景吾様がここ1週間で、ずいぶんとお変わりになられた。
そのキッカケとなったのが、1週間前に突如現れた、様。
彼女といる景吾様は、
年相応のお顔をしてらっしゃる。




閑話  事宮田のお仕事



、FXとFWどっちがいい?」

「はっ!?なにそのFなんとかって」

「いいから。FXとFWだったらどっちがいいんだよ」

「そんなこと言われても…………(ジッと見る視線に耐え切れずに)んー……Wの方がいい、かな?」

「わかった」

質問の意味がわからず、困惑顔の様だが、私には景吾様の質問の意味がわかっていた。
目配せしてきた景吾様に礼をして、部屋を退出させていただく。
そのまま電話へと向かい、大手電機ショップのお得意様専用番号を押した。
お得意様回路となっている電話番号では、すぐに重役へと繋がった。

『これはこれは、宮田様……本日はいかがなされました?』

「大型テレビの900-FWを購入したいのですが」

『ありがとうございます。跡部様のお屋敷にお運びしてよろしいのですか?』

「えぇ。……出来るなら、明日の昼に運んで頂きたいのですが」

『明日の昼、ですか?お望みでしたら、今日中にお届けできますが……』

「いえ、明日の昼でお願いします。……そうでなければ、気づかれてしまいますので」

『はぁ?……承知いたしました。それでは、明日の昼、900-FW 1台を跡部様のお屋敷にお届けさせていただきます』

「よろしくお願いします。……あぁ、それと」

『はい?』

「………………ゲーム機をソフトとセットでお願いいたします」

『?…………承知、いたしました…………』

電話を切る。
さぞかし相手は不思議に思っていることでしょう。
跡部財閥がゲーム機を頼んだのだから。
これは、私の独断だが、きっと正しいに違いない。

景吾様も……様といらっしゃると、本当に年相応になられる…………。

クスリ、と笑ってしまうのは、なんとも微笑ましいからです。





翌日、予定通り昼間に運び込まれたテレビは、様の部屋に設置されました。
わざわざ昼間を選んだのは、様が学校へいっていらっしゃる時間を見計らってのことです。
何事においても遠慮がちな彼女は、テレビを見たら、全力で拒否するでしょうから。

に見つからないうちに設置しておけ』

それは景吾様のお言葉。
そのお顔は、なにかを企んだ悪戯っ子のようで。
普段は大人びていらっしゃる景吾様にしては、珍しく少し子供っぽさが出ておられた。

ギィ、と屋敷のドアが開く。

「ただいまー」

景吾様と様がお帰りになられたようだ。
玄関まで出迎えると、景吾様の視線が私へ向いた。

『全て済んでおります』

と言う笑みを送れば、楽しそうに少し微笑まれた。

「おかえりなさいませ、景吾様、様」

「あ、宮田さん!ただいま帰りました!」

「いかがでしたか、今日は」

「はい!今日もむちゃくちゃ楽しかったです!」

「お前はいつも楽しかったって言ってるな」

「だって楽しかったもん。…………あ、景吾……後で、ドイツ語の宿題……一緒にやろー?」

「一緒にやるったって、お前ほとんど俺に聞いてるじゃねぇか」

軽く会話をしながら、階段を上っていくお2人。
私は、自分の口元が緩んでいくのを止めることが出来なかった。

様が部屋に入られたら、どう反応なさるのだろう。

景吾様も同じお気持ちだろう。
悪戯が成功するのを待ち望んでいるお顔だから。

「じゃ、また後でー」

「あぁ」

2人は同時に部屋のドアを開けて中へ入られた。

1・2・3…………

バタン!!!

「み、みみみみみ、宮田さぁぁぁん!へ、へへへ、部屋に見慣れないものが…………!」

様の叫び声と共に、景吾様の部屋から盛大な笑い声が聞こえた。
ハッと振り返って、様は景吾様の部屋のドアを開ける。

「景吾―――!!!また……またやったでしょ―――!!!」

私もおかしさを堪えきれず、半分笑いながら景吾様の部屋へ赴く。
景吾様は、部屋の中で大笑いされていた。

「はっ……ははははっ……お前、反応良すぎ……ッ!!」

「反応じゃなくって……!なにあれ!なんであんな大きいテレビが私の部屋にあるの!?」

「だってお前、部屋にテレビないと不便だろ?だから、買ってやったんだよ」

「部屋にテレビなくても、テレビルームって言うれっきとした場所がこのお屋敷にはあるじゃないのー!!!あ、ああ、あんな大きいテレビ、きっと高いんだ!高いんだ―――!」

「ははっ……別に大したことねぇよ。気にすんなって」

「気にする!気にするよ!あんな大きいテレビ、電気屋さんでしか見たことないもん!」

「お前がFWがいいって言うから、あれになったんだぞ?」

「Fなんとかって、それだったのね!?」

もっと早く気づけばよかった―――!と半泣きの様を見て、また面白そうに景吾様はお笑いになる。
そして、私に気づくと、

「宮田、ご苦労だった」

と労いのお言葉を掛けてくださった。

「いえ。…………それで景吾様、勝手ではございましたが、ゲーム機も届いております」

「ほぅ?…………、喜べ。ゲーム機もついてるぞ」

「な、ななななな…………なんって贅沢を……ッ!」

「ドイツ語の宿題、一緒にやってやるから。終わったら、一緒にやろうな?」

そう言って、笑われた景吾様は。
年相応の、男の子のお顔でした。





次の朝、いつもどおり景吾様を起こそうと部屋に入ったら、どこにも景吾様の姿が見当たりません。
もうお起きになられたのか、と一瞬思いましたが、ふと思い当たることがあり、すぐその場を後にします。

隣の部屋―――様のお部屋に入ると。

「すー………すー……」

ベッドの端で、寄り添うようにして眠られているお2人の姿が。

テレビ画面はゲームオーバーのままで。
ゲームをやりながら眠ってしまわれたのは、一目瞭然でした。

様寄りに布団がかかっていらっしゃるのを見ると……最後まで起きていたのは景吾様のようですね。
景吾様が、眠ってしまわれた様に、なんとか布団をかけたのはよかったのですが……ご自身も眠気に耐え切れずに、そのまま一緒にお眠りになられた、というところでしょうか。

2人が寄り添うようにして寝てらっしゃるそのお姿に、やはり口元が緩んでしまいます。

安心しきって寝ていらっしゃるお2人を起こすのは、大変忍びないのですが……これもお仕事です。

寝ていらっしゃるお2人にそっと近づきます。

「おはようございます、景吾様、様。朝ですよ」


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