「今日はよろしく頼む」

「ま、お互い久しぶりだし、肩の力抜いて行こうぜ」

そんなこと言って。
……景吾さん、やる気満々のくせに。



Act.35  備体操は、手伝うだけで結構です



跡部家所有のインドアテニスコート。
景吾さんはまた豪快に貸切なんかしてくださったらしく、私たち以外誰もいなかった。

よいしょ、と持ってきた荷物を邪魔にならない場所へ置く。

みんなはコートにネットを張った後、思い思いに準備体操をしたり、話したりしている。
その間に、私は練習用のボールや試合用の新球を準備しようとベンチ付近に近づいていった。
と、近寄ってくる影。

ちゃん、今日はヨッロシクゥ!」

「英二くん!うん、よろしく!」

青学の可愛こちゃん、菊丸英二!!
あぁ……そのバンソーコー、お姉さんが貼り替えてあげたい……!

「体操終わったの?柔軟やるんだったら手伝おっか?」

「えっ、マジマジ〜!?んじゃ、お願いしちゃおっかにゃ〜♪」

えへへ〜、と笑うえーじくんは、ホントもうビックリするほど可愛い
女として可愛さ負けててもいい……!この子に可愛さで負けてるなら本望……!
背は同じくらいなのにどうしてこうも小動物オーラが出せるのかしら……そのコツをぜひとも教えていただきたい。

心に抱いた様々な思い(邪なモノ含む)を笑顔で誤魔化して、役得とばかりにえーじの背中を押す。
ニコニコ笑いながら柔軟をやる英二くんは、驚くほど体が柔らかい。
感心しながら柔軟を手伝っていると、

っ、俺も俺も〜!菊丸ばっかズリィ〜!」

可愛さMAXのがっくんがど〜んっと背中に体当たりしてきた。
あぁ……がっくんにも可愛さで負けていい!こうなったら白旗どんどこあげまくる!!

「はいはい、がっくんもね〜。がっくんも体や〜らかいもんね〜」

英二くんの柔軟をひと通り終えて、すでにちゃっかり座って準備しているがっくんの元へ。

「へへっ、跳ぶには体のバネが大事だからな!」

「なるほど。がっくんのみそジャンプの秘訣はそれなのね……!」

「おう!」

「……その点」

ニヤニヤ笑いを抑えず、私は近くで柔軟をやっている侑士に目を向ける。
侑士がちょっと目を逸らした。

「……侑士さんはちょっとお硬いですよねぇ〜」

「……ほっときー」

侑士もものっすごい硬いわけじゃないけど、がっくんやえーじに比べれば、ね。
体育も器械体操は苦手だって言ってたし。

「……でも、そーゆーちゃんも、人のコト言えんよなぁ?」

ニヤ、と笑った侑士が立ち上がった。
ついでにがっくんもニカッ、と笑って素早く私の背後に立った。

「え?え?ちょ……まさか……」

「行くぜ、侑士!」

「任しとき、岳人」

「ちょ、こんなところでコンビ力発揮しなくてい……ぎゃー!」

すとん、と侑士に座らされた私は、がっくんに背後から押されて、強制柔軟へ突入。
元々体柔らかくはないのに……ぎゃー!!(涙)

「私は柔軟しなくていいと思うんですがー!!イタタタッ」

「何言うてん、準備体操は大事やで」

「そーだぞー、が怪我したりしたら嫌だかんな」

がっくんの一言にうっかりときめいたけれども、それをかみしめる余裕もなく柔軟は続く。

「怪我するようなことしませんって私ー!今日はただの観戦「お前もしっかり柔軟やっとけ。それとも……俺様にやってほしいか?」

相変わらずの美声に、私の悲鳴はかき消された。
見上げれば、腕組みをしてこちらを見ていらっしゃる景吾さんの姿。
思い出されるのは、春休みの合宿で景吾さんにじっくりみっちりやられた柔軟体操。イヤァァァ……!

「いやいやいや!大丈夫です!……ってか、もう十分!これだけやってもらえれば、ドリンク作りに走るのも、怪我人抱えて走るのも全力で出来ます!」

そうまくしたてると、ちょっとあきれたような顔になる景吾さん。
え、私、何か間違ったこと言いました、か……?

「……バーカ、それだけでこんな柔軟やらせるわけねぇだろうが」

「……は?」

それだけ?
……あ。

不慮の事故で飛んできた球を避けるのだって出来ます、けど!

「……えーっと?」

いつの間にか、周りに集まっている面々。

青学は、手塚くん、大石くん、不二くん、英二くん、乾くんに河村くん。

対する氷帝メンバーは、景吾、侑士、がっくん、亮、ジローちゃん。

……………………………ん?

そこで、違和感。

首を捻って、青学と氷帝メンバーを交互に見つめる。

「………………………!!!」

氷帝メンバーが、一斉にニヤ、と笑った。

「1、2、3、4、5、6…………」

耐えきれずに、指をさして、人数を数える。
青学は、6人。

対する氷帝は……

「1(景吾)、2(侑士)、3(がっくん)、4(亮)、5(ジローちゃん)…………」

「「「「「」」」」」

5人分の指が、私に向かっていた。

「…………私ィ!?」

コックリ頷いた5人の肩を、順に揺さぶりたい気分になった。




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