なんだか無性に。

ポテトが食べたい。






あぁ、食べたい。なんだか、ジャンクフードが無性に食べたい。
跡部家のご飯に不満があるわけじゃない。むしろ、おいしすぎていつも感動してる。
ただ、一応ずっと庶民で育ってきたからには、突然庶民っぽいものが食べたくなるときもあるわけで。
そーゆー時は、時々シェフに言って、めちゃくちゃ庶民の食べ物を作ってもらうときもあるんだけど(この間は突然焼きソバが食べたくなって、作ってもらった)。

今日は無性にジャンクフードが食べたいんです。

「どーしたんだよ、ー。元気ないぞー?」

コート内で悶々としていると、休憩中のがっくんがピョコピョコ寄ってきた。
あぁ、可愛い……vv

「んー、ちょっとねぇ…………なんだか無性にポテトが食べたくって」

「ポテト?」

「うん、マックのポテト。最近そーゆーの食べてなくってさ……1度食べたいと思ったら、無性に食べたくなってきちゃって」

「あぁ、わかるわかるー!なんだかマックとかって時々、無性に食いたくなるよなー!」

「なんか、突然『食べたい!』って思うよねー!わかってくれて、嬉しいよ……っ!」

「なんなん?ちゃん、ジャンクフード食いたいんか?」

この話題に食いついてきたのは、がっくんと同じく休憩中だった侑士。

「なんか、今日は無性に……あぁ、言ってたらますます食べたくなってきたー……」

「なら、部活終わったら一緒に行かへん?マックなら、学校の近くにあったやろ」

「いいな、それ!なぁ、、行こうぜ行こうぜ〜!」

「行く!そして食べるとも、ポテトを!」

「決まりやな。……じゃ、着替え終わったら、そのまま行こか」

こうして、学校帰りの寄り道決定〜。






「お待たせしました〜。……と、結局みんなで行く事になったのね」

待っていたのは、レギュラー全員。若もいる。

「岳人があかんのや。コイツ、ポロッと言ってしもたから」

「つい嬉しくて……」

「忍足さん、黙ってるのはいけませんよ?(ニッコリ)」

「そうだぜ、せこい真似すんなよな」

「……わかった。わかったから鳳、笑顔で言うのやめてくれんか?」

はは……チョタ、確かに笑顔だけど、オーラが黒い。
目が笑ってないよ、チョタ……。

「おい、、帰るぞ…………と、なんだお前ら?」

部室を一番最後に出てきた景吾。
ガチャリと鍵を閉めて、勢ぞろいしてるメンバーに驚いていた。

は今日、俺らと一緒にマック行くんだぜ、マック!だから、お前は1人で帰ってろ〜!」

「その通りや。跡部、今日はちゃんもろたで。自分はジャンクフードなんて口にせんやろ?てなわけで、ほな、さいなら」

侑士が私の肩に手をまわして、くるりと方向転換させる。
なんとなく口を挟めなかった私は、そのまま流されて歩き出しそうになり―――。

ガシリ。

景吾に捕獲されました(当たり前)

「おい、待て」

「いたたたたっ(泣)」

景吾さん、思いっきり掴んでるでしょ!痛いですよ!(泣)

「なんやねん跡部。さっさとちゃんの手ぇ離「俺様も行く」

…………………………What?

ピキーン、と全員が全員、固まった。

……なにこれ。新しい景吾の技?
「俺様の言葉に凍りな」?
………………って、そんなバカな!(1人ノリツッコミ)

固まらせた張本人、景吾はというと、樺地くんにラケットバッグを持たせたまま、スタスタ歩き出した。

ベシッと私の肩を掴んでいた侑士の手を弾き飛ばし、さも当然という風に、私の肩へ手をまわす。
そして、スパッと言い放った。

「おい、何してる。行くんだろ?」

ハッ……(みんな覚醒)

「えっ、ちょっ、景吾、本気!?マックだよマック!」

「そうだぜっ!?パリのなんたらシェフとかが作るんじゃなくて、バイトの男とかが作ってる、ハンバーガー食いに行くんだぜ!?」

「どこどこ産の最高級牛肉とかやないんやで!?ミンチになって、冷凍加工されとるやつやで!?」

「それくらいわかっている」

憮然と答えるけど―――
わかってないっ!わかってないよ、景吾っ!

小さいころから、毎日毎日、跡部家の食卓で育ってきたんなら、ジャンクフードには耐えられないと思うよッ!?ここのところ、ずっと跡部家の食事を食べてる、私なら断言できるッ!

跡部家の食事は、とにかくスゴイ……ッ!一つ一つが丁寧に、シェフたちによって作られている。おやつだって、全部手作りだし……!とにかく、ジャンクフード、食品添加剤なんて言葉とは正反対に位置してるんだって……!

「け、景吾……っ……無理しない方が……ッ」

が行くんだったら、俺様も行く。1度、ジャンクフードを食べてみるのもいいだろう」

よくないよっ!

私の突っ込みは却下され、結局レギュラー全員でマックへ行く事になってしまった。





「えーっと……フィレオフィッシュのセットで……あ、サイドメニューはポテトで……ドリンクは、オレンジジュースでお願いします」

店員さんにそう告げると、0円で有名なスマイルで返された。あぁ、スマイル0円最高……!(何を言うか)

「ハンバーガー2つとー、チーズバーガー1つ、それにポテトのMとコーラで!」

とんでもない注文が隣から聞こえてきて、思わずぎょっとする。
隣で注文をしているのは、がっくん。
……えっ、ちょっと待って、それ全部1人で食べるの!?

「がっくん、それ1人で食べるの!?」

「そうだけどー?……あ、やっぱチーズバーガー2つにしときゃ良かったかなぁ」

「えっ、更にそれ以上食べる気なの!?その体の一体ドコにそんなに入るの!?」

「部活帰りだし、チョー腹減ったしな……いっつもこんなもんだぜ?」

「そのかわり、金はないから、安いヤツばっかやな」

「なんだよー、侑士だってケチケチするから、いっつもハンバーガーとチーズバーガー大量購入じゃんかー!」

確かに、反対側のレジに並んでいる侑士も、さっき『ハンバーガー2つチーズバーガー2つにウーロン』って言ってた。
男子中学生の胃袋って、一体どうなってるの……!?

渡された私の分のトレイを持って、席に移動する。
席を取っていた亮、チョタ、景吾、樺地くんとバトンタッチ。

「なんだよ、。それしか食わねぇのか?」

さん、それでお腹いっぱいになるんですか?」

…………亮やチョタにもそんなことを言われた。
え、これ普通の量だよね……?普通の人はこれでお腹がいっぱいになるから、セットメニューになってるんだよね……!?

、それ、なんだ?」

景吾は初めて見るらしく、じぃっとトレイを見つめてくる。

「えーっとね、フィレオフィッシュのセット」

「ほぉ……忍足の野郎が大量に持ってるヤツは?」

「あれはハンバーガーとチーズバーガーだよ」

「……どれが美味いんだ?」

ど、どれって言われても…………。
景吾の舌に合うものなのか、これは……?どれを言っても、当たりがない気がするんだけど……!

「跡部の口に合うやつなんか、わからんよなぁ、ちゃん?……ほな、こっち座り」

「どさくさにまぎれて、を隣に誘うな。……まぁいい。樺地、なんでもいいから買って来い」

結局樺地くんかよっ!

それでも、樺地くんは素直に『ウス』と返事をしてレジに向かっていく。
……景吾の口に合うのが、果たしてあるだろうか。

私は結構、マックの味好きなんだけど……やっぱりこれって、育ちの違いだよね……!

カタン、とトレイをテーブルに置いて、景吾が手を引っ張るので、結局景吾の隣に腰を下ろす。

「……また跡部ばっかりや……」

「侑士、すねんなよ〜。……でも、跡部んちって、一体どんな食生活してんだ?」

「お前らとそんなに大差ねぇと思うが?」

「…………シェフがいる時点で、大差あるって」

がっくんの言うことに、私は心の中で大きく賛同しておいた。

「……家庭料理とかは出んのか?」

「んー……出ることには出るけど、和食は少ないかも。西洋の家庭料理とかは結構出てくるんだけどね。私は名前も知らない家庭料理なんだけど」

昨日は……国名さえ覚えていないところの家庭料理だった。トマトベースで、美味しかったけど。
和食は……あんまり出てきたことがないなぁ。

「あ、でもこの間は、肉じゃが食べたくなって、出してもらった〜。……でもさぁ、景吾ってば、肉じゃがも知らなかったみたいで『……ポトフみたいな煮物だな』って言うんだよ?」

「他にたとえが見つからなかったんだよ。初めて見たからな」

「…………肉じゃがをポトフにたとえるって、無理があるだろ……」

……そうだよね、一般家庭に育ったら、肉じゃがをポトフにたとえることなんて、思いつかないよね……!

「肉じゃがかー……」

侑士が遠くを見つめながら、なにかをボソリと呟いた。

「いつか、ちゃんが作った肉じゃがを食う日が来るとえぇなぁ……ッ」

ガンッ。

とんでもない音がして、侑士の頭に灰皿がめり込む(痛)。

「この万年妄想伊達眼鏡。貴様の家に納豆1年分送るぞ、コラ」

灰皿を振りかぶっているのは、他でもない景吾さん。
け、景吾ダメだよ……灰皿は人を殴るものじゃないですよ……!?その使用方法は、2時間サスペンスの中でだけであって……本来の使用法は、タバコを吸う人にそっと差し出すものだからね!?(そっとする必要はない)

「……ったく……」

「……おーい、侑士ー……生きてるかー……?」

がっくんが、ゆさゆさと突っ伏したままの侑士を揺さぶった。
私も侑士の様子を伺おうとしたところで、第2弾の人たちが戻ってきた。

「……また忍足の野郎は何かやったのかよ……激ダサだな」

亮が1つため息をついて、ガタン、と席に着く。
樺地くんは、すっと景吾にトレイを差し出してきた。
乗っているのは、ベーコントマトバーガーのセット。あぁ、私、ベーコントマトとフィレオフィッシュで迷ったんだよね……!……結局、安いフィレオフィッシュにしちゃったんだけど(10円単位の差で決める庶民感覚)

他の人は、みんながっくんや侑士と同じ、ハンバーガーとチーズバーガーを大量購入。…………ちょっと、ジローちゃん。その大量に積み重なっているハンバーガーの数は、一体何個なの……!?

「もう食っていいよな〜?いっただっきまーす!」

がっくんがハンバーガーを手にとって、バクリとかぶりついた。
みんなもそれぞれ手にとって、かぶりつく。

私もフィレオフィッシュの包み紙を開けて、ぱくりとかぶりついた。
……あぁ、待っていたのよ、この味を……!

景吾も、みんなを見て、同じように包み紙を開けて、パクリと食べた。

………………どうしても反応が気になってしまう。

「………………景吾、大丈夫……?どうしても口に合わなかったら、残してもいいからね……?」

「………………まぁ、食べられない味じゃねぇ。庶民の味、だな」

そう言って、パクリ、と景吾がもう一口食べた。
……ほっ、なんとかお店の人にごめんなさい、の事態は免れたらしい。

「それはよかった。…………あ、ポテトポテト」

ポテトに手を伸ばして、これも口に入れる。
……ビバ、ジャンクフード……!あぁぁ、これほど、このポテトがおいしいと思ったことがあるだろうか……!?

「……、それと交換」

ずい、と景吾が差し出してきたのは、ベーコントマトバーガー。
それと言っているのは……フィレオフィッシュ???

「え?」

「味見」

あー……初めてだから、色々食べたいのかー。

「うん、いいよ〜」

景吾にフィレオフィッシュを渡す。
…………あれ?これってもしかして、間接チュー……?……なんて細かいこと、考えても仕方ないか。

「なっ……ズ、ズルすぎる跡部……!ちゃん、俺、ポテト食ってえぇ!?」

「うん、いいよー。食べて食べて」

「じゃ、俺がこっちの端咥えるから、ちゃんは反対側の端を――――――」

「忍足さん、寝言は寝てから言った方がいいですよ?(ニッコリ)」

…………ひゅ〜……………。

冷たい風が、一陣吹き抜けました。

チョタのフリーズな笑顔。

………………………………………怖い(泣)

「ちょ、長太郎、落ち着け?な?」

「いやですね、宍戸さん。俺は落ち着いてますよ?」

張り付いたような笑みが怖い。
思わずポテトを食べようとしていた手が空中で止まってしまった。

「ゆ、侑士!とりあえず謝っとけ!」

「す、すまん!」

「そんな、謝ってもらおうと思ったわけじゃないです。ただ、そろそろ忍足さんはお休みタイムなんですかね?と思って。……あぁ、俺が眠らせればいいのか」

「わー!すまん!」

ちょ、チョタが怖いよぅ……(ガタガタ)

「……、ほっとけ。……ん」

一口食べ終わったらしい景吾が、フィレオフィッシュを返してきた。

「どちらかというと、俺様もこっちが好みだな。今度、シェフに言ってみるか」

「さよですか……」

シェフが作るフィレオフィッシュ……食べたら、確実にマックのフィレオフィッシュが食べれなくなる。
その前にもう1度味わっておこうと、バクリ、とフィレオフィッシュにかじりついた。



ちなみに。

…………次の週くらいで、シェフ特製のフィレオフィッシュが出てきたよー……白身魚はひらめのフライで、タルタルソースはシェフ特製……お、美味しかったけどね……!




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