青春台駅。

青春台。

青春。

…………ホントにあるんだ、こんな地名…………(唖然)



Act.29  会いはある日、突然に



呆然と駅名を見ている私を、景吾が促している。
だけど…………青春台だよ?青春台。
マンガならではの名前だとは思っていたけど。

まさかこの目で見るとは思わなんだ…………。

改めて、私はテニプリ世界に来ていたんだなぁ、と実感。

ハッ、もしかしてこの辺うろついてたら、青学テニス部とばったり出会えちゃったり……

ぐいっ。

「おわっ……」

「何してやがる。さっさと行くぞ」

青学テニス部に会う前に、氷帝テニス部の景吾に手を握られて、強引に歩かせられる。
歩くの速いっ!歩くの速いからッ!

「わっわっわっ……コケる、コケる―――!!」

そう言ったら、少し緩まる歩調。
はぁ、と息をついて、握られた手を外そうとしたら。
ぎゅっ、と握られたままの手。

「……あのー、景吾さーん?」

「ちょうど俺様の右手は空いてる。お前の左手も空いてる。別に離す必要はないだろ?」

Oh〜…………なんって強引な〜…………。
もう引き剥がす気力もなくて、そのまま握られっぱなしで、青春台駅を出る。
やっぱりこの地域の方々も、景吾の美貌にはウットリするらしく。

…………あぁぁ、そんなすごい形相で握った手を見ないでください……っ!
すみませんすみません!麗しき男子と手を繋いでいて申し訳ありません……ッ!

、で、どこにいくんだ?」

「えーっとね……ここからまっすぐ行って……ミツマルスポーツだって」

大通り沿いに歩いていくと、『ミツマル』と書いてある看板が。
ドアをくぐって、中に入る。
さっきいたスポーツショップに比べると、少し小さめだけど、品揃えはいいみたいだ。

景吾はテニスシューズなんかを見るみたいだから、一旦手を離してもらって、テープの棚へ。

「えーっと……12ミリと24ミリだったハズ……」

おっ、あったあった……2種類のテープを5個ずつ、合計10個持つ。もちろん手には持ちきれなかったから、両腕に抱えるように。
シューズを見ている景吾の方へ行こうと思ったら。

ドンッ。

誰かにぶつかってしまった。
バラバラ、とテープが落ちてしまう。

「ご、ごめんなさい」

落ちたテープを拾おうとかがんだら、ぶつかった相手の人も、手伝ってくれた。

「いや、こちらこそ余所見をしていた。すまない」

……………………………ん?どっかで聞いたことがある声…………。
テープを集めて、ふっと前を見たら。

!!!!!

「て、手塚さん……?」

「……なぜ俺の名前を……」

ギャ―――!!!ホントに手塚さんだよ!
青学のメンバーと会えるかなーとか思ってたら、ホントに会っちゃったよ!
テニプリ世界万歳!(何)

「えっ、あっ……いや、そのー……」

「おい、何して……手塚」

「跡部か…………なぜここに」

ギャ―――!!!景吾と手塚が出会ってしまわれたよ―――!!!
あぁ、思い出すのは関東大会の激戦……!
……って、そんな妄想にひたってる場合じゃないんだって!

「そいつの付き添いだ」

「……君は」

手塚さん(なぜかさん付け)の視線がこちらを向きましたよ!
うわっ、ホントに髪の毛がなびいてる……(見るとこ違)

「あっ、は、初めまして。氷帝学園中2年の、です」

「うちのマネージャーだ」

「手塚国光。青学中等部の2年だ」

あぁ、そうか……手塚も私と同い年……今は2年なのね……。
見えないけど!!!

、テープはあったのか?あーん?」

「うん。予備入れて、5個ずつでいいよね?」

「それだけありゃ十分だろ。……貸せ、半分持ってやる」

ひょいひょいひょいっ、とテープを5個持っていかれた。
景吾の手は大きいから、私のように腕に抱える必要もない。

「ところで手塚よ。お前こそ、なんでこんなところにいるんだ?」

「……ここで、青学のレギュラージャージを扱ってもらっている。今日はサイズが合わなくなった分の注文をしにきた」

「……相変わらず、お堅ぇヤツだな……」

「お前こそ、相変わらずのようだな」

…………うっひゃー……2人とも威圧感がビシビシと……!
やばい、私、ここにいちゃいけない気がする……!

「け、景吾!私、これ、買ってくるから!景吾は、手塚……さんと話してて?」

景吾の腕からテープをひったくるように奪って、さーっとレジへ向かう。
…………うわぁぁぁ、私、とんでもないことしでかしたか!?






俺の手からテープをひったくるようにして奪っていったは、レジの方へと消えていった。
それを俺と手塚が見送る。

「…………氷帝にはいいマネージャーがいるようだな」

ボソリと手塚が呟いた。
その言葉で、俺は思わず笑みを浮かべる。

「あぁ、まぁな……よく気がつくし、働くぜ、アイツは」

が褒められて、悪い気はしない。
そういえば、青学にはマネージャーがいなかったな。

「……お前がそう言うくらいだから、本当によく働くのだろう」

「140人の部員を、1人で見てるんだぜ?レギュラーだけじゃなく、平部員までの健康管理までしてやがる。時々アイツには、背中にも目がついてるんじゃねぇかと思うぜ」

はコート上をすべて把握している気がしてならない。
テーピングをしながら、俺たちの様子まで見て、樺地の手首の怪我を見抜いたこともある。

「その点じゃ、俺様たち氷帝は、青学よりも恵まれているな」

「…………羨ましい限りだ」

「ほぅ?珍しいな、手塚。貴様が他人を羨むようなことを言うなんて」

「いいマネージャーがいると、選手はそれだけプレイに集中できる。結果、プレイは格段に上手くなる」

「そのとおりだ。……アイツが来てから、レギュラーだけじゃねぇ、平部員までレベルが底上げされてきた。……今年の氷帝は強いぜ?」

「……楽しみだな」

会計が終わったのか、がこっちの様子を伺っているのが目に入った。

、何してんだ、こっち来い」

「あっ、は、はいっ!」

おずおずとこっちにやってきたの手から、テープが入った袋を取る。

「えっ、いいよ、私が持……」

「いいんだよ、俺様が持つ」

「あ、ありがと…………て、手塚さん、すみません、お話の最中に……」

「気にしなくていい。それと、同い年だからその『さん』というのはやめてもらえないか?」

が少し大きく目を開いて、数秒間悩んだ。
……何をそんなに悩む必要があるんだ。

「……えーと、じゃあ、手塚くん、どうぞこれからよろしくお願いします」

「あぁ、よろしく。……今、跡部から君の自慢を聞かされていたところだ」

「へっ?……景吾、なにか言ったの?」

「あぁ、お前には背中に目があるってな」

「なっ……ないよ、そんなもの!人をバケモノのように……!それだったら、景吾の方がオカシイ目持ってる」

コツン、との頭に拳を当てて黙らせる。
あいたっ、と声を上げるが、の視線は手塚に向いた。
手塚は、俺より少しだが身長が高い。
は少しだけ見上げる形になる。

「手塚くん、景吾が失礼なコト言ってたらごめんね?」

「お前……俺様がそんなこと言うわけねぇだろうが」

「言うから言ってるの!」

「あぁ、気にしていない。…………は、跡部と仲がいいようだな」

「当たり前だ。なぁ、?」

アイツの首に手を絡みつかせると、真っ赤な顔をして外そうとしてやがる。

「景吾!」

「あーん?……手塚、そういうわけだ。そろそろ俺らは帰るぜ」

「あぁ、俺ももう帰宅する。…………ところで

「はいっ!?」

「…………お前は、俺の年齢を聞いても驚かなかったな。大抵の人間は、俺が中学2年だと言うと、驚く」

……確かに手塚は、中学2年には見えない。
気にしてやがったのか?コイツ。

「えっ……あー……が、学生服着てるし!それに、中学生に見えないことも……ない……よ?」

「そうか……もし時間があったら、青学にも来るといい」

「あ、う、うん……」

おいおい、手塚……は仮にもうちのマネージャーだぞ?
偵察させてもいいのか?

「でも、私他校のマネージャーだよ……?」

も同じコトを考えていたらしい、おずおずとだが俺と同じ意見を述べた。

「気にするな。偵察には慣れてる」

「う、うん……じゃあ、時間が空いたら、行かせてもらうね?」

「あぁ。…………もしも来るときは、ここに連絡しろ」

手塚のヤツ、メモをビリッと切ってサラサラと電話番号を書きやがった。
さてはコイツ……に目ぇつけやがったな?

「おい手塚。……は俺のだからな?」

ぎょっとした顔でが俺を見るが、関係ねぇ。

「何を言ってる、跡部。お前とはプレーヤーとマネージャーの関係だろう」

手塚がにメモを渡しながら、サラリとそんなことを言ってのけた。

「さぁ?そうじゃねぇかもしれねぇぜ?…………おい、。とっとと帰るぞ」

の手を握って、俺は出口へと向かう。

「えっ……あ、あの、手塚くん、じゃあまた〜」

「あぁ、いつでも連絡してこい」

強引に俺はの手を引いて歩く。
本当は、メモも奪ってやりたかったが、そんなことをしたら、が激怒するだろう。

「ちっ…………オイ、。青学行くときは、ちゃんと俺に言ってから行けよ?」

「う、うん……手塚くんって……思ったより、ずっといい人だね」

…………なんだと?

「優しかったし」

「俺様の方が優しいだろうが」

そう言って、を細い道に引き込んで、キスをした。
突然の出来事に、目をいっぱいに見開く

「優しい上に金も顔もテニスの技術まで持ってて……しかも、キスも上手いときた」

ぺろ、との唇を舐めると、が真っ赤になって抵抗する。

「景吾、ここ、普通の道路でしょ―――!」

「人なんて来やしねぇさ。……もう1回」

結局もう1回どころでは収まりが効かなくて。
の足の力が抜けるまで、ずっと唇を貪り続けた。


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