ダブルス2、ダブルス1と、ダブルスの試合が終わり、勝敗は1勝1敗の五分五分。
次の試合の勝敗で、先に王手をかけることが出来る。
なんとかしてこのシングルス3を取って、気持ち的に余裕を持ちたいところ。

マネージャーの私が、なんでかわからないくらい緊張しているんだけど、当のプレイヤーといえば、いつもと変わらない表情。
やけにそれが私を落ち着かせた。

「樺地くん、頑張って!」

「ウス」

シングルス3は、樺地くん対青学のタカさんの、パワー対決。






「景吾、ドリンク切れたから、私ちょっと行ってくるね」

樺地くんの試合がもうすぐ始まる、というところで、私はドリンクが残り少ないことに気付いた。
まだ試合も中盤だし、これから昼にかけてさらに暑くなる。すぐに水分補給が出来るように、ドリンクは常にある程度の量を確保していたい。
空になったボトルをかき集めて、ポカリの粉を装備。
準備を終えてから、コート際で指示を出している景吾に近づいた。

「1年にでもやらせるか?」

「ここの会場広いし、水場の位置、結構面倒くさいから、私行ってくるよ。その代わり、スコアを1年の子に取ってもらってくれる?」

「…………わかった。まっすぐ行って、まっすぐ帰って来いよ」

「…………『はじめてのおつかい』じゃないんだから……」

明らかに中学3年生に言うセリフじゃないでしょう……(それに中身は元々18歳)

色々言いたかったけど、手早く仕事を済ませるために、その場を立ち去る。
水場へ行く前に、樺地くんに近づいた。

「ちょっと行ってくるね。……樺地くん、頑張って!」

「ウス」

普段どおりの表情。
いつもの通り(と言っちゃなんだけど)緊張の『き』の字も見えないので、少し安心して離れる。
と、がっくんたちがゾロゾロと樺地くんに近づいていった。

「頼むぞ、樺地!お前とジローで試合決めてくれ!」

「ウス」

「ったく……お前らがだらしねーから、そんなんなるんだろーが。激ダサだな……ま、樺地、いつもどおりな」

「ウス」

「自分なら出来る。せやから、跡部に試合回さんように、頼むで……!」

「……ウ、ウス……?」

「樺地、頼んだよ。俺も跡部さんにはあんまり回したくないんだ(爽やか笑)」

「ウ、ウス……」

がっくんたちが樺地くんになにやら声をかけてるのを、ちらりと目にして、走り出した。






「………い………す……」

ダッシュで水場から帰る途中だった。
行きより重くなった荷物に、少し走るのに疲れ、歩いていると、前方から声が聞こえた。

「……なし…………だ……い……!」

小さな声だったけど、ピクリと私の耳が反応した。
……聞いたことある声よ、この声……しかも、かなりの重要人物!
高い声……女の子で、なおかつ私が知ってるような声は…………。

『まっすぐ行って、まっすぐ帰って来いよ』

………………一瞬景吾の声が頭をよぎったけど、しょうがないじゃない、通り道なんだもん!まっすぐ行ってまっすぐ帰ろうとした、通り道での出来事よ!

疲れてた足はどこへやら。
ガッツリ全力疾走で私は声の聞こえる方向(あくまでも通り道!)へ。

「放してくださいッ!」

ジャスト!ビンゴ!!ピンポイント!!!

竜崎桜乃さん、はじめまして、こんにちは!!!(壊)

「放して?おいおい、物騒なこと言っちゃいけねぇなァ?俺たちは、親切に道案内しようとしてんじゃねぇか。お嬢ちゃんが道を聞くからよ」

「あの、もう1人で探しますから……ッ……放して下さい!」

「おっとぉ?そうはいかねぇぜ?」

「おっとぉ〜?そうはいかないぜぇ〜?放してあげてくれるかな〜?」

「………………………あ?」

飛び入り参加でこんにちは。
ニッコリ笑いながら、桜乃の手を掴んでる男の前に立った。
……ふふん、イキがっていようとまだ中学生。中学生女子の平均身長どころか、男子の平均身長さえ越してる私よりもちっさいのよ……甘く見るなよ、縦に過度に伸びた私の身長!普通の女子中学生より怖いんだぞ!(威張るな)

「……っ……、さん……!?」

小さく聞こえた声に、思わず首だけ振り返らせる。

「え、どうして私の名前…………あー、後でその辺は聞くことにして……私のことを知ってるなら話は早い……!」

桜乃の腕を掴んでる男の手を、ぱし、と掴んで強引に引き剥がした。甘く見るなよ、マネージャーで鍛えてる握力!普通の女子中学生より(以下省略)

「ってなわけで、お知り合いなんだ。この子は私が案内するので、失礼します。どーもね〜」

ぺこ、と挨拶をして桜乃の手を取り、スタスタ歩き出す。
と、案の定後ろから声が聞こえた。

「って、オイ、待て、コラ!」

こーゆーのは無視に限る(キッパリ)
まぁ、これ以上何かしてくるようだったら、こちらにも考えが―――

「……おい、やめとけ!」

…………考え(ドリンクが入ったボトルを準備済み)があったんだけど…………どうやら懸命なる友人に止められたみたいだ。

「よく見ろよ!あのジャージ、氷帝のだぜ!?……噂の氷帝マネってのは、アイツだ……!」

友人A(勝手に命名)の言葉に、イキがってたヤツが『げっ』と息を呑んだのが聞こえた。

「アイツに手ェ出してみろ、氷帝のヤツら……っていうか、跡部に何されるかわかったもんじゃねぇって!」

「……あ、あぶねー……箕輪台の二の舞にはなりたくねぇしな……」

素敵に無敵に、氷帝ジャージは威力を発揮してくれたみたいだ。
っていうか、景吾さんのお顔はどこまで広いのよ!日本人の平均よりかなりお顔は小さいくせにっ!!(関係ない)

…………まぁ、助かったから、よしとするか。たまには役に立つじゃん、氷帝ジャージ!いつもは女子生徒のやっかみの的になるのに、ね……(遠い目)

「……あ、あのー…………」

ごちゃごちゃ考えていたら、結構な距離を歩いていたみたいだ。
桜乃が遠慮がちに声をかけてきて、ハッとそれに気付いた。

「うわ、ご、ごめんね!?ついつい考え事しちゃって、勝手にこんなとこまで引っ張ってきちゃって……!」

「い、いえっ!あの……ありがとうございましたっ!すごく助かりました……!」

「いえいえ、お役に立てたのなら幸いですよ(可愛いな、オイ……!)」

桜乃が動くたびに、ぴょこぴょこ揺れるおさげ……なにこの小動物ちっくな可愛さ!今までにはない部類の可愛さだわ……!

「あの……氷帝学園の、さん、ですよね……?」

おずおずと聞いてくる桜乃の質問に、私は大分緩んでいた頭のネジをきゅっと締めなおした。

「あっ、そうそう!どうして私の名前、知ってるの?どっかで会ったことあるっけ?(私は原作でお目にかかっていたけれども)」

「あの……前に青学にいらしてましたよね?男テニで他校の人がマネージャーやってるって、少し騒ぎになってたんです……」

「……………………あー………………」

まっずい…………思えばそうだよね、あの時って、かなり目立つことしてたよね……!他校のマネージャー……そんなん目立つに決まっとるわ!!あぁ……青学にもいらん敵を増やしたかもしれない……!(滝汗)

「すっごいテキパキしてて……私、自分がトロいからすごいなーって……(キラキラニッコリ)」

!!!!!!!!

ちょっと、何よこれ、何よこれぇぇぇ〜〜〜!!!!!
聞いてない、こんなの聞いてない!何、この可愛さ!これがモノホンの可愛さってヤツ!?画面上やら紙面上やらで見てたのより、倍……いや、倍以上可愛いんだけど!!さ、さすが原作上のヒロインは違うね……!選ばれし者だね!(落ち着け)

「あ、すみません、私ってば……あの、私、青学1年の竜崎桜乃っていいます!」

「(落ち着け、落ち着くのよ……!)ひょっ……」

こ、声が裏返ったぁぁぁ……(泣)

「コホン。……氷帝3年のです。よろしくね、桜乃ちゃん」

「はいっ、よろしくお願いします!」

……ぐはっっっ(吐血)

ごめん、いつだか私、杏ちゃんの方が好きだったとかいったけど、ごめん、嘘言った!嘘言った!!!!!(絶叫)
桜乃、可愛い…………ッ!!!
ダメ、私にはどっちかを選ぶなんて、そんな恐れ多いマネは出来ない……!

「ところで、あのー……お願いしたいことがあるんですけど、いいですか?」

「なにかな!?(なんでも聞いちゃうよ!?)」

「…………………氷帝と青学の試合会場って、どっちですか……ッ!?本当は、対戦校の方にこんなこと……でも、たどり着けないんです……!」

「いやいや、そんなこと全っ然気にしなくていいから!試合会場ね!?ちょうど私も戻るところだったし、一緒に行こうか!?」

「連れていってくださると、助かります……!」

違うところに連れて行きそうになった、心の中の悪の私を、正義の私がタコ殴りにした。
ナイス、正義な私!




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