立海から屋敷へ向かう車の中で色々あった後(色々とは……ゴニョゴニョ)
私は眠りの世界へ行ってしまったので、いつ運転手さんが戻ってきたのか、そして、車が動き出したことにすら気付かなかった。……気付いてたら、恥ずかしくて死ねた……!

起こされたのは、屋敷についてから。

向けられた運転手さんの笑顔に、グワァァァ、とまた顔が赤くなるのがわかった。本当に恥ずかしいと、人間、声も出なくなるらしい。言葉を発することが出来なかったので、心の中で最大級の謝罪を述べておいた。
車の中の出来事で、どうやら機嫌を直してくれたらしい景吾は、上機嫌で車を降りていく。
私もそれに続こうと思ったけれど。

…………動け、ない……っ!

なにやら体がふらふらして、足に力が入らない。
……っていうか、腰が、痛いぞ……っ(泣)

手でシートを押して、なんとか立ち上がろうと努力するけど……手さえもプルプル震えて、意味ナッシング。
助けを求めて、先に降りた景吾に声をかけた。

「……け、けーご……」

「?どうし…………あぁ」

どうやら、動けない理由をわかったようだ。……っていうか、景吾の所為だし!!!(絶叫)
景吾に引っ張り起こしてもらい、なんとか車の外で立つことは出来た。
それでも、よろよろしてしまう。

景吾が苦笑して、ぐい、と肩を引き寄せてくれた。
…………景吾の所為だもん、これくらいしてもらっても、バチは当たらないよね……!

「……景吾のバカ……ッ」

「あーん?」

言葉を封じるように、景吾がキスをしてくる。
…………動けない私は、逃げることすら出来なかった。





遅めの夕食を食べた後は、いつもの通り。
景吾がお風呂に入りに行ったので、その間に宿題を済ませておいた。戻ってきた景吾と入れ違いに、お風呂に入りに行く。
さっぱりして部屋に戻ると、当然のように景吾が壁を背にしてベッドに座り、本を読んでいた。…………念のため言いますが、ここは私の部屋ですよ。ベッドも私のですよ……!

まぁ、今更何を言っても無駄だということは、重々承知しているので……突っ込むのも無駄ですよね……(泣)
1つ息を吐いて、タオルをタオルハンガーに掛けた。

ふ、と時計を見たら、もう11時。明日も普通に部活がある。
そろそろ寝なければ。

明日の準備をしていると、景吾が本を閉じて、こちらも寝る体勢に入った。
…………どうやら、今日もこっちで寝るつもりらしい。
最近、私の部屋か景吾の部屋か、どっちかで一緒に寝るってことが多くなった気が……する。
へ、部屋は有効活用しようよ……!ただでさえこのお屋敷、部屋が有り余ってるというのに……!

苦悩する私を他所に、景吾はすでに布団を捲り上げて、寝る体勢に入ろうとしていた。
動かない私を見て、不思議そうな顔をする。

?寝るんだろ?」

「あー……ハイ」

うだうだ言っても、ここは私の部屋であって。
つまり―――私が寝る場所は、ここであるわけで。

仕方なしに、もぞもぞとベッドの端っこにもぐりこむ。

パン、と景吾が手を鳴らして、電気を消した。

「お、おやすみ……なさい」

一応そう言ったんだけど―――すぐに聞こえてきた、景吾の声。

「…………

「……………………ハイ」

「……んでそんな端にいるんだよ」

「…………イヤ……あの……だって……」

近づいて、万が一にも、またご機嫌を損ねてしまったら……何されるかわかったものじゃないですから!(絶叫)
れ、連続はきついですよ……!明日も朝早くから学校ですよ!勘弁してくださいよ!(泣)

ベッドの端っこでビクビクしてたら、はぁ、と小さく景吾が息を吐いた。

「………………なんにもしねぇから、こっち来いよ」

「………………ホントに、なんにもしない?」

「しねぇって。…………お前が来ねぇんなら、俺から行くぞ?……でも、そんな端じゃ、落ちても知らねぇからな」

「…………向かわせていただきます」

ベッドから落ちるのはいやだったので、もぞもぞと動いて、少しだけベッドの真ん中へ寄る。
少しだけのはずだったのに、ぐいっと手を引かれ―――結局、景吾に抱きしめられてしまった。

「け、景吾……っ」

「……なんにもしねぇって。……一応、自制するつもりだ」

「い、一応って……!」

「……俺様だって人間だからな。止められなくなるときだってある」

「ぜ、ぜひとも1つ、自制でよろしくお願いします……!」

懇願すると、景吾がくしゃりと頭を撫でてきた。
大分暗闇に目が慣れてきたので、景吾が少しだけ微笑んだのがわかった。

それを見て安心して、さぁ寝よう―――と思ったら。
思い出した。

「……そだ、景吾。今日の、あの書類って、一体なんだったの……?」

景吾の顔から、微笑みが消えた。
………え?私、なにかいけないこと聞きましたか……?

「景吾……?……んっ」

景吾が突然キスをしてくる。
な、なんにもしないって言ったのに…………って、ちょっと待て!

角度を変えてこようとした景吾から、素早く身を離す。

「ご、誤魔化されないよ、景吾!……一体、何を隠して……んぅっ」

もう1度唇を塞がれる。
……これは、完璧何かを隠してる!

ぐぐぐ、と景吾の体を押し返して、距離を作った。
そして、今度は景吾と私の間に、枕を挟みこむ。さぁ、これで景吾からの攻撃から身を守れるぞ!(なんか違)

「景吾、何隠してるのさー!」

暗闇の中で、じっと景吾の顔を見つめたら……はぁ、というため息。
観念したように、景吾は自分の頭に手をやり―――間に挟みこんだ枕を、ひょいとどかして抱きしめてきた。

「…………梅雨で、コートが使えないだろ?」

「へ?」

脈絡のない切り出しに、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
景吾が、耳元でもう1度同じことを言ってくれた。……それは嬉しいけど、やっぱりそのお声は心臓に悪いのよ……!(叫)

「……このところ、雨ばっかでまともなコートでの練習が出来なかっただろ?」

「う、うん……そうだね」

「…………いい加減、ボールも打てねぇし……ってことで、監督と相談して、跡部財閥経営の、インドアテニスコートで特別合宿をすることにした」

「合宿?いつ?」

「今週の土日」

「……これまた急ですね……」

でもまぁ……景吾さんのこういうところは、大分慣れてきましたけどー……。
強引なんだよ、とにかく!
あぁ、じゃ、明日朝1番に、課外活動許可届ださなきゃ……!出さないと、合宿許可出ないし……!

「……あれ?でも、それとあの書類と、何の関係が……」

そう聞くと、景吾がまたもや嫌そうに顔をしかめて、ため息をついた。
ぎゅ、と抱きしめてくる力が強くなる。

「…………そのインドアテニスコートが、神奈川にある」

「……また、色んなところに色々持ってるね……」

そういえば、風の噂で全国に200ヶ所テニスコート持ってるとか聞いたような……跡部財閥って、ホント色々なところに進出してるなぁ……。

「それで、だ」

「うん」

「…………監督と話してたときに、監督が『神奈川は……立海だな』って言って」

「……うん……?」

んー?……話が読めないぞー?
確かに神奈川には立海があるけど……全然関係ないじゃん……?

「……その翌日、監督が、立海との合同合宿の了承を取って来た」

「…………………………………………え?」

「……つまり、今度の土日の合宿は、氷帝、立海の合同合宿……ってことだ」

「……えぇぇぇえぇぇ〜〜〜!?」

もう夜だというのに、大声で叫んでしまった。
でも、叫ばずにいられるかってんだ!(壊)

「り、立海と合同合宿〜〜〜!?」

「……つっても、お互い部員数が多いし、インドアコートの収容人数も限られてるから……おそらく両校のレギュラーのみの参加になるだろうがな」

「なおさら大変じゃん!」

氷帝と立海メンバーに囲まれての合宿なんて……

わ、私の理性が持つかどうか……!(え)

でも、現実問題、氷帝メンバーとの合宿でさえ大変だったのに、それに立海が加わるなんて……ど、どどど、どうしよう……!

「け、景吾……と、泊まる場所とかは……!?」

「あぁ、近くにうちが経営してるホテルがある。そこに泊まるから、今回は食事の心配はしなくていいぜ」

……………………うわ、中学生の合宿でホテルですか……?
しかも、跡部家経営のホテルって言ったら、絶対高級ホテルだよ……!
でも、確かにそれならご飯の心配はない、けど……けど!!!

「……あぁぁ、どうしよう、あの豪華メンバーで1つ屋根の下なんて……!景吾と1つ屋根の下でさえ、いっぱいいっぱいなのに……!」

「……あーん?」

「どうしよう、殺人的にブンちゃんとか可愛かったよ……!赤也も普段は超いい子だし、っていうか、みんな美形すぎて目のやり場に困るし……!」

もう、どこ見たらいいかわかんなくなっちゃうじゃん!(汗)
氷帝メンバーの美しさには、ようやく慣れてきたけど(それでも時々、がっくんたちチビーズの笑顔にやられそうになるときはある……!)、それに立海が加わったら、私、ホント発狂しそうだよ……!
四方八方美形づくしで、すっごい美味しい状況だけど、私は自分の醜さに多大なるショックを受けることになるのよ、きっと!!!

「…………

「なに、景…………え?」

……………………………………あれ〜?
なんだか景吾さん、また目が据わってる〜?

ぐぐぐ、と腰に回る手の力が、強くなった、気が、する……。

「ブンちゃん、赤也……もうすでに呼び捨てか?」

「……え、あの……えーっと……」

「……忘れてたぜ、まーだ、説教してなかったなァ?」

「へっ?せ、説教……!?」

「いいか、お前はイチイチ自覚がなさすぎんだ。都大会のときも、遠足の時も言っただろうが。大体男なんてのはな……」

「あぁぁ……」

「聞いてんのか、あーん?……何度も言うが、ふらふら男に近寄るな。お前みたいに、どっか危なっかしいヤツなんてのは、男にとっちゃ格好の獲物なんだからな」

「え、獲物!?」

「お前がぼーっとしてる間に、男は虎視眈々と狙ってるんだぞ」

「そ、そんなわけ……」

「〜〜〜だから、そういう自覚が足りねぇっつってんだろうが。男なんてのはな……」

「うぅぅ……ハイ……ハイ……」

ベッドの中でのお説教はその後、大分続いたんだけど。
…………まぁ、色々とあって疲れも溜まっていたので。

そのまま、意識は暗闇へ。
――――――ごめんなさい、景吾さん。






懇々とに説教をしていたら、突然腕の中のが、返事をしなくなった。

、おい、聞いて―――……」

覗き込んでみれば、閉じられた瞼に、小さな寝息。

「………………寝ちまいやがったか……ったく……」

の頭をそっと動かして、素早くその下に腕を敷く。
腕に感じる、慣れた頭の重み。
いつもは、『重いから』と言って腕枕を遠慮するが、俺はこの重みを感じるのが好きだ。
が側にいるということを、感じられる重み。

腕枕をすることによって、さらに近くなったの額に、小さなキスをして―――ため息をついた。

波乱尽くしになるであろう、今週の土日を想定して、だ。




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