神様に願うことはたくさんあった。

これが『夢』でありませんように、とか。

景吾とずっと一緒にいられますように、とか。

氷帝テニス部がもっともっと上へ行けますように、とか。

イケメンプリンスたちともっとおしゃべりできますように、とか。

高校ではもっと平穏な日常が過ごせますように、とか。

…………うん、一番最後が一番切実かもしれない。



Act.51  の底から、願うことは



5円でずいぶん欲張ったお参りを済ませて、列から抜け出る。
景吾には『ずいぶん長いこと祈ってたな』と言われたけれど、曖昧に笑っておいた。景吾さんと一緒にいるためには必要なことなんですもの(キッパリ)

さて、と時間を確認がてら、携帯に目をやると。

「……あらら?」

新着メールと……着信???
ぽちぽちと操作して確認すると、着信履歴は『侑士』と『がっくん』だった。
電話を受けたのはまだ日付が変わる前だったけれど、どうやら並んでいる最中で、バイブにも気付かなかったらしい。

「どうした?」

「んー、なんか侑士とがっくんから電話があったみたい」

そういうと、景吾がちょっと眉をひそめた。……なぜ。
かけ直そうとしたけれど……日付が変わった直後だからか、それとも向こうもかけ直そうとしているのか。特にコール音が鳴ることもなくプツリと電話は切れてしまった。

「あー……通じないなぁ……」

しばらく格闘したけれど、諦めて新着メールを見る。
メールは日付を越してもなんとか届いているらしい。えーじに桃ちゃん、キヨや赤也からは12時ちょうどにメールが届いていた。あけおめメールだ……けど、ちゃんと私宛にメッセージが書かれているので、後で返信しよう。

と思っていると。

「おぉぉ??」

ブー、ブー、と携帯が振動しはじめた。

「……はいはい?侑士?」

私が発した声に、景吾が心底嫌そうな顔をした。……だからなぜ。

『おー、やっと通じたわ〜……ちゃん、あけましておめでとさん』

「おめでとう〜!今年もよろしくね」

『こちらこそ。……んで、そのざわめき……やっぱ、初詣来とるんやな?よっしゃ、岳人。読みが当たったで!』

マジかー!というがっくんの声が微かに聞こえる。

『どーせ跡部も一緒やろ?……ってことは……』

侑士は、まさしく今、私たちがいる神社の名前を言った。

「うん。そこにいるよ。もしかして……」

『あぁ、俺らも初詣来とるで』

「あはは、ホント〜?」

そう話していると、侑士との会話が気になったのか、景吾が、「なんだ?」と顔を寄せてきた。

「侑士たちも今、ここに来てるって」

……………景吾の顔が、非常に険しくなった。

『どこおるん?』

「えーっとね……」

今いる場所を説明しようと、何か目印を探すためにキョロキョロとあたりを見回―――

「今から帰るからついてくるな。正月早々、テメェの顔なんざ見たくもねェ」

……携帯を横取りされて、景吾が悪態をついていた。

『なんやねん、跡部。自分こそ、正月早々、ちゃんの独り占めしよう思っとったって、世間はそない甘くないで〜』

なにかの言葉を聞いて、景吾の顔が真っ黒い笑みに変わっていく。
…………ウヒィィィィ!!!

「黙れ伊達眼鏡。テメェ、正月早々再起不能にされてぇか……?」

『俺に深刻なダメージ与えられんのはちゃんしかおらん(キッパリ)ちなみに、今年も都合悪いことは頭に入らんコースで行こう思てるから、よろしゅうな』

「ほぅ……なら俺様は……」

ゴニョゴニョと景吾が真っ黒オーラを放ちながら話しているのを見て、私は背筋がぞぞぞっとなるのを抑えきれず―――新年早々、そんなのはゴメンだ!と思ったので、

勇気を振り絞って、携帯を持った景吾の手をぐいっと引っ張ってそのまま携帯に耳を当てた。

「侑士!?今からおみくじ引きに行くから、おみくじのあたりで落ち合おう!」

ちゃん!?』

「おい、「うん、そーゆーわけで!」

『りょーかい。ほな、岳人たちにも伝えとくわ』

「うん、またあとで!」

一気に言い終わって、息をつく。
目を閉じて、きっと機嫌が悪いだろう景吾になんて言おうかな―――やっぱり新年だからでごり押ししようかな―――なんて考えて、そろりと目を開けて景吾を見ると。

「……ったく」

あれ、意外にもあまり怒ってない様子。
景吾もなんだかんだいって、侑士たちに会いたかったんだ―――なんてほっとしていたら。

「………!?!?」

今の状況を、私はきっちり把握した。

すなわち。

私の携帯を持った景吾の右手を、

しっかり両手で握り締めている私、という状況。

驚いてぱっと離そうとしたら、景吾の左手がそれを阻止し、

……4つの手が景吾の口元に寄せられる。


……ちゅっ……。

右手に感じた、柔らかい感触。





「……新年早々のスキンシップ、中々悪くねぇぜ?」





「……ワァァァァアアア!!!!手を、手を離してえぇぇぇぇ!!!!」

意識とおみくじ売場がちょっと遠のいた。






―――!!!跡部―――!!!こっちこっち!!!」

人ごみの中でも目立つがっくんの声。プラス、ぴょこんぴょこんと見えるおかっぱ頭。
その周りには、周囲の注目を集めている美形な人々。

「…………正月早々、みんなが眩しい……」

侑士にがっくんだけでなく、亮にジローちゃんもいた。
ジローちゃんも深夜なのにまだ覚醒状態らしく、「おーい!!!」とがっくんと一緒になって手を振っている。

超大声で私たちを呼ぶ彼ら(しかも美形)を、周囲の人は遠慮もなしに見つめ―――その視線は、必然的に、彼らが呼んでいる人間、私たちの方にも注がれる。

「……うっ………」

……そして人々の視線は、麗しき景吾さんに釘づけになるのです。
女の子たちが一瞬にして「ちょ、めっちゃカッコイイ人がいる!!!」と囁き始める。
そして必然的に私にも目が行くのか「……でも隣に女いる……」と憎しみをこめた囁きが広がる。
アー……今年もこんな感じかー……(遠い目)

今年の行く末を見た感じがして少し寂しくなったけれど、気合いを入れなおしてイケメンたちへ向かう。
……こうなったら、今年もどんと来いよ!こんなに間近で王子様たちと触れ合えることに感謝の1年にしてやる!

、跡部、あけおめ!」

「おめっとー!」

「おめでとうさん」

「おう、今年もよろしくな」

みんなの顔を見ていたら……うん、これはもしかして、幸先、いいんでないかしら。
物は考えよう。
……正月早々、こうしてみんなに会えたことを考えると、きっと今年もいい年になる!

「……うん、あけましておめでとう!今年もよろしく!」

新しい1年。

素晴らしいものだと、信じて。



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