「今から、立海大付属に、この書類を届けてきてほしい」

「…………………………………………………え?」

太郎ちゃんの言葉に、思いっきり疑問符で返してしまった。






今日も今日とて、小雨がぱらつく嫌な天気。
梅雨よ、早く明けてしまえ〜〜〜!じゃないと、まともな練習も出来ないよ……ッ!

まったく……7月には関東大会始まるのに……!
抽選会は来週だから、まだ相手はわからないけれど……もしも原作通りにコトが進むんだったら―――初戦から青学だ。万全の体制じゃないと。私の知っている未来を変えるためには、やっぱり……部員達の努力しかないんだよね。私は、それを出来る限りサポートすることしか出来ない。

雨でテニスコートが使えないから、バスケ部とバレー部になんとかお願いして、体育館の片隅を貸してもらったのが、お昼休み。
これで、一応走ったりできる場所だけは確保できたので、授業中、休み時間フル活用で基礎練メニューを組んで―――今やってもらっているというわけだ。

「ハイ、次はシャトルランね〜。タイム計るから。25秒以内に入らなかったら、もう1回だからね〜」

げ〜、と嫌そうな声が聞こえてくる。
キツイだろうけど……ふふ、シャトルランは体力&下半身強化に効く練習なのよ……!

「はい、1列目並んで〜」

渋々と1年生が並び出す。
ピッ、と笛を吹いたら、太郎ちゃんが体育館の方から手招きをしているのが見えた。

ストップウォッチと記入用のシートを手の空いてる子に渡して、駆け足で太郎ちゃんの所へ行ったら。

「今から、立海大付属のテニス部に、この書類を届けてきてほしい」

とのお言葉。
一瞬、頭の中が真っ白になりました。

「り、立海大付属、ですか……!?」

「あぁ。……早急に届けなければならない書類なんだが、枚数が多すぎてFAXは出来ない。郵便だと時間がかかりすぎるのでな、直接渡して来てほしいんだが」

太郎ちゃんが持っている書類は、分厚い封筒に包まれている。
……うわ、重そう……!

じゃなくて!

立海大付属……!?

って、あれですよね、限りなく和服が似合う某皇帝さんとか、赤目になると、すぐキレる現代っ子なワカメちゃんとか、完璧閉じてるはずなのに、心の目かなんかで見えちゃったりするデータマスターとかいちゃったりするところですよね……!?



…………メッチャ見たいんですけど…………ッ!!!(大興奮)



「わ、わかりました!届けてきます!(鼻息)」

「うむ。……地図はこれだ」

ズシリと重たい書類と一緒に、メモみたいなものも渡される。
そこには、電車の乗り継ぎから、駅からの歩き方から……事細かに書いてあった。

「あ、ありがとうございます……っ」

「ではな。何かあったら、遠慮なく連絡するように」

「は、はい……っ」

「では……行ってよし」

ビシリ、と例のポーズを決めたあと、スーツの裾を翻して、優雅に去っていく太郎ちゃん。
しばらく、ぼーっとそれを見送り、書類の重さでハッと覚醒する。

り、立海大付属に行ける……ッ!(ガッツポーズ)

わたわたと、景吾のところまで走っていった。

「け、景吾っ!」

タオルで汗を拭きながら部員たちを見ていた景吾が、こちらを向く。

「なんだ?」

「これから、立海大付属に行ってきます……っ!」




しーん…………。

――――――しばらくお待ちください。




「……なんだと……っ!?」

「ちょ、ちょお待ち、ちゃん!一体、イキナリどないしたん!?」

話を聞いていたらしい、侑士たちレギュラーも、ダッシュでこちらに駆け寄ってきた。
えっ、ちょ、みんなトレーニング……!

、いったいどういうことだ……!?」

「え、えと……か、監督から、これを至急届けてほしいって言われて……」

分厚い書類を指し示しながら、そういうと、景吾が『あぁ……』と苦虫を噛み潰した顔をしながら、頷いた。どうやら景吾は、これがなんなのか知っているらしい。…………家に帰ったら聞いてみよう……って。

…………………なんなのみんな、こ、怖いよ……!(ガタガタ)

なんだかみんなが私をものすごい目で見つめている……!え、何、威圧感がたっぷり溢れてるんですけど……!私、なにかしましたか……!?

「えーっと……か、監督の頼みだし、私、これからちょっと行ってくるね……?(逃げたい)」

「あかーんっ!あかんあかんあかーん!ちゃん1人で行かせるなんて、不安すぎるわー!」

「へっ!?いや、一応地図も貰ったし、なんとかたどり着けるとは思うよ……?」

「違うねん、そないな不安やないね〜ん!」

なんだか壊れ始めた侑士。
その背後に見える時計に、少し焦る。

早く行かないと、立海大の先生が帰っちゃうかもしれない……!

「じゃ、私、行ってくるね!」

「あ、オイ、!」

「ん?」

呼び止められ、なおかつガシリ、と景吾に肩を掴まれて、視線を合わせられる。

「いいか、迎えに行くから電話しろよ。それに、何かあったらちゃんと連絡しろ」

「何かって……そんな」

「それから、無闇やたらと男に近づくな、話すな、目線も合わせるな」

「め、目線!?」

「わかったな?」

「え、えと、それは現実的に無理なのでは……」

わかったな?返事は」

「……は、はい…………」

景吾さんには、逆らえませ〜ん(泣)でも、目線も合わせないって……む、無理だよ!
どうして、景吾さんはこうやって無茶な注文ばかり言うんだー!
ど、どどどど、どうしよう……!(汗)

冷や汗をダラダラかいていたら、ちくちく刺さる視線に気がついた。
いつの間にか、部員も基礎練を途中でストップして、私達を見ていたのだ。

そこでハッと覚醒。
な、悩んでる場合じゃない……!

「ごめん、みんな、練習中断させちゃって……!外でボール打てない分、基礎体力強化しててね?」

はいっ!と全員の声が聞こえてきた。……うん、こ、細かいことは行ってから悩もう……!(え)
とりあえず、私は更衣室に向かって走り出した。

ちゃんが立海の奴らの目にさらされると思うと、基礎体力強化どころか、心の基礎力が削られてくわ……!あぁぁ、どないしよ、あの詐欺師とかに騙されたりなんかしたら……っ

侑士が後ろの方で、なにか言っていたんだけど……ごめん、よく聞こえなかった〜!




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