夕食も終わり、部屋での時間。
夏休みということで、明日までに仕上げなければならない宿題なんてものはなかった。……いや、もちろん、『8月31日』までに仕上げなければならない宿題は、大量にあったけども。

まぁ、それはそれ。8月31日なんて、まだまだ先よ!別に、今やらなくても、間に合うもーん。

大半の人が陥りやすい、夏休みの罠にバッチリはまりながら。

私は、ぱちり、とテレビを着けた。





今日に限って、なにも面白いテレビはない。
パチパチ、と流れ作業的にチャンネルを変える。

ぼーっと、画面もあまり見ずにチャンネルを変えていたら、コンコン、というノック音が聞こえた。

「?はーい?」

「俺だ。入るぞ」

「景吾?うん、いーよ」

ガチャ、とドアを開けて入ってきたのは、もちろん跡部景吾様。
……珍しい、ノックするなんて。いつもは、ノックもなしに入ってくるのに。

だけど景吾は、ノックした割にはいつもと変わらず、悠々と歩いてきて、当然のように私の寝転がっているベッドに腰掛けた。

「珍しいね、ノックするなんて」

「何言ってやがる、この間も……あぁ、いや……たまには、と思ってな」

「……?ふーん」

「…………というかお前、こんなの見てたのか?」

「へ?」

「テレビ」

景吾に言われて、私はテレビを見た。適当にチャンネルを変えてたときにノックをされたから、そのままになってたんだ。なんの番組をつけてたのか、自分でもわかっていなかった。
よくよく見てみると……『真夏の怪奇シリーズ』……?
……うわ、この時期特有の特番じゃん!(汗)

「お前、こういう類嫌いじゃなかったか?」

「えっ?と、得意じゃないけど……こ、これはたまたまつけちゃったんだよっ……そ、そだ、なんか違う番組に―――」

「別にそんな焦らなくても―――ちょっと待て。……今紹介してるスポット、見覚えねぇか?」

「え?…………ん?ここ……」

テレビでやっているスポット。
東京都のとある場所―――と、ぼかした形での紹介だけど……景吾が言うとおり、見たことのある風景だ。
私が行ったことある場所で、この風景は―――。

「…………ストテニ場の近くじゃん!え、今やってるとこ、通ったことあるよ!?……確かに、ちょっと暗くて不気味な場所だったけど……」

「なんかいるみてぇだぜ。……そーいや何年か前に、でっかい事故があったな……」

「えっ、ちょっ…………あ、ホントだ!なんか事故のことも言ってる……うわぁ〜……」

自分の知っている場所、ということで思わずテレビに見入ってしまう。
……そのうちに、段々目が離せなくなってしまい、結局最後まで見てしまった。
ハッと気付いたときには、もう番組のエンドロールだったのだ。

おぉぉ……私のお馬鹿さん……ちょっと怖くなっちゃったじゃないか……!
っていうか、こーゆー時無駄に部屋が広いとさ、なんか、怖くない……?ほら、ちょっとなんか違うものが部屋にいても、わからなさそうでさ……!



と。



パタン……ッ……。



突然の物音に、ビクッと思いっきり反応してしまった。

「な、なななな何……!?」

思わず景吾に問いかける。チラッと景吾が窓の方を見て、小さく息をつきながら言った。

「ただ窓が閉まっただけだ」

「窓なんて、開けた覚えないよ!?」

「…………誰か屋敷のヤツが、空気の入れ替えで開けたまま、忘れてたんだろ」

「……そ、そうだよね……」

あぁ、ビックリした……いや、だって、開けた覚えのない窓が閉まったんだもん、そりゃ、ビックリするよね!うん、決して意地張ってるわけじゃないよ!?
し、心霊関係の話してたら寄ってくるとか(何が、とはあえて言わずに!)そういう話も聞いたことあるけど……は、話してないし!テレビ見てるだけだし!テレビ見てる人全員に寄ってったら、大変だもんね!総動員だよね!うん、だから平気だよ……!

そうやって、自分に色々言い聞かせていたら。
スッ、と視界に写っていた影が動き、またもや体がビクリ、と反応してしまった。

その影は、ベッドから立ち上がったために動いた、景吾の影だったのだけれど―――いや、いきなりだとビックリするじゃん!?

ドックドックと鼓動が早鐘を打つ。

それでも、ビックリしたことを誤魔化すように、なんでもないフリをした。
ビビったとかバレたら、なんだか変なところを付け込まれそうだもの……!

そしたら、無言で景吾が歩き出したので、思わず声をかける。

「け、景吾、どこ行くの……?」

「トイレだトイレ。……ったく、んな怖がんなら見んじゃねぇよ、バーカ」

「ち、違……っ……こ、怖いんじゃなくて、これは、その……」

ごちゃごちゃと頭の中を言い訳が駆け巡って……結局、なにも言えず、あはは、と笑って誤魔化す。
そしたら、景吾の目が少し細くなった。
……う、この顔は、ちょっと嫌な予感……!

「……ほぅ。そうか。……なら、俺様は部屋に戻るぜ。明日も部活に行くしな」

「へっ!?」

「久しぶりだな、一人で寝るのも」

「……景吾、部屋戻るの……!?」

「あぁ、たまにはな。じゃあな、。おやすみ」

「え、あ…………(思考中)……………おやすみ」

ちゅ、と一度軽いキスをすると、景吾は本当に部屋から出て行った。
残ったのは、いつもより広く感じる部屋に、私1人。

………………よ、予想外の展開だ………………!(滝汗)

テレビはもう、怖い番組をやってはいなくて、芸人が出てるバラエティなんだけども……面白いだなんて、思えなかった。

ひゅぅぅう〜……。

今日に限って、無駄に風強いし!
なんなの!一体なんなの!!!

「……もう寝てしまえ……!」

景吾の言うとおり、明日も部活だ。
こういう日はさっさと寝てしまうに限る。

私はテレビを消して、さっさとベッドに入った。






「ち、違……っ……こ、怖いんじゃなくて、これは、その……」

そこまで言ってから言葉を止め、結局あはは、と微妙な笑みを漏らす。
強がっているのがバレバレだ。

のその乾いた笑いを聞いて、俺の悪戯心が頭をもたげた。
今、を1人にしたら、どうなるか―――。
そんなわけで、わざと俺は自分の部屋に戻った。

ちら、と時計を見る。

「…………そろそろ、か」

小さく呟いて、本棚から1つ、詩集を取り出す。
大して見る気もなかったんだが、一応開いておいた。

1つ2つ、詩に目を通したところで。

………………コンコン。

遠慮がちなノックの音に、口元が緩むのが自分でわかった。
ゆっくりと立ち上がって、たっぷり3秒待ってから歩き出す。

キィ……。

ドアを開ければ、枕を抱えたが、うつむいて立っていた。

「どうした?そろそろ寝ようと思ってたんだが?」

「あ……え、と……景吾、さん…………い、一緒に寝ても、いいですか……?」

「(ニヤ)……あーん?なんだ?聞こえないぜ?」

「〜〜〜〜〜〜一緒に、寝かせてくださいぃぃ〜……」

の絞り出すような声に、クッ、と喉の奥で笑った。
キィ、とドアを大きく開けて、を招き入れる。
手をつないでベッドまで歩く。相変わらずは俯いて無言だが、ベッドにおとなしく座った。

「……ったく、怖いんなら最初からそー言え」

「こ、怖いんじゃなくて……」

「……まだそんなこと言うのは、この口か?あーん?」

グッ、と肩を引き寄せてキスをする。今度は、先ほどしたやつとは比べ物にならないほどに、口内を蹂躙してやった。

―――唇が離れると、少しだけ潤んだ目のが、観念したようにポス、と俺に体を預けてきた。

「……そーですよ……ちょっとだけ怖くなっちゃいましたよ……あんなスポットが近くにあったら怖いじゃないですか……」

俯いて、小さくぶつぶつと呟くは、枕を抱きしめたまま。
ようやく認めたらしい。

「……ったく……最初から素直にそう言えば、俺様がちゃーんと抱きしめてやったんだがな」

「んなっ……」

「ま、今からでも結果はかわんねェが。……ほら、もう寝るだろ?ベッド入るぞ」

何か言いたげなを制し、ベッドにもぐりこむ。
手を1つ叩いて、電気を消した。

真っ暗になった部屋。ナイトランプも今日はつけなかった。

もぞもぞ、といつもなら少し距離をとるが、今日はぴったりとくっついてくる。
……視線を少し、彷徨わせることになったが、どうにか抑えた。……いや、昨日も抑え切れなかったし、さすがに明日も部活だから、な……。

「……景吾」

「……あーん?」

「……今日だけは夜中に水飲みに行くのもなし、ね……ここ、いてよ?」

………………コイツは、俺様の理性を試そうとしてるのだろうか。
別に明日の部活は、出なくても支障はない。……これは、俺に『襲え』と言ってるのか?
の顔を覗き込めば、暗がりでも瞳が見える距離。その瞳は、至極真剣だった。

「…………わかったわかった。どこにも行かねぇから、もう寝るぞ」

1つキスをして。
…………やりきれない思いをため息に馳せて、俺は愛しい存在を抱きしめた。

………………これは、さっきの悪戯の報いか、と心で思いながら。




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