木曜日、開校記念日。

私は昨夜から、厨房でハンスに手伝ってもらいながら、お弁当の準備をしていた。
け、景吾に食べさせるお弁当……!かつてないほど真剣かつ丁寧に下準備をしたよ……ッ!

翌朝、早起きして厨房の一角を借りて、作り上げていた。
色々面倒を見てくれるシェフたちにアドバイスをもらいながら、なんとかお弁当を作成にかかる。

メインは手軽に食べれるように、ベーグルサンドにした。
スモークサーモンとクリームチーズのお手軽サンド。ベーグルはハンスに作ってもらいました。
後は、小さめに切った、玉子サンドとハムサンド。バナナとチョコクリームのロールサンドも作った。これは一口サイズにカットしてある。

でももちろん、それだけじゃ足りないし、おかずもいるから……大きいお弁当箱にパンを詰めると、おかず作成に取り掛かった。玉子焼きとウインナーは必需品。ウインナーは、タコさんにして、うずらのゆで卵と交互に楊枝に刺した(ちょっとこれ可愛い)
後はポテトサラダを作って、それに茹でたブロッコリーとミニトマトを添える。

…………景吾さんに食べさせるのに、やっぱり庶民弁当(しかも簡単)……ッ……ごめんね、ローストビーフとかは無理……ッ!

デザートはイチゴ。よく水洗いをして、食べやすい大きさに切ってデザート用のタッパーに詰め込む。

「…………は、ハンス……これで、OK……?」

出来上がったお弁当を、ハンスに見せに行ったら、グッと親指を立てられた。
ほっと息をついて、蓋を閉める。

お弁当箱を袋に入れ、さらにそれを、大き目のバッグに丁寧にしまう。ここでお弁当が寄ったりしたら、今までの苦労が……っ。

なるべく水平に保って、バッグを持ち食堂へ。
食堂では、すでに景吾さんが席について、紅茶を飲んでいた。

「おはよ、景吾」

「あぁ。……弁当、作ってたのか?」

持ってるバッグを見て、景吾が聞いてくる。

「うん。……朝ごはん、食べてないの?」

景吾の前には、紅茶だけ。
フォークやナイフはセットされたままだ。

「お前が来るの待ってたんだよ。……座れ」

バッグを違うテーブルの上に置いて、私は景吾の前に座る。
座るとすぐに、いつもの朝食が出てきた。

「これ食い終わったら、行くぞ」

景吾が紅茶を置きながら、言ってくる。
うん、と頷いて、パクリとベーコンを食べた。





どうやら、車で遊園地まで送ってもらえるらしい。
じゃ、本当にすぐに出かけられるな……。
ご飯を食べた後、お弁当バッグを持っていこうとしたら、景吾がそれをひょいっと持った。

「……こーゆーのを持つのは、俺の役目だろ?」

「あ、ありがと……」

ニヤ、と景吾が笑う。

「…………楽しみにしてるぜ?」

Oh〜〜〜!!!
ど、どどどど、どうしよう……!そんな期待されても、庶民弁当……!
助けを求めて、厨房に目線を向けたら、覗き込んでいたシェフたちが、みんなグッと親指を立ててきた。
あぁぁ……そんな親指立てられても、自信が持てません〜〜〜……!

若干沈み気味で、デートがスタート。

車に乗り込んですぐ、早起きのせいで眠くなってきた。
あふ、と欠伸をしたことに気付いた景吾が、頭を引き寄せてくる。

「着くまで、寝てていいぞ?」

「んー……」

コツン、と景吾の肩に頭が乗っかった。
恥ずかしいけども……ごめん、眠い。

とろとろと襲ってきた眠気に、私はあっさり降参した。





…………ん?
なんか……苦しい。
息、出来ないぞ…………?

あまりの息苦しさに目を覚ませば、目の前にドアップの景吾の顔。

「!?」

え――――――!!!(大パニック)
えっ、何!?なんでこんなに景吾の顔が近くに……

「……んっ……!?」

ちゅーされてるよ―――!!!
景吾のちゅーでお目覚めですか!?
というか、苦しかったのって、景吾が唇塞いでたから!?

…………って、だから苦しいんだよ―――!!

ジタジタと暴れると、ようやく景吾が離れてくれた。

「……最高の目覚めだろ?」

ぜぇぜぇと肩で息をしながら、景吾を軽く睨む。
さ、最高の目覚めって、ちょっと違っ……息苦しいし、恥ずかしいし……ッ!

ちゅっ、ともう1度唇に軽くキスをされて、景吾がドアを開けた。
なんて鮮やかな……ッ……あぁ、運転手さん、そんな微笑ましい目で見ないでくださいッ!

、行くぞ」

ドアの外から景吾に呼ばれて、我に返った。
自分の鞄を持って、外へ出る。

いってらっしゃいませ、と運転手さんが言ってくれた。

お弁当を持った景吾は、スタスタと歩いている。
慌ててその後を追いかけた。
景吾が少し歩調を緩めた。その隙に追いつく。



すっ、と差し出された手。
それをぎゅっと握って、隣に並んだ。
前方に、券売り場を見つける。

「あ、券買ってこなきゃね」

「持ってる」

「…………へ?」

景吾がお財布(ちなみに、あれね。折りたためないブランド財布)を出して、ヒラリと2枚券を出した。
な、なんて用意周到な……というか、一体いつの間に手に入れたのよ……。

入り口でその券を切ってもらい、中に入る。
広い園内には、まばらな人。やっぱり平日だから、人は少ないみたいだ。

…………うわ、なんかすごいわくわくしてきた……ッ!

、どれがいいんだ?」

「えーっとね……まずは、ジェットコースター!」

「じゃ、あれだな」

景吾が、目の前に見えるジェットコースターのレールを指差す。
ふふふ〜、楽しむぞ〜。

ジェットコースターは並ばずにすぐに乗れた。
2人並んで座れるので、景吾と隣同士に座って、ガタン、とスタートする。

ループ回転も含まれてるジェットコースター。どうしてジェットコースターに乗ると、人間って笑いたくなる衝動に駆られるのかな。
とにかく、乗ってる間中、笑いが止まらなくって。

「あ〜、面白かった」

「お前、笑いすぎ」

降りたとたん、景吾の拳がコツン、と頭に当たった。

「だって面白かったんだもん〜。……えーっと、次は〜……」

クイ、と景吾が腕を引っ張ってきた。

「……おい、。あれ行こうぜ」

景吾が指差したのは。

………………………ホラーハウス。

「…………あ、景吾。コーヒーカップあるよ、行こう」

聞かなかったことにして、定番アトラクション、コーヒーカップへ足を進めようとしたら。

ガシリ。

腕を掴まれました(汗)

ゆっくり振り返れば、ニヤリと笑った景吾さん。



「あ、景吾、ゴーカートもある!あっ、あっちには水の上に立ってるコースタ……いやぁぁぁぁ、なんで引っ張るのさぁぁぁ!」

「ホラーハウス、行くぞ」

最終宣告。

いやだ――――――!!

「やだやだやだ!絶対やだ!」

「ここ、ホラーハウス有名らしいぜ?」

景吾さん、楽しんでるね……!この状況を楽しんでるね……!?
メチャメチャ面白そうに笑う景吾。

「知ってる!でも、ここのホラーハウス、人間じゃなくて、機械がやってるんでしょ!?絶対やだ!」

「あーん?なんでだよ。機械だったら、怖くもなんともねぇだろうが」

「機械だから怖いんだよっ!人間だったら、『あぁ、この人も大変だな』とか思えるけど、機械だったらそんなこと思えないし……何より、人間にない動きをするから怖い……ッ!」

「……お前がそこまで怖がるなんて、ますます面白そうじゃねェか。ほら、行くぞ」

「いや―――!!!(泣)」

でも景吾の力になんて敵うわけがない。
ズルズルと引きずられるようにして、ホラーハウスまで連行されてしまった。

あぁぁ、混んでなかったのが災いした……!並んでる間もなく、案内されちゃったよ……!

キィ、とドアが開いて、景吾がまず入り、引きずられて私まで入ることに。

く、暗いよ……ッ……変な効果音がするよ……!

ガタン……ッ

ビック―――!!!

突然聞こえてきた音に、過剰に反応してしまった。
く、暗闇で視覚を奪われてるときに、耳攻撃は止めて……!

クッ……と景吾が喉を鳴らして笑った。

「お前、ビビりすぎだろ……」

「だ、だだだ、だって……ッ」

ガタッゴトンッ!!

ビクビクッ!
思わず、ぎゅっと景吾の手を握り締める。
いやぁぁぁぁ、もう帰りたいぃぃ!途中退室したいぃぃ。

「バーカ。……行くぞ」

「うぅ……」

景吾が前に進むから、必然的にその手に縋りついている私も前に進まなきゃいけないわけで。
平然と前へ進む景吾。私は、半分目を閉じながら前へ進む。
早く出口、早く出口―――

ガタガタガタッ!!

突然、横から何かが出て……

イヤ――――――!(大絶叫)

な、ななな、生首ッ!リアルで気持ち悪い〜〜〜!!
手だけじゃ足りなくって、景吾にしがみついた。

「……なんだよ、そんなに怖いか、これが?」

景吾がちらっ、と生首を見て、ぎゅーっと抱きしめてくれる。
うぅぅ、無理!もうヤダ―――!

と思ったら、今度は逆側がガタンッと鳴って、変な逆さづりの男の死体(もちろん作りモノ)がご登場。

「わ―――!!!」

無理ッ!ホント無理!
機械だから、ありえない動きしてるのが、もう……ッ……あぁぁ、直視できないッ!

ぎゅっと景吾が抱きしめてくる力を、強める。

「……可愛いじゃねぇか」

そ、そんなこと言ってる場合じゃないのよ、景吾―――!(泣)
早く出たいッ!出たいけど、足が動かない!

「うぅぅ……景吾のバカ……ッ」

「クッ……ちゃっちいホラーハウスも、役に立つもんだぜ」

満足そうに言う景吾。
私はその意味を考えることすら出来ないくらいパニックになってて、景吾にしがみついていた。

しがみつきながら、ゆっくり進んでいく。
もう、途中出てくるヤツに一々ビクビクしっぱなし。ビクッとするたびに、力いっぱい景吾に抱きついてた。……その後に、景吾がぽんぽん、と頭を撫でてくれて、なんとか安心する―――間もなく、また次のモノにビクッとするの繰り返し。

あぁぁ、人間だったらこんなにビクビクしなかったのに……!機械だから怖いんだよッ、なんていうの?正体が見えないっていうか、予測不可能っていうか……!

なんとか泣き出すのは堪えたけど……結局最後まで、景吾にしがみついていた。

「……、出口だぞ」

景吾に言われて、ようやく伏せていた顔を上げる。
視界に入ってきたのは、今までの暗闇じゃなくて、明るい世界。

そ、外だ……!太陽ってこんなにも素晴らしいものだったのね……!(感動)

「……俺はこのままでもいいんだが、お前、歩きにくくねぇのか?」

ハッ……!

け、景吾にしがみついたままだった!
こんな体勢、バカップルすぎて恥ずかしすぎる!

慌てて景吾から離れた。

「ご、ごごご、ごめんっ」

「別に俺様はこのままでもいいって言っただろうが」

「そんなの恥ずかしすぎる!」

ホラーハウスを出てほっとしたのと、恥ずかしいのとで色々頭の中がゴチャゴチャ。
あぁぁ、落ち着け、落ち着け私〜〜〜!!

クッ……とまた景吾が喉の奥で笑う。

「……ここまで怖がると思ってなかったぜ。……おもしれーな、もう1回入るか」

「もういいっ!もういいよっ!(泣)」

もう勘弁して欲しいっ。
景吾ってば、サドっ気全開だよ……ッ!

「そ、そうだ!ゴーカート行こうよ!ねっ!?」

クックックッ……と景吾が可笑しそうに笑う。
ぽん、と頭の上に手を乗っけてきた。

「仕方ねぇな。そこまで必死に言われちゃ、な。……次、行くか」

ホッ、と私は安堵の息をついた。
もう2度と入るもんか、ホラーハウス!(泣)



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