背が高い妙な女と、ふわふわ頭の可愛い男の子。
はたして、それは周りからどんな目で見られてるんだろう。
とりあえず、彼氏と彼女には見えないだろう。
……少年好きのちょっとイッちゃってる女って見られたらどうしよう。

ー、足大丈夫ー?痛いー?」

思わず歩みが遅くなった私の顔を、ちょっと心配そうに覗き込むジローちゃんがあまりにも可愛かったので。

なんかもう、変態と見られてもいい気がしてきた……なんてのはここだけの話。



Act.5 きそばの匂い、危険な香り



一度道へ出て、てくてくと2人で歩く。そのまま道路を通って一般海水浴場へ入った。
跡部家プライベートビーチからは、思っていたよりも離れていなくて、わずか5分ほどであっさりついた。

クラゲがいっぱいで、もう海には入れないというのに、日焼けするためだったり、雰囲気を楽しむためだったりとで、結構な数の人がいる。

「わー……結構人多いね〜……」

「そだねー……ん?…………んんん???」

クンクン、とジローちゃんが鼻をひくひくとさせて……眠たげだった目が、ぱっと見開いた。

「焼きそばのニオイ!、行こう!」

「へっ、どこに焼きそばが……わっ、ジローちゃんちょっと待って!」

人の波をかき分けて、ずんずんと歩いていくジローちゃんを追っていくと、賑わいを見せている海の家に辿り着いた。

店頭では、ジローちゃんが言っていたとおり焼きそばが、微かな煙を出しながらおいしそうなニオイを発している。……このニオイをかぎつけたのか、ジローちゃん……。
でも、実際……すごくおいしそうっ!
ニオイだけでなく、目でも見ると……ね!

私は朝食を食べたにも関わらず、よだれが出そうになってしまった。

、焼きそば食べよ〜!」

「うん、食べよう食べよう!……みんなにも焼きそば買って行こうかー」

「うん、いいんじゃないかなー。……うぉー、うまそー!」

ジローちゃんの目は、焼きそばに釘付け。
その様子がすごく可愛いので、笑いながら、列の最後尾に並ぶ。
……景吾が焼きそばを食べるかは、甚だ疑問だけども……とりあえず、人数分買っていくかな。万が一景吾が食べなくても、誰かが平らげるだろう。

そんなことを考えていたら、すぐに順番が回ってきた。
ニコヤカな笑顔のお兄さんが、焼きそばを作りながら注文を聞いてきた。

「いらっしゃい!いくつ?」

「えーっと……6つ!」

え、と一瞬お兄さんがビックリしたけど、すぐに『ありがとー』と笑ってくれた。
まぁ……6つって何気にありえないよね。

「はい、ありがと!ちょっとおまけしといたよ」

どどーん、とパックにつめられた焼きそばを渡された。ビニール袋に入れてくれたのがありがたい。
お金を払って、すぐに1個ジローちゃんに渡す。
ジローちゃんがうほー!と笑って、さっそく開封して食べだした。

「うまー!」

口の周りにソースと青のりをつけたままニッコリ笑うジローちゃんはもう、可愛いのなんのって……!(興奮)
私は、心の中で焼きそばにお礼を言った。ジローちゃんの可愛い笑顔を見せてくれてありがとう!

「ねぇ彼女〜。それ、持ってあげようか?」

あー、私も早く焼きそば食べたい〜。戻ったらすぐに食べようっと。
っていうか、あの白熱の戦いはちゃんと終わってるかしら……。

「ねぇ、彼女ってば〜。そこの背の高い彼女!」

「……ん?」

『背の高い』で反応してしまうのは、もう慣れだと思う。常日頃言われ続けてるからね、『背の高い』ってのは。

「お、ビンゴ♪ねぇ彼女、それ重いでしょ?俺ら、持ってあげるよ〜」

近づいてきたのは、『焼きすぎちゃいましたー』な肌の色のギャル男っぽい3人組。
…………んー?これはもしかして…………。

ナンパですか!?(驚)

うわーうわー、海って多いって聞くけど、まさか私に来るなんて思わなかったよー(他人事)

…………けど、あいにくそれに関わってる暇はない。
まぁなんといっても景吾がいるし(照)……それに、一刻も早く、焼きそばが食べたい。
ナンパ体験よりも、温かい焼きそばを取ります、私は。
ごめんね、色気より食い気、焼きそばのほうが大事!

「あ、や、間に合ってるんで結構です」

焼きそばの誘惑はものすごかったので、私はスパッと言い捨てた。
隣で、もにゅもにゅと焼きそばを食べていたジローちゃんが見上げてくる。

「行こっか、ジローちゃん」

「(コクン)」

ふい、ときびすを返して、再び歩き出す。

「待ってってば〜。ちょっと話でもしようよ〜。弟くん?も一緒でいいからさ〜」

弟!(叫)
あぁ、ジローちゃんが弟だったらなんていいことか……っと、いかんいかん、飛んでる場合じゃない。
思わず我を忘れて違う世界に行きそうだった自分を、なんとかして取り戻す。

「別に俺ら、怪しいもんじゃないし?」

「ちょっとだけでいいからさ〜」

む……しつこい。
なんとか振り切ろうと、早めに歩こうとするけど、人が多いので中々思ったように歩けないのがもどかしい。

「ねぇってば〜」

ぱしっ。

とうとう、腕をつかまれた。
いい加減……

しつこい!!!!

「あのっ「手、離しなよ〜。ちょっとしつこいC〜」

私が抗議の言葉を発するより先に、今の今まで焼きそばを食べていたジローちゃんが、なんと、間に入って睨んでくれた。
グッ、と男の腕に手をかける。
わぁ……ジローちゃんがいつもの可愛EからカッコEに変わった……!

「お〜?なんだよ、お姉ちゃん守っちゃうってヤツ〜?」

だけど、ギャル男たちは一向に気にしてくれない。
……あぁ、ジローちゃん生来の可愛さの所為かな……でも、それはしょうがない、ジローちゃん可愛いもの!その可愛さが私はスキ!!(何)

「む……は姉ちゃんじゃないCー」

「へぇ〜。でも、この身長差からして、カレカノはあり得ねーべ?ほら、君も一緒でいいからさー。あ、飲み物とかおごっちゃうし?」

「……だーかーらー…………」



「「オイ」」



聴きなれた麗しき二重奏。
聞こえた方に目をやる。

女の子たちが自ら道を開けて、歓声を上げていた。
両脇に開いた花道のようなところから現れたのは……

当然のように、景吾さんと侑士だった。

2人ともものすごい怖い顔で、ズンズンと近寄ってくる。
…………怖っ。

「な、なんだよ……」

怖いと思ったのは私だけじゃないらしく、ギャル男たちもビビっていた。
ちらっ、と私の手を掴んでいる男の手を見ると、2人は同じタイミングでギラリと男たちを睨みつけてくれた。

消えろ」「去ね

私からはその表情が見えないけど……………………ギャル男たちのすごい表情で、どれだけの怖さか想像できるよ…………………(ガタガタ)

2人の迫力に、ギャル男たちはマンガのように、あっという間に去って行ってくれた。
そして、その迫力がそのままこちらに向く。

「ったく……なんでお前はじっとしてねぇんだ!なんにも言わずにどっか消えんな!」

「え、や……ちゃんと言ったよねー、ジローちゃん……」

「(コクコク)」

「遠足んときも同じことやってんだろ、少しは学習しろ!大体、足も完治してねぇのにふらふらすんな、バカ!どーしてお前はそうやってじっとしてるとかおとなしくしてるとかできねぇんだよ!」

「あぁぁ……す、すみません…………」

まくし立てる景吾さん……これは、平謝りするしかない。
ペコペコ頭を下げていると、侑士がキラーリと目をジローちゃんに向ける。

「ジローも、ちゃんと守ったらなあかんで。あぁぁ……ちゃんの腕握りよって、あの男……呪い殺したい……」

「…………忍足、怖いCー…………」

「ったく…………行くぞ!」

さりげなく焼きそばの入ったビニールを持ってくれた景吾が、反対側の手で私の腕を掴む。
掴んだ場所は、さっきギャル男たちにつかまれた場所と一緒だったけど、不快感はまったくなかった。

、足は大丈夫か?」

「平気だって〜。歩くのには、もう気にすることもないくらい。まぁ、ちょっと走るとかにはまだ違和感あるけど」

「コラ、跡部!ちゃんの腕放さんか!呪い殺すで!」

「あーん?やれるもんならやってみやがれ」

バチバチッ……となにか言い知れないものが2人の間で走った。……ナニ??(汗)怖いから深く追求するのはやめておこう、ウン。触らぬ美形になんとやら、ってね(違)

「……そーいえばさ、岳人や宍戸はどーしたの?」

そろそろとジローちゃんが、景吾たちに聞いた。
2人は、揃って思い出すように空を見上げた。

「あいつら?あぁ、砂浜に転がってんじゃねぇのか?」

「…………勝負、ついたの?」

「……そーいえば、途中からカウント数えんの忘れてたわ。自分らがいないのに気ィついて、俺ら探しに来てしもたし」

「………………早く行かないと、2人とも黒焦げになってるかもしれないよ」

真夏の太陽の真下で放置されてたら……どっかの叫びまくる部長のようになってしまってもおかしくない。

…………想像中…………。

「……急ごっ!!!」

今度は私が反対に、景吾の腕を掴んで歩みを速めた。
足の違和感なんて、目的のためならいとわない。

目的……そう。

2人の真っ黒焦げを防ぐためなら!

あの2人の肌が焼かれて真っ黒焦げになるなんて、耐えられない!!!(叫)
特に、がっくんのあの抜けるように白い肌が、某絶叫部長のように真っ黒ビターチョコレートな肌になるなんて…………いや、ビターな苦さもそれはそれでいい……じゃなくて!!

とにかく、あの真っ白い肌を守るためなら……何でも出来る!!

、ゆっくり歩け、バカ!」

「だいじょーぶだいじょーぶ!全然痛くないし、ここでゆっくり歩いたら、心が多大な痛みを伴う!」

「バカかお前は!何言って……ってオイ!人の話を聞け!」

ズンズン、と私は砂浜を歩き続ける。
がっくんの肌、亮の肌、がっくんの肌………………(変態)

「あぁぁ、ちゃん!そないな男の腕掴んだらあかん!掴むんなら、俺のにしといた方がえぇでー!!」

後ろのほうから、なにやら侑士の声がしたけど、変態的思考に取り付かれていた私の脳内に取り込まれることはなかった。

だって、前方には文字通り、砂浜に転がっている2人がいたんだもの!
2人(の肌)の安否を気遣う私に、余裕なんて言葉は一片たりともなかった。




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