「今日から春休み練習に入った。突然だが、明日からレギュラーは合宿、場所は、俺様の別荘だ。準レギュ以下は、今日と同じく通常の練習だ。以上、解散」

合宿……?
聞いてないよ、景吾さん!!!(泣)



Act.34  もっとく、言ってほしかった



「景吾!私、合宿やるなんて聞いてないんだけど!?」

「あぁ、言ってねぇからな(アッサリ)」

……………………おーい。
言ってないって……言ってないって!!

普通、合宿とかって、部長とか先生とかマネージャーとか(ココ重要)が一緒になって計画するものじゃないの!?
しかも、明日って!!!
急にもほどがありますよっ!

ガックリと肩を落とす私に、ポン、と肩を叩くのは、侑士。

「気にすんなや、ちゃん。いつものことやって」

「そうだぞー。跡部はいっつも突然だからな。気にしてたらキリがねぇっつの」

そ、そんな…………!
どこまで俺様街道をひた走るんだ、跡部景吾!

「まだ春休み、ってだけマシだよな……お前が来る前は、突然土日に合宿させられたもんな」

ど、土日に合宿……!それはキツイ……!

「うー……合宿って、たくさん寝れないからあんまり好きじゃないんだよねー……」

ジローちゃんの思考は、やっぱりそっち(寝ること)ですか。

「ハッ……ちょっと待ち……合宿っつーと……四六時中ちゃんと一緒におられる、っちゅーわけか!?」

「おっ、それいいな!侑士、頭いいなっ!」

「誰でも思いつくことや!…………俺、初めて合宿が楽しみになってきたわ」

と一緒にいられるなら、合宿もEかもね!」

「お前らはしゃぎすぎだぞ、激ダサだぜ。…………っし(小さくガッツポーズ)」

「もしかして……さんの手料理が食べられるんですか?」

!!!!!
ニコニコとチョタが爆弾発言。
て、手料理!?
が、合宿だから、私が作るのかな……!?
そういえば、私がこの世界にやってきたときの条件の中に。

『料理が出来る子』

ってあった!!もしかして、この時のため!?

「えっ、ちょっ…………私が作るの……?」

コクン×5(景吾と樺地くんは先に部室へ戻った)

「えっ……と、使用人さんとかいるんじゃ……」

の手料理がいい!」

なんて発言をしてくれちゃうんですか、がっくん……(ホロリ)

「…………………期待はしないでね」

「「「「「合宿最高!」」」」」

みんなの声がそろったけど。
…………全然最高じゃないですよッ!(泣)





家に帰って、慌てて料理の本を漁るけど。
…………そんなものが、天下のあとべっきんがむ宮殿にあるはずもなく。

これは……!買いにいくしかないッ……!

私はGパンにパーカーといういでたちで、財布を握り締めた。
あぁ、もう!もっと早く言ってくれたら……!

コンコン、と景吾の部屋をノック。

か?」

景吾の声が聞こえたので、うん、と返事をしてドアを開けた。
どうやら本を読んでいたらしく、景吾は椅子に座っていて膝に本が乗っていた。

「景吾、私ちょっと出かけてくるね」

「今からか?どこに?」

「コンビニ。料理の本を買ってくるよ……」

パタン。
景吾は本を閉じて立ち上がった。

「……俺も行く」

「えっ?何かいるんだったら、買ってこようか?」

クローゼットの中から上着を取り出した景吾は、それを着こみながら、言った。

「もう夜だ。お前1人行かせるわけには行かねぇだろうが、あーん?」

ボスッと景吾のニット帽を被らされた。
少し上のほうへずりあげる。
…………まぁ、確かに夜だけど、8時前だよ?

「どーせ車使う気はねぇんだろ?…………この辺は夜、暗くなるからな。……行くぞ」

手を握られて、部屋を出る。

「宮田、ちょっと出てくる」

「お車はよろしいですか?」

「あぁ、すぐそこまでだ」

「いってらっしゃいませ」

玄関を出たら……今日は冷える。
吐いた息が真っ白だった。

「冷えるな……」

「そうだね……ニット帽ありがと」

「あぁ」

手は、握られたまま。
右手は冷たいけど、左手はあったかい。

「しかし、なんで料理の本なんだ?」

「明日の合宿のためだよ……みんな、私に料理を期待してるらしいのさ……そりゃ、少しは出来るけど、バランスとかも考えなきゃだし。本がないと辛い」

「頑張れよ、マネージャー」

「…………景吾がもうちょっと早く言ってくれたら、練習したのに」

しーん。
…………無視ですかー。
まったくもう、本当に俺様街道突っ走っていらっしゃるんだから!!

嫌がらせにぎゅうっと手を力いっぱい握り締めてやった。

気づいた景吾もぎゅうっと握ってくる。
景吾の握力は相当なもので(しかも、向こうは右手、私は左手)

「い、痛っ……たー……景吾の馬鹿力」

「バーカ。俺様を誰だと思ってる」

「…………天下の跡部景吾様」

ふん、と笑って普通の弱さに戻った。

「あ、ついでにお菓子も買っていこーっと。食材はどうすればいいの?」

「向こうにマーケットがあるから、そこで買える」

「じゃあ、食材は買わなくてもOKだね、よかった」

重い荷物背負って合宿行くのって、やだし。
はぁ、帰ったら荷造りしなきゃ。大きな鞄も貸してもらわなきゃだし。

しばらく2人で合宿の場所とかの話をしているうちに、コンビニについた。

コンビニに入ってすぐ横にある本棚へと進む。
景吾も一緒にくっついてきた。手をやんわりとほどいて、料理の本を見定める。

「…………ずいぶん色々あるんだな」

「そうだね。……うーん…………どれにしようかな」

目についた1冊を手にとってみる。栄養やカロリーが書いてあって、かなり使いやすそうだ。
パラパラとページをめくっていると、後ろから覗きこんでいた景吾が、ぽそりと呟いた。

、肉がいい」

「え?お肉?…………そうだなぁ……豚の冷しゃぶ……豚肉ってたしか疲労回復にいいんだよね……それに、野菜つけて……うん、これにしようっと」

「後は何か買うか?」

「お菓子!」

お菓子のコーナーに行って、キャンディなどを買い込む。マーケットもあるって言ってたし……少なくてもいいかな。
2、3個お菓子を選んで、雑誌と一緒に持っていると。
ひょいっと景吾にそれを取られた。

そのままスタスタとレジに歩いていく景吾。

「えっ、ちょ、景吾!」

慌てて後を追いかける。景吾が財布を出していた。

「ちょっとまっ……景吾!これ、私が買うんだから〜!」

「いいんだよ。俺様が出す」

レジの前で言い争いをしている私たちに、店員さんが困った顔で、

「876円になります」

と言った。
私はすかさず千円札を出そうとお財布を開ける。

それより1歩早く、景吾が千円札をお財布から抜き取って出していた。

「1000円からお預かりします」

チーン。

「124円のお返しになります。ありがとうございました。またお越しくださいませ」

…………………………またやられた(ガックリ)
景吾はその124円を募金箱に全部入れると、帰るぞ、とぎゅっとまた手を握ってくる。
コンビニの扉を開けてもらいながら、私は呟いた。

「景吾はさー……なんでも買ってくれすぎだよー……」

「あーん?俺様が買いたいんだからいいんだよ」

「買いたい……って、違うでしょー……」

に関するものなら、なんでも買ってやる」

「………………まったくもー。……でも……ありがと」

景吾が返事の代わりに、ぎゅっと手を握ってきた。
それをおずおずと握り返して、景吾を見る。

「……しっかし、恐ろしいほど景吾とコンビニのビニール袋って、似合わないね」

「似合っても嬉しくねぇよ、こんなモノ」

さりげなく、荷物を持ってくれたりするのが、嬉しかったりする。
明日からは、合宿。



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