恥ずかしすぎて、顔から湯気でも出てたかもしれない。 景吾は、今、満足そうにお茶を飲んでいた。 「……美味かった。デートん時は、また作って来いよ」 「うぅぅ……変なことしないなら作る」 「変なことってなんだよ」 「…………玉子焼きのヤツとか、ミニトマトのヤツとか」 「バーカ、あれのどこが変なんだよ。恋人なら、当たり前だろ?」 「…………当たり前じゃないよー……」 それとも世間一般の恋人って、こんなことを公衆の面前でイチャイチャとやってるわけ……!? よくそんな羞恥プレイに耐えられるね……!そんなの恥ずかしすぎるよ……! 「さ、て…………どうする?少し大人しいヤツにでも行くか」 「そだね……あ、映像アトラクションが近くにあるよ」 「それにするか。……向こうだな。じゃ、行く…………あ?」 景吾が立ち上がったところで、ピタリと動きを止めた。 かと思うと、ものすごい勢いでお弁当箱(小さくたたみ済み)の袋を持ち、私の腕を掴んで反対方向へ歩き出した。 「え、ちょ、景吾?映像アトラクション見るなら、反対……」 「……映像はやめだ。あっちには、近寄らねぇ」 「へ?」 わけがわからないまま、景吾に腕を引かれつつ、歩いていく。 ど、どうしたのさ景吾さん……!? 「…………―――っ」 ………………………………ん? 「――――――ッ」 「えっ、この声……」 「、幻聴だ。……この先に、水の上を走るコースターがあったな。それにするぞ」 「け、景吾……」 「折角のデートを邪魔されてたまるか。何も見なかったし、聞かなかった。オラ、行くぞ」 「えぇっと……」 「ッ!」 ドーンッ!と腰の辺りに衝撃。 前につんのめりそうになったのを、景吾が支えてくれてなんとか堪えた。 「〜〜〜ジロー!危ねぇだろ!」 ドカッと景吾が腰にしがみついている物体―――ジローちゃんを蹴り飛ばした あぁぁ、ダメだよ景吾!ジ、ジローちゃんが……! 「いてて……ごめんって……に会えたから嬉しくって、つい……」 「つい、じゃねぇ!が転んだらどーすんだ!」 「うぅ……ごめんね?」 「い、いや、それはいいんだけど…………」 な、なぜジローちゃんがここに……? 「………………おい、忍足。まーた、テメェの仕業か、あーん?」 ジローちゃんの後ろから、ぞろぞろと現れたのは。 ……例のごとく、レギュラーたち。 ドーンッと今度はがっくんが真正面から抱きついてきた。 「ー!……って、いってー!何すんだよ、クソクソ跡部!」 ボカッと景吾ががっくんを殴ると(痛)、そのままズカズカと1番後ろにいる侑士に近づいていった。 ぐいっ、と襟を掴んで、怒りの形相で詰め寄る。 対する侑士はふいっ、と視線を逸らして飄々とした態度。 あぁぁ、ケンカはやめてください……! とか思いつつも、あまりの怖さに近寄れなくて、私は抱きついているチビーズの頭を撫で撫で。 「……オイ、どーいうつもりだ……ッ」 「いややなぁ、どーいうつもりも何もないて。偶然や、偶然」 「…………どこで知りやがった」 「だーかーらー、俺らも開校記念日なら遊園地空いとるかと思て、来ただけやて」 「…………テメェ、いい度胸じゃねぇか、あーん?」 「偶然やもん。別に、跡部とちゃんのデートを邪魔してやろうとか、あわよくばちゃんと一緒に観覧車に乗ろうとか、思てへんて」 「……今すぐこの場で殺されてェか、忍足…………。ちっ、どこから漏れた……」 「ふっ……俺の情報力をなめたらあかんで……跡部が遊園地のチケット入手しとることなんざ、すぐに伝わってきたで」 「……ストーカーか、貴様」 ズオォォ、とどす黒いオーラを撒き散らしている2人を尻目に、チビーズの頭を撫でながら、チョタと亮に目を向ける。 「チョタと亮も……みんな、今日は家でお休みじゃなかったの?」 「忍足さんに電話で起こされましてね……ちなみに、車は俺の提供ですよ。日吉は『馬鹿らしい』って言ってきませんでしたけど」 「若……たまのお休みくらい、ゆっくり過ごしたいだろうしね……」 多分、正解は若だと思うよ……? 「なぁ、……そろそろアイツら止めないとヤバくねぇか?」 亮がいがみ合ってる2人を指差す。 いい男同士のいがみ合いってさー……かなり人目を引くんだよね。 「わかってんだろうな、俺とのデート邪魔した代償はでかいぜ……?」 「ちゃんの為やったら、俺はなんぼでも頑張れるで……!」 「テメェ、その執着心をテニスに生かしゃいいだろうが」 「ちゃん限定や、こんなん」 ……相変わらず、低い声でボソボソと言ってるから何を言ってるのかは聞こえないけど。 そろそろ周りの人の目が危うい。 「あ、あのー、お2人とも……人が集まってきちゃうし……みんな、一緒に回ればいいんじゃ……」 「バカ、ッ……んなこと言ったら……」 「ほーら、ちゃんは優しいなぁ。……ほな、ちゃん、俺らも一緒に回らせてもらうわ。いやー、悪いな跡部。お邪魔やったかな?」 「……っ……シラジラしいっ……ったく……」 「やったー!嬉Cー!あ、ねぇねぇ、コーヒーカップ行こうよ!」 「おっ、ジロー、どっちが早く回せるか対戦しようぜ!」 「岳人には負けないCー!、俺の方乗りなよ!」 「えぇぇっ!?ってか、そんなグルグル回るのに、私乗るの!?」 「じゃあ、さん。俺とのんびり乗りましょうよ」 チョタならゆっくりのんびりコーヒーカップだよな……グルグル回されるのは、ちょっとね……ご飯食べたばっかりだし。 「あー、鳳ずりぃ!……仕方ねぇな、じゃ、侑士!お前俺の方な!」 「なんでこんなとこまで来て、岳人とペア組まなあかんねん。俺かて、ちゃんとのんびりコーヒーカップでえぇわ」 「忍足さん、定員オーバーですよ(ニッコリ)」 「……長太郎、俺もそっち行っていいか?」 「宍戸さんなら大歓迎です」 「…………………なんやねん、この待遇の差」 「…………結局いつもと同じかよ…………」 はぁ、と景吾がため息をついていた。 デート、って雰囲気はバッチリ壊れたけど……まぁ、良く言えば『いつもと一緒』って感じで。 先に走り出したジローちゃんとがっくんを、私も追いかけた。 結局みんなで色々なアトラクションを乗り倒し、そろそろ帰ろうかー、という時間帯。 景吾が、ボソボソとがっくん&ジローちゃんに耳打ちをしていた。 「(オイ、お前ら……これからすぐに忍足たちをここから引っ張り出せ。引っ張り出さねぇと、明日からお前らの分の筋トレ、5倍にするぞ)」 「(ゲッ……なんでだよ!)」 「(お前ら、俺様たちのデートを邪魔しやがったんだぜ?それなのに、こんな寛大な俺様を、怒らせてぇのか?あーん?)」 「(…………岳人)」 「(…………わかってるぜ、ジロー)」 「「(このまま跡部を放っておいたら、筋トレ5倍どころか、命とレギュラーの座が危うい)」」 ジローちゃんとがっくんが景吾から離れる。 ……何話してたんだろう? 景吾が、ニヤリと笑ってるのが……気になるんだけど。 「侑士、そろそろ帰ろうぜ〜。俺、新しいゲーム買ったんだけどさ、クリア出来ないから、手伝ってくれよ」 「なんやねん、岳人。そんなん自分1人でクリアし」 「……いいから、侑士、帰ろうぜ」 ガシッとがっくんが侑士の腕を引っつかむ。 「ちょお待て、何すんねん、岳人」 「すまねぇ、侑士!俺、あの跡部は怖すぎる!」 そう言うなり、がっくんが、自分よりも20cm高い侑士を引きずりだす。 えっ、ちょっと……どこにそんな力が!? 「岳人、跡部に寝返ったんか!?」 「違う!だけど、あの跡部だけは……無理だ!」 遠くから2人の声。 残ったジローちゃんが、亮の手を引っつかんだ。 「……宍戸、筋トレ5倍って言われたCー……むしろ、レギュラーと命が懸かってる気がすんだけど」 「ったく、その所為かよ……ま、確かに邪魔したしな。仕方ねぇ、長太郎。俺らも帰るぞ」 「あ、は、はい、宍戸さんがそう言うなら……さん、気をつけてくださいね?」 歩き出した亮を追いかけて、チョタが去っていく。 あっという間に、また2人に逆戻り。 「……景吾、もしかして」 「中々、あの2人も役に立つじゃねぇか」 「……………………なんか言ったのね……」 「別にたいしたことは言ってねぇよ。……アイツらが、どう捉えたかの問題だ。……、行くぞ」 景吾がぎゅっと手を握ってきて、また歩き出す。 もちろんその先には……大観覧車。 「ったく……折角のデートが台無しじゃねぇか」 乗り込むなり、景吾がはぁ、とため息をついた。ウンザリした顔。相当ストレスが溜まったのだろう。 それでも私はクスクス笑いが漏れてしまう。 「あはは、いつもどおりだったもんね……」 がっくんが暴走して私を引っ張っていき、覚醒ジローちゃんがそれに便乗して、侑士がツッコミを入れて……チョタと亮は傍観者。景吾は呆れてため息をついている。 いつもと同じ風景。 「でも……………すごい楽しかった。ありがと、景吾」 ここに来てからは、笑ってばっかり。 地区大会とかで結構疲れてたんだけど、それを忘れるくらい、楽しかった。 ふ、と景吾が目を細めて、手を伸ばしてくる。 頬に触れる、景吾の指。 「…………そりゃ、良かった」 近づいてくる顔。 ゆっくり目を閉じた。 唇に触れる感触は、いつもより甘い気がする。 キスの後に、当然のように抱きしめてきた景吾。 ……まぁ、まだ乗り始めたばっかりだからいいか。 か、係員さんに見られたら嫌だから、降りはじめたら離してもらおう……! 「……ま、お前の弁当食えたし―――満足しといてやるよ」 『もっと色々したかったんだけどな』と小さく呟く声。 …………色々って、ナニ……? 「今度来るときは、絶対2人きりだからな。…………忍足の野郎を、縛り付けてでも2人きりで来るぜ」 「し、縛り……?えーっと……ま、楽しみにしてるよ」 「あぁ」 景吾の顔がまた目の前に。 ちゅ、と軽い口付けの後に、深い口付け。 ちょうど、観覧車がてっぺんに達したときだった。 少し薄目を開いて見えたのは、景吾の顔と、キレイな夕焼け。 極上の景色に、もう1度目を閉じた。 NEXT |