「んー……と……亮は……擦り傷手当て……と」

いつものように部活ノートを書いていると。
突然、ブブブ、とテーブルが振動したから、ビクッとしてしまった。

……まぁ、携帯だから、突然鳴るのは当たり前なんだけど、妙に驚いてる自分に苦笑する。

景吾がお風呂に入っててよかった。こんな姿見られたら、またからかわれる。

パコン、と携帯を開く。

『新着メール』

ボタンを操作して、メール画面を開く。
おっ……と、見たことないアドレス。
誰か、アドレス変更でもしたかな?

ぽち、とボタンを押して、メールを開くと。

From:ednvo4ck-simle
Subject:
本文
お前の秘密を知っている。
このメールのことを誰にも言わずに、明日の夜7時に、1人で氷帝学園近くにある○×公園に来い




……………………え?

もう1度読み直す。

From:ednvo4ck-simle
Subject:
本文

お前の秘密を知っている。
このメールのことを誰にも言わずに、明日の夜7時に、1人で氷帝学園近くにある○×公園に来い



え――――――!!!(絶叫)

画面を穴が開くほど見つめた。

え……間違いメールとかじゃないよね!?題名に私の名前入ってるし!
チェンメ!?いやいや、それにしては個人宛てのメールだしッ!

ひ、ひひひ、秘密って何!?

異世界からトリップしてきたこと!?
景吾の家に住んでること!?
監督のこと、『太郎ちゃん』って呼んでること!?
ドイツ語の宿題の半分以上、景吾に教えてもらったこと!?
それとも、化学のレポートがあまりにもわからなさすぎて、侑士に見せてもらったこと―――!?(段々規模が小さくなる)

あぁぁぁ、思い当たることが多すぎる!


ってか、このメールの差出人、誰よ!
こんなメアド、知らないよ!
とりあえず……返信してみるか……。

To:ednvo4ck-simleda
Subject:無題

本文
すみません、誰ですか?お間違えじゃないですか?



こ、こんなときでも下手だな、自分……ッ。
まぁ、いいか……ケンカ腰にメール打っても、意味ないしね……秘密、バラされたくないし……っ(本音)
本文を打ち終わって、送信ボタンを押したら。

『送信できませんでした。アドレスを確認してください』

う、うっそー…………。
あ、アドレスすぐに変えられた……ッ?

なんて用意周到なヤツなんだ……ッ。

一方通行の連絡じゃ、反応しようもない。

ガチャ。

?風呂、空いた」

バコンッ。
携帯を慌てて閉じた。

「わ、わかった。次入る〜」

大急ぎで携帯を閉じた。
け、景吾には知られないほうがいいよね……っ、誰にも言うなって書いてあるし……っ。
余計な心配かけるといけないしっ。

携帯をぎゅっと握り締めて、お風呂に入るための準備をした。





翌日。
部活を終えた後、いつものように車に乗り込もうとする景吾を呼び止めた。

「け、景吾……わ、私、今日、寄るところあるからさ、先、帰ってて?」

「……あーん?どこだ、寄るところって。車で行けばいいだろ」

「や、ちょっと車じゃ行けないから……すぐに帰るから」

心臓がバクバク鳴ってる。
お願いだから景吾、これ以上なんにも言わないで……っ(願)

景吾がじっと私を見てくる。
ヒィィ……お願いだから、何にも聞かずに納得して、プリーズ!

「………………わかった。帰る時は連絡しろ」

景吾の返事に、ほっと息が漏れた。
これ以上追求されたら、きっとボロが出る。

「うん。……じゃ、また」

景吾が乗った車を見送って、ちらりと時計を見る。
6時40分。
…………なんてグッドタイミング。

私は鞄を持ち直して、学校のすぐ近くにある公園へと向かった。
小さな公園で、遊具も少ない。
昼間はもうちょっと明るいイメージだけど、夜だと……電灯ないし、怖いな……。

ビクビクしながら、公園の中に入った。

ブランコに座って、待ってみる。

………………今日の授業中、一所懸命言い訳を考えた。


シュミレーション1。

相手『あなたの秘密……あなた、異世界から来た人間なんだってね』

私『いやだなぁ、そんなことあるわけないじゃないですかー、あっはっはー。また、おかしなこと言う人ですねぇ』

よしっ、この場合はなんとかこれでゴリ押しするぞッ!
常識的に考えて、誰がどうみたって私の方が正論だ!(キッパリ)


シュミレーション2

相手『あなたの秘密……あなた、跡部景吾と一緒に住んでるんだってね』

私『親戚なんで、親がいない間、お世話になってるだけですよ。いやぁ、使用人さんがたくさんいて、すごいですよ』

よしっ、微妙な開き直り具合で行こうッ!
親戚、ってのを強調するところがポイントだね!


うむ、なかなかいい調子だぞ……。

「……?」

暗闇からの突然の声。
シュミレーションを中断して、声の主を探した。

茂みの奥の方から出てくる人影。
声も低いし、体格から言っても、男。

…………秘密だなんていうから、てっきり景吾ファンの女の子が、私を脅すために、呼び出したもんだと思ってたけど……男?

ブランコから立ち上がった。

「そうですけど……あなたが、メールして来た人ですか?どういうつもりですか?勝手に人の携帯に変なメール送りつけてきて」

薄暗い電灯が、ようやく男の顔を映し出す。
……見たことない、顔だ。
他校生?制服が、氷帝の制服じゃない。

「……あなた、誰ですか?」

「……そりゃ、俺のこと知らねぇだろうな。俺は、氷帝の生徒でもなんでもねぇから」

だからお前誰だよ、と聞いてるんだけど(怒)
ジリジリと近寄ってきたので、近寄ってきた分、私も下がる。
こーゆーヤツには、近づいちゃいけないんだ。
一定の距離を保って……いざとなったら、逃げられるように。

「…………なぁ、話があるんだけど」

「話なら、この距離で聞くから、どうぞ」

たっぷり2メートルほど距離を空けて、言った。
さぁ、どんとこい!全てに言い訳してみせる!(意気込むな)

「…………俺、あんたに惚れたんだ」

惚れた!この場合の言い訳は―――。

…………………………………………………は?

目が点を通り越して、落っこちるかと思った。

惚れた?

誰が。

誰に。

「あんたが、跡部と噂になってんのは、他校にも伝わってる。だが、彼氏じゃねぇんだろ?……俺、この前、あんたが試合会場で一生懸命働いてるの見て……一目ぼれ、して」

照れたように、頭をかく相手。

「…………え、えぇっ!?ひ、ひひ、一目ぼれ!?」

「……あんなメール送って、悪かったと思ってる。秘密を知ってる、っていえば、絶対来てくれると思って……友達からでもいい、付き合ってくれないか?」

え―――!!!!

大パニックだよッ!
秘密を知ってるって、ウソ!?近頃の中学生は、こんな手を使うの!?
普通、こんな手で会ってきた相手には、絶対惚れないと思うんだけど!!!

というか、告白!?これは、愛の告白というヤツですか!?

そして、それをされてるのは、私ですか……!?

「えっ、やっ……あのっ……私、跡部、くん……と、ホントは付き合ってて!学校の人には、言ってないんだけど……ッ……だから、申し訳ないけど、君の気持ちには……ッ」

パニックだから、断片的に言葉を繋ぎ合わせて、なんとか文章を作り上げる。
しかも、自分で言って自分で照れてどうするよッ!
跡部くんと付き合ってる……って!(照)

「そ、うか……付き合って、たのか……」

「あ、う、うん……だから……ご、ごめんなさい……」

「………………じゃ、仕方ねぇよな」

「ご、ごめん……」

なんだか、申し訳ない気がしてくる。
で、でも、断るときは、やっぱりキッパリ断った方がいいよね……!?

「じゃあ、さ」

「はい?」

「…………最後に……キス、させてくれないか?」

えぇぇえぇぇえぇぇぇえええ!!!(大絶叫)

キ、キス!?

そんなっ、最近の中学生、どうなってんの……ッ?
人に『秘密を知ってるぞ』メールを送ってきた挙句、なんで断った相手に、キスを迫るのよッ!

「って、近っ!」

いつの間にか、空けていたハズの距離が、なくなっていて。

ジリジリ下がったけれど、後ろは茂み。
こ、これ以上下がれない……ッ!

ガシッと手を捕まれて、拘束された。

「やっ、ちょっ……」

間近に迫ってくる顔。
なんとか顔を背けようと―――。

「おい、コラ」

低い声と、ガシッと近づいてきた相手の頭を、掴む手。
ギリギリ、と音が鳴りそうなくらい、握り締めてるその手は。

「け、景吾……ッ」

「いてっ、いててててっ!」

「貴様……人の女に手を出すとは……いい度胸だな、あーん?」

ガゴッと鈍い音が鳴って、男が吹っ飛ぶ。
え、何が起こったのよ……!?
もしかして、け、景吾が殴り飛ばしたのですか……!?

ザッと地面に倒れた男に、さらにガンッ、と蹴りを加えた景吾。
その蹴りで、男はサーッと逃げていった。

呆然とその光景を見る。
景吾が殴った右手を1回振って、くるりとこちらへ向き直った。

……怒ってる……怒ってるよぉ〜…………。

『怒ってます』と主張する、荒々しい足音。

「バカヤロウ!」

滅多に聞かない景吾の怒鳴り声に、ビクリと体がすくむ。

「お前、俺が来なかったら、キスどころじゃ済んでなかったかもしれねぇんだぞ!こんな人気のねぇところで、男と2人っきりになるなんて、襲ってくれって言ってるようなもんじゃねぇか!」

「ご、ごめんなさい……っ」

いつでも逃げれると思ってた。
なんとかなると思ってた。
いざとなったら、暴れて抵抗して、逃げればいいと思ってた。

だけど、実際、手首を掴まれたときは、ものすごい力の差で。

暴れるどころじゃなかった。

「……ったく…………」

目の前までやってきた景吾は、腕を広げて抱きしめてくれた。
ぎゅっと頭を抱えられて、ようやく私は自分が震えてることに気づいた。

「あ、れ……」

「あれ、じゃねぇんだよ。……お前は無防備すぎる」

「う……」

「男がこんな公園に呼び出すなんて、下心以外のなんでもねぇだろうが」

「……男だって、知らなくて……」

メールだけだったから、女の子だと思ってたし……。
言い訳だって考えてたしね……。

「……じゃあ、なんでお前こんなとこ来たんだよ」

「昨日、メールで……呼び出されて」

景吾の動きが止まった。

「……携帯」

「え?」

「携帯、見せろ」

一旦離してもらって、ポケットから携帯を出し、景吾に渡す。
景吾も、同じ機種の携帯を持ってるから、慣れた操作でメール画面を開いた。

ジッと昨日のメールを見た後。

携帯を閉じ、はぁ、とため息をつく景吾。

携帯を返してもらって、ポケットに入れると同時に、また、抱きしめられた。

「……お前な……もっと、俺を頼れ」

「え?」

「お前は、肝心なところで俺に頼らねぇ、甘えねぇ。このメールだって、言ってくれりゃ、俺がどうにでも対処してやる」

「…………でも、景吾に迷惑かけるし……」

「そこだ、そこ。……こういう迷惑なら、いくらでもかけていいんだよ。……秘密をバラす?上等だ。その前に相手の秘密を暴き出す」

景吾なら、やりかねないところが、また、現実味がある……。

ちゅっ、と頬に感じる感触。

「わっ!?」

ふ、不意打ち……ッ。
ビックリして離れようと思ったけど、もちろんガッチリ固定されているので、動けない。

「……もっと俺に甘えろ。お前は、それが許された、唯一の人間だ」

景吾の親指が、唇をなぞる。
恥ずかしくて、顔から火が出るとはこのことか……ッ!
次いで、指の代わりに降りる唇。

「…………っん……」

深く入り込んでくる舌。
油断したら、カクン、と腰砕けになるのを、景吾のシャツを握り締めることによって、なんとか阻止。

2回ほど角度を変えて、キスされて、ようやく解放された。

恥ずかしいのと、息が吸えないので真っ赤であろう顔。
フィニッシュは、軽い、音だけのキス。

…………私だけ息が切れてて、景吾が余裕綽々なのが、また……ッ!(泣)

「……今度からは、ちゃんと俺に言え」

「りょ、了解です……」

ポン、と頭に手を乗っけられ、景吾に手を握られて、公園を出る。
公園の外には、いつもの車が待っていた。
車に乗り込んで、はたと疑問を述べてみる。

「…………そういえば、なんで景吾、タイミングよく現れたの?」

「お前の様子が変だったから、学校出た後、つけてきた。……その後は、木の影に。……ったく、俺様を立ちっぱなしにさせる女なんて、お前くらいなもんだ」

「……ずっと木の影に?」

「ただの告白くらいなら、俺様が出るまでもねぇと思ってたんだが……あそこまで、されたら、流石に出ねぇわけにいかねぇだろ」

………………でも、あれは予定外だったのよ、ホントに。
だってさ、フッた相手にちゅーされるなんて、誰も思わないじゃん!

「…………今日はバツとして、帰ったらたっぷりサービスしてもらうからな」

………………なんですと?

「……え―――!さっきのでチャラじゃなかったの!?」

「そんな安いわけねぇだろうが」

そ、そんな……帰った後が怖い……ッ!

運転手さんに、この辺ぐるぐる5往復くらいしてもらえませんか?って言いたくなった……!




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