乾と別れた私は、はぁとため息をついて、私は鞄がある場所へ戻る。 しばらくすると、手塚くんがやってきた。 「、コート内に入るか?」 「えっ、でも、部外者は立ち入り禁止じゃあ……」 「特別に許可する。……部員が世話になったしな」 「いやっ、あれはお節介というもので……ッ」 「おーい、池田が倒れたぞー。誰か運んでやってくれー」 「………………、脳貧血の処置は……」 「……できるよ、任せて。…………じゃあ、仮マネージャーついでに、コート内見学させてもらうってことでも、いいですか……?」 「あぁ、構わない。……すまない」 「いえ、コート内で直に見れるなんて機会、あんまりないからね……じゃ、早速病人から見ますか……」 素早くテニスシューズに履き替えて、コート内へ。 真っ青になってうつむいている池田君のところへ行き、背中に乗っけた。 「揺れるけどちょっとだから我慢して」 ぐぁーっと走って、コートサイドへ。 氷帝で仕事をするときと同じコトをする。 寝かせて足を高く上げさせて、ポカリを持ってくるだけのことなんだけど。 「ちょっと寝てれば良くなるから。吐くんだったらそこの排水溝にね」 そこら辺においてあった誰かのジャージをばさり、と掛けてあげる。 「あー、豆潰れた〜」 誰かの声が聞こえた。 「豆潰れたら、まずは水道で、血、洗い流してきて。その後消毒するから」 「は、はいっ」 「河村くん、菊丸くん、休むんだったらジャージ羽織った方がいいよ。いくらあったかくなってきたからって、今日は風があるから。体冷やすと、筋肉疲労が激しくなるからね」 ベンチで見ている2人に言付けをし、汗ダラダラの桃ちゃんにはタオルをぽいっと渡す。 「はい、ちゃんと拭いてね?」 豆が潰れた子が帰ってきた。 マキロンとティッシュで消毒をして、バンソーコーを貼り付け、テープをぐるぐる巻きつける。 「しばらくビリビリするだろうけど……頑張って」 「は、はい。ありがとうございます」 …………………………………って、何真面目にマネージャー業に精を出してるんだ、私―――!!! あぁぁ……どんどん計画が崩れていく……。 願わくば、景吾にこのコトがバレないように……。 深く関わりを持たないように〜…………。 どうして、みんな、私の周りに集まってきてるの……? 「氷帝のヤツらが羨ましいにゃ〜。ちゃんみたいなマネージャーがいたら、元気百倍、やる気千倍ってね♪」 うぉうっ!……英二スマイル〜〜〜!! ……ダメよ、! いくらがっくんと同じ系統だからって、ここで英二のスマイルに陥落するわけには……! 私は、まがりなりとも、氷帝のマネージャー…… 「先輩、すげぇんっスよ!パパッとテーピングしてくれたしっ!」 桃ちゃん……余計なことは言わないでいいのよ!(泣) 「マネージャー1人いるだけで、俺の負担もグッと減るんだが」 ………………ムーンヘッド大石。 すっごい切実だね、その言葉。 よくわかるよ、氷帝での私も、『後1人マネージャーがいるだけで、グッとこの状況が変わるのに』と思うからッ! 「ねぇ手塚。ちゃんを青学に編入させるって、どうかな?」 魔王不二様……笑顔が素敵で怖いですッ! 「…………編入事項を校長先生に聞いてみるか」 「って、手塚くん!何ちょっと乗り気になってるのさ!」 声が聞こえた手塚くんの方を向いたら。 バチコーン! 青学チビーズ、可愛い子ちゃん担当、越前リョーマくんがコートに入ってきましたよッ! おぉぉお……可愛いッ……可愛いぞ越前リョーマ……ッ。 あぁ、やっぱり帽子被ってる……ッ……小さい体に似合わず、ふくらはぎの筋肉がスゴイ……ッ。 「…………デカい」 「って第一声はそれですかっ!」 思わず突っ込んじゃったよ! イヤ、気持ちはわかるけど!そりゃ、150センチ台の君に比べたら、私はデカいだろうともさっ! 「…………誰ッスか、この人」 「氷帝学園っていうテニスの強豪校のマネージャーさん」 「です……どうぞよろしく、越前くん」 「…………なんで俺の名前知ってるんスか」 うっ……つい……。 だけど、ココは大人の余裕でサラッとかわして見せようじゃないの。 「ふっ……マネージャー業をしてるとね、色々と情報が入ってくるのよ―――……」 「へぇ……アンタ、テニス詳しいんだ?」 「いやっ、詳しいと言われると疑問だけど……まぁ、ちょこちょこっとね……あは、あはは」 もうダメだ……これ以上話してたら。 この可愛い子ちゃんに、骨抜きにされてしまう……ッ!(オイ) そろーり離れて、コートサイドへダッシュ。 ドッドッドッと早い鼓動を抑える。 ダメよ……ッ……今日はなんのために来たと思ってるの…ッ、偵察よ偵察!(言い聞かせる) もうコートから出て、ヒッソリと練習を観察しよう。 コート内にいるより、断然マシだ……! 「おーい、誰か救急箱!コケて膝すりむいたヤツがいる」 あぁっ、それなのにこんな言葉に反応してしまう私って、一体なにぃぃい!! 救急箱を持って走ってしまう私……いかに氷帝のマネージャー生活が染み付いてるかってコトよね……。 「お、終わってしまった…………」 いつの間にか……練習が、終わってしまった……! 結局偵察らしい偵察してないよっ!(泣) ほんの少ししかデータ取れてないよッ! 「」 「……なんでしょう〜……」 ふらふらと手塚くんの方を見れば。 ……………………あぁぁ、どうしてまたレギュラーがそろってるのぉ〜……。 「今日は部員が世話になった。……礼を言う」 「いえいえ……どういたしまして……」 私……偵察じゃなくて、青学に臨時マネージャーをしにきたんじゃなかろうか……。 ……………………そんなはずはないと、思いたい……ッ。 まぁ、少しはデータ取れたよね!少し、は…………原作のデータを、脳みそフル活用で思い出そう……ッ! ……………………あぁぁ、遠くまで電車まで乗ってやってきた私の労力って一体……ッ。 心の中で嘆いていると、フシュ〜……と言うありえない音。 もちろん、出元はバンダナの王子様、海堂薫。 「……なかなか、働くマネージャーだ」 ほ、褒めてもらえてるのよね……?これは……。 「あ、ありがとう……」 「本当に、青学に編入してこない?」 不二様がご開眼されておられる〜〜〜!! いやぁぁぁぁ〜〜〜!! 抗えない雰囲気が、ビシビシ伝わってくる……ッ! 「おい、お前ら何をしている!」 ……………………………………。 ヤバイ。 今の声は。 「…………跡部か」 ギャ――――――!!!手塚くん、冷静に言わないで―――!!! ガシャーン、とフェンスを蹴り開けて入って来る景吾。 ちなみに景吾の靴はテニスシューズ。きっと部活直後にそのまま来たんだろう。 ……って、分析してる場合じゃないッ! 逃げろッ。 脳内赤信号がものすごい勢いで点滅してる! ダッシュで逃げようとしたところを、あっけなく捕獲され。 ガシッと手を捕まれて、低い声で呟かれる。 「…………、約束破ったな?」 「あぅう……決して、破りたくて破ったわけでは……」 「やぁ、久しぶりだね、跡部」 「………………不二か」 いつの間に移動してきたのか、みんなが私たちの周りへ。 もう勘弁してくださいッ!(泣) 「ねぇ、ちゃん、すごくいい子だね。氷帝はいいマネージャーさんがいるんだね」 「そーかい、ありがとよ。じゃあな」 「ねぇ、跡部。ちゃん、青学にくれないかな?(黒笑)」 えぇぇぇぇぇええ!? 変化球と見せかけた、直球ストレートど真ん中! 不二さんとんでもない球を放り投げてきましたッ! くれって……くれって!! 犬の子ですか、私ッ! 「バカヤロウ。そうホイホイ上げられるか。……は俺様のモンなんだよ」 「違ッ、景吾、観点違ッ!」 「じゃあ、僕のモノにしてもいいけど?(黒笑)」 え――――――ッッッ!!!! 何の話ですか、あなたたちっ!マネージャーの話じゃないんですかっ!? 「させねぇよ。なにをどうやったってな」 バチバチバチッ……と火花が散った……気がする。 イヤ―――!もう無理ッ! 何が無理って、この空気が無理ッ! 「景吾ッ!か、帰ろう!?……えーっと、じゃ、私たちはこれでっ!今日はどうもありがとうございましたっ!サヨナラッ!」 景吾の手を引っつかんで、走り出す。 あぁぁぁ、今日はなんて1日なんだ……ッ。 私の素晴らしい青学偵察が……ッ。 「……い……おい」 元々、桃ちゃんの怪我に対する、仏心を出したのがいけなかった……ッ! あそこで、人間的には最悪だけど、スルーしていたら、きっとこんなことにはならなかった……! タイムマシンに乗って、あのときの自分に戻りたいッ! 「おい、?手を繋ぐのは構わねぇが、それならゆっくり歩かないか?」 ハッ……! イヤ―――!私、景吾の手、握ったまま走ってた―――!!! バッと手を離そうとしたら、ガッチリ手を握られてて。 ブンブンブンッと手を振るけど……は、離れない……ッ! 「なんだよ、繋いだままでいいだろ?あーん?」 あまつさえこの男、ちゅっと音を立てて、繋いだ手にキスまでしてきましたっ! あぁぁぁぁ、なんでこんな恥ずかしいことを、公共の場所で出来るのよ、跡部景吾―――!! 「景吾、恥ずかしいからやーめーてー!」 「俺様は恥ずかしくないからいい」 「私が恥ずかしいんだってば!」 「約束を破ったバツだ」 オーノー!!!!(大絶叫) 他校で、ただでさえ好奇の目で見られてる上に、誰もが振り返るイケメンと手を繋いで歩けと!? 「……言ったよな?しゃべるな、関わるなって」 「言われたけども……っ、あれは、その……っ……不可抗力ってヤツで……ッ」 「……ったく、おかげでまた変なのが増えたじゃねぇか」 「へ、変なの……?」 景吾は私を見て、思いっきりため息をつく。 ………………失礼な。 「………………おい」 「ハイッ!」 「…………………お前は、俺様のモノだからな」 「はいぃぃいっ!?」 「絶対青学にはやらねぇ」 …………………………あぁ、マネージャーの件……? 私は軽く息を吐いて、ぽんぽん、と空いてる方の手で、景吾の肩を叩いた。 「大丈夫、私は氷帝のマネージャーだもん。……今日、だって……ちゃんと……少しは、データ取ってきたんだから」 「…………ったく、これ以上余計な男は増やさなくていいんだよ」 「よ、余計な男って……」 ぎゅっと景吾が手の力を強める。 「…………今度、余計なヤツらと関わったら、お前、俺の部屋に監禁してやる」 …………………………………景吾さん、犯罪だってば、それ。 だけど口にしたらさらに怖いことを言いそうだったので、敢えて心にとどめておき、仕方ナシに私も手の力を込めた。 ……あぁもう……好奇の目で見られようといいですよっ……我慢しますよっ。 「…………約束破って、ごめんなさい」 景吾の表情が、ふっと緩んだ。 これにて、青学偵察……完了……? NEXT |