先輩、こっちッス!……しっつれいしまーす!」

バターン!と大きな音を立てて、赤也が部室のドアを開けた。
手を引かれていた私は、強制的に部室へGO。

赤也越しに見える顔は、どれもこれも見覚えがある。

…………あぁ、どんどん泥沼に、ハマッてる気がする……!(汗)






突然入ってきた私達に向かう顔は、5つ。
ヒィ、銀髪に眼鏡に風船ガムに糸目に黒い肌……!(表現が酷い)

「切原くん、もう少し静かに……おや?貴女は……」

ギャ―――!ジェントルマン、柳生比呂士―――!
ど、どうして眼鏡キャラは、みなさん逆光シチュが好きなのですか―――!目が、目が見えない……!けど、これだったら、景吾に『目線は合わせてないよ!』って言えるか(違)

「なんじゃ赤也。先輩差し置いて、女子を部室に連れ込む気か〜?」

ペ、詐欺[ペテン]師仁王……!うわ、本物だよね……!?これでジェントルマンだったら、私ショックから立ち直れない……!

「でも、赤也の彼女にしちゃ、赤也の方が背ェ低いだろぃ?」

「俺より低い丸井先輩に言われたくないッス!」

「おいおい赤也……また問題ごとじゃねぇだろうな……?どっから連れてきたんだよ、その子……」

「まぁ落ち着けジャッカル。これが厄介な問題である確率は、7%程度とかなり低い」

「ホントか?その根拠は」

ジャッカルの疑わしそうな目に、柳が口元に笑みを浮かべた。

「彼女は氷帝学園3年の男子テニス部マネージャーだ。……今日のミーティングで言われたことを思い起こせば、彼女がここに来る可能性は、そう高くもないが、全くないわけではない。例の件で彼女が来たのならば、赤也が何か問題行動を起こしたのではないだろう」

データマスター、柳蓮二…………!やっぱり、どっかのデータ男(青がつく学園の子ね)と同じく、私のデータも収集済みですか……!
でも、例の件……って何……?書類関係のこと?

「やぁ、みんな、まだ帰ってなかったのか」

ドアの方から聞こえてきた柔らかい声に、ハッと部室内にいる人間全員の視線が、そちらに向く。
もちろんそこにいるのは、幸村と真田だ。
笑みを浮かべている幸村の後ろにいる真田は、部室へ足を踏み入れるや否や、カッと目を見開いて声を張り上げた(怖)

「お前ら、客人を座らせもせずに立ち話をさせるとは……たるんどる!早く椅子の1つも用意せんか!」

な、生たるんどる―――!(感激)

「うわっ、先輩、どうぞこっち座ってくださいッス!」

今日は雨だったからミーティングだったみたいだ。部室の中には会議用の机がドーンと置いてあった。その周りにはパイプ椅子があって、そこに部員達は腰掛けている状態。壁に立てかけてあったパイプ椅子を、赤也がバッと広げてくれた。

「あ、ありがとう」

「飲み物は紅茶でよろしいですか?」

「あ、は、はい……」

ジェントルマンだよ、ジェントルマン比呂士……!
気配り屋さんの紳士は、午後ティーのペットボトル(これが先輩からの差し入れってヤツだろう)から、紅茶を紙コップに注いでくれた。

「あ、ありがとうございます……」

「いえ、こんなものしかなくて申し訳ありません」

………………ジェントルマン、ココに極まれり!(何)
相変わらず逆光で(光源はどこ!?)目は見えないけれど、口元に浮かんだ笑みで柔らかく笑ってくれたことがわかる。
その笑顔に、思わず私も笑顔になってしまう。

もう、どうしてこの世界には美形ばかりなのかしら……!目の保養はバッチリよ……!

柳生の隣にいた仁王が、楽しそうにクツクツと喉の奥で笑った。

可愛い女子じゃのう……名前はなんというんじゃ?」

仁王がほい、とキャンディを差し出してくれた。
『ありがとうございます』と頭を下げて、受け取る。

「えと……氷帝学園3年、テニス部マネージャーのです。今日は顧問の先生から、こちらの先生に書類を渡すように言われて、学校に来させていただきました。……あ、それであの……これ渡すのは…………」

きょろ、と視線を動かしたら、幸村くん(呼び捨てじゃいけない気がしてきた)が手を少し上げた。

「あぁ、俺が預かっておくよ。多分、これに目を通すだけで済むとは思うんだけど……なにかあったら、また明日にでも連絡させてもらうよ」

「あ、よろしくお願いします」

ペコッと頭を下げて、書類を渡す。
幸村くんはそれを受け取ると、ロッカーにしまった。

……よし、それじゃ、そろそろお暇……。

「……さて、次は……俺たちの自己紹介だね」

「…………………………え?」

しょ、書類を渡してジ・エンドじゃなかったの……!?
驚きを込めて、幸村くんを見ると。

ニコリと微笑まれました。

………………無理っ!この笑顔に逆らうのなんて、無理!

何も言わなくなったら、幸村くんが再度ニッコリ笑って、口を開いた。

「俺は幸村精市。……ちょっと体の調子が悪くて、今はプレイしてないけれど……一応、立海大の部長だよ。実質的には今、コーチみたいな感じかな……」

「う、噂はかねがね……あ、あの……お、お大事に……」

「ありがとう。さて、次は真田かな?」

幸村くんが真田に視線を移す。

「…………真田弦一郎、副部長だ」

真田の視線は、微妙に私を外れて壁の方へ向いている。しかも、こ、声も低いし、え、不機嫌!?不機嫌なんですか―――!?
…………わ、私……何か悪いことをしましたか……!?

「あぁ、気にしなくていいですよ。真田くんは照れてるだけですから。……申し遅れました、立海大付属3年の、柳生比呂士です。どうぞよろしく」

「あ、よ、よろしくお願いします……」

「仁王雅治。3年じゃ」

「同じく3年の、丸井ブン太!シクヨロ!」

思わず私も『シクヨロ!』と言いそうになったけど……ここで言ったら、完璧怪しい人なので、ギリギリのところでやめておく。

「柳蓮二。……君が知っている、青学の乾貞治の幼なじみだ」

私が乾と会ったことも、データにあるんですか(汗)
あわわ、恐ろしい恐ろしい……!(ガタガタ)

「ジャッカル桑原。3年だ。……なんつーか……あんたも、ご愁傷様っつーか……こいつらと……」

「ジャッカル?(超笑顔)」

「……なんでもねぇよ」

ゆ、幸村さまの微笑みにより、ジャッカルさんは発言権をなくした模様ですよ……!
なんか、ものっそい力関係が見えた気がするんですが……!

にこやか笑顔のまま、幸村くんがくるりとこちらを振り向く。

「ところで……なんて呼べばいいかな?」

「えっ?えーと……うちの部員はみんな下の名前で呼んでますけど……」

「じゃあ、ちゃんでいい?」

「あ、は、はい……」

???なぜ呼び方……?
普通、他校のマネージャーの呼び方なんて、断ること……?
立海大付属と氷帝だから?全国レベルの学校同士、関わりを持てってこと?

「なぁなぁ、って呼んでもいーか?」

ぷぅ〜、と風船ガムを膨らませながら、立海の可愛い子ちゃん、丸井ブン太くんが挙手をしました。
この子も、可愛い……!(怪)

「全然構いませんけど……」

「サンキュ!あ、俺のことは好きに呼んでくれて構わねぇぜぃ」

………………呼び名運万歳!!!
一瞬にして、私の呼び方のことなんて頭から吹っ飛んでいった。
さぁ、ここでも、決心して言うのよ、

「じゃ、じゃあ……ぶ、ブンちゃんって呼んでも、いいですか……!?」

「おぅ!それに、同い年なんだから敬語はいらねぇだろぃ?」

やった―――!!!
心の中で大喝采!
最高!私の呼び名運最高!(ガッツポーズ)

「は、はい!……じゃなくて、うん!」

「じゃ、、改めてシクヨロ!」

あぁぁ、ジローちゃんと同じニオイ……!私ってば、可愛い笑顔に弱いのよぉぉぉ!

思わず顔が緩んでしいそうになるのを、仁王に貰ったキャンディを舐めて、なんとか口元が緩むのを誤魔化す。

あ、危ない危ない……!

ジェントルマン柳生が、おかわりの紅茶をさりげなく注いでくれて、キラリと眼鏡を光らせ、口を開いた。

さん、失礼ですが身長はどれくらいですか?」

「……えーっと、170センチくらい……かな。普通の女の子サイズよりも大分でかくて、可愛げないんですけど……」

「……俺は、そのくらいの身長の方が、話しやすくていいと思うが」

小さく聞こえてきた声は、今までずっと無言だった真田のもの。

……は、励ましてくれてる……?

ちらりと真田の方を向けば……バチ、と視線がかち合った……んだけど、ふい、ともう1度視線を逸らされてしまった。
でも、どうやら嫌われているわけでは……ないんだよね?(まだ不安)

「あ、ありがとうございます……真田くんや柳くんくらい高い男の子がいると、ちょっとだけ普通の女の子の気分になれます」

「俺らん中じゃ、そんな背なんて気にせんでえぇっと。可愛い女の子じゃけん」

「えっ!?そ、そんなことないですから……!」

仁王ってば、結婚詐欺師も目指しちゃってるの……!?
でも、これなら確実に騙されちゃう女の子多数だよ……!?

「いえ、本当にさんは魅力的だと思いますよ」

ジェ、ジェントルマン……!
フォローも完璧!可愛いじゃなくて、あえて『魅力的』って言うところがね……!(悲観的)
でも、美形にこんなこと言ってもらえるなんて、早々ないよ……!
やば……っ、口元が変な風ににやける……!

えぇい、もう思う存分にやけてしまえ、笑ってしまえ〜〜!!

「ありがとう!お世辞でも嬉しいよ〜」

この美形たちに、お世辞でも可愛いって言ってもらえてるんだ……!もう、感謝だよ……!

「お世辞じゃないんですけどねぇ……でも、その笑顔に免じて、今は、何も言わないでおきましょう」

「ほぅ……今の笑顔はデータになかったな……追加しておこう」

!?
笑顔までデータ!?一体何に使うんですか―――!

「ふふ……こんな笑顔をいつも見れる氷帝はいいね……羨ましいよ」

「ズルいッス〜!どーして、うちの部活にはこんな強面の男ばっかで、氷帝にはこんな超いいマネージャーさんがいるんッスか!世の中不公平だ!」

強面って……美形相手に何を言うの、赤也くん!
こんな美形目の前にして、そんなことが言えるのは……顔が整ってる証拠ですよ!
わ、私には恐れ多くてそんなこと絶対に言えない……!

あわあわと赤也を見ていると、ふとブンちゃんが呟いた。

「……お?誰か、バイブ音鳴ってねぇか?」

とたんにピタリと静まり返る部屋。
その中で確かに、ブー、ブー、とバイブ音が鳴っている。
…………そして、その場所は。

「…………私、だね……」

そう。その音は。
床においてある、マイバッグの中から聞こえてきてるのですよ……!

な、なんか果てしなく、嫌な予感……!

「あぁ、俺たちのことは気にしないで、出てくれて構わないよ」

「え、あ、ありがと……」

ゴソゴソ、と鞄の中から携帯を取り出す。
ディスプレイに表示されてるのは。

『景吾』

……………………あぁぁぁ、なんか、携帯の着信音が、怒りオーラを出してる気がする……!

さん、出ないのですか?」

「えっ、いや……」

出るのは怖いけれど、出なかったら出なかったでさらに怖い。
恐る恐る、通話ボタンを押した。

「……も、もしもし……?」

『……俺だ。もっと早く出ろ』

「う、うん、ごめん……えーっと、練習終わった?」

『……トレーニングだけだったし、早めに終わらせた……って、こっちのことはいいんだよ、お前、今―――「む?その声は、跡部か?」

……………………シーン。

真田の呟きと共に、景吾の声が、止まった。

……ヤバイ。
なんか、ものすごいヤバイ。

過去最高にヤバイ気がする。

『………………?』

「……………………………………………ハイ」

「いちいち、跡部に報告しなくちゃなんねぇのか?」

「マネージャーっつーのも、大変じゃけんの〜」

ブンちゃんと仁王の声も……きっと、高性能携帯では音を拾っているだろう。
………………No〜〜〜!!!

『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!』

「は、ははははははいっ!うわぁん!すいません〜〜〜!」

案の定聞こえてきた、景吾の怒鳴り声。
うわぁぁぁぁん!そもそも、なんであんな約束させられて、怒られなきゃいけないのかわかんないけど……とりあえず、怖い〜〜〜!!!

『……っ、すぐ行く!お前、今どこだ!?』

「えっ!?り、立海大の部室にお邪魔してるんだけど……でも、すぐって、景吾、学校じゃ……」

『お前迎えに、もう立海大前まで来てる。……部室だな?1分で行くから、待ってろ』

ブツッ。

通話の切れた携帯電話を片手に、私はしばし呆然とする。
……え?立海大前まで来てる?
1分で来る?

―――――――――ヤバイ、なにされるかわかったもんじゃない……!(今までの経験)

「………………うわー!!!ちょ、ちょっと、どっか逃げたり隠れたり出来る、場所は……!」

「どうしたんッスか!?先輩!」

「どっか…………どっか隠れられる場所ない〜〜〜!?」

「そうは言っても、この部室では……」

「いきなりどうしたの?ちゃん。落ち着いて」

幸村くんの穏やかな笑みに一瞬ほわっとしたけど……ダメ、落ち着けない〜〜〜!!!

「け、景吾が!景吾がどんな行動に出るか……!」

「……景吾とは、跡部のことか?」

「どんな行動って…………」

「ぶ、部室に逃げ場がなかったら、外に逃げ「!!!!!」

バンッ!

……………………………………………。

………………他所様の部室は、丁寧に扱おうね、景吾さん……(泣)

部室の扉を乱暴に開けて入ってきたのは、我らが氷帝、跡部景吾様。
目が、目が据わってませんか……?

とにかく。

…………こ わ す ぎ る … … ! 

固まった私の横で、真田が景吾を見てガタン、と立ち上がった。

「跡部、なぜお前がここに」

「よぉ、真田か……なんだ、幸村もいんじゃねぇか」

「久しぶりだね、跡部。…………で?うちの部室の扉を壊す勢いで、一体どうしたんだい?」

「あーん?…………迎えに来たんだよ」

「迎えって、の迎えかよ?」

ブンちゃんの言葉に、景吾がピクリと反応する。

「………………だぁ?…………随分、親しげじゃねーの……?」

ゆっくりと、景吾さんが私の方を向いた。
…………微笑みが、怖い……この笑顔、かつて見たことがある……。
そう、校内追いかけっこの時の、あの笑顔だ……!

「………………………………

「………………………………ハイ」

「……帰るぞ」

「……………………ハイ」

景吾さんに無言で手を引かれました。肩が抜けるかと思うほどの力で。
イヤァァァァァ、怒ってる!怒ってらっしゃるぅぅぅ!!

ズンズン、と部室の外へ歩き出した景吾に引きずられつつ、私は立海メンバーに顔だけ向けた。

「あ、あの……突然来て、お、お騒がせして、すみませんでした……っ」

「いや、構わんが……跡部は一体……!?」

「え、えと……その……」

……さっさと行くぞ」

「………………………ハイ」

景吾さんの有無を言わさぬ静かな声に、ハイしか言えないです。
ごめんなさい、真田さん。今の景吾さんは、幸村さんの笑顔に匹敵する笑顔です。逆らうなんてこと、出来そうにありません。これ以上の発言は、命取りです。ごめんなさい。

ものすごい力で手を握られて歩かされる中、柔らかい声が後方から聞こえてきた。

「…………跡部」

それは、幸村くんのもので。
そのときだけ、景吾の足がピタリと止まった。

ゆっくりと景吾が、後ろを振り返る。

「…………楽しみだね」

「………………提案なんか、するんじゃなかったぜ……っ」

苦々しく景吾がそう吐き捨てて、もう1度歩き出す。
なにやら意味深な会話だったけれども、私は突っ込んで聞く余裕もなく。

ど、どどどどどどーやって景吾さんの機嫌をとろう……!

そればかりを、考えていた。




Act.45は裏のため、次はAct.46に飛びます。
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