氷帝学園、4月の行事は。

始業式。
入学式。
新入生歓迎会。

そして。

開校記念日。





今日は、地区大会の合間にぽつんとあった休日。
俺たちは2人、のんびりと屋敷で過ごしていた。
昼食を食べ終わり、部屋で本を読んでいた俺は、不意に思い出して、の部屋へ。

、今週の木曜日、何の日だか知ってるか?」

部屋に入るなり、俺はに向かって話しかけた。
は、テーブルでクッキーを食べながら、生徒会の仕事をしている。

もぐもぐ、とクッキーを咀嚼して、えーっと……とが思案した。

「……生徒会会議はまだだし……あ、ミーティング?」

「違う」

椅子を引いて、の隣に座り、その手に握られたままのクッキーに直接口を寄せた。
の食べかけのクッキーは、ちょうどいい大きさで俺の口に収まった。

「あっ!……こっちに新しいのあるのに〜」

「いいだろ。……俺が食べさせてやるから」

小さなバスケットに入ったクッキーを1枚手に取る。
まだ温かい。きっとシェフがのために焼いたばかりなのだろう。

手に取ったクッキーを2つに割って、片方をに差し出す。

「え、ちょ……景吾さん」

「口開けろ」

「…………自分で、食べます、けど…………」

「口」

「…………うぅ」

クッキーでの唇を少しつつくと、渋々開けられる唇。
ぱくり、とクッキーを食べて、はもくもくと咀嚼した。
飲み込んだのを見届けた後、2つに割ったうちの、もう片方を歯で軽く挟んで―――。

そのままに口付ける。

驚きで少し開いたの唇に、舌でクッキーを押し込んだ。

少しだけ伝わってきた、甘い味。
の唇についたクッキーの欠片を舐めとり、ついでに粉がついている指も舐めておいた。

「やっ、ちょっ……」

バッとが手を引いた。
顔が真っ赤だ。

ニヤ、と笑って耳元へわざと近づいた。

「……感じたか?」

指は、性感帯とも言う。

「……景吾のバカ!仕事邪魔しに来たのか〜〜〜!」

慌てて俺から離れて睨んでくるが、まだ顔は赤い。
椅子ごとの方へ近づき、テーブルに置いてある書類にザッと目を通した。

「これとこれだけ会議に持ち込めばいい。後はもう1回各委員に計画を練り直すように言っておけ。…………で?仕事は終わりか?なら、ベッドにでも行くか」

俺の発言に、の顔がさらに赤くなった。
パクパクと何か言いたげに、が口を開閉する。
その照れ様に思わず、喉の奥から笑いが漏れた。

「冗談だ。昨夜遅くまで抱いといて、また真昼間から抱こうとは思ってねぇよ。そこまでがっついてねぇ」

まぁ、これが夜になったら話は別だが。
……とは言っても、明日は部活だし、は早く寝てしまうのだろう。これで当分お預けを食らうくらいだったら……昼間からでも別に―――。

「……まぁ、お望みなら「景吾!そ、それより最初の話!」

が慌てて話題を変えてきやがった。
よっぽどこの話題から逃げたいらしい。こういう話題は、が照れるのが可愛くていいんだが……まぁいい。の質問に答えてやろう。

「今週の木曜日、開校記念日なんだよ」

「…………………え?」

「学校の奴らにとってはずっと当たり前のことだったから、そう騒いでもねぇが……お前、学校来て初めての開校記念日だろ?知らねぇかと思ってな」

「し、知らなかった……!え、じゃあ木曜日お休みなの?」

「あぁ。ついでに部活もやらないから……1日オフになるんだが、どっか行くか?」

「ホント!?」

「あぁ。地区大会が終われば、都大会もある。都大会は、一応俺たちも登録するからな……そうそう、まとまった時間が取れなくなるだろう。今のうちに出かけようぜ」

「……あっ、じゃあさ、遊園地行きたい!」

「…………は?」

「開校記念日って言ったら、遊園地じゃない!?平日だから、休日よりも混んでないだろうし……」

「…………そんなの、貸しきったら早ぇじゃねぇか」

混むも何も、貸しきってしまえば並んだりする、余計な手間も省ける。

そう言ったら、は『違う〜』と頭を振った。

「そういうんじゃなくって〜……あれはさー、乗り物待ってる間に、色々話すのも面白いんだよ〜」

……そういうものなのか?
でも、まぁ……確かに、待っている間にと色々話すのも、悪くはねぇな。

「じゃあ、行くか。……新しく出来たところでいいか?」

「うんっ!遊園地行くの、久しぶりだぁ〜……うわー、楽しみvv」

キラキラと輝いてるの目。
俺は少し目を細めて、頭の上にぽん、と手を乗せた。

「そりゃ良かったな」

「うん!……それに、遊園地とか、そういう場所に景吾と行くの、初めてじゃない?だから、嬉しい」

……確かに、俺たちが行ったのは、店だったり、別荘だったり……こういう、いわゆるお決まりのデートというのは、初めてかもしれない。

…………で、こういうお決まりのデートと言ったら。



「うん?」

「…………こういうデートの場合、弁当作ってくるのは、彼女の役目だよな?」

「…………………………………え?」

の手作り弁当が食いたい」

遊園地に2人で行って、アトラクションに乗り。
…………昼飯は、の手作り弁当。
中々いいプランじゃねぇか。

「えっ、お、お弁当……!?私の……!?シェフじゃなくって……!?」

「お前の」

「………………本気?」

「冗談に聞こえるか?」

「………………期待、しないでね?」

の不安げな表情。
俺は笑いながら、ぽん、と頭に手を乗せた。

「あぁ、期待してるぜ?」

「〜〜〜しないでって言ってるのに……!」

が作る弁当だ。
俺にとって不味いはずがねぇだろうが。




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