「い、いらっしゃい〜」 「お邪魔します」 「お邪魔しまーす」 どやどやと入ってきた人数は、やたらと多い。 広い玄関は、意外なところで役に立った。 Act.11 使用理由は、秘密のままで 入ってきたクラスメイトは、部屋を見るなりそれぞれ感嘆の声を上げた。 「うわぁ……すごい大きな部屋ね!」 「う、うん……まぁね」 「ここって、有名なあの跡部グループ所有のマンションでしょう?」 「(やっぱり有名なんだ!)う、うん……一応、遠い親戚のよしみってことで」 1つ1つにきちんと答える。 表面上は笑いながらも、内心は冷や冷やしているということが、俺にはよくわかった。 まったく……と呆れながらも、が決めたことだから黙っておくことにする。 「すごーい、この家具、全部オーダーメイドって言う、あのメーカーのでしょ!?」 「えっ?えぇぇ、そ、そうなの!?それは知らない……!」 「わぁ、景色もキレーイ!」 「まぁ、高層マンションだからね……」 「都内の一等地で、この広さなんてすごいわね……!」 「えぇと……ほ、ホントにご好意だからね……親戚のよしみで!」 「……でも、この広さで一人だと、寂しくない?」 不意にぽつりとクラスメイトが呟いた言葉。 ハッとそいつが口をつぐむのがわかったが、1度出た言葉を取り消すことは誰にも出来ない。 嫌な沈黙。 『何を言ってやがる』―――今まで黙っていた俺は、そう言おうと口を開きかけた。 「…………大丈夫だよ。こうして、みんな遊びに来てくれたし。それに、学校で騒がしすぎるからちょうどいいかもね」 だがそれより先に、沈黙を断ち切ったのは、ニッコリ笑ったの返答だった。 質問したクラスメイトも、ほっと安堵の息を吐く。 「いつも、さん騒ぎに巻き込まれてるものね」 「なーぜか騒ぎが向こうから歩いてきちゃうのよ……私は全然望んでないんだけど」 心底嫌そうに言うの言葉に、笑いが起こった。 …………ったく、相変わらずコイツはすげぇな。 何気なく、その場の空気を変えたを見て、俺は1つ息を吐いた。 人の雰囲気を良く読むことに長けているのは前からだが、その後のフォローも長けている。 「……オラ、これでわかっただろ?」 場が落ち着いたところで、俺はさっそく切り出した。 「一目見れば納得する、って約束だったよな?……もう用は済んだか?」 『用が済んだなら、さっさと帰れ』と無言の圧力をかけると、クラスメイトたちはコクリ、と唾を嚥下して頷いた。 「そ、それじゃ私たちはこの辺でお暇させていただくわね……さん、今日は突然お邪魔して、本当にごめんなさい」 「あ、いや、いいのに!ってか、ゆっくりしてって……」 早々に帰り支度を始めたクラスメイトを慌てて止めているの背後で、俺はクラスメイトたちに視線を投げかけ続ける。 俺と目が合った女は、チラと視線を外して答えた。 「いえいえ、いいのよ。お邪魔……だろうし」 「え、何が!全然そんなことないって!お茶くらい……」 まさか、しねぇよな? そんな意味を込めて女たちを見ると。 「ほ、本当にお構いなく!……そ、それじゃあまた学校でね!」 きちんとその意図を汲み取った女たちは、駆け足気味で去っていった。 呆然とがそれを見送っている。 「…………で、2人っきりというわけだ」 「…………けーいーごー…………」 恨みがましい目が俺に向けられた。 折角家に招いたのに、お茶も出さずに終わってしまった……。 そのことに、ガッカリ半分、嵐?が過ぎ去ったことに安堵半分で、複雑な心境の私は……結局、どちらともつかないため息をついた。 「」 2人っきりになったとたん、景吾が近寄ってくる。 当たり前のように背後に周り、当たり前のように手を回し、当たり前のように抱きしめられた。 「け、景吾さーん……」 「……この部屋、なかなかいいな」 「……なにが!ちょ、離して〜……身動きできな……っ」 ―――キスをするときに、ちゅ、とわざと音を立てるのは、人の羞恥心を煽る為なのだろうか。景吾なら平気でそういうことも計算しそうなのが、怖いところだ。 とにかく、ものの見事に景吾の術中にはまった私は、自分の顔に血が上るのを自覚していた。 いつもよりも長いキス。 ようやく離れた瞬間、私は色気もへったくれもなしに、ぷはっ、と盛大に息をついた。 「……もーちょい、色気のある声とか息遣いとかできねぇのかよ?色々教えてやっただろうが」 「イロイロって何!教えたって何!」 中学生男子にあるまじき発言に、私は顔を逸らしながら必死の抵抗を試みた。まぁ、全ては無駄だって言うのは、今までの経験上明らかだけどねー(遠い目) 案の定、そのまま私の意志とは無関係に、景吾さんにソファまで連れて行かれた。 ボスン、と座ったところで、肩を引き寄せられる。 ……まぁ、先ほどの抱きしめられたままの体勢よりは、大分マシだ。 「…………まぁでも、無事に終わってよかったよ」 そういうと、景吾は1度頷いて、 「……これっきり、ってのを祈っとくぜ」 「本当にね」 心の底からそう呟き、私たちは2人、顔を見合わせてどちらからともなく笑った。 「……静かだな」 「……そりゃ、2人っきりですから。他に声が聞こえたら大問題。招かれざる客は人間も人間じゃないのもお断り」 「バカ」 呆れたように笑う景吾は、どうしようもなくカッコいい。 こんな人が、私の隣にいるのがとても信じられない。 でも―――この人の隣は、とても心地いい。 「景吾」 「あーん?」 ポケットからごそごそと鍵を取り出す。 それを景吾の手に渡した。 「…………この鍵は、景吾に預けとくね」 私がこの言葉を言うことが、景吾に予想できなかったわけがない。 それでも景吾は思いっきり眉をひそめた。 「…………これはお前のもんだ」 「……うん。だけど、景吾に持ってて欲しいから」 じっ、と景吾は自分の手の中の鍵を見つめて―――ぎゅ、とそれを握り締めた。 「―――わかった。預かっておく」 「……うん、よろしく」 景吾の笑顔に、私は安心して頷いた。 「……さってと。どーする?もーちょっとここいようか」 「そうだな。今日は丸一日空けてあるし……のんびりしようぜ」 「誰かさんがみんなを早々に帰らせてしまったおかげで、出そうと思ってたお菓子も大量にあるし、同じく出そうと思ってたお茶もあるし」 「おまけにベッドもあるしな」 「そうそう、ベッドも…………って!」 ニヤ、と笑う景吾の手に、すでに鍵はない。 ガシリ、と空いている両手で掴まれて、超至近距離で目が合う。 「今日は仕方ねぇが……今度は、ダブルベッド入れとくか」 「それじゃ、ますます言い訳できなくなるじゃん!……じゃなくて!」 「もう2度と来させなけりゃいいだろーが。……ここだとまた、違った雰囲気でいいじゃねーか」 「違った雰囲気ってちょ……っ」 「やっぱり、キングサイズがいいか?」 「ちっが―――う!!ちょちょちょ……ちょっと―――!!!」 「……これからも定期的に使ってくか、この部屋」 「何に使う気!」 景吾は意味ありげな笑みを浮かべるだけで、何も答えなかった。 …………その後、たびたびこの部屋を訪れることになった。 あえて、その使用理由は述べないけど、ね……! NEXT |