「いってきま〜す」

今日から合宿。
……色々頑張れ、私!!



Act.35  みんなのになること、してください



でっかい車に3時間ほど乗って、着いた先は跡部家別荘。

「…………でかっ」

木造の、まさしく『別荘』という風情の王道を貫く建物は、かなりでかかった。

「部屋は人数分ある。各自、荷物を置いたら着替えて降りて来い。コートに案内する」

ちゃん、部屋、どこにするん?」

「え?……私が先に決めていいの?」

「あぁ、ちゃんが1番先に決めてえぇよ」

うーん……そうすると……1番階段に近いほうがいいかな。荷物とか取りに戻ったりしたときに、無駄に歩きたくない。

「じゃ、1番手前の部屋」

「「「「「じゃ、俺その隣(にします)!」」」」」

5人の声が一斉にハモった。
樺地くんだけは、ぼーっとそれを見てる。
え……っていうか、私の隣の部屋、1つしかないんだけど……。

「……なんやねん、お前ら。1番最初にちゃんに部屋聞いたの、俺やぞ」

「バーカ、侑士、こういうのは早いもの勝ちってわけじゃねぇんだよ」

「長太郎……お前、ここは先輩に譲れよ、な?」

「嫌ですねぇ……先輩方こそ、後輩に譲ろうっていう優しい気持ちはないんですか?」

「俺、の隣の部屋じゃないと、眠れないCー……」

「ウソつけ!」

…………なんだか、漫才みたいで面白い…………。
これ、ほっといていいのかな……?

「お前ら、何やってる!……、お前手前の部屋だって言ってたな?隣は俺様の部屋にしたから、何かあったらすぐ来い。もうすぐに行くぞ」

「へっ?あ、う、うん、わかった」

「「「「「跡部!(さん)」」」」」

「あーん?なんだ、お前ら。さっさと部屋決めて荷物置いて来い」

「……ウス」

結局……1番強かったのは、景吾だったようです。





一応、服は氷帝ジャージ。
これが1番動きやすいし。

コートは2面ありました。これ、跡部家の持ち物なんだって。
少し離れたところに、もう1面あるらしい。……もうこーゆーので驚かないようにしようとは思うんだけど、やっぱり驚く。

柔軟をはじめるみんな。
滝くんは、肘の調子があまりよくないらしく、大事を取って休んでいた。
前から肘が痛いって言ってたからなぁ〜……大丈夫かな。
合宿終わったら、病院連れていった方がいいかな。

、柔軟手伝え」

「あ、はいはい」

よってレギュラーは7人なので、必然的に2人1組で行う柔軟では1人余ってしまう。
私は景吾の柔軟を手伝った。景吾は体が柔らかい。ぺたって体つくもん。……柔軟性って大事なんだよねー……。

「ハイ、終わり。頑張って」

「あぁ……ほら、お前も座れ」

「え?私はいいよ。動けばあったまるから」

「バーカ。お前も今日はテニスすんだよ」

…………………………What?

お前も今日はテニスお前も今日はテニスお前も今日は……(エンドレス)

「って、えぇぇぇ!?何言っちゃってるのさ、景吾さん!私はマネージャー……」

「いいから、座れ。…………ちっ……かってーな……」

「いたっ、いたたたたっ」

ぎゅむー、っと景吾に乗っかられて、私は柔軟をさせられた。
景吾がやわらかすぎるんじゃないの!?
……そりゃー、ちょっとはかたいかなー、とは思うけど。

「あー、跡部がにセクハラしてるー!!」

「人聞きの悪いこと言うな、ジロー!……次」

渋々開脚して、もう1度景吾に乗っかられる。
柔軟を済ませた私は、ちょっと汗をかいてた。
じゅ、柔軟だけでこんなに汗かくとは予想外だった……!

「今日は7人しかいねぇからな。お前も少し入ってやってもらう」

「勘弁してよ!それだったら、準レギュの子1人連れてくればよかったじゃん!」

「いいんだよ。別に大したことはやらねぇ。少しダブルスとかの相手になってもらうだけだ」

「大したことだよ!(泣)」

あわわわわ、レギュラーにテニスを習い始めて、まだ2ヶ月も経ってませんよ!?ゲームだって、平部員の子としかやってないのに!
どうして突然レギュラーのダブルスにお付き合いしなければなりませんの!?

「大丈夫だ。お前のフォローには俺様が入ってやる」

「それだったら、景吾1人でやったほうが、なんぼかマシだと思うよ!?」

「バーカ。それじゃ意味ねぇんだよ」

「意味!?意味ってなんですか!景吾さんはシングルスの選手でしょ!」

「……まぁいいから。練習始めるぞ」

よくな―――い!!(絶叫)
だけど、練習が始まるんだったら仕方がない……。

部活ノートをベンチに置いて、ドリンク作りに走る。
幸いこのコートのすぐ横に水道があるので、無駄な距離を走らなくて済んでよかった。
いつもどおりドリンクを作り、タオルを準備する。

今日は雑用をやる1年生がいないから、ボールやネットを準備するのも、私の役目。

みんながランニングをしている間に、ネットを準備。
ボールはコート内にケース(3個入り)を2つ置いておく。

「おい、じゃあ最初はボレーボレーだ」

ボレーボレーっていうのは、その名の通り、ボレーを2人でやること。
やっぱりそうすると1人余るから、私が入ることになる。

景吾に買ってもらったラケットを持って、コートに入り、余ってる子を探す。

「あっ、、俺とやろーよ!」

「ジローちゃんが余ってるの?」

ボレーの名手、ジローちゃん。
まぁ、ジローちゃんだったら、こっちが変なボールを返しても、ちゃんとしたところに返ってくるだろ……

「ほら、、こっちー……今度はそっちー!」

「って、ジローちゃん!?」

フォアにバックにボールが振られるんですけど!
あ、遊ばれてる!?私、遊ばれてる!?
……いや、コントロールの練習に違いない……!

、ボレー上手くなったよねー。俺、ここから一歩も動いてないCー!」

ニコニコ笑いながら、ジローちゃんは私の手が届くギリギリの所へ打ってくる。
つ、疲れる……!ボレーボレー、今まで平部員の子たちとちょこっとやったことはあったけど、こんなに疲れるなんて知らなかった……!

「ジ、ジローちゃんがわかりやすく教えてくれたからね……!っと……」

あ、危ない……話してる間にボールがどっか行っちゃうよ!
私がミスしてたら、ジローちゃんの練習になんないじゃん!頑張れ、私ー!

「次、少しずつ距離伸ばして、ラリーだ」

ぎょっ。そんなことまで私するのか―――!!

ネットを挟んで、極近い距離にいた私たちは、少しずつ後ろへ下がっていく。それと同時に、ボレーからストロークへ切り替える。ワンバウンドして返って来たボールを、また相手にワンバウンドで返すってヤツ。サービスラインを超えて、どんどん距離を伸ばし、最終的にはエンドラインまで下がって、ストロークラリー。

ヒィィィ、ミスしないように、ミスしないように……!

パコーン、パコーン、と何分間かラリーを続けて。

「……よし、次、クロスでのラリーだ」

今まで、私がジローちゃんと打っていたのは、ストレートのストロークラリー。
次はクロスということだから、逆サイドのコートにいるのは……。

ちゃん、ほな、いくでー」

「侑士か……わかった」

侑士が打ってきたボール。うっ、速い……!
なんとか打ち返し、またビシッと返って来た球になんとか食らいつく。
ゆ、侑士、ボールが厳しいよ……ッ!(泣)

「ほな、コイツはどうや?」

前にちょこん、と落ちる短めのボール。
ぎゃあぁぁぁあ、何してくれちゃってるんですか、侑士さん!
ダッシュでそのボールを取りに行ったら。

ちゃん、頑張りー」

ポーンと頭を越すロブ。
ヒィィィ!サドだ!この人サドだよ!!
それにもなんとか追いついて、振り向きざまにラケットを振って、返す。

「おー……よぉ追いつくなぁ」

「侑士!遊んでるでしょ!」

「遊んでへんて。ちゃんのためや」

「侑士のためになることをやってください!……こうなったら……」

私も侑士の真似をして、短めのボールを出す。
侑士は楽々それに追いつくと、アプローチショットを打って、ネットに出てきた。……ネットプレーをするつもりらしい。
ストローク対ボレーというのは、よっぽどストロークが上手い人じゃないと、ストロークの方が不利。圧迫感があるし、あんなところでドロップボレーなんてやられたら、ひとたまりもない。

侑士のマネをさせてもらい、ロブを上げて後ろに戻す。

「おっ……やるなー、ちゃん」

「侑士の馬鹿―――!!」

「馬鹿はないやろ、馬鹿は。アホの方がなんぼかマシやて」

マネージャーにこんな苦行を強いるなんて……!

「ラスト、その1球が途切れたら終わりだ!」

景吾の声に、侑士が反応する。

ちゃん、ちゃんがミスしたら、『侑士、大好き』って言うんやで」

「侑士がミスしたら、『様、ごめんなさい』って言ってもらうからね!」

パコーン、パコーン、とラリーをしながら、大声で怒鳴りあう。
いつの間に終わったのか、みんなは呆れて私たちのラリーを見に来ていた。

、頑張れよ!侑士なんかに負けるな!」

「岳人……お前、ダブルスのパートナーにそないなこと、言うんか?」

侑士がちらっ、とがっくんの方を見た。
チャーンス(キラリ)

バシッと渾身の力を込めてボールを打つ。

「おっ……と」

それでも侑士はなんとか反応して、少しゆるめのロブを上げてきた。

「あっ、やば……ッ」

そのまま私は前へ突っ込んで……

「スマッシュか?」

侑士が後方に下がってスマッシュを返す準備。
スマッシュはよく跳ねるから、後ろの方にいないと返しにくいからね。

けど。

「残念でした」

ポトン、とネットギリギリにボールを落として。

「あっ、ずっこい!」

「ふっ……人間とはこういうものよ、侑士……」

終了〜〜〜。
やったー!侑士に勝った―――!!(たった1回だけど)

さん、すごいですね!」

「チョター!!」

「忍足……激ダサだぜ……」

「ほっとけや、宍戸……絶対スマッシュ来ると思うやん、あんな絶好のロブ……」

の方が状況が見えてたな。確かに、あの場面じゃ、10人中、8人はスマッシュを打つだろう。……、スマッシュよく打たなかったな」

「あー……だって、私、スマッシュ嫌いだしvv」

どうにもコントロールがよくないんだよね、スマッシュ……ボレーの方がまだマシ。

「はぁ……せっかくちゃんに、言わそう思てたのに……」

「邪なこと考えてるからだぞ、侑士!」

「岳人の方見たのが間違いやった…………」

私は、侑士の方まで近づいていく。
ふふふん、さぁ、言ってもらうぜぇ。

「さぁ、侑士。約束だからね。『様』」

様、大好きやで〜」

「違っ、セリフ違っ!って、何抱きついて……!」

ガバッと侑士に抱きつかれたYO!
少し汗ばんだ体が、密着してる……って、違―――!!

「な・に・し・て・や・が・る!」

景吾が一言一言区切りながら、私と侑士を引き剥がした。
その後で、がっくんが侑士の脛に蹴りを入れていた……あぁっ、ダメだよがっくん!足はテニスプレーヤーにとって、命なんだから!

「……ったく……、今後も今の調子でな」

「今の調子って、だから私マネージャー……ハッ、ボトル!」

「あぁ、準備してあったからな、勝手に取って飲んだ」

「ご、ごめんね!?」

「別にいい。の練習に参加してるからな、俺たちも自分で出来ることは自分でやる。……わかったか、あーん?」

最後はレギュラーに向けて言った言葉。
はーい、とみんなが返事をした。

「少し休憩して……そうだな、まずは、樺地対宍戸、鳳対ジローだ。コートに入れ」

ふぅ……やっとマネージャー業に戻れる……。
みんなが飲み終わったボトルを持って、私はコートの出口へ向かう。

、どこに行くんだ、あーん?」

「え?あぁ、ドリンク新しいの作ってきて、そのままマーケット行って、夕飯の材料買ってこようかと」

「ドリンクはいいが、マーケットは後にしろ」

「でも、そうするとご飯が遅くなっちゃうよ?」

「構わん。買出しには俺らもついていくからな」

「え、いや、そんな……」

「お前1人じゃ、この人数分の食材は持てねぇだろ?いいから、ドリンクだけならさっさと行って来い」

…………なんなんだ、一体。
ゲーム形式の練習が始まった今、別に私のやることというのは、選手の健康チェックをするぐらいだ。

それに、買出しだって、別に持てない量でもないと思うし……いつものタンク&ボトルを持って激走することにくらべちゃ、楽だと思うんだけど?


なんだかこの合宿……よく掴めないなぁ……。


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