結局、ペアを変え、対戦相手を変え、飽きることなく全員で何回も試合を繰り返す。
私も何度か試合に駆り出された。やっぱり全部負けはしていたけれど、一方的に負けることもなく、そこそこいい試合は出来ていたと思う。……ほとんど、ペアに頼ったけど。

「あ〜……疲れた……みんな、情け容赦ない……」

ダルすぎる足をトントン、と叩きながら、未だ嬉々としてプレイし続ける面々を見て、

「……ホント、テニス大好きだなぁ……」

ぽそりと呟いた。



Act.38  へ繋がる、大きな架け橋



「あー、やべ、軽く足つった……、頼む〜……」

ふらふらと私の近くに倒れ込むように座ったのは亮。
何度も着替えていたはずなのに、Tシャツは汗びっしょり。これだけで、すさまじい運動量をこなしていることがよくわかる。

「はいよ〜。座って足伸ばして〜」

「おぅ……いててててっ」

「ちょっと我慢〜」

と言いながら、足のストレッチを行って、筋肉を緩めていく。
最初こそ痛そうに呻いていた亮だけど、本人も言っていた通り、軽いものだったらしい。あー、とかうー、とかは言いながらも、痛がる様子は徐々に消えていった。

〜。宍戸、大丈夫そう〜?」

「うん、平気みたい〜。汗で水分出ちゃったから足つったんだね。……ポカリ飲んで、ちょっと休んでて」

「おう、サンキュ」

「あ、ついでにジローちゃん!手!せめてマメんとこにバンソーコー貼ってから行って!」

「……たはは、にはなんでもバレちゃうC〜……」

バツが悪そうに笑っているジローちゃんに、はい、とバンソーコーを渡す。

「大石くんも、手首痛めてない?さっきからちょっと気にしてるでしょ?」

「えっ?そ、そんな……どうして……」

「諦めろ大石。の目はそうそう誤魔化せねぇよ」

「テーピング、簡単なものならできるけど……あ、テーピングするの嫌いかな?」

「…………いや。ありがとう、お願いするよ」

長時間練習を行っていると、段々と体の不調なんかが出てくる。体力がなくなってくると、往々にして古傷なんかは痛むものだ。
未来のテニス界を担う大事な体なんだし……ダメダメ!こんなとこで怪我してちゃ!

私は本業のマネージャーモードにギアチェンジした。





、最後に俺と組め」

「へっ?」

いよいよ締めにかかっていたところだったので、徐々に道具の片づけやら荷物のまとめに入っていた私は、景吾からかけられた言葉に間抜けな一音を発した。

「そろそろ疲労もピークに来てんだろ。次の試合で最後にする。……俺とお前とでやるぞ」

「え、でも私と最後やっても……」

「いいから、ごちゃごちゃ言わずに来い」

「えぇぇ!?ちょ、どーゆーことー!?」

半ば引きずられるようにしてコート中央に連れて行かれる。
用意のいいことに、景吾は私の分のラケットまで持っていた。

相手は……。

「大石くんと乾…………!」

助けを求めてベンチを見ると、すでに疲労はピークなのか、ぐったり座り込んでいるがっくんやジローちゃん。

、行ってらっしゃ〜い」

「おー、練習したショット、やってみろよー」

「……ま、最初は俺とやったし、しゃーないから許したるわ」

…………みんな、もう我関せず、ね……!(涙)

私は、ほら、と景吾に渡されたラケットを受け取った。
その間にラケットトスが行われ、私たちがサーブ権を取ったみたいだ。

「……サーブは景吾からだからね」

観念してそう言うと、景吾がふっ、と笑って私の頭にぽん、と手を乗せた。

「ポーチ、どんどん出ていけよ」

「…………出来る限り」

それだけ答えて、私はポジションへ。

「…………あー……どーしてこんなことに……」

都合が悪いという滝くんに、心の中で恨み言を。





「おらよっ!」

「くっ……乾、任せたぞ!」

「大丈夫だ大石、ロブの確率は計算に入れている。ここでがボレーに出る確率は25%……ストレートに返して問題はない」

「……ごめん、出ますよ!」

「なっ!?」

ぶつぶつと何かデータを呟く乾のストロークに、思い切ってボレーに出る。
アレーコートに落とし込むように打ったボレーは、ポトン、ポトンとツーバウンドして乾の足元に転がっていく。

「ナイスボレー!」

「マジマジ、練習どーり!!」

ベンチから声をかけてくれたチビーズ2人に手を振る。
チビーズ2人に散々仕込まれたボレー……ここで決めなきゃ、また明日から特訓やらされるもの……!

「データではボレーの確率は低いとなっているのに……!」

「バーカ、俺様と組んでる時のはもっと攻撃的だぜ」

「クッ……理屈じゃない……!」

キラーン、と眼鏡を光らせて何を言うかと思ったら、乾お得意の台詞でカクン、と力が抜けた。

、リターン、しっかりな」

「う……とりあえず、返す」

ムーンヘッド大石のサーブは、速さがあるわけじゃないけど……その分、スピンサーブやスライスサーブを使い分けてくるから、スピードサーブよりもある意味やっかいだ。
……というのも、私がスピン系のショットが苦手なせいもあるんだけど。

シュッ……という音と共に、サーブが放たれた。

「……よいしょっ……」

案の定、打つ直前でバウンドの軌道が変化した。
体から離れて行こうとするボールを必死に追いかけて、バックハンドでとらえる。

前衛は背の高い乾なので、ひっかけないように注意を払いながら慎重にかつ、深く返す。

後はストローク合戦だ。
大石くんもストロークが得意で、相手がミスをするように誘うタイプ。
……先にしびれを切らすか、根負けした方が負け!

粘るしかない。
そうすれば、いつか景吾がボレーに出てくれるだろう。

ちら、と乾が微かに動くのが見えた。
打つ間際に、自分の体勢を少し変える。

「景吾……っ……あげるよっ」

そう言いながら、乾の頭の上を抜くようなロブを上げる。

案の定、乾はポーチに出ようとしていたらしく、大きく移動していった。
そして、ロブを取りに走ったのは大石くん。
さっきと同じような攻め方。

景吾が移動した分、私は反対側に走りはじめた。
だけど違ったのは、景吾がボレーに出るのを読んで、大石くんが景吾の頭を越すような大きなロブをあげてきたことだった。
ギクッ、と足を止めた。

、いけるなっ?」

「……っはい!」

その声を聞きながら、元の位置に戻ってボールを追いかけてなんとか打った。
そのまま、今度はストレートのストロークラリー。

しばらくストロークが続いた後。

スッ、と景吾が動き、軽い音がしてボレーが乾の足元に決まる。

よかった……なんとか、繋げられた……!

「ナイスラリー」

景吾が近寄ってきて、手を出してくれた。
その手にパチン、と触れ、大きく息を吐きだす。あー、疲れた……。

さて、とポジションに就こうとしたら。



「ちょっと……先輩、そりゃズリィーっすよ」

「……なんで、内緒にしてたんスか」



聞こえた声に、疲れを一気に忘れて振り返った。

「…………桃ちゃん!?海堂くん!?」

ラケットバッグを背負って、コート入口に立っている青学2年生。
私の声に、桃ちゃんはブンブンと手を振り、海堂くんは小さく会釈をしてこちらへ近づいてきた。

「ウィーッス!さん、やっぱ、ただのマネージャーじゃなかったんスね!……あー、俺もさんと一緒にテニスしたいッスよ!」

「バカ野郎、テメェは1人で筋トレでもしてろ。……俺、プレイ面でも他のことでも、さんにご指導仰ぎたいッス」

「えぇぇぇええ!?」




「……おい、あまり先輩に甘えるなよ。あくまで、先輩は俺たち氷帝のマネージャーなんだからな」

「まったく……人が悪いですよ、先輩たちも。教えてくれたって罰は当たりませんよ?」

「……ウス」




隣にいた景吾が小さくため息をついた。
私は桃ちゃんたちから視線を外して、再びコートの入口を見やった。

「……若にチョタ……それに樺地くん!!」

「どうして俺たちに教えてくれなかったんですか……先輩を青学に会わせるなんて、心配でたまりませんよ」

「なっ、若、どーゆーことさ〜!私、なんのヘマもしてないよ!?」

「そーゆーことじゃないんです。……跡部さん、青学のやつらに、先輩触らせてないでしょうね?」

「バーカ、日吉。テメェに言われるまでもねェよ」

「…………え?」

若と景吾がよく意味のわからない会話をしているので戸惑っていると、チョタと視線があった。
チョタは微かに笑うと、

「……3年生同士やり合うっていうのもいいですが……見るだけでも練習になるんで、教えてほしかったです。まぁ、本音を言えば、俺たちもさんたちと一緒にやりたかったんですけど」

なんてよく出来た子!お世辞も完璧!(拳グッ)
チョタをひとしきり撫でまわしたい衝動に駆られたけど、そこはグッと我慢して疑問を投げかける。

「どーしてわかったの?桃ちゃんや海堂くんたちも。ここまで来て……」

私の言葉に、コートの横まで歩いてきた若がふぅ、とため息をついた。

「毎日嬉々として学校にラケットバックで来る3年生を見たら何かあるな、って思いますよ。……そうしたら、桃城のヤツから連絡があって」

「俺、聞いちゃったんすよね〜、昨日」

ぽりぽり、と頬をかいた桃ちゃんは、えーじと大石くんを交互に見た。

「英二先輩と大石副部長がたのしそ〜に、『明日、跡部スポーツジムまでどうやって行こうか〜』って話してるトコ」

「ありゃりゃ……」

「こりゃタイヘン……」

確かに……決定的な一言を聞かれてますね……。

「そんで跡部さんトコでなんかあるのかと思って日吉に連絡したら、氷帝も妙な動きしてるっていうし……部活終わってから、ソッコー来たってわけですよ」

「あ、だからこんな時間なのね……」

「一応、『現役』ってことに気ィ使っただけで、意地悪して黙ってたわけじゃねーんだぞ!?ほら、お前たちは新人戦とかあるしよ……」

「向日さん、そんなに焦らなくてもわかってますよ。……でも、厳密にいえば、先輩たちだってまだ『現役』です。……跡部先輩、知ってるんでしょう?」

「……ったく」

景吾が今度はやや大きめのため息をついた。

「…………日吉。しゃべりすぎだ」

若と景吾の会話に、この場にいる全員が『なんの話だ?』と言わんばかりにポカン、とした顔をした。

「……まだ言ってないんですか?」

「監督から正式に伝達しろと言われたワケじゃねぇし、1つ1つ言わねぇとコイツらの頭パンクすんだろ。……特に、宍戸とか岳人とか」

「オイコラ、跡部!どーゆー意味だよ!」

先ほどまでグッタリしていたとは思えないほど元気な声で、亮が叫ぶ。

「手塚……君も、僕たちに何か隠してるでしょ?」

打って変わって、不二くんの落ち着いた声が手塚くんに投げかけられる。
さっきの若の言葉に全員がポカン、としていたと思っていたけれど……手塚君だけは、事情を知っているように何も動じていなかった。

「最近、君も頻繁に竜崎先生に呼ばれてるよね?そろそろ、僕たちにも教えてくれないかい?」

「それは……」

口ごもった手塚くんに、景吾が片手をあげて合図をする。

「あぁ、もう面倒だ。……手塚。一気に説明しちまおうぜ。……一旦ゲームはお預けだ」

手塚くんが頷いた。
来い、と景吾が私も呼び寄せ、みんなが一同に会す。

「…………お前たち、U-17選抜って知ってるか?」

景吾の問いかけに、がっくんがすかさず答える。

「もちろん。17歳以下の日本選抜だろ?」

「その選抜メンバーに、我々が内定している」

手塚くんの言葉に、「は?」とみんなの動きが止まった。

「ちょ、ちょっと待てよ!U-17選抜って、未だかつて中学生が選ばれたこと、ないだろ!?んなことがあるわけ……」

「確かに、今までに中学生が招集された例はない。……だが、前例がないだけで、どうしてそれがないといえる?」

「…………マジかよ」

「中学生50人が招集されていて、その中に我が氷帝が8人、青学は9人含まれている。11月には合宿が行われる予定だ。……おそらく、その合宿に呼ばれることになると思う。近々、選抜メンバーに選ばれている全員が榊監督に呼ばれるだろう」

「青学も同じだ。もうじき、全員が竜崎先生に一度呼ばれると思う」

「………………ひゃっほー!!!すっげえぇぇぇええ!!!」

「なんだよ、跡部!んなこと黙ってるなんてズリィぞ!練習不足で合宿なんて行けるわけねーだろ!」

「だから手塚と話し合って、こうして今日練習試合を設けたんじゃねぇか。練習試合、って目標があれば、お前らはそれなりの練習をすると思っていたからな」

景吾の計算尽くしの行動に、みんなが言葉を失った。
…………まったく、この人の脳みそは一体どうなってるんだろうか。

「…………なるほどな、そーゆーことか。ハハ、すっかりやられたよ、手塚」

「テニスをやめる、と決意した河村は、全国大会後、ほとんどテニスに触れていないだろう?……一度、練習試合という遊びも交えたクッションを入れれば、再びテニスに触れて―――選抜の話がしやすくなると思ってな」

「……ってことは、手塚と跡部に一杯食わされたってコトか」

ちゃんも知ってたん?」

「あはは、私も今初めて聞いたよ〜。……でもみんなすごいなぁ……U-17選抜かぁ……」

さすが未来のテニス界を担う方々!
お姉さんはこれからもみんなを全力で応援させていただきますよ!!!

「もしかして、U-17選抜ではちゃんのお世話になることもあるのかな?」

いきなり飛び出した不二くんの言葉に、のほほんとみんなのテニス姿を思い浮かべていた私は、冷水をぶっかけられたような気分になった。

「へっ!?」

「念願のちゃんがマネージャー!?おー、そんなら、俺、いっぱい頑張っちゃうし〜♪」

「ちょ、何を言い出すのさ、えーじくん!そんなことあるわけないよ〜」

「えっ!?がマネージャーやってくれるんじゃないのか!?」

「またまた〜……U-17選抜にもなれば、プロの人たちがつくに決まってるじゃん。栄養管理から体調管理まで、きっとぜーんぶキッチリやってくれるよ〜」

みんなの雄姿が間近で見れないのは悲しいけど……様子だけは見に行ってやる!一応、関係者枠で入れてもらえる……はず!入れてもらえなかったら、景吾の権力を行使してもらおう!(こういうときだけ)

え〜〜〜〜〜、とブーイングを出すみんな。
………………えーっと……………(汗)

「さ、差し入れ持って見に行くからさ……!」



「残念ながら、それは出来ません」



「!?」

突然聞こえた第三者の声に、ビクッと反応する。
声が聞こえた方向を見つめると……

「はじめまして。U-17戦略コーチの黒部由起夫と申します」

白いスーツに柄物のシャツ。
―――先ほど、水を汲みに行く途中ですれ違った人間が、そこにいた。

目が合うと、微かに笑みを返された。……うひゃー、大人の色気!

「先ほどはどうも」

「あ、どうも…………って、どうして……?」

『ここに』とか『あなたが』とかその後に続く言葉は色々見つかったけど、どれから聞いていいのかわからないから、中途半端な質問になる。
そんな私の意図を汲んでくれたのか、黒部コーチは一度頷いて景吾を見た。

「榊監督に、あなた方がここで練習試合を行う、ということを聞いたのでね。用事で近くに来たついでに、一度見ていこうと思いまして」

監督にだけは練習試合の件を報告したんだ、と景吾が少し嫌そうに言った。

「なかなか面白いテニスでした。まだまだ改良の余地はたくさんありますが―――11月に、あなた方とお会い出来るのを楽しみにしていますよ」

その言葉に、全員の喉がゴクリ、となった。
『全員がU-17選抜の内定』が決まった、という、その言葉の意味を理解するのに時間を要したのと―――言い知れぬ、威圧感を黒部コーチが醸し出していたからだろう。

「……さて、さん」

「は、はい!」

威圧感に押されていたのは私も同じで、私は『黒部コーチがなぜ私の名前を知っているか』ということを深く考えずに返事をしてしまった。

「今の話ですが、それは不可能だということをお伝えせねばなりません」

「…………え?」

疑問を返しておいて頭の中で先ほどの出来事を反芻する。
…………今の話―――あ、差し入れとかの話……?

思い当ったところで、再度黒部コーチと目が合う。
ふっ、と今度は明確な笑いを返された。

「…………あなたには、U-17選抜中学メンバーの特別マネージャーをやっていただきます」

言われたことがわからなくて、ぽかーんと口を開けた。

「あなたの有能なマネージャーぶりは、中学全国大会での評判……そして榊監督からもよく聞いています。実際、今日あなたの働きぶりを目にして―――私はあなたを特別マネージャーとして推薦することを決めました」

……えーと。

あ、あまりにも事態が急転していてまったく脳みそがついていかないんですが…………。

「……つまり、もマネージャーとして一緒にU-17選抜に招集される、ってことか?」

景吾の言葉に、

そうか―――!!!!!

とみんなで合点がいった、という表情をする。

「はい。後で榊監督にも連絡しておきますので、正式に通達があると思います。……よろしくお願いします」

「えっ、いやっ、ハイ!こちらこそよろしくお願いします!」

「……今日はなかなかいい収穫がありました。それではみなさん、11月に」

黒部コーチは去っていった。
私たちに妙な沈黙を残して。

「……………………………………」

頭が何も働かない。
色んな情報が渦巻いていて、何から口に出せばいいのかわからない。

奇妙な沈黙を経て、

「………………とにかく!ここにいる全員がU-17選抜に選ばれた、ってことでいいんだな!?」

すべてのことをザクッとまとめた亮の意見を採用!

「そーゆーこと、だよね!」

「よっしゃ!!!とにかく、みんなそろってU-17!」

ちゃんがマネージャーやし、言うことなしやな」

「念願のちゃんのマネージャー……クスッ……楽しみだね……」

「ふむ……面白そうな確率は99.999%……」

「素直に喜べ乾!全身で喜びを示せー!」

「コラコラ、英二。落ち着くんだ」

みんなして大騒ぎして。

「……こんなんじゃ物足りねぇ!もう1試合やろーぜ!侑士!」

「はぁ?元気やなぁ、岳人は」

「あっ、俺もやるC〜!不二くん、相手してよ!」

「クスッ……うん、いいよ。やろうか」

「おい、桃城……ついでだから相手してやる」

「おっ、そんなこと言っていーのか?日吉。返りうちにしちゃうぜー?」

「宍戸さん、久しぶりに一緒に組んでくださいませんか?」

「よっしゃ、長太郎!やろうぜ!」

さっきまでぐったりしてたくせに。
最後の試合だって言ってたくせに。

またみんなの目がらんらんと輝き始めた。

ボトルを持って、私は景吾に向き直った。

「……景吾、私もう1度ドリンク作りに言ってくるね」

あぁ、と頷いた景吾が、私を見てあきれたような笑みを浮かべた。

「…………にやけた笑顔だ」

「へへっ、笑いたくなるってもんですよ」

「あ―――!、ドリンク作りに行くの〜!?」

走り出そうとしたところで、ジローちゃんの声が追いかけてきた。

「うん、行ってくる〜!みんな、もーちょっとテニスしてくでしょ?」

うん、と全力で頷くみんなを見て、思わず笑った。

「早く帰ってこいよ〜!俺、次はお前と組もうと思ってんだからなー!」

「えっ!?」

「次に先輩と組むのは俺です。向日さんはもう一緒に組んだんでしょう?」

「跡部が邪魔するから、1回しか組んでねぇんだよ!」

「あっ、じゃあ俺!俺、先輩の相手したいッス〜!」

がっくんに若に桃ちゃんに。
いろんなところから聞こえてくる声に、思考が停止しかける。
そんな私を見かねたのか、景吾がトン、と背中を押してくれた。

「……早く行って来い」

「あっ、う、うん!」

「帰ってきたら、さっきのゲーム、やり直すからな。組むのは俺様だ」

「はいぃぃいっ!?」

振り返ったら、景吾が極上の笑みを浮かべていた。



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