「おはようございます、景吾様、様」

「おはようございます、宮田さん」

いつもと変わらぬ朝。
変わらぬ会話。

だけど、いつもと違うことがある。

「…………いよいよ、だね」

そう、今日は関東大会初戦の日だということだ。







「…………とうとう、かぁ」

7月13日、午前8:30。アリーナテニスコート。
今日の試合の会場だ。

私たちは今、その入り口にいる。

平部員の子達は、先に会場入りしていて、横断幕を張ったり場所取りをしたりしているから、ここにいるのはレギュラーと準レギュラーだけ。

「ま、ほっといても時間は経つからな。……よし、全員揃ったな。行くぞ」

ザッ、と景吾が歩き出した。
まずは、選手登録をするために受付にいく必要がある。

、オーダー表」

「はいはい」

事前に太郎ちゃんから聞いて、書き込んでおいたオーダー表を景吾に渡す。
……やっぱり、太郎ちゃんが考えたオーダーは、原作通りのものだった。

ダブルス2 侑士とがっくん
ダブルス1 亮とチョタ
シングルス3 樺地くん
シングルス2 ジローちゃん
シングルス1 景吾

そして、控えが若。

確かに、今現在のうちのオーダーでは、これが1番ぴったりくるオーダーだろう。

侑士とがっくんは、今まではずっとダブルス1だったんだけど……亮とチョタペアに、ついこの間負けてしまったので、その点も考慮されて、ダブルス2になっている。でも、うちのレギュラーは、今まで侑士とがっくんしかダブルスプレーヤーがいなかったから、亮とチョタのダブルス固定は良い要素だ。

今までは、景吾を除いたシングルスプレイヤーの中で、順番にダブルスを組んでたからね……もちろん、個人個人の能力が高いから、その場で組んだペアでも十分強いんだけど……やっぱりダブルスはコンビネーションが大事。だから、固定ペアの方が戦略も広がるし、個人の実力以上の力を発揮できる。ダブルスはこれ以外にないオーダーだろう。

そして、シングルスの方は完全な実力世界。つまり、ジローちゃん、樺地くん、景吾の強い順ってこと。若も急成長したけど、まだ演舞テニスも習得途中だし、ジローちゃんの方が実力的には上だから、控えに回ったんだろう。

「じゃ、これね。平部員の子も待ってるし、私、先に行って試合の準備しておくから〜」

「あぁ。迷うなよ。それから、変なヤツに掴まんじゃねぇぞ」

「…………えーと、ハイ」

変なヤツって一体……と思いつつも、今までの経験から、ここは素直に返事をしておこう、と判断した。
気ィつけていくんやで、という侑士にヒラヒラと手を振って(みんな心配しすぎだよ……私って、そんなに信用ないの……?)、部員達が待っているコートへ向かった。

そちらへ向かってしばらく歩いたところで、立ち止まる。

――――――なんで私が震えてんだよ、バカ……ッ!

足が、言うことを利かなくなってしまったのだ。
ガクガク、と震えている足を、バシ、と叩いて喝を入れた。

何度も何度も言い聞かせたじゃないか。侑士にまで聞いて、不安を拭い去ったじゃん。
……やれることはやったんだ。後は、もう未来にたどり着いてみないと、わからない。

……頑張れ、頑張れ!

言い聞かせて、もう1度足に喝を入れて、コートへ向かって、ゆっくり歩き出す。

…………そう、運命のコートへ。






ケガをしている亮には、いつもより念入りにテーピングを施し。
疲れやすいがっくんの体調には、さらに気を使った。

なにかやり忘れたことを後で発見して、後悔しないように。
やれることを全て、全力で行った。

『まもなく試合開始時間です。青春学園、氷帝学園の選手は、第1コートに集合してください』

放送が入り、試合開始間近だということを知らせる。
試合が、始まる―――。

「?……、どうした?」

シューズの紐を結びなおしていた景吾が、立ち尽くした私に気付いて、声をかけてくれた。
近くでドリンクを飲んでいた侑士も視線を向けてくる。

「……ん、なんでもない。ちょっと試合開始だから、緊張してきちゃって。青学は、今までの相手とは違うし、さ」

「……バーカ」

くしゃ、と景吾が髪の毛を撫でてくれる。

「いいか、

肩を軽く掴まれ、目線がピタリと合う。
ゆっくりと景吾のキレイな唇が動いた。

「勝つのは俺たちだ。……なァ?」

最後の呼びかけは、いつの間にか周りに集まって来ていた、レギュラーたちに向けて。

「当たり前だぜ。んなことわかんねぇとは、激ダサだな、?大体、お前が調べてきた青学のデータだってあんだろうが」

「そうそう、跡部にみっちり練習させられたしよ!、俺のプレイ、見ててみそっ!」

さん、まだ引退なんてさせませんよ?」

「次こそ俺の試合、見てくださいよ、先輩」

「勝つのは氷帝……です」

「へへ、不安になるなんて、バカめ〜」

うりゃうりゃ、とジローちゃんが少し背伸びをして髪の毛をぐしゃぐしゃにしてきた。
直そうと思ったら、すぐにぽん、と頭に乗った手が2つ。

「……忍足、貴様、手ェどけろ」

「なんでやねん。俺かてちゃんの髪の毛直してあげたいわ」

と、景吾と侑士の2人のおかげで、あっという間に髪の毛は元に戻った。
そしたら侑士が、改めてこっちを向いた。

ちゃん、勝つんは氷帝やで」

「…………うん」

「まーだ、不安そうな顔しとるなぁ……そや、俺がコートで一番に『勝つんは氷帝』って言うたるわ。それ、ちゃんと聞いとき」

「………………了解」

そういうと、侑士はニコ、と笑った。
後ろで見ていた景吾が、ドカ、と侑士を蹴る。

「なにすんねん、跡部!」

「腹が立っただけだ。……、もしコイツらが負けて、俺様が出ることになったら……俺様の美技を、これでもかってほど見せてやるぜ、あーん?」

「うわ、絶対跡部まで回さんようにしよーや」

「うんうん、がんばろーな」

なんだか、みんながあまりにもいつもどおりだから、少しずつ緊張もほぐれてきた。
…………私が出来る、最高の仕事を。
今、ここで出来る、最大限のことを。

「…………よしっ。そんじゃー、最終確認!どこか痛いところとかはない?あるなら、今のうちだよ?」

そういうと、みんなニコッと笑って

「「「「「なしっ!」」」」」

「そっか……なら……」

景吾に習ってからというものの、練習し続けたあのフォーム。

「行ってよし、だね?」

ピシッ、と太郎フォームに指を開けば。
一瞬みんながきょとんとした。

…………外したか………………?

ちょっと不安になっていたら。
最初にまず、プッ、とジローちゃんが噴出し、続いてがっくんや亮へと笑いが伝染して、結果みんな大爆笑。
………………なんだよー、やってみたかったんだよー、1度は。今回こそは完璧だったハズだよ?何度も何度も練習したんだから。

みんなが大爆笑している中、一足先に笑いから脱出した景吾が、ぽん、と頭に手を乗せてきた。

「…………行ってくる」

「……うん、頑張れ!!!」





『それでは、青春学園と氷帝学園の試合を始めます!』




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