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Act.17  る不安は、風と共に



おかしい。

俺は隣の空席を見て、ため息をついた。

有紗ちゃんがおらん。昼まではちゃんとおったのに。

サボりか?にしては、あまりに唐突過ぎる。
それに、今の授業は第二外国語。有紗ちゃんが最も苦手とする科目。出ないはずがあらへん。
第一、何も言わんと、消えるはずがない。

先生が黒板に向かった隙に、ポケットから携帯を取り出した。
この間から、跡部が.有紗ちゃんに持たせたっちゅー携帯。
俺らも番号やアドレスは知ってる。

To.有紗ちゃん
Subject.サボりか?
本文
有紗ちゃん?サボりやったら、誘ってくれたらえーのに。
今、どこにおるん?


カチカチカチ、と早打ちをして送信ボタンを押す。

しばらく携帯を握って、返信を待っていたけれど、反応はない。

なんや、めっちゃ嫌な予感がするわ。






鐘が鳴った。
結局有紗ちゃんは帰って来んかった。

跡部なら何か知っとるかもしれん。
斜め前の席で、眉を寄せている跡部。
話かけようと思ったら、先を越された。

「忍足。有紗から何か聞いてるか?」

「…………跡部、お前も有紗ちゃんの居場所、知らんのか」

「あぁ……昼休みに、職員室に行ってくるとは言っていたが」

「一応、5時間目の最中にメールもしてみたんやけど、返信もないし……」

跡部の眉が、ひそめられる。
耐え切れなくなったのか、跡部は教室だというのに携帯を取り出して、電話を掛けた。
しばらくして、何も話さないままに通話を切る。

「圏外か電源切ってある」

「…………それ、変やないか?有紗ちゃん、学校の中でもマナーモードやろ?」

跡部が珍しく、焦った表情を見せる。
ひょこっとドアから、岳人が顔を出した。

「あっれー、どーしたんだよ、忍足、跡部!おっ?有紗はいねぇのか?」

「岳人、有紗ちゃん知らんか?」

有紗?昼、一緒に食って以来、見てねぇけど……何かあったのか?」

有紗ちゃんが、いないねん。授業も出てない、携帯も通じん」

「……マジか?」

いつも能天気そうな岳人の顔が曇った。
この表情で、岳人も居場所を知らないことがわかった。時々、授業中でも有紗ちゃんとメールしとるみたいやけど、今日はしとらんかったみたいやな。

「……俺、屋上見てくるわ。ただのサボりで寝とるだけやったらえぇんやけどな……跡部、部室見てきてくれへんか?」

「あぁ。結果は携帯で知らせろ」

「俺、宍戸たちにも伝えてくる!」

一旦跡部と岳人と別れ、俺は屋上へ向かう。
昼間、みんなで飯を食ってたところ。階段を駆け上がって、屋上へのドアを開けた。

「……有紗ちゃん?おるんやったら、返事せぇ」

少し歩き回りながら、そう呼びかけてみるけど、反応はなし。
見たところ、誰かおる気配もなかった。

ますます不安は、募っていった。





屋上をひとしきり見た後、特別校舎のことに思い当たった。
特別校舎は、視聴覚室、音楽室など、特別教室が集まった校舎。サボりやったら、空き教室で寝てる可能性もある。
可能性は低いけど、そこにおるかもしれん。

携帯を開いて、跡部の名前を出す。

1コール目で取りよった。

『いたか!?』

「屋上にはおらへん。今、特別校舎に行こか思てたところや。……その様子やと、部室にもおらんか」

『…………有紗がこの学校で行く場所っつったら、屋上か部室くらいなもんだろ。こいつは、明らかにおかしい』

「やな。…………俺、岳人に電話しとくわ」

『あぁ、頼む。俺もこれから特別校舎に向かう』

もうこの時点で、すでに休み時間の終了を告げる鐘は鳴っていた。





あの後、6時間目の間中、俺たちは有紗ちゃんを探して回ったが……結局見つけることはできへんかった。
特別校舎も隅から隅まで見たし、高等部の校舎まで行って、屋上に行ってみたりもした。
だが、どこにもいてへん。

6時間目終了のチャイムが鳴ったところで、とうとう跡部が切れた。

「…………聞いたほうが早ぇ」

一言呟くなり、中等部へと向かった。
集まっていた、俺、岳人、宍戸、ジローは慌ててその後を追いかける。
跡部は足が速いが、いつも以上に早かった気ぃする。

廊下を駆け抜け、俺と有紗ちゃんのクラスへ行く。
息も荒く教室内に入ってきた跡部に、みんなして怯えたようや。

「…………おい、冷泉院」

跡部が声をかけたのは、跡部ファンクラブ会長の子。
あの子がいつもファンクラブを取り仕切って、プレゼントを渡したりする役や。

冷泉院はビクッと怯えた表情で跡部を見よった。
…………それだけでわかる。何かしたんや、この子。

じゃなきゃ、こんなに怯えるはずがない。
いつもなら、『跡部様』といって近寄ってくるんやから。

「…………有紗は、どこだ?」

「し、知りませ……」

「もう1度聞く。有紗はどこだ?」

「――――――グ、グラウンドの体育倉庫、で、す……」

サッ……と俺らの血の気が引くのがわかった。
すぐさま岳人に指示を出す。

「岳人ッ!職員室から鍵とってき!」

「まかせろっ」

岳人が走り出すと同時に、宍戸とジローも走り出す。この2人は、きっとすぐに倉庫へ向かったんやろう。

「何してるん、跡部!俺らも向かうで!」

「俺はコイツに話がある」

跡部の目が―――冷たい光を帯びている。
……あかん、本気で怒っとる……。
なにするかわからん。これは……俺も残っとかな、あかんな……。

「冷泉院……お前、有紗に何をした?」

「あ、跡部様……私は……!」

「この間、俺は『二度目はない』と言ったよな…………?…………もし有紗に何かあってみろ…………」

HR前の、ざわめきがなくなり、静まり返る教室に、跡部の声だけが低く響きわたる。
俺の背筋が、ゾクリと粟立った。

「…………跡部財閥、全ての力を使って、お前の家を潰してやる……!……覚悟しとけ……」

ガクガク、と冷泉院の足が震え、ペタリと尻餅をつく。
それを見るか見ないかの素早さで、跡部は身を翻して走り出した。

「…………どう……して……跡部様……あの子の、何が…………!」

『何がそんなにいいんですか……!?』
小さい嗚咽と共に出た声に、俺は返答する。

「…………わからんか?有紗ちゃんやからや」

「…………え……?」

有紗ちゃんやから、跡部は、好きなんや」

有紗ちゃんが、有紗ちゃんであるから、 跡部は有紗ちゃんが好きなんや。
それ以外に、理由はあらへん。
俺が―――いや、俺らテニス部員が、有紗ちゃんが好きなのと、一緒や。



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