いつもより、少しだけ起きるのが遅い朝。 春休みに入って2日目。今日は日曜日だ。 さて、1日何をしよう。 庭に出て、たくさんいる犬と戯れようかな?それとも――― コンコン、ノックが聞こえる。 ……おかしいな、景吾が来るにはまだ早い時間だと思うけど。 「はーい?」 手櫛で髪の毛を整えて、返事をする。 ドアを開けて入ってきたのは、まだパジャマ姿の景吾。 「どうしたの?私、まだ支度が―――」 パジャマ姿の景吾の後ろに。 ダンディーな男の人と、エレガントな女の人が。 「……………………………………」 たっぷり5秒ほど互いに見つめあって。 ガバッ。 女の人に急に抱きつかれた。 ギャ――――――! 脳内悲鳴で、私の日曜日は、始まりを告げた。 Act.33 現れましたよ、張本人 エレガントな女性に抱きつかれたまま、私がおろおろしてると、景吾が間に入って引き剥がした。 「おふくろ!イキナリ抱きつくな!」 お、おふくろ……? おふくろ―――!? 「け、けけけ、景吾!?この方は……」 「…………俺の母親。……後ろにいるのが、親父だ」 な、なんと――――――!!! 「こ、こんにちは!おはようございます!はじめまして!です!いつも景吾さんにはお世話になりっぱなしで……!」 あぁぁぁ、頭が混乱してる〜〜〜!!! なんて言えばいいの!? 景吾のお父さんとお母さん! …………………。 私をこの世界に呼び寄せた張本人じゃないか―――!!! 「おはよう。ごめんなさいね、朝早くに」 「いえっ!私のほうがこんな格好で申し訳ありません!」 パジャマだよ!まだパジャマだよ、私!しかも、景吾とおそろいのパジャマ! 「私が景吾に頼んで、早くちゃんに会いたいって急かしたのよ。……下で待ってるわ。ゆっくり支度して来て頂戴ね」 ニッコリ笑って景吾ママと景吾パパが部屋から出て行く。 後に残ったのは、同じパジャマを着たもの同士。 まだあまり状況が飲み込めなくて、呆然としている私の隣に、景吾が座る。 「……朝一の飛行機で帰ってきたらしい。俺の部屋に来たかと思えば、お前に会わせろって言ってきたから、仕方なく連れてきた」 「そ、そうなんだ……あは、あはは…………景吾のお母さん、美人だね……お父さん、ダンディーだね……」 お母さんはまさしく『美人』という言葉がピッタリな、麗しき人。お父さんの方は、景吾をそのままダンディーにした、ホクロがないバージョンみたいな。 「夕方まで滞在して、夜にはまた飛行機に乗るらしい。……悪いが、今日はおふくろたちに付き合ってやってくれ」 「え……私は全然構わないけど、景吾だって久しぶりに会うんでしょ?私、邪魔になるから、どこか出掛けても―――」 「イヤ、それはない。絶対にない(キッパリ)」 「……えーっと?」 「…………」 「うん?」 「……今日は何が起こっても驚くな」 「は?」 景吾が、ものすごくマジメな顔。 …………何が起こってもって……一体……? とにかくパジャマ姿じゃ何にも出来ないから、シャワー浴びて着替えて。 景吾と一緒に下へ降りる。 食堂には景吾ママと景吾パパが待っていた。 「あ、あの!さっきはパジャマ姿で失礼しました!」 ぺこりと頭を下げると、ふんわり笑ってくれる。 「いいのよ、私たちこそごめんなさいね、驚かせて。……一緒に朝食、頂きましょう?」 景吾も頷き、2人して席につく。 ……なんだろう、いつも景吾と2人っきりだったから、人数が増えるとすごく嬉しい。 食べながら、会話が弾む。 「ちゃん、改めて自己紹介するわね。……跡部貴子、景吾の母です」 「私は、跡部景司。景吾の父親だ。初めまして、ちゃん」 「は、はじめまして。です……えっと……」 「元の世界でのことを……教えていただけるかしら?」 景吾ママが微笑みながら、そう言ってくれて、安心する。 私の自己紹介は、この世界にきて『作られたモノ』だから、事情を知っているこの2人にはすごく不自然な感じがしたんだ。 「元の世界では、18歳でした。…………えっと、元々スポーツ部にいました。それで、テーピングなどのことを知っていて……」 色々、元の世界でのことを話す。 なんだか、すごく久しぶりで、懐かしい出来事がたくさん蘇ってきた。 「…………そう……じゃあ、まず私たちから言うべきことは」 「ちゃん……私たちの都合で勝手にこの世界に呼び寄せてしまって……悪かったね」 頭を下げてきた2人に、慌てて首と手を一緒に振る。 「いえっ!そんなことは全然構わないんです!こっちの世界に来て……景吾……くんを始めとする、たくさんの人に出会えて、私はすごく嬉しいんです!だから、どうかお気になさらないでください!」 「そう言ってもらえると、こちらとしても気が楽になる」 微笑んだ景吾パパは、うっとりするほどダンディーで。 ……景吾も30年後にはこんな感じになるのかしら……? ちらり、と景吾を見ると、景吾はもくもくと朝食を食べている。 そういえば、景吾はさっきから一言も言葉を発していない。 私と視線がかち合うと、なんとも複雑そうな顔をしてきた。 …………景吾にしては珍しい。 ご両親と久々に会ったから、照れてるのかな? そのまま食事を終えて。 部屋へ戻るときに景吾ママが聞いてきた。 「ちゃん、今日は1日何も用事はないのかしら?」 「あ、はい、特には……」 その瞬間を、私は忘れない。 景吾ママの目が。 キラキラと輝き出したのを。 「そう!それじゃあ、お買い物に行きましょう!」 「えっ!?」 「私、娘と買い物するのが夢だったのよ!景吾は全然付き合ってくれないし!」 ガバッとそのまま抱きつかれる。 景吾ママは私より少し身長が低いくらい。 抱きつかれたまま、私は手をどこにやっていいのかわからなくて、焦った。 「あ、あの……おばさま……!」 「んー、おばさまなんて言い方、よしてちょうだい。『お義母さん』って呼んでvv」 What!? お、お義母さん!? な、なぜ――――――!? 「ちゃん、私のことは……コホン、『パパ』で構わないからな」 ぱ、パパ――――――!? パパって、PAPAですか!?発音はPAPAで合ってますか!?(混乱中) 「……やっぱり」 景吾が手を顔にやって、ため息を吐くのが見えた。 なに!?ねぇ、景吾、一体何が起こってるの!? 「明るくって、優しくて、しっかりしてて、景吾ともお似合いだし……理想の娘だわ!……やっぱり、あの占い師に頼んで良かったわね、あなた!」 「うむ。こんな可愛い娘が出来て、嬉しいなぁ」 む、娘!? えっ、ちょっと待って、確かに現段階での保護者は、跡部夫妻だけども! 「景吾、初孫は女の子にしてちょうだいね!?」 えぇぇぇぇぇぇえぇ!!?? ちょっと、中学生の息子さんに、初孫の話とかって、早すぎる以前に問題があるのでは!? ってか、なに!?今の展開でいくと。 初 孫 を 産 む の は 私 で す か … !? 「いや、男だ。私と景吾と孫でテニスをするんだ……!」 ぱ、パパ―――!戻ってきて〜〜〜!!! 「……だから言っただろ?最初に『何が起こっても驚くな』って」 「な、何が起こってもって……!」 こんなことだとは思ってなかったのだよ……! え、なに!?私、一体何!? 「ふふ、2人とも仲がいいみたいだし……ちゃんが『跡部』になる日も近いわね……!」 「跡部……いいじゃないか……!景吾はいいお嫁さんを見つけたな……!」 よ、嫁――――――!!! ぶっ飛びすぎ――――――!!! 「諦めろ、。…………この夫婦は、手に負えねぇ」 手に負えないって、あなたのご両親でしょう、景吾さん! しかも、なにまんざらじゃない顔をなさってるの!? 「絶対初孫は女の子!」 「いや、男だ」 まだ言い争いしてるし―――! っていうか、おばさま……そろそろ私から離れていただきたく……!豊満な胸が押し付けられてて、すごい落ち着かないんですが……! 「け、景吾……!」 景吾に助けを求めたら。 「最初は男に決まってるだろ、あーん?」 とか言ってるし! ……いや、オイ、待て! 「ほらっ、すぐに男同士で連携して!……ちゃんは、女の子が良いわよね!?」 「へっ!?あ、はいっ」 って、何返事してんだよ、私―――! いい加減、流される性格直せ、自分―――! 「うふふ、ちゃんは私の味方よ。あぁ、やっと女1人の状況から脱出だわ……!ちゃん、女同士、仲良くしましょうねvv」 ……Oh〜…………私、なんですか……。 跡部家の未来の嫁、決定なんですか……? そんな馬鹿な!(1人突っ込み) うきうきの景吾ママ&景吾パパ(呼び方はこれで勘弁してもらった)に連行され。 渋々ながら景吾も一緒についてきた。 そのまま超有名高級デパートへ。 「ちゃん、これどうかしらっ」 ……どうって、すごいビラビラなんですが……! えっ、こんなフリルとかリボンとかついたの、私に着ろって言うんですか!? 似合いませんから―――! そういうのは、小さくて可愛い女の子は着て、はじめて『あぁ、可愛いね』ってなるものなんですよ! 服だって、着る人を選ぶんですよ! 「いや、えーっと……」 「はコッチだろ」 景吾がまだまともな服を選んでくれる。 『まだ』ってつくのは、その値段が半端じゃないから。 「け、景吾……桁が違うから……!」 1つじゃない。2つほど桁が違います(つまり10万円以上) ふ、服に10万……!100円ショップで1000個物が買えて、チロルチョコなら10000個……!(庶民の考え) 「ちゃんには、スポーティーなのも似合うんじゃないか?」 景吾パパが選んでくれたのは、ボーイッシュだけどそれでも可愛い服。 ……あぁ、それはデザイン的には好きなんですが、やはり『値段』が。まぁ、さすがに2桁は違わなかったけど。 「あぁ、それならいいんじゃねぇか?」 「……そうねぇ。もっと女の子っぽいのがいいんだけど、それも悪くないわねぇ。じゃあ、それと」 !!!!! 景吾ママってば、ひょいっと軽〜く、景吾パパが選んだ服を店員さんに渡しちゃったよ! 「後、これとこれと……」 あわわわわ!いっぱいなんか店員さんに渡してる〜〜〜!! 「こんなところかしら」 景吾ママが呟いたときには、店員さんはたくさん服を持っていて。 …………も、もしかして。 「それ、全部カードで。跡部家に届けて頂戴」 「かしこまりました。お買い上げありがとうございます」 イヤ――――――!!!! ちょっと、今、なんて言った!? お買い上げありがとうございます!? 一体いくら買ったんだ―――! 「えっ、あの、そんな買っていただくわけには……!」 「あら、遠慮しないでvv……楽しいわねぇ、娘のお洋服選ぶのってvv」 いつの間にか、娘になってるし……! こ、この人景吾のお母さんだ……! 間違いなく、血が繋がってる……!強引なトコとか、そっくりだ……! 「さ、ちゃん、今度は女同士のお買い物よ!男2人は適当に回ってらっしゃい」 景吾ママが腕を組みながら、男2人に言い放つ。 諦めたのか、景吾はヒラヒラと手を振って、景吾パパはうむ、と頷いた。 るんるん、と鼻歌が聞こえてきそうなほど、テンション絶好調な景吾ママが私を連れて行ったところは。 下着コーナー。 …………私、なぜ景吾ママとこんなところに……(ガックリ) 「ちゃん、下着はちゃんとしたの買った?」 「えっ……えーっと……景吾……くんから、お金頂いて、自分で適当に」 さすがに、景吾と一緒に下着は見れなかったからね!(泣) お金だけもらって、ぱーっと安い下着を買いに行きましたよ! 「景吾のことは、いつもどおりの呼び方で構わないわよ?なんてったって、未来のお嫁さんだものvv」 違――――――!!! ねぇ、誰かこの人を元の世界に戻してあげて!? どうやら、景吾ママの頭の中には、完璧な未来予想図が繰り広げられてる模様ですよ! 「そうねぇ……でも、下着は何枚あっても困るものではないし。今日も買っていきましょう」 うふふ、と妖しげな笑みを浮かべて、景吾ママは私の腕を取って下着コーナーへ突入していく。 こ、こんなに下着コーナーに意気揚々と入っていく人、はじめてみた……! 「そうねぇ……まずは清純派の白でしょ?ピンクも可愛くていいわねぇ」 えっ、早っ。 ってか、私のサイズを一体どこでお知りになられたのですか……!? 「それから……景吾の好きな色は黒だから、黒も買っておきましょうねvv」 え――――――!! ねぇ、景吾ママ!それは道徳としてどうなの!? 息子に見せるための下着を、私は今その息子の母に買ってもらってるの!? そんな…………!(唖然) 「これもカードで。跡部家に送っておいてね」 No〜〜〜〜〜!!! お買い上げになってしまわれた……! な、なななな、なんと。 下着を買っていただいちゃったよ……! 「さ、これで準備は万端ね!」 なんの準備ですか……! 思考回路がそろそろショートしそうになってるよ……! 景吾ママに連れられ、デパート内にある、カフェテラスにいた景吾と景吾パパと再会して。 景吾ママはまた衝撃的発言。 「景吾、今度楽しみにしてなさいvv」 あなた、中学生の息子に何を言ってるんですか―――!!! 景吾ママ、景吾パパとはその後は、家で大人しく過ごし。 夕方になって成田空港へ向かった。 ……は、激しく疲れたよ……! 跡部家パワー、恐るべし……! NEXT |