全国大会が終わった。 青学に敗れたものの、結果は全国ベスト8。 去年の記録を塗り替えたと言うことで、夏休み明けには学校から表彰されることも決定した。 これでテニス部レギュラーは、高校への進学内定が決まったと言ってもいい。 私もこれまでコツコツやってきたそれなりの成績&生徒会の実績で、なんとかおこぼれを頂戴できそうです。 そんなわけで。 「…………暇だねぇ〜」 残りの夏休み、時間をもてあましてます。 Act.1 新たなる日々、安息の時間 「暇じゃねぇだろ。お前、宿題は」 ベッドに寝転がりながらぽそりと呟いた一言を聞き漏らさずに、すぐさま切り返したのは……私が寝転んでるベッドのすぐ脇にある椅子に座って本を読んでいた景吾さん。 …………相変わらず、いやなところを突いてくださる。眼力の力はまったく衰えてない(違) こちらを見る景吾は、呆れたように息を吐いた。 景吾の髪は、あれ以来、短くなった。 「……景吾、短いの楽そうでいいねぇ〜……」 「あぁん?楽なことは楽だが……あのガキ、今度会ったらただじゃおかねぇ……!」 「……おーちつーいてー……」 バリカンの調整がしてあったのか、完璧に坊主ってわけじゃないけど……それなりに短い。あれだ、流行りのベッキャムヘアーだ! 「……ま、ちょうど切ろうと思ってたしな」 「前髪、伸びてたもんね〜。夏だし、いいんじゃない?似合うよ」 髪を切っても、麗しいお顔は変わらないと思う!(力説) それに元々頭の形もいいし、短くしたら、ただでさえ小さい頭がさらに小さく見える……あー……つまり、美形は何をやっても似合うってコトですよねー……(遠い目) 「それに……まぁ、景吾ならすぐ伸びるよ」 「……あーん?」 「だって、エロいしさ」 「…………期待に沿うようなことをしてやろうか?」 「いえっ、遠慮しときます!」 夏の昼間からそんな、とんでもない! ブンブン、と顔を振って、丁重にお断り申し上げた。 「……ったく……」 ぽん、と頭を叩かれ……顔が近づく。 こうすると、今までは顔に触れていた髪の毛がないのは、ちょっと寂しいけど……その分、ちょっと顔が見やすいかもしれない。……いや、見やすいから麗しすぎて困るかもしれないけど(汗) ――――――ちゅ。 ゆっくりと離れていった顔。 景吾の視線が、私の足へ移動した。 「……足はどうだ?」 「んー?もうわりと平気だよ。……ずっと部屋に閉じこめられたままじゃ、悪化するわけないじゃん」 全国が終わってから3日間、食事以外ではほとんど部屋の外へ行くことも許されず、監禁されてるみたいだ。 さらに、景吾さん、という極上の監視付きでね……逃げられやしない(汗) 「外に出したらお前が暴れるからだろ。ただでさえあの時に無茶してんだ、当分は安静に決まっている」 「…………それにしたって、ずっとこのままじゃ、太っちゃうよ〜」 「怪我が治った後にテニスでもすりゃ、すぐに落ちるさ。……ま、テニス以外の激しい運動も、俺様がきちんと協力してやるから、待ってろ」 「ぎゃー!!だから、どうしてそっち方向に話を持ってくの!そーゆーんだから、髪の毛伸びるの早いって言うんだよー!」 ぎし、とベッドに詰め寄ってきた景吾さんから、猛烈な勢いで逃げた。 べ、ベッドがでかくてよかった……! 「大会のこともあったし、ご無沙汰かと思えば、お前が怪我だろ?……こりゃまたしばらく部屋に閉じ込めること決定だな」 「あぁぁぁ…………やだよー……夏満喫したいよー……」 ずっと部屋の中とか……確かに涼しいけど、耐え切れないー! 結局、部活部活で、どこも行けなかったしなー……まぁ、仕方ないけど。 せめて、どっか買い物くらいはしたいよー。……多大な浪費をしない買い物限定だけど(じゃないと、心も財布も疲れる)。 「そうだな、ずっと部活ばっかだったしな……気分転換に、海でも行くか?もう、泳げやしねぇだろうが」 聞こえた声に、まずビックリした。 てっきり、ずっと監禁かと思ってたのに! 海へ行くことのお許しが出た!!(驚愕) 「ただし、無茶するのは禁止だ」 「無茶しない!」 「歩くときは、ゆっくりだぜ?」 「亀よりも遅く歩かせていただきます!」 「……なら、行くか。海の近くにある別荘で、1泊ぐらいして、気分転換しようぜ」 「行く―――!!」 ぃやったぁぁああ! 海の近くにある別荘とか!1泊とか!ちょっと突っ込みたいところもあったけど、それよりも嬉しいぃぃい!! 「いつ行く!?」 色々支度しなきゃ! 水着は着ないとして(着る体がない!)、動きやすい服に、サンダルに……日焼け止めもなくなってきてたから、買わなくちゃ! それらをそろえるための猶予期間を聞いたのだけど。 景吾はあっさり言ってのけた。 「今から」 ………………。 えぇええぇぇぇええ!?(時間差) 「行くぞ、立てるか?……抱いてやろうか?」 「め、めめめめ滅相もない!重すぎて景吾さんの腕が折れちゃうよ!……ってか、今から!?ホントに今から!?準備とかは!?」 「途中のデパートで買い揃えればいいだろ。お前、水着とかも持ってねぇし」 「水着!?着ないよ、そんなの!」 「(無視)必要最低限なもんだけバッグに詰めておけ。15分後に出るぞ、夕方までには着きてェからな」 「えぇええぇぇええっ!?」 怒涛の展開に、私の脳みそは爆発しそうだった。 とりあえず。 「ふ、服!!!」 少しでも買い物を減らすために、持っていけるものは持って行こうと行動を起こさなければ!(滝汗) そんなわけで。 「…………うそ……家出てまだ3時間しか経ってないよ……?」 3時間後には、海風が気持ちいいビーチ(プライベートビーチなので人もいない)にいた。 「物事は早い方がいいだろ?それに、夏の終わりに切羽詰っていくのもなんだしな」 ゆっくりゆっくりと砂浜を歩いていく。 景吾の言葉どおり、ちゃんと夕方までについてしまった。 そろそろ赤い色に染まりかけている空は、もう、夏の終わりを予感させている。 「……とりあえず今日は別荘行こうぜ。明日また、出てくりゃいいだろ」 「うん……」 混乱しっぱなしの頭を少し抱えて、別荘(本当に海の近くだった)に移動。 高級リゾート地だと有名なこの辺は、やっぱりそこかしこに高級そうな車が止まっていたりする。 でっかい別荘群に『うわー』と感嘆の声を上げながら歩いていくと……前方に見える、一際デカイ建物。 「け、景吾さん……もしかして、あれ……」 「あぁ、あれがうちの別荘だ」 やっぱり!!!(叫) これまた……めちゃくちゃデッカイ! もっとつつましく行こうよ、つつましく……!ただでさえ色んなところに別荘持ってるんだから! 「?足、痛むのか?」 思わず足を止めて呆けてしまったので、景吾が少しだけ早足で寄ってきた。 「ううん違う違う!また半端ないスケールの違いに戸惑ってただけだよ……」 いつまで経ってもついていけそうにないな……この感覚には(汗) なんだ、と景吾が息を吐く。 「いい加減慣れろ」 「きっと一生無理(キッパリ)」 言うと、景吾が少しだけ笑って、『バーカ』と呟いた。 差し伸べられる手。 「……景吾、もう後10歩くらいだよ?」 「いいんだよ。俺様が繋ぎてぇんだから」 問答無用できゅ、と握られた。 …………こーゆー強引なとこには、ちょっとだけ慣れたかも。 大きな手を軽く握り返して。 残り10歩を、ゆっくりゆっくり歩いていった。 NEXT |