吾の試合見てないから、見に行きたい〜!」

放っといたら暴れ出しそうになるを、とりあえずソファに座らせる。
いくら安定期に入ったからといっても、はいつ何をするかわかったものじゃない。

ネクタイを緩めながら、頭の中で色々と言いくるめるための言葉を考える。

「……この間は忍足を呼んだが、こんな急に誰かを呼ぶなんて無理だぞ?」

「1人で行く(キッパリ)大丈夫、会場まではちゃんと送ってもらうから」

「…………大体、この間の傷だって」

「ほぼ完治。あ、ちなみにお腹は安定期だから問題ないからね」

「………………」

他に何かコイツを納得させられる言葉はないのか……。
ちらっとの顔を見たら、『何を言われようと行く』とその顔に書かれていた。
……ダメだな、納得なんてさせられねぇ。

「…………チケット、1番前取っておくから、絶対そこから動くなよ」

「…………うん!」

「会場着いたら、絶対メールしろ。終わったら、控え室寄れ」

「うん!」

「絶対無理はするな。少しでも体調悪かったら来るなよ。何があっても走るな、重いもの持つな、絶対転ぶな」

「了解!……やった、じゃあハンスに言って、レモン買ってもらうね!」

「言ってる傍から走るな!」

厨房まで走って行きそうになるを、捕まえて腕の中へ。
…………今度の試合も、さっさと終わらせないといけねぇな。
俺は、を抱きしめながら、大きく息をついた。






ふっふっふ〜……。
私は久しぶりに景吾の試合を見ることが出来ることに、口元を緩めていた。

あの事件の日、本当なら久しぶりに景吾の試合が見れたのに。
…………くそぅ、あの犯人がこんなところでも憎い。

景吾の久しぶりの真剣勝負。
もちろん、大学の引退試合を終えてからも、いつもの仲間とテニスはしてたけど、練習試合と公式戦じゃ、雰囲気が全然違う。
久しぶりに景吾の真剣なプレイが見れるかと思うと、ワクワクする。

「破滅への輪舞曲……ジャックナイフ……ドライブボレーも見たい」

昨夜、景吾にそう呟いておいた。
その後、いつものようにぽん、と頭に手を乗っけてきたから……きっと、今日はやってくれるだろう。

今日の相手は、景吾より10も年上の、ベテラン選手。
私たちが中学生の時からプロをやっていた人だ。
経験では……景吾の方が劣ってる。だけど、それを補って余りある技術と若さで、景吾は戦うだろう。

様、会場につきました」

「あ、ありがとうございます」

考え事をしていたから、会場に着いたのに気がつかなかった。
ドアを開けてもらって、よいしょ、と外に出る。
大分大きくなったお腹に手を当てながら、歩き出す。

適当なところで立ち止まって、携帯を開いた。


To:景吾
Subject:着いたよ

本文
今会場に着きました。これから席に移動するからね。頑張れ!


それだけを打って、会場入り口へ。
景吾が取ってくれたチケットを入り口で切ってもらい、案内を見ながら移動する。
ブブブ、と鞄の中の携帯が音を立てた。


From:景吾
Subject:Re着いたよ

本文
わかった。絶対無理はするな。


何回も何回も同じコトを言ってるのに、やっぱりまた言ってくる景吾。
…………そんなに無理するように見えるか、私。

ぱこん、と携帯を閉じて、私が座るシートと同じ番号が書かれた入り口を発見。
そこから中に入り、自分のナンバーを探す。

完全指定席のS席。
ただでさえよく見えるS席の、1番前の席。
…………本気で1番前の席を取ってくれたのね……。

ゆっくりとその席に腰を下ろす。
周りには、テニス関係者の人が座っていて、私のことを知ってる人も多い。
ペコ、と色々な人に頭を下げた。
…………あ、芝さんもいる。芝さんも私に気づいて、手を振ってきた。
芝さんとは、中学以来ずっと、取材やらなにやらでお世話になっている。

ザワザワと会場が段々騒がしくなる。
開始20分前。

景吾がアップのために出てきた。

「……キャ―――!跡部様〜〜〜!!」

聞きなれた声援だけど、あまりに近くで聞こえたからぎょっとした。
隣の席に座ってる女の子たち……景吾ファンらしい。
景吾のために、高いS席を取ったのか……すばらしいファン精神だ。大事にしなくちゃね、ファンは。

ちらっ、と景吾がこっちを見た。
私がいることを確認したの……かな?

「キャー!跡部様がこっちを見たわ!きっと私を見たのよ!」

「違うわ、私よ私!」

………………もしかして、この子達の声に反応したのではなかろうか(汗)
おぉぉ、自信なくなってきたよ……!

景吾がまた、ちらっとこっちを見た。
……何か反応返した方がいいかな?

とりあえず、小さくヒラヒラと手を振っておく。

ふ、と景吾が一瞬笑った。

「キャー!微笑まれたわ、私のために!」

隣から聞こえた声に、思わずガクッと肩がずり落ちる。
あは、あはは…………。
ちょっとその言葉が面白くて、私まで笑いそうになっちゃったよ……!

……これ、私が景吾の奥さんだってわかったら、問答無用で怒鳴られそう……あぁぁ、怖い!バレないようにしよーっと。

大人しく席に座って、景吾のアップ姿を見る。
……相変わらず、淡々とアップするなぁ、景吾は。
ストレッチしたり、軽いフットワークをやったり。

大して、対戦相手の選手は、結構最初から飛ばしている。汗がもうダラダラ流れてるもん。
……うーん、確かに汗を流すのは大切だけど、そこまで行くと、疲れちゃうんじゃ……。

マイクの放送が入る。

「これより、集英カップ、男子シングルス1回戦を始めます」

パチパチパチ、という拍手の音。

基本的に、テニスの試合で、観客は静かだ。
ポイントが決まったときに拍手をして、時たますごいプレイだったりすると、感嘆の声が漏れる。その程度。
……まかり間違っても『跡部様!』と名指しで応援することはない。うん。

学生時代は、1セットマッチの試合が主だったけど、プロの試合では、5セットマッチ。
先に3セットを先取したほうの勝ち。
1時間以上ゲームが続くのは当たり前。

「二宮 トゥ サーブ!」

相手のサービスゲームらしい。
私は久しぶりのゲームに、ドキドキしながら試合を見つめる。

バンッと音が鳴って、相手のサーブが入る。
うわっ……さすが早い!しかも、コントロールもいいみたいだ。

だけど景吾はそれをなんなくリターン。
しばらくラリーを続けて……。

タンッと景吾が前足で跳んだ。

私は思わず拳を握り締める。

バシッと力強いバックハンドショット。

ジャックナイフだ。

「おぉぉぉお〜!」

歓声が湧いた。

「最初から魅せてくれるなぁ」

会場からは感嘆の声。
隣の女の子たちからは、黄色い声(笑)

「跡部さま〜!キャ〜!カッコイイ〜!」

景吾がコッチを見て、ニヤ、と笑った。
……昨夜の約束、覚えててくれたのね。

そのまま景吾はあっさり1セットを取ってしまった。
1セット中に、3回は破滅への輪舞曲見せてくれたし!あれって、結構屈辱だと思うよ?ラケットを強引に離させられるなんて。ラケットがあってこそのスポーツだからね……。

一旦ベンチへ下がった景吾。
止まった試合に、はぁ、と私は脱力した。

「やっぱり跡部様、カッコいい〜!……キャー!!!」

どんっと隣の女の子が手を振ったのが、私にぶつかった。
恋する女の子は盲目。当たったことには気づいていない。
……まぁ、気にする程度でもないからいいけどさ。

「……大丈夫ですか?」

反対側から聞こえてきた声。
そちらの方へ顔を向けると、同い年くらいの男の人がいた。

「あ、はい。大丈夫です、ありがとうございます」

どうやら、さっき女の子たちがぶつかったのを見ていたらしい。
心配してくれたみたいだ。

「…………あの、不躾な質問かと思いますが」

「?はい?」

「…………元、氷帝学園テニス部マネージャーの方、ですか?」

「え。…………どうして、それを?」

「以前、大会でお目にかかったことが。氷帝学園は有名でしたから。……元山吹中の、東方雅美と言います」

山吹中……キヨのトコだ。
……えーっと、地味ーズの片割れか(オイ)

「あぁ、キヨがいた……えぇ、覚えてますよ。うちとは対戦したことがなかったですけど、強豪でしたもんね。ダブルスにも定評があって……当時の部長さんと組まれてた方ですよね?」

「よくご存知ですね……ありがとうございます。……で、マネージャーさんでそのお腹と言うことは、やはり、跡部さんの……」

「えぇ……一応。……あの、隣に女の子たちがいるので」

具体的なことは、ということを含めて言うと、心得たとばかりに頷いてくれる。
……バレたらやばいしね。うん。

「もう、お加減はよろしいのですか?一時期、相当なニュースになってましたが」

「はい、おかげさまで。……一応、一般人だから顔の公表は控えてもらえたみたいですけど。……そうでなければ、私、何個命があっても足りません……!」

「……ご主人、人気ですからね……学生時代もでしたが。でも、僕達テニス界では、あなたのことも有名ですよ。学生時代から、跡部さんとの仲は知っていましたし、有能なマネージャーさんだと噂でしたから」

「いえ、そんな。…………うーん、でもやっぱり、テニス関係者だと顔は知られてるみたいですね……。えーと、東方さんは、今もテニスを?」

「一応、スポーツ雑誌の記者をやってます。テニスは趣味で時々。今日は跡部さんのプレイを取材も兼ねて、見に来ました」

「そうですか……ご苦労様です」

「相変わらず、跡部さんは魅せてくれますね……最初からジャックナイフ……お得意の『破滅への輪舞曲』も今日は絶好調みたいですし。相手は10も上だというのに、手玉に取ってるみたいですね」

「あーやって、人を手のひらで転がすのが、大好きなんですよ……まったくもう」

景吾は、人の精神面を追い詰めていくのが好きだ。
相手の嫌がるトコ、嫌がるトコを突いて突いて突きまくる。
…………っていうと、ものすごいSみたいに聞こえるな。

「キャー!!!跡部様〜!」

ベンチから景吾が立ち上がった。
それと同時に女の子たちの歓声。
…………悪いけど、もう少し静かに見れないかな(怒)

でも注意するのも面倒くさいので、ため息をついて、試合を見る。
相変わらず、景吾は相手のいやなところを突く攻撃だ。
10も上のベテランは、体力面で衰えを見せ始めている。
左右のコーナーギリギリに打ち分け、体力を奪って、いや〜な思いをさせようとしてるのが、丸見えだ。
……あぁ、なんて楽しそうなんだろう、景吾ってば。打ち分けてるときに、口元緩んでるよ……もう。

1ゲーム、2ゲーム……3ゲーム目は相手のサーブがよく決まって取られた。
4ゲーム、5ゲームを連取して、ゲームカウント、4−1。
相手の選手が、試合の流れを断ち切るためか、タイムを取った。

中断した試合に、ふぅ、と息を吐く。

「さって、ここで油断は禁物」

小さく景吾に向かって呟いた。

「跡部様〜!頑張って〜!」

隣の女の子は、大きく景吾に向かって応援だ。
……マジで、ここにいるのが少し憂鬱になってきた……!

「……やっぱり、跡部様はいつ見てもカッコいいわね……!」

「あれで結婚してるなんて、信じられない……!跡部様の奥さんって、一体どんな人なのかしらね。あれだけニュースになったけど、顔すら現れなかったし」

隣に座ってます。

…………とはさすがに言えなくて。
ガチガチに緊張していたら、東方さんがぷっと吹き出した。

「……緊張しすぎじゃないですか?」

「は、はは……これ、バレたら私、また事件起こしちゃいそうな気がして……」

私の緊張にはお構いなく、隣の女の子たちの会話は弾む。
それはそれは、ゴムボールのように(汗)

「でもきっとあの跡部様のハートを掴んだんだから、美人で頭もいいんでしょうね」

「それか、小さくて可愛い系の奥さんかもしれないわよ?」

すいません、そのどっちでもないです。

あぁぁぁ、本気でバレたら第二の事件に発展しそうな気がする!
お願いだから気づかないで!

というか、もう景吾、早く試合終わらせて!(祈)

私の祈りが通じたのか、ようやくゲームは再開する。

景吾がちらっとコッチを見た。
女の子たちがまた歓声を上げる。

「……跡部さんの人気は、本当にすごいですね」

「あは、はは……ファンがあってこその世界ですから」

東方さんに答えを返しつつ、始まったゲームに目を向ける。
……ん?
景吾にしては早く終わらせようとしてるみたいだ。
あの性格からいって、てっきりベテラン選手がバテバテになって、足が動かなくなってから止めを刺すと思ってたのに。

「ウォンバイ、跡部!セットカウント、3−0!」

タイム明けから、あっという間にゲームを連取して、勝ってしまった。
でもまぁ、やった〜!景吾が勝った!
今ばかりは、隣で騒ぐ女の子たちも気にならない!

さて……この子たちにバレないうちに、早々に立ち去るか。
あぁ、そういえば景吾にメール入れなきゃいけないんだった。
んー、とりあえずここから先に立ち去った方がいいかな。
じゃあ、荷物持って……

「奥さん、荷物持ちましょうか?」

東方さんが、わざわざ立ち上がって荷物を持ってくれた。

「え?いえいえ、そんなことまでしていただくわけには……」

「でもそのお腹ですし。僕もそろそろ移動しますから、そこまででも持ちますよ」

「えーっと、じゃあ……」

「キャ―――!!!」

お願いします、という声は、歓声にかき消された。
その声の大きさにビックリして見ると。
……なんてことだ、景吾がすぐそこに。

「………………

低い声に、ビクッと思わず体をびくつかせてしまう。
……なぜだかわからないけど……怒って、いらっしゃる……?

「は、はい……」

「…………終わったら、控え室だ」

「しょ、承知いたしました……」

景吾は、ちらっと東方さんに視線を向けると、そのまま退場口へ歩いていった。
…………一体何を、怒っていらっしゃるのだ……?

「…………威嚇、されちゃったなぁ」

ポリポリ、と東方さんが頭をかく。
え?と思いながら…………ちくちくと刺さる視線の方面へ、そろっと視線を向けた。

ジィ〜〜〜…………。

バッと見なかったふりをして体の向きを変える。
くっ……見られてる……思いっきり見られてるよ……!!

「……どうして跡部様が、話しかけてるの?」

「……ちょっと待って、『』って……跡部様の奥さんの名前も、そうじゃなかった……?」

ヤバイ!本格的にヤバイ!

「東方さん!それじゃ、私、これで失礼します!今日はありがとうございました!どうぞ今後ともよろしくお願いします!」

問題が起こる前に、逃げるが勝ち。
私は荷物を引っつかんで出口へ急いだ。
こ、これはギリギリ早歩きってことで……!

早歩き(強調)で『関係者以外立ち入り禁止』となっている場所へいく。
そこに立ってる警備員さんには、景吾があらかじめ言っておいてくれたのか、すんなり通ることが出来た。

『跡部景吾様 控え室』

と書かれてる部屋を見つけて、部屋の前で1度大きく深呼吸をする。
……よし、息は整った。

コンコン、とノックをしようと思ったら。
ガチャ、と音がして扉が開いた。

「…………、走るなって言っただろうが」

…………私に隠しカメラでも仕掛けてたの?景吾さん…………。





控え室に入れてもらい、椅子に座らせられる。

「ったく……無茶するなって何度も何度も言っただろう」

「……無茶、じゃないよ……?」

「ほぅ……息が切れるほど、早く歩くことの、どこが無茶じゃないと?あーん?」

「う……景吾、なんか機嫌悪い?」

眉間にシワが寄ってる気がする。
景吾は腕を組んで、ほっほぉ、と笑った。
…………この笑みは。

「身重の妻が、隣の女どもにぶつかられても、助けることもできねぇ。妻の隣には、わけのわからねぇ地味な記者。挙句の果てに、妻はその男と仲良さそうにしゃべってる。…………俺様の不満のボルテージが上がるには、相応の理由だと思うが?」

「……………………えーっと……でも、隣に座ってた人、元山吹中の人でさ、私のこと知ってる人だったんだよ?」

「知るかそんなの。…………ったく、おかげで俺の完璧なシナリオが無茶苦茶だ」

「……どこぞのエレガントークの人を髣髴とさせるコメントはやめてください」

「あーん?……もっとアイツを走らせて疲れさせて、精神的にボロボロにして止めさす予定だったのに。そうすりゃ、アイツは自分の体力の限界を感じて、引退するだろうに」

「ちょっとー!そこまで考えてたの!?」

「当たり前。…………それが、お前の為にさっさと試合終わらせようと思って、パァだ」

試合後に落ち込むなんて、景吾にしては珍しい。
…………なんだか、本当に申し訳ないことをした気になる。

「えーっと……ごめん、ね?」

景吾はちら、と私を見ると、はぁ、とため息をついた。……失礼な。

「ったく。いっそのこと、お前もメディアに顔出すか?そうすりゃ、俺の妻だって世間も理解して、手ぇ出そうなんて誰も思わねぇだろ」

「ちょっ……イヤ―――!またあーゆー事件が起こるかもしれないじゃん!……って、さっきもそうだよ!さっきの女の子たちには絶対気づかれた……!あぁぁ、どうしよう……また突然、闇夜でブスッとかあるかも……」

景吾ははぁ、ともう1度ため息をつくと、抱きしめてきた。
少し火照った体。
クールダウン、ちゃんとしたのかな?

「ホントに、お前からは目が離せねぇ……ったく」

ちゅっとキスされた。
私は景吾の腕の中で、色々言葉を考える。

…………あ、そういえばまだ言ってなかった。

「景吾」

「……あーん?」

「試合、勝ったね!おめでとう!」

まだ、『おめでとう』って言ってなかった。
心の中では散々叫んだけど。

景吾がまた、ぎゅっと頭を支えて抱きしめてくる。

「…………お前、本当に俺以外の男に、笑いかけるな……ッ」

無理な注文をしてくる景吾さん。
…………そんな、だって、ねぇ?

でもまぁ、ここで何か言ったらまた怒られて、何されるかわかったもんじゃないから。
黙ってキスを受けてあげることにした。


その日、テニスファンの間で、『あの跡部景吾が隠したがる奥さんが、試合の応援に来ていた』という噂が広まったのは、また、別の話。



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