、風呂出た」

今日もいつものように、景吾がほかほか湯気を立てながら部屋にやってきた。
お風呂の順番は、景吾 → 私 というのが、もう定着している。

「んー……じゃ、お風呂入ってくる〜」

「あぁ……」

景吾がそのままベッドに飛び込んだ。
……私のベッドなんだけど……居座るつもりね。

まぁ、いいんだけどさ。





今日は疲れてたから、少し長めにお風呂。
大きな浴槽の中で、体をほぐす。

たっぷりお湯に使った後、温まった体が冷えないうちに、さくさく部屋に戻った。
ドアを開けて……あれ?
いつもだったら、景吾が何か声をかけてくるんだけど……。

中まで歩いていくと。

「…………すー…………」

ベッドから小さな寝息。
…………景吾さん、寝てらっしゃる……?

本を読んでたみたいで、すぐ横に開かれたままの本。
でも、完全に目は閉じられてた。

最近、亮のことやらなにやらで、気疲れしていたのかもしれない。部活だけじゃなくて、最近は生徒会も色々と忙しいし。

ふぅ、と息を吐いて、私は首にかけていたタオルを取った。
置いてあるタオルハンガーにかけた後、ベッドに静かに近づく。

さて、どーしたものか……起こすのも可哀相だし……。
でも、私が寝る場所がないじゃないのさ。
…………一緒に寝るという選択肢もあるけど、それは最終手段。
だって、景吾が寝てる隣に入るなんて、恥ずかしくて死ねる……ッ!

景吾の顔を、じっと見つめた。
うわー……やっぱ綺麗な顔だ……。

思えば、景吾の寝顔なんてじっくり見たことないかも。
いっつも私より早く起きてるし、寝るときだって私のほうが早い……それでも時々、夜中に起きたとき見たりはするけど……明るい部屋でマジマジ見たことなんてないしなぁ。膝枕のときは、それどころじゃなかったし……!

…………………よし、この際だから(?)端整なお顔を堪能させてもらおう。

「わ……睫毛なが……」

目が閉じられてるからこそ、睫毛が長いのがよくわかる。
うひぇ〜、こりゃマスカラいらずだわ……って、景吾はマスカラ使わないか……。

肌も超キレイ。炎天下の中でテニスをやってるのに、シミ1つない白い肌。日焼け止め塗ってたな、そういえば……。

そして1番気になるのが。

「……ホクロ」

右目の下にあるホクロ。
じぃっと観察してみると、すこ〜し出っ張ってるのがわかる。

うわぁぁぁ、触りたいっ、触りたいよこのホクロ!
お、起きないかな……触っても起きないかな……。

ちらっと景吾の呼吸を確認したら、先ほどと変わらない深い息。

………………………触ってしまえ。

そろそろと手を伸ばした。

人差し指の先で、ちょん、とホクロに触れる。
おぉぉ、やっぱり出っ張ってる……!面白い……っ!
ってか、なんなのよ、このお肌のすべすべ具合……!なんだか色々負けてる気がする……女としてなんだかショック……ッ!

ホクロから少し下がって、頬の辺りを触った。頬骨が出てる。

「……はぁ〜……唇もツヤツヤ……」

景吾はリップクリーム常備だしね……唇荒れてるの見たことない。
流石に唇に触れるのはダメだろう。
さっきから、変態っぽいことしてるけど……唇触ったら、本当に変態だ。

でも最後の最後に、もう1回だけホクロを……!

頬骨からホクロへ手を戻して、そろそろとホクロを触る。
あはは、やっぱり出っ張ってる〜。

「…………手つきがエロい……」

「わっ!?」

叫び声を上げたとたんに、手を掴まれて引き寄せられた。
なんとか手をベッドについて、景吾の上に倒れこむのは阻止したけれど、頭を押さえられてそのままキスされる。

さっきまで見ていた、ツヤツヤの唇が私の唇を塞ぐ。
さっきよりも間近で、景吾の顔が見える。

その綺麗さに耐え切れなくって、ぎゅっと目を瞑った。

「……ぷはっ…………」

ようやく解放されて、色気もへったくれもない声を上げた。
それほどまでに、長かった……!
景吾、自分の息が続くかぎり、キスし続けるんだもん……疲れる……!

というか。

「いつから起きてたの……!?」

が目元、触り始めたときから」

「なっ……なんでもっと早く声かけてくれないのさっ」

変態さんな行動をしてるとき、バッチリ覚醒してたってことでしょ!?
あぁぁ、恥ずかしすぎる〜〜〜!!!

が俺にキスするかと思って、待ってたんだが?」

「んなっ!す、するわけないでしょー!」

「なんでだよ。しろよ、ほら」

景吾が、ん、ともう1回目を閉じた。長い睫毛が揺れる。

「なんでー!?」

「いつも俺からばっかりだろ。だから、たまにはお前から。……しねぇと、明日はベッドから離さねぇ」

No〜〜〜!!!
うぅぅ……恥ずかしいんだよ……私からキスするってことは、唇に到達するまで目を瞑れないってわけで(唇以外のところにキスしちゃうかもしれないから)。

そうすると、ごくごく至近距離で景吾の顔を見ることになるわけで……!美しい景吾さんの顔をこれ以上見つめたら、私、本気で鏡見れなくなるから……!

「5秒以内にしねぇと、明日はベッドから……」

「わわわ、待って〜!」

景吾はやるといったらやるのだ。そんなことになったら、とんでもない(汗)
……ちょっと待って、前にもこんなことあった。
その時は……舌入れなきゃダメだって言われて、やり直しくらったんだよね……。

「景吾……キスってさ」

「舌入れなきゃ、キスとは認めねぇ」

イヤ―――!!!(絶叫)

「5・4・3……」

「わっ……うぅ……っ」

仕方ナシに、景吾の顔に近づく。
あぁぁ、ドアップの綺麗な顔……!

唇に触れたとたんに、目を瞑った。
景吾の、少し開かれた唇から舌を挿し入れる。
舌を掴まえて、少し絡ませた。

も、もう無理……ッ!
いつも思うけど、どうしてこんなのをさらっと景吾は出来るの……!?

「……んっ……」

景吾の舌が答えるように絡んでくる。
もうそろそろいいだろう、と体を離そうとしたら、くるん、と体勢が入れ替わった。

つまり、ベッドに押し倒される体勢。

「…ふぁ、っ……」

今度は景吾が私の口内に舌を入れてくる。
だから、どうしてこんなことが……っ(泣)

仕上げ、とばかりにきゅ、と下唇を軽く噛まれた。

「……まだまだ、だな……」

「どこぞのルーキーみたいなことを言わんといてください……シクシク……」

私の言葉をバッチリガッチリ無視して、景吾がゴロン、と隣に横になった。
横になるのはいいんだけど……そんなじぃっと顔を見ないで……ッ。

「なっ、なにっ?見ないでよ〜……」

景吾みたいに綺麗な顔じゃないから、じっと見られるには抵抗があるよっ!
端整な顔の持ち主には、この気持ちは一生わからないんだろうさ!(泣)
景吾が、さっき私がホクロを触っていたみたいに、そろりと親指で目元を撫でる。

「……お前、さっき手つきがエロかった」

「はっ!?」

「俺の目元撫でて、そのまま頬撫でて―――」

景吾が言いながら、同じように頬を撫でる。
えっ、ちょ、ちょっと……!

「……やらしいな、お前」

「なんで、私!!!」

今、やらしい行動をしてるのは景吾さんでしょ!?
さっきの私より、数倍……いや、数十倍手つきがエロいよっ!
私は、ただホクロが触りたかっただけだもん……!

「わ、私はちょっと、景吾のホクロに触って見たかっただけ……!」

「あーん?ホクロ?」

「そうっ!その目元のホクロに触りたかっただけなの!だから、やらしくもなんともない……っ」

「ホクロか……お前、自分のホクロがどこにあるか、知ってるか?」

「へ?」

すっと景吾の手が、頬から外れて顎のところへいく。
顎の下をすっと撫でられた。

かすかに触れる手が……なんだか異様にエロいッ!

「ここに1個」

きゅ、と軽く押されて、その後首筋に手が移動して、

「ここにもあるし」

次は耳の裏辺りに触れる。

「……ここもだ」

………………そんなところにもあったのか、知らなかった。
ってか、耳の裏なんて、普通見ないし見えないし。

「…………後、太ももの―――」

「わ―――!もういいっ、もういいっ!!!」

色々こっ恥ずかしいからやめて!(絶叫)
くっ……と景吾が喉の奥で笑った。

「俺様は、お前の体中隅々見てるからな……」

「あぁぁ……エロいのはどっちよ〜……」

くっくっ……と景吾が笑いながら、ぎゅっと抱きついてくる。

………………………ちょっと待てよ。
ヤバイぞ、なんだかこの体勢。

「景吾さん、私、キスした……よね?だから、約束は―――」

「バーカ、ありゃ、明日ずっと離さねぇっつっただけだろ。今日は別」

「な、なんですとー!?……んっ」

………………………結局、そーゆーオチかよッ……(シクシク)

ちなみに、また寝顔を見る間もなく、私のほうが先に寝てしまいましたよ…ッ。




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