早く終わって…………ッ!

ものすごいスピードで行き来するボールを目で追いながら、必死でそのことだけを願った。

「あぁぁ……景吾さん、お願いします!」

「任せろ。………………………っ!」

「あっ、は、ハイッ!……えいっ!」

パンッ、と音が鳴ってボールは人のいない方向へ。

「…………うっそだろ……」

向こうのコートで、桃ちゃんが小さく呟いた。



Act.39  手くなる、理由は明快



「イッエーイ!6-4で、と跡部の勝ちぃ!」

ジローちゃんの声で、ふと我に返る。
……あら?



「け、けーご……」

振り返ると、景吾が右手を差し出しているので、ぼんやりとその手にタッチした。
そこでようやく今の状況を把握。

「……勝っちゃった?」

「…………なんだと思ってたんだ?」

「……………脳みその許容範囲が超えたからよくわからない」

「……バカ」

……頭、小突かれた。

「なんなんスかー!先輩、すっげーうまいじゃないッスかー!」

「いやいや……全ては景吾さんのおかげです。やっぱ、スピンがたくさんかかってるショット……スネイクとかは苦手だから、ほっとんど景吾さんにお任せしちゃったし」

「よし、明日からはスピン系ショットの練習だな」

「え、ちょちょちょ!」

「よっしゃ、ちゃん。……覚悟しとき?」

「ゆーしー!(泣)」

私に様々なショットを教えてくれる侑士が、笑みを浮かべてそう言った。
…………うわーん、今はその色気たっぷりのエロい笑みが怖いだけだよー……。

「……それにしたって、すげぇッスよ。丁寧なストロークだし、あのラリーの中でポーチに出られるんスから」

そんな中で海堂くんのコメントがさらりと耳に届いた。
あぁぁ、ありがたい……!若といい海堂くんといい、次世代のホープたちはみんなよくできた子たちね……!

「おっ、コイツが他の人褒めンの珍しいッスよ〜」

同じくそれを耳にした桃ちゃんが茶化すようにそう言ったら、海堂くんはギロリと目線を桃ちゃんに向ける。

「うっせぇ、黙れ」

「あぁん?なんだと、やるのかァ?マムシ」

「んだとコラァ」

「お、おちついて―――!!!(汗)」

急に青春しだした2人の間に割って入る。

「やめろ、桃城、海堂」

そしたら手塚くんがビシッと言ってくれた。助かった……!
胸を撫で下ろすと、手塚くんは「だが」とこちらに向き直る。

「……桃城、海堂の言うことももっともだ。、お前はもっと自信を持て」

「手塚くん……?」

「お前のテニスはもっと誇っていいレベルだ」

「え……いや、でも全然ショットも速くないし、必殺技っていう必殺技があるわけでもないし、なんとかラリーつないでボレーヤーに決めてもらったりするので精いっぱいで……」

「それが本来のダブルスの攻め方だ。……それに、ショットが速いだけの選手ならたくさんいるが、総じてそのような選手が強いわけではないだろう?」

1つ1つ重みがある言葉に、自然と頷く。

「スピードはなくてもコースをつく。ラリーを丁寧に繋ぐ。その場に応じたショットを打つ。……これをきちんと出来るやつは、いそうでなかなかいない。もっと自信を持ってやれ。自分の能力を意識すればもっとうまくなる」

「………………へへ、ありがとう」

全国ナンバー1チームの元部長にそう言われて、悪い気分になるはずがない。
自然に顔がほころんだ。

「…………っ……もし、練習相手が必要になったら、呼ぶといい。喜んで付き合おう」

「えっ、いいの?手塚くん!?」

あぁ、と頷いた手塚くんを信じられない目で見た。
……いや、だって全国クラスの子が一介の女子中学生の練習に付き合ってくれるだなんて……なんてゴージャスな練習相手!いや、氷帝メンバーと練習してる時点でこれ以上ない豪華メンバーなんだけど!それに手塚くんが加わるとか……!

「ったく……手塚にも油断できねぇな……しっかりに教えとく必要がありそうだな……」

「あかんで、跡部……手塚は無意識に落としにかかるタイプや……2人きりとかにしたら、ガンガン攻めてくで」

「跡部部長、U-17では何があっても先輩を1人にしちゃいけませんね……」

景吾と侑士と若がなんか怖い。

ブルッと悪寒を感じて身震いをした。
それは他のメンバーも同じだったらしい。
ふと目が合った桃ちゃんも同じようにおののいていたので―――ニヘラ、と笑って見せた。そしたらニカッと快活な笑顔が返ってきた。

「ホント、先輩うまいっスよね!……どこでそんなテニス習ったんスか?小さいころからやってました?」

「いやいやいや!私、氷帝来てテニスやり始めたから、本格的に始めて1年も経ってないよ!」

「氷帝来てから……ってもしかして転校生なの?」

大石くんの言葉に、がっくんとかジローちゃんがあわわわ、とちょっと慌てる。
私の事情を知ってるから、気にしてくれてるのだろう。
そんな彼らの気遣いが、嬉しかった。

「……うん。今年の2月に氷帝に転校してきたんだ!」

ニコ、とがっくんたちに笑いかけた。
パァーッとチビーズの顔が明るくなって……ダメだ、かわいすぎて鼻血でそう……!(危険)

「へぇ……なのにそんなうまいってスゲェ……!」

「あはは……なんせ、コーチ陣が豪華なもんで」

「コーチ?」

桃ちゃんの疑問の声と同時に、ドーン!と背後からの体当たり×2。

「「俺たちボレー担当〜!!」」

そう宣言したチビーズを追いかけて、私からがっくんとジローちゃんをひきはがすようにみんなが周りに集まっていた。

「俺は、先輩にポジショニングを」

「サーブは俺が担当です」

「俺はフットワーク関係だな」

「ショット系全般は、俺が見とるで」

若にチョタに亮に侑士。
……あぁ、思い出される練習の日々。

「もちろん俺様は全てにおいてだ」

最後にそう言って私の頭にぽん、と手を乗せてきたのは―――もちろん景吾だ。
このメンバーに教えてもらえば、そりゃうまくならない方がどうかしてる。

「……とまぁ、このように豪華で最強のコーチ陣に教えていただいてます。そりゃ、上達しない方がおかしいってもんですよ」

「バーカ、お前が覚えるの早いから、面白がってコイツらがどんどん教えたがるんだろ」

「はは……なかなか厳しいんだよ〜、みんな」

あはは、と笑う氷帝メンバー、あっけにとられる青学メンバー。

「…………そういうわけだ。には、俺らの技術を余すところなく教えている。……だが、いい加減同じメンバーでばかり試合しても、つまんねぇからな。……これからも、青学には世話になるかもしれねぇな」

「…………うむ、その時はぜひまた、声をかけてくれ。……今日は、本当に有意義な1日だった」

手塚くんが差し出した右手を、景吾が軽く握りしめる。

「あぁ。……また、合宿で会えるのを楽しみにしてるぜ」

次に彼らと会うのはU-17選抜。
いったい……どうなることやら。




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