電車を乗り継いで、立海大付属の最寄り駅に着いたのは、もう5時半ごろだった。
…………ま、まだ練習してるよね……!?

ガサリ、とポケットから太郎ちゃんに貰ったメモを出して、駅から学校までの道順を確認する。
ザッと目を通してみれば、そんなに遠い場所でもないらしい。

…………うん、急げば5分で着く、かな?

もう1度ここへ来るのは、勘弁願いたい。……いや、ね、私の心情としてはもう1度来てもいいんだけど(というか、何度でも来たいんだけど……!)、部活出れないってのはキツイからなぁ〜……やっぱり、1日でも部活出てないと、気になって気になって……!

メモを見ながら、早歩き―――というか、軽く走り出す。
傘を使ってはいるものの、走ってる所為で雨が降りこんできて、制服を濡らす。……家帰ったら、ちゃんと乾かそう。

パシャパシャ、と水を跳ね上げながら走っていると。

「〜〜〜〜〜!?」

大きな声が、耳に飛び込んできた。
思わずビクリ、と足を止めてしまう。

少し先のところに、2つの傘。
どうやらこの人たちが、会話をしているらしい。

「〜〜!?〜〜〜〜〜〜!!!」

大きな声なのに、話してる内容が聞き取れないのは―――。

「か、勘弁してくださいッスよ〜!俺、英語苦手なんスよ!」

そう、英語だからだ。
どうやら、2人のうちの片方は、外人さんらしい。
でも、あんな早口でまくし立てられたら、きっと、ネイティブにしか聞き取れない―――。

「あっ、ちょ、そこの人!た、助けてくれないッスか!?」

「………………へ?私?」

「そう、そこの人!」

キョロキョロ、と周りを見回して、私しかいないことを確認する。
……ホントは急いでるんだけど―――まぁ、そんな時間かかるわけじゃないし。

え、英語得意じゃない私が、どれだけ力になれるかわからないけどね……!(汗)

「えーっと、私でよけれ……!?」

最後のところで声が思いっきりひっくり返ってしまった。

「どーかしたんスか?」

そう言って顔を覗き込んでくる人間。
その人物の髪の毛は、雨だからだろうか。私が見たことあるものよりも、更にウネウネしてて―――って。

あ…………あーかーやー!!!!!(絶叫)

え、どうして!?なんでここに赤也がいるの!?
っていうか、なんで赤也だって気付かなかったのよ、私……!いくら傘でほとんど見えなかったっていっても、ウネウネで気付こうよ……!(違)

「〜〜〜!〜〜〜〜〜!?」

「うわっ、わわ、あ、アンタ、英語得意ッスか!?」

「と、得意じゃないよ!で、でも……え、えーっと……と、とにかく……Please!Please Speak more slowly!」

このフレーズは、学校で何度も何度もネイティブの先生に言ったことがあるから、慣れたモンよ……!(自慢にならない)

私の言葉に、ハッと外人さんが口をつぐんだ。

「Oh……!Sorry……I want to go to Rikkai Hospital. Please tell me the way to there……!Please……!」

相当切羽詰ってるのか、まだ大分早いスピードだったけれど、なんとか聞き取ることだけは出来た。こ、これも氷帝での英語の授業の賜物……!

「な、なんて言ってるんスか……?」

「えーっと、立海大付属病院に行きたいみたい。場所、どこだかわかる?」

「あぁ、うちの病院なら、そこの角を右に曲がって、まっすぐ行けば着くッスよ」

「ありがと。……え、と……Turn to the right at the next corner. And go straight」

「Oh!Thank you very much!」

最後まで聞いたか聞いてないか位の速さで、外人さんは走っていった。
その後姿を見て、私たちは2人、ホッと息を吐いた。

「……す、すごいっスね……助かりました……」

「いえいえ……お役に立てたなら、良かったです……」

「超助かったッスよ……あ、俺、立海大付属2年の、切原赤也って言います。これも、なにかの縁ってことで」

ニカッと人懐こそうな笑みを浮かべる赤也。

随分前から、知ってます

…………とは流石に言えないので。
初めて知り合ったように、なんとか笑顔を作る。

「あ、私、氷帝学園3年の、です」

「氷帝……?東京の氷帝ッスか?」

「うん」

「へぇ〜……氷帝ってテニス部強いんスよね。俺もテニス部なんで、東京の学校でも氷帝と青学くらいは知ってるんスよ〜」

「あ、そ、そうなの?(汗) 私、テニス部マネージャーなんだよ〜」

「へっ!?そりゃまた、奇遇ッスねぇ〜。じゃ、今度の関東大会できっと会うッスね!」

「そうだね〜……と、そうそう!私、テニス部の顧問の先生に用があるんだ!」

赤也との衝撃の出会いで、本来の目的忘れるところだったよ!(汗)

「テニス部の顧問……?あぁ……たぶんもう帰ってると思いますよ」

「へっ!?そ、そんな〜!」

「うちの顧問は『名前だけ顧問』なんで、練習なんて見ないで帰っちゃうスよ」

な、なにぃ〜!?名前だけ顧問〜〜〜!?
…………あぁ、でも確かにマンガにも出てこなかったな……。

はぁ……どうしよう、無駄足かー…………。

「あ、でも、3年の先輩ならまだ学校にいると……先輩たちじゃ、ダメッスかね?」

…………3年の先輩。
真田に仁王に柳に……あぁ、とにかく、豪華メンバーがまだ学校にいらっしゃるのね!?

顧問……じゃなくてもいいよね、太郎ちゃん!テニス部に届けて欲しい、って言ってたもんね!(強引に納得させる)
赤也に預けるのはちょっと不安だから(失礼)、やっぱり3年生に預けるべき……だよね?っていうか、真田あたりに渡しておけば、顧問に渡したって言っても過言じゃない気がする……!

「あ、お礼に俺、部室まで案内するッスよ。うちの学校、無駄に広いから、初めてだとキツイと思うんで」

………………確かに、学校までの地図は貰ったけど、校内の地図は貰ってない。
確か、立海大付属って、小学校から大学まで揃ってるから、敷地面積がウチの倍ぐらいあるんだよね……!
…………確実に迷う!一人だったら、確実に迷うよ……!

「お、お願いします……っ!」

「任せてくださいッス!」

こうして、不思議な縁で、赤也と2人、立海大付属へ行く事になりました。

…………景吾さん、これ、むやみやたらとじゃないよ……!?
立海大テニス部にたどり着くためには、必要なことなんだよ……!

と、心の中で景吾に弁解しておく。






案内してもらったので、意外と早く立海大付属へ着いた。
赤也は人懐っこいので、笑顔で会話が弾むこと弾むこと。……赤目にならないと、すごい人懐っこい可愛い子なんだけどなー……どーして赤目になると、現代っ子になっちゃうんだろ。

「んじゃ、先輩って、200人の氷帝部員を1人で見てるんッスか!?」

「ん〜……そーゆーことになるかなぁ……でも、みんな、きちんと自分のことは自分でやってくれるから〜」

「それでもすごいッスよ!……いいッスねぇ〜、うちの部にも、先輩みたいなマネさん欲しいッスよ〜」

「でも、立海大にはいい部長さんと副部長さんがいるじゃん〜。去年の全国制覇だって、あの2人が立役者でしょ?」

って言ったら。
赤也が立ち止まって、真剣な目つきでこちらを見てきた。

先輩……誤解のないように言っておくッス」

「は、はい……」

「あの2人は、確かに強ぇけど……化け物以外の何者でもないッスよ!!!怖すぎるんですって!」

「……え、あの……」

「幸村部長は、一見優しそうに見えるッスけど、超笑顔で過酷なこと要求するし、真田副部長なんて、あれ、正体は絶対サラリーマンッスよ!ブレザーがスーツに見える中学生、いませんって!」

「あーそれは……って……」

「2人以外にも、柳先輩っていう目が開いてんだか閉じてんだかわかんない先輩もいるんスけど、その人もまた『赤也が遅刻をする確率、94.8%……』とか言って、全部計算に持ち込むんッスよ!?目測でストロークの速度を『うむ、時速153km/hか……』とか言い出したときは、俺、機械が人間の皮被ってんじゃないかって思ったッスよ!」

「あ、あは、あはは…………えーっと、あの、さ……」

「それから――――――」

ガシリ、と赤也の頭を、大きな手が掴む。
赤也の顔が、ピシリと固まった。

「……それから?続きを言ってみろ、赤也」

た……
たまらんボイス―――!!!(違)

「さ、真田副部長……!」

「ふふ……赤也の口は、1度、縫いつけたほうがいいのかな?柳あたりが、被服得意だったよね」

く、黒の魔王様―――!!!(怖)

赤也の背後から、突如として現れたのは、立海大付属の部長&副部長。
話に夢中になっていたから、赤也は気付かなかったみたいだけど……ちょうど2人の話題が上がった頃から、2人は赤也の背後に立ってたのです。
最初に真田がものすごい速度でやって来て、その後にニコやかな幸村様(様付けしたくなる)が優雅に歩いてこられたのです。超怖い…………ッ!(ガタガタ)

「うわー!!!す、すみませんすみませんすみません!!」

「そんなことを言っとるから、お前はいつまで経っても強さというものがわからんのだ!大体……」

クドクドと真田のお説教が始まろうとしたので、赤也が慌てて飛びのいて、私の手を引っ張った。

「わわわ、さ、真田副部長!そ、それよりもお客さんッス!お客さんッスよ〜!」

突然、赤也と真田の間に立たされた私は、真田と視線が合ってしまって汗がダラダラ。

ど、どうしろと!この状況でどうしろと!(絶叫)

そうしたら、真田がふいっと視線を逸らしてしまったので、さらに困ったことになってしまった。
え―――!視線そらされて、どうやって会話をしろと言うんですか―――!!

パニックになりかけてたら、幸村が真田に向いて何事かを言う。

可愛い子を目の前にして、いくら目のやり場がなくなったからって、いきなり視線を外したら失礼だろう?

……うぬぅ

「あ、あの……?」

「あぁ、すまないね。……赤也が迷惑をかけただろう?後でキツく言っておくから」

………………ニ、ニッコリ笑顔が怖いよ、幸村くん……!
キツくって……キツくって……!!!

「い、いえっ!あの、赤也くんには案内してもらって、すごく助かりました!……ので、あ、あんまり怒らないであげて、くだ、さい……!」

「……ほぅ」

先輩……!(感激の目)」

「そ、それで、あの!……私、氷帝学園テニス部マネージャーなんですけど、顧問の榊先生から、こちらのテニス部に書類を渡すように頼まれまして……」

あぁ、と幸村が思い当たることがあるらしく、ニコリと笑った。

「話は聞いてるよ。わざわざすまないね」

「いえ、こちらこそ、突然すみません」

鞄から書類を出そうとしたら、『まぁまぁ』と止める声。

「せっかく来たんだし、部室においでよ。ちょうど先輩方からの差し入れもあるから、少しはもてなせるから。ね?」

「へっ!?イヤ、そんなお構いなく……!」

「遠いところやってきてもらった客に、茶くらい出さねば失礼だろう。礼を欠けば、我が立海大付属の名誉に関わる。遠慮せずに来るといい」

「え、えーっと……」

「お願いします、もうちょっとだけ……!このままだと、俺、確実にこの2人に……!せめて、少しでも時間稼ぎを〜〜〜!」

仁王立ちの、真田。
ニッコリ笑う、幸村。
ウルウルお目目の、赤也。

「……………………………ちょ、ちょっとだけ、なら」

「よっしゃー!あ、先輩、こっちッスよ!」

「赤也!走ると泥が跳ねるだろうが!」

「泥を跳ね上げるのは構わないけど、俺たちにかけないでね?」

赤也に手を引かれ、問答無用に走らされる。


……………………景吾、この3人に、勝てるわけないじゃん!!!


こうして、立海大付属の部室に、お邪魔することになりました。




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