「んー……と……亮は……擦り傷手当て……と」 いつものように部活ノートを書いていると。 突然、ブブブ、とテーブルが振動したから、ビクッとしてしまった。 ……まぁ、携帯だから、突然鳴るのは当たり前なんだけど、妙に驚いてる自分に苦笑する。 景吾がお風呂に入っててよかった。こんな姿見られたら、またからかわれる。 パコン、と携帯を開く。 『新着メール』 ボタンを操作して、メール画面を開く。 おっ……と、見たことないアドレス。 誰か、アドレス変更でもしたかな? ぽち、とボタンを押して、メールを開くと。
……………………え? もう1度読み直す。
え――――――!!!(絶叫) 画面を穴が開くほど見つめた。 え……間違いメールとかじゃないよね!?題名に私の名前入ってるし! チェンメ!?いやいや、それにしては個人宛てのメールだしッ! ひ、ひひひ、秘密って何!? 異世界からトリップしてきたこと!? 景吾の家に住んでること!? 監督のこと、『太郎ちゃん』って呼んでること!? ドイツ語の宿題の半分以上、景吾に教えてもらったこと!? それとも、化学のレポートがあまりにもわからなさすぎて、侑士に見せてもらったこと―――!?(段々規模が小さくなる) あぁぁぁ、思い当たることが多すぎる! ってか、このメールの差出人、誰よ! こんなメアド、知らないよ! とりあえず……返信してみるか……。
こ、こんなときでも下手だな、自分……ッ。 まぁ、いいか……ケンカ腰にメール打っても、意味ないしね……秘密、バラされたくないし……っ(本音) 本文を打ち終わって、送信ボタンを押したら。 『送信できませんでした。アドレスを確認してください』 う、うっそー…………。 あ、アドレスすぐに変えられた……ッ? なんて用意周到なヤツなんだ……ッ。 一方通行の連絡じゃ、反応しようもない。 ガチャ。 「?風呂、空いた」 バコンッ。 携帯を慌てて閉じた。 「わ、わかった。次入る〜」 大急ぎで携帯を閉じた。 け、景吾には知られないほうがいいよね……っ、誰にも言うなって書いてあるし……っ。 余計な心配かけるといけないしっ。 携帯をぎゅっと握り締めて、お風呂に入るための準備をした。 翌日。 部活を終えた後、いつものように車に乗り込もうとする景吾を呼び止めた。 「け、景吾……わ、私、今日、寄るところあるからさ、先、帰ってて?」 「……あーん?どこだ、寄るところって。車で行けばいいだろ」 「や、ちょっと車じゃ行けないから……すぐに帰るから」 心臓がバクバク鳴ってる。 お願いだから景吾、これ以上なんにも言わないで……っ(願) 景吾がじっと私を見てくる。 ヒィィ……お願いだから、何にも聞かずに納得して、プリーズ! 「………………わかった。帰る時は連絡しろ」 景吾の返事に、ほっと息が漏れた。 これ以上追求されたら、きっとボロが出る。 「うん。……じゃ、また」 景吾が乗った車を見送って、ちらりと時計を見る。 6時40分。 …………なんてグッドタイミング。 私は鞄を持ち直して、学校のすぐ近くにある公園へと向かった。 小さな公園で、遊具も少ない。 昼間はもうちょっと明るいイメージだけど、夜だと……電灯ないし、怖いな……。 ビクビクしながら、公園の中に入った。 ブランコに座って、待ってみる。 ………………今日の授業中、一所懸命言い訳を考えた。 シュミレーション1。 相手『あなたの秘密……あなた、異世界から来た人間なんだってね』 私『いやだなぁ、そんなことあるわけないじゃないですかー、あっはっはー。また、おかしなこと言う人ですねぇ』 よしっ、この場合はなんとかこれでゴリ押しするぞッ! 常識的に考えて、誰がどうみたって私の方が正論だ!(キッパリ) シュミレーション2 相手『あなたの秘密……あなた、跡部景吾と一緒に住んでるんだってね』 私『親戚なんで、親がいない間、お世話になってるだけですよ。いやぁ、使用人さんがたくさんいて、すごいですよ』 よしっ、微妙な開き直り具合で行こうッ! 親戚、ってのを強調するところがポイントだね! うむ、なかなかいい調子だぞ……。 「……、?」 暗闇からの突然の声。 シュミレーションを中断して、声の主を探した。 茂みの奥の方から出てくる人影。 声も低いし、体格から言っても、男。 …………秘密だなんていうから、てっきり景吾ファンの女の子が、私を脅すために、呼び出したもんだと思ってたけど……男? ブランコから立ち上がった。 「そうですけど……あなたが、メールして来た人ですか?どういうつもりですか?勝手に人の携帯に変なメール送りつけてきて」 薄暗い電灯が、ようやく男の顔を映し出す。 ……見たことない、顔だ。 他校生?制服が、氷帝の制服じゃない。 「……あなた、誰ですか?」 「……そりゃ、俺のこと知らねぇだろうな。俺は、氷帝の生徒でもなんでもねぇから」 だからお前誰だよ、と聞いてるんだけど(怒) ジリジリと近寄ってきたので、近寄ってきた分、私も下がる。 こーゆーヤツには、近づいちゃいけないんだ。 一定の距離を保って……いざとなったら、逃げられるように。 「…………なぁ、話があるんだけど」 「話なら、この距離で聞くから、どうぞ」 たっぷり2メートルほど距離を空けて、言った。 さぁ、どんとこい!全てに言い訳してみせる!(意気込むな) 「…………俺、あんたに惚れたんだ」 惚れた!この場合の言い訳は―――。 …………………………………………………は? 目が点を通り越して、落っこちるかと思った。 惚れた? 誰が。 誰に。 「あんたが、跡部と噂になってんのは、他校にも伝わってる。だが、彼氏じゃねぇんだろ?……俺、この前、あんたが試合会場で一生懸命働いてるの見て……一目ぼれ、して」 照れたように、頭をかく相手。 「…………え、えぇっ!?ひ、ひひ、一目ぼれ!?」 「……あんなメール送って、悪かったと思ってる。秘密を知ってる、っていえば、絶対来てくれると思って……友達からでもいい、付き合ってくれないか?」 え―――!!!! 大パニックだよッ! 秘密を知ってるって、ウソ!?近頃の中学生は、こんな手を使うの!? 普通、こんな手で会ってきた相手には、絶対惚れないと思うんだけど!!! というか、告白!?これは、愛の告白というヤツですか!? そして、それをされてるのは、私ですか……!? 「えっ、やっ……あのっ……私、跡部、くん……と、ホントは付き合ってて!学校の人には、言ってないんだけど……ッ……だから、申し訳ないけど、君の気持ちには……ッ」 パニックだから、断片的に言葉を繋ぎ合わせて、なんとか文章を作り上げる。 しかも、自分で言って自分で照れてどうするよッ! 跡部くんと付き合ってる……って!(照) 「そ、うか……付き合って、たのか……」 「あ、う、うん……だから……ご、ごめんなさい……」 「………………じゃ、仕方ねぇよな」 「ご、ごめん……」 なんだか、申し訳ない気がしてくる。 で、でも、断るときは、やっぱりキッパリ断った方がいいよね……!? 「じゃあ、さ」 「はい?」 「…………最後に……キス、させてくれないか?」 えぇぇえぇぇえぇぇぇえええ!!!(大絶叫) キ、キス!? そんなっ、最近の中学生、どうなってんの……ッ? 人に『秘密を知ってるぞ』メールを送ってきた挙句、なんで断った相手に、キスを迫るのよッ! 「って、近っ!」 いつの間にか、空けていたハズの距離が、なくなっていて。 ジリジリ下がったけれど、後ろは茂み。 こ、これ以上下がれない……ッ! ガシッと手を捕まれて、拘束された。 「やっ、ちょっ……」 間近に迫ってくる顔。 なんとか顔を背けようと―――。 「おい、コラ」 低い声と、ガシッと近づいてきた相手の頭を、掴む手。 ギリギリ、と音が鳴りそうなくらい、握り締めてるその手は。 「け、景吾……ッ」 「いてっ、いててててっ!」 「貴様……人の女に手を出すとは……いい度胸だな、あーん?」 ガゴッと鈍い音が鳴って、男が吹っ飛ぶ。 え、何が起こったのよ……!? もしかして、け、景吾が殴り飛ばしたのですか……!? ザッと地面に倒れた男に、さらにガンッ、と蹴りを加えた景吾。 その蹴りで、男はサーッと逃げていった。 呆然とその光景を見る。 景吾が殴った右手を1回振って、くるりとこちらへ向き直った。 ……怒ってる……怒ってるよぉ〜…………。 『怒ってます』と主張する、荒々しい足音。 「バカヤロウ!」 滅多に聞かない景吾の怒鳴り声に、ビクリと体がすくむ。 「お前、俺が来なかったら、キスどころじゃ済んでなかったかもしれねぇんだぞ!こんな人気のねぇところで、男と2人っきりになるなんて、襲ってくれって言ってるようなもんじゃねぇか!」 「ご、ごめんなさい……っ」 いつでも逃げれると思ってた。 なんとかなると思ってた。 いざとなったら、暴れて抵抗して、逃げればいいと思ってた。 だけど、実際、手首を掴まれたときは、ものすごい力の差で。 暴れるどころじゃなかった。 「……ったく…………」 目の前までやってきた景吾は、腕を広げて抱きしめてくれた。 ぎゅっと頭を抱えられて、ようやく私は自分が震えてることに気づいた。 「あ、れ……」 「あれ、じゃねぇんだよ。……お前は無防備すぎる」 「う……」 「男がこんな公園に呼び出すなんて、下心以外のなんでもねぇだろうが」 「……男だって、知らなくて……」 メールだけだったから、女の子だと思ってたし……。 言い訳だって考えてたしね……。 「……じゃあ、なんでお前こんなとこ来たんだよ」 「昨日、メールで……呼び出されて」 景吾の動きが止まった。 「……携帯」 「え?」 「携帯、見せろ」 一旦離してもらって、ポケットから携帯を出し、景吾に渡す。 景吾も、同じ機種の携帯を持ってるから、慣れた操作でメール画面を開いた。 ジッと昨日のメールを見た後。 携帯を閉じ、はぁ、とため息をつく景吾。 携帯を返してもらって、ポケットに入れると同時に、また、抱きしめられた。 「……お前な……もっと、俺を頼れ」 「え?」 「お前は、肝心なところで俺に頼らねぇ、甘えねぇ。このメールだって、言ってくれりゃ、俺がどうにでも対処してやる」 「…………でも、景吾に迷惑かけるし……」 「そこだ、そこ。……こういう迷惑なら、いくらでもかけていいんだよ。……秘密をバラす?上等だ。その前に相手の秘密を暴き出す」 景吾なら、やりかねないところが、また、現実味がある……。 ちゅっ、と頬に感じる感触。 「わっ!?」 ふ、不意打ち……ッ。 ビックリして離れようと思ったけど、もちろんガッチリ固定されているので、動けない。 「……もっと俺に甘えろ。お前は、それが許された、唯一の人間だ」 景吾の親指が、唇をなぞる。 恥ずかしくて、顔から火が出るとはこのことか……ッ! 次いで、指の代わりに降りる唇。 「…………っん……」 深く入り込んでくる舌。 油断したら、カクン、と腰砕けになるのを、景吾のシャツを握り締めることによって、なんとか阻止。 2回ほど角度を変えて、キスされて、ようやく解放された。 恥ずかしいのと、息が吸えないので真っ赤であろう顔。 フィニッシュは、軽い、音だけのキス。 …………私だけ息が切れてて、景吾が余裕綽々なのが、また……ッ!(泣) 「……今度からは、ちゃんと俺に言え」 「りょ、了解です……」 ポン、と頭に手を乗っけられ、景吾に手を握られて、公園を出る。 公園の外には、いつもの車が待っていた。 車に乗り込んで、はたと疑問を述べてみる。 「…………そういえば、なんで景吾、タイミングよく現れたの?」 「お前の様子が変だったから、学校出た後、つけてきた。……その後は、木の影に。……ったく、俺様を立ちっぱなしにさせる女なんて、お前くらいなもんだ」 「……ずっと木の影に?」 「ただの告白くらいなら、俺様が出るまでもねぇと思ってたんだが……あそこまで、されたら、流石に出ねぇわけにいかねぇだろ」 ………………でも、あれは予定外だったのよ、ホントに。 だってさ、フッた相手にちゅーされるなんて、誰も思わないじゃん! 「…………今日はバツとして、帰ったらたっぷりサービスしてもらうからな」 ………………なんですと? 「……え―――!さっきのでチャラじゃなかったの!?」 「そんな安いわけねぇだろうが」 そ、そんな……帰った後が怖い……ッ! 運転手さんに、この辺ぐるぐる5往復くらいしてもらえませんか?って言いたくなった……! NEXT |