人差し指と、中指を一定の角度で開いて……

「ん〜?おかしいなぁ……」

首を捻りながら、特訓中。





「……なにやっとるん?ちゃん」

練習の最中、特にすることもなかった私は、ある特訓をしていた。
休憩でコートから出てきた侑士が、そんな私を見て、とことこと寄ってきた。

「あ、侑士〜……ねぇ、どうしても出来ないんだけど」

「なにがや?」

「…………氷帝名物」

なんや、と侑士がおかしそうに笑った。
……そんな笑わなくても。

だってさ〜、やっぱり氷帝テニス部の一員(マネージャーだけど)としては、ぜひとも習得しておきたいところじゃん!?

「どこがおかしいんだろ……『行ってよし』」

右手で形を作るんだけど……やっぱりどこかおかしい。
太郎ちゃんが来るたびに、じっくりと観察して(コラ)、人差し指と中指の角度もちゃんと目に焼き付けたんだけど……あ、後はどこがおかしいの……!?やっぱり雰囲気!?あの重厚な雰囲気と色気を出さないとだめなんですか……!?

「あぁ……ちゃん、親指がおかしいねん、親指。親指にも角度あんねんで〜」

「へっ?」

笑いから脱出した侑士が、目に少し涙を浮かべながら(泣くほど笑ってたのか……)、手を伸ばして、ポーズをしたままの私の右手に触れた。

「親指は……こう」

侑士が、私の親指の角度を直してくれる。
おっ、らしくなった!

「あぁ、なるほど〜!」

「……おい、なにやってんだよ」

背後から聞こえてきた声。
誰かなんて、振り向かなくてもわかる。

「景吾。……っと、わぁ!?」

ぐい、と手を引かれて、景吾の方へ倒れこみそうになる。
思わず転びそうになるのを堪えた。
もう……急に引っ張らないでくださいよ、景吾さん!

「……なんやねん、跡部。邪魔すんなや」

「テメェ、何、の手ェ触ってんだよ」

「別に、俺がちゃんの手ェ触ったかて、お前に不都合はないやろ?」

「俺様のモンに触れるだけで、不都合が起こってんだよ」

「意味わからん。それに、俺はただ、ちゃんに教えてやってただけや。なぁ?」

「えっ!?」

2人の黒々しい雰囲気に飲まれていたら、イキナリ話を振られて、おかしなくらいキョドってしまった。
あぁぁ……もうイヤ……!誰か私に、冷静沈着なキャリアウーマンタイプの素敵な女性になれる薬をくれませんか……!(無理)

「……変なこと、教えてねぇだろうな?」

「お望みなら、教えたってもえぇけど?なぁ、ちゃんvv俺、自分で言うのもなんやけど、結構上手い「死ね

ガス、と景吾さんの長い足が侑士にヒットする。
…………景吾さん、その長い足の使いみちが、違うと思うのー……。っていうか、何が上手いの、侑士さん……!?ここは、深く突っ込んだら怖い答えが返ってきそうだから、やめておこうか……!

「お前の休憩は終わりだ!さっさとコート入れ、バーカ。……宍戸!こいつの相手しろ!」

向こうで休憩していた亮が、『げ』と嫌そうに顔をしかめた。

「なっ……権力横暴やで、跡部!」

「こういう時に使わないで、いつ使うんだよ。……オラ、さっさと行ってきやがれ(ニヤリ)」

「くっ……ちゃん、また色々教えたるからなー!」

「さっさと行け!」

渋々侑士がコートに向かって歩いていった。
残ったのは、私と景吾さん。
…………えーと……微妙に、2人にしてほしくなかったんですが……!

「……で?あの野郎に何教えてもらってたんだ?」

「えーっと……その……氷帝、名物を……」

部活の最中だというのに、ずずい、と顔を近づけてくる景吾さん。
近い……近いよ、その距離……!
つつ、と1歩下がったら、わかってたように景吾さんが離れた分の距離を詰めてくる。

「氷帝名物?…………あぁ」

コレか、と景吾が指を例のフォームに変えた。
…………くっ……どうしてこの人は完璧に太郎フォーム(違)を身につけてるのだろう……!

「ねぇ、なんでそんなにすぐにパッとできるの?やっぱり慣れ?」

まだ角度やらなにやらあやふやだから、私はパッと1回で太郎フォームにならない。
何度もやっているうちに慣れるんだろうか……。

「……ったく、別にそんなもんできなくたっていーだろうが」

クシャ、と景吾が髪の毛を1度撫でてくる。
…………でもさぁ、氷帝男テニの一員としては(以下略)
大体、原作読んでたときから、習得したかったスキルの1つなのよ……!

「……………………わかった。家帰ったらちゃんと俺様が教えてやる」

「えっ、ホント!?ぜひぜひお願いします!」

完璧な太郎フォームを身につけてるし、景吾は教え方も上手いから、きっとすぐにこのスキルを習得できる……!
ふふふ、待ってろよ、太郎フォーム!!!!!

「もちろん」

意気込んでいたら、いつの間にかまた景吾の顔がすぐ側に。
ぎょっとして立ち退こうとしたら、ぐっと頭を固定されて、麗しの唇が耳元を掠めた。

「…………報酬はお前でな。手取り足取り、丁寧に教えてやるからよ」

…………………………………………人は何度同じ過ちを繰り返せばすむのだろう、と。

私は人生の奥深さを思い知ったのでした(ホロリ)





その後、亮とラリーを終えた侑士が飛んでやってきたり、休憩に入ったがっくんとジローちゃんがやってきて、騒ぎが大きくなったり、と。
本当に、いつもどおりの練習風景。

ずっとずっと、みんなとこの時間が過ごせればいいのに。
部活がずっと続けばいいのに。

そう願わずには、いられなかった。


でも時というものは無常で。

――――――関東大会は明日、開かれる。




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