「勝負や、跡部……!」

「ったく……いい加減このバカ、シめるか……埋めてやるぜ、忍足」

夏の砂浜は暑い熱い戦い。



Act.4 着つくのか、因縁試合



突如勃発した、ビーチバレー対決。
当然のごとく、プライベートビーチ内に設置されていたビーチバレー用のコート―――跡部家、本当に余すところなくお金を使っている―――を使用しての対決になった。
対戦カードは、景吾・亮ペアvs侑士・がっくんペア。
がっくんは、

「岳人、自分は俺の味方やんな!?」

という侑士の言葉で、ほぼ強制参加。
景吾が亮を選んだのは、ただ単に『ジローちゃんだといつ寝るかわからないから』だそうだ。……まぁ、確かに。今も、私の隣で眠そうに目を擦り始めている。

「あー……じゃ、行くぞー……」

なんかもうゲンナリ気味のがっくんが、ボコ、とサーブを打った。
大分いい加減なテンションだけど、それでもボールの勢いはかなりある。そういえば、がっくん体育でバレーやってたとき、得意だ、って言ってたな。
ボールの落下地点に、素早く亮が回りこむ。足場の悪い砂浜でも、テレポートダッシュは有効らしい。

「よっ、と。……行ったぜ、跡部!」

「あぁ」

ドゴッ……ザシュッ。

瞬きほどの短い時間の間に。
ありえない速度でボールが地面へ落ち、砂が舞い上がった。

………………あー。
うん、やっぱそうだよね。景吾さん、苦手なもんなんてないよね。完全無欠のオールラウンダーだもんねー…………。



素敵に無敵にビーチバレーも王様な貫禄デスネ!(ニッコリ)



「えーっと……1−0ねー」

私は審判係なので、得点板の代わり。
指を1本立てて、カウントを表現する。

と、ネットのすぐ脇にいた侑士がくわっ、と目を剥いた。

「アホ、岳人!あないなサーブやったら、取られんの当たり前やろ!もっと気合い入れろ!」

「入れろったって……」

がっくんは相変わらずのゲンナリ顔。

「オイ、行くぞ」

今度は亮がサーブをボコッと打った。
亮も運動神経がいいから、そこそこいいサーブが入る。

がっくんがレシーブをして、ぽーん、と高くボールが上がる。
今度は、ものすごい形相の侑士が、先ほどのお返しと言わんばかりにそれを打ち込んだ。

「おぉっ……ハイ、1−1〜」

転がってきたボールを、侑士にほいっと渡す。
おおきに、と受け取った侑士は、キラリと眼鏡を光らせてがっくんに近寄っていった。

「岳人」

「な、なんだよ……」

その雰囲気に、がっくんがジリジリと後退する。……時々侑士は微妙に怖いところがあるんだよね……。

「この試合勝ったら、俺が夏休みの宿題見せたる。もう俺はほとんど終わっとるからな。…………どや、悪い話やないやろ?」

「え……マジか!?」

「大マジや」

「……か、化学に数学……英語もか?」

「あぁ。自由課題以外やったら全部見せたるわ」

「…………ちょっとだけ、頑張る気が湧いてきた……!おう、やるぜ!」

ふっふっふ、とがっくんの顔に活力がみなぎってきた。
……宿題かー……がっくんも私並に終わってないと見た!そりゃ、甘い話だもんね。自由課題以外の全部の宿題が、後は写すだけなんて!私が同じ状況だったら、間違いなくやる気UPだ。

「忍足……買収なんて汚ぇことするじゃねぇか」

「使えるもんはなんでも使うで……打倒跡部や……!」

ボコッと侑士がサーブを打つ。おぉ、スピンサーブ!!
景吾がちょっと眉をひそめながらも、なんとかレシーブした。

「オイ跡部、俺にはなんかねぇのかよ!」

少しずれた方向に上がったボールを追いかけながら、楽しそうに亮が叫ぶ。
相変わらずの反応の良さで追いついた亮は、ぽーんとトスを高く上げる。
景吾がちっ、と舌打ちをして、跳んだ。

「……次回のテストのヤマでどうだ……ッ!?」

言いながらの、強烈なアタック。
またもや、砂煙が上がった。

「……2−1」

私のカウントを聞いているのか聞いていないのか。

「……了解だぜ」

静かに言いながら亮が景吾の方へ歩いていき、軽く右手を上げる。
ニヤリと笑いあった2人が、ハイタッチを交わした。

その後は、もう言葉に出来ない試合内容。

「甘いで!……雲雀返し!」

「激ダサだぜ……どらぁっ!」

「おい宍戸、もっと跳んでみそ!」

「破滅への輪舞曲……くらえ!!」

………………テニスの技をビーチバレーに応用する方たち…………。

テニスでさえ神なのに、バレーに至ると、もはや、どんな効果があるとかわからないよ!!!

なんかもう、カウントとか数えてる場合でもない事態になってきてしまいました(汗)
すごい試合展開を、呆然と見ていると、試合開始直後にすぐ私の隣で眠ってしまったジローちゃんが、もぞもぞと起きた。
んー……と目をゴシゴシ擦っている。

「ジローちゃん、起きた?」

「あー、ー……おはよー」

「おはよう。……大丈夫?焼けて、痛くなってない?」

「うん、大丈夫ー……」

と言ったジローちゃんのおなかから、グゥゥ、と低い音がした。
この熱戦の騒ぎの中で聞こえたその低音は、明らかにおなかの虫の仕業だろう。

「…………腹減ったー……そういえば、朝ご飯、食べてなかったー……」

「え、嘘、ダメだよ、朝はしっかり食べなきゃ」

「うん……そーか、お腹減って起きたんだ……」

そう言うのと同時に、再びの低い音。
最後の最後で、切なそうに高い音も響く。

「…………なんか買ってこようか?向こうの一般海水浴場の方行けば、なんかしら売ってると思うし」

あまりにもその音が切なかったので、私はザワザワとしているのがこちらからでもわかるほど人が多い、一般開放の海水浴場の方を指差しながら提案した。
海の家も……まだ店じまいをしていないだろうし。あの人だかりを見たら、それなりに色々売ってそうだ。

「あー……じゃ、俺も行くー。1人で待っててもつまんないC〜」

「そか。じゃ、みんなの分も買って来ようか。…………えーっと、みんな……」

「どらぁっ!!」

「……F&D……」

うん、みんな素敵に人の話を聞いてないね☆
いつの間にか、4人ともバレーに熱中してるよ……4人とも、私たちの存在を忘れてるんじゃなかろうか。

まぁ、白熱の試合をわざわざ妨げる気もない。

「……ちょっと買出しに行ってくるねー」

聞いてはいないだろうけど、一応そういい残して。
私はジローちゃんと2人、海水浴場へ向かって歩いていった。





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