ガヤガヤと騒がしい声が、廊下から聞こえる。

…………来たか。

それでも、俺は本に目を向け続ける。

しばらくして、コンコン、というノックの音。

こちらの返事を聞くまでもなく入ってきたのは。

〜!」

テニス部の奴らだった。





「抱きつくなよ、ジロー!」

宍戸の声に、うっとジローの動きが止まった。
……どうやら、本能に任せるままに、に抱きつこうと思っていたらしい。

「みんなっ」

が明るい声を出す。
体を起こせるまでに回復したを見て、全員が感動したように止まった。

〜〜〜!!」

耐え切れなくなったらしく、まずジローがに駆け寄る。
さすがに抱きつきはしなかったが、その代わり、ベッドにかじりついた。

さん……だいぶ、良くなってるようで……!」

「さすが、体力が自慢の先輩ですね」

「チョタに、若!うわー、大学4年生にお見舞いに来させちゃったよ……」

「当たり前だろ?俺が呼んだ」

「亮も、元気そうだね……仕事はどうなの?」

「まぁまぁだな。仕事っつっても、テニスと半々ぐらいだから」

会話を交わしてる宍戸や鳳の後ろで、なにかが跳ねている。
……きっと、岳人だろう。

「クソクソ鳳!どーけーよー!が見えねぇ!」

鳳と日吉を割って入るように顔を見せたのは、やはり岳人。

「がっくんだ〜!」

!大丈夫か!?」

ジローと同じく、ベッドに駆け寄る岳人。
こいつも相変わらずだ。

ちゃん」

「……侑士!」

一番最後に、大きな花束を持って現れたのは、忍足。

「元気そうで、よかったわ……」

「侑士の止血がよかったってお医者さんが言ってた!ありがと!」

「そら、俺かて一応医者目指してるモンや。……まったく、えらいビビったで……ホンマに」

「はは……ご迷惑をおかけしました。……あ、座って?」

この病室には、ソファがある。
俺が持ち込んだんだが、基本的に俺はの近くにいたいがために、ベッドサイドに椅子を置いているので使わなかった。妙なところで役に立ったな。

「俺ここにいるー!」

「俺も俺も!」

ジローと岳人はベッドサイドにおいてある、小さな椅子を引っ張り出してきた。
それ以外の奴らは、ソファに座ったり、見舞いの品を置いたり。

「お前ら……病室だからな?騒ぐなよ」

見かねて俺が言っても、聞いてんのか聞いてねぇのかわかりゃしねぇ。

「跡部、ずっとここにいるのか?」

宍戸の質問に、俺はあぁ、と返事をした。

「仕事は親父に休みもらって……家に寝に戻る以外は、ここだな」

「…………やっぱな……跡部のことだから、そんなことだろうと思ったぜ……」

「世間じゃすごいですよ〜。未だにニュースで騒がれてますからね」

「そーそー!俺らがこの病院入る時だって、マスコミに囲まれてさー。俺たちがの知り合いだって、どっから知ったのかわかんねぇけど……質問とかすごかったぜ?」

ちっ……まだ報道陣がいるのか……。
まぁ、連日俺がここに通い詰めだしな……奴らとしても気になるんだろうが。

「色んな意味で、跡部さんとさん、一躍有名人ですよ」

「いや〜!そんなことで有名になりたくない〜!」

あはは、と笑うレギュラーに、『笑い事じゃないっ!』と半泣きで突っ込む

「というかですね、跡部さんの愛妻家ぶりが報道されて、世間を騒がせてるっていうか……」

「はっ……くだらねぇ」

今更、っていう話だろうが。

「……でも、ちゃん、平気なん?痛いんちゃうか?」

さすが忍足は、医者を目指しているだけあって、 の容態が気になるようだ。……いつものあの馬鹿さから見ると、日本の医師会が少々不安になるが。
問われたは、苦笑した。

「……麻酔切れたときは、どうしようもなく痛かったよ……だけど、子供産むときの方が痛いんだ〜って思い込んで、乗り越えた。今は、動かしたりしなければそれほど痛まない」

「母は偉大だな……」

岳人の言葉に、全員が頷いた。
子供を産むときの方が痛い、と乗り切るなんて……本当に、俺たち男には想像すらできねぇ。

「っていうか、ここまで回復してるがすげぇ〜」

「お医者さんにも驚かれた。『すごい体力ですね』って。……そりゃ、マネージャーやらテニスやらで鍛えた体力ですから」

「俺たちより体力あるんじゃないかって、思ったことありますからね……」

「まっ、若!それは女の子に言う言葉としては失礼ですよ!?」

「先輩、女の子って年ですか……?」

「アホ、日吉!ちゃんはいつまで経っても女の子や!」

「侑士……ありがとう……感動だよ、その言葉……」

ホロリ、とが泣く真似。
俺はそんなやり取りに苦笑しながら、の頭にぽん、と手をやった。

「ったく、あんまり騒ぐなよ?夜になって痛がっても知らねぇからな」

「はーい。……ねぇ、聞いてよみんな〜。ナースさんとかね、みんな景吾目当てにこの病室来るんだよ〜」

「は?なんだそれ」

「ナースさんが来る回数が、やけに多いな〜と思ってたんだけど……どうも冷静になって観察してみると、ナースさんが見てるの、私じゃなくて、景吾の方が多いの!患者は私なのに」

むぅ、とむくれたに、全員が爆笑。
代わりに、俺の眉間には段々とシワが寄っていった。
はそういうが、同じく、この階にいるVIPの芸能人の男も、を気にして部屋の前をウロウロしてるのを知ってるからだ。

「ここでも跡部ファンが出来つつあるのか〜。顔だけはいいからな、跡部は」

「オイ、顔だけってのはどういうことだ、顔だけってのは。あーん?」

「顔はいいけど、中身はにベタ惚れだからな。このベタ惚れ具合見たら、普通は手ぇ出さねぇだろ」

「せやなぁ。毎日毎日、仕事休んでまで来る夫やで〜?どんだけ妻を溺愛しとるっちゅーねん。俺やったら、そんな夫お断りや。……せやから、ちゃん、俺と……」

くだらねぇことを言い出しそうな忍足の頭を、バシッと殴る。
……ったく、コイツは油断も隙もねぇ……ッ!

「はっ……毎日に会いに来て、何が悪い」

なぁ、とを見たら、照れてはうつむいてしまった。

「ねーねー、赤ちゃんは大丈夫なの〜?」

ジローの言葉に、がうつむいていた顔を上げる。
ニコ、と笑って答える姿は、段々と母親の顔をしてきた。

「うん、とりあえず影響はないみたい。順調だよ」

「そっか〜、よかったねぇ……いつだっけ、予定日」

「えーっとねぇ、10月16日〜。景吾の誕生日が終わった後だね」

そう、子供の予定日は俺の誕生日がすぎたころ。
まさか同じ……ということはないだろうが、最高の誕生日プレゼントだと思う。

「どっちだろうねぇ……」

「まぁ、お楽しみってことですね、本当に。……生まれたら、絶対にすぐ連絡くださいよ?」

「うん、絶対する〜。みんな、そのときは見に来てね」

「もちろん」

そのまま他愛ない話を1時間ほどして、奴らは帰っていった。
をあまり疲れさせないようにとの配慮だろう。

奴らが帰った後、は寂しそうに息を吐いた。

「うるせぇ奴らが帰ったからな……寂しいか?」

「ちょっと、ね……動けないし。でもまぁ、景吾がいるから寂しくないよ」

嬉しいことを言ってくれるに、奴らがいるとこでは出来なかったキスを落とす。

「け、景吾!」

「疲れただろ?……少し、寝ろ」

もう1つキスを落として。
が寝たのを見て、俺は読みかけの本をまた読み始めた。



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