今日は休日で、部活もない日。 外は快晴、真っ青な空が広がっている。 跡部家の庭にある木が、そよそよと風で揺れている。 …………気持ち良さそうだ。 「景吾〜、お昼は外で食べようよ」 「外?」 「お天気いいし、ね?」 「…………別にいいが」 そんなわけで、お昼は跡部家のお庭で。 久々にお休みらしいお休みになると思ったら。 ………………やっぱり、平穏は私に近づいてこなかったらしい。 「梅雨に入ったら、こんなお天気ともしばらくお別れだねぇ〜」 もくもく、とお庭でご飯(今日は、和食のお昼。お膳で出てくる、お弁当風)を食べていた私たち。 景吾のお箸使いの綺麗さを見習いながら、私もお膳の中の煮物をつまんだ。 あ、里芋の煮物がおいしいvv 「梅雨が明けたら夏だしな……夏になったら、海でも行くか」 「海!……焼きもろこしに焼きソバ〜!」 「…………メインはそっちじゃねぇだろ……」 でも、海に行ったら、海の家でしょう! ……っていうか、水着とか恥ずかしすぎるからね!食べ物系に逃げないと!(コラ) 変な風に意気込んでいたら、わふ、わふっと寄ってくるものが。 「あー、クリスティーヌ!」 跡部家の犬、クリスティーヌ(♀ 3才)はゴールデンレトリーバー。金色の毛並みが、とっても艶やかで可愛いわんこvv お座り、お手に始まり、数々の芸をこなす、芸達者犬。……いったい、誰が教えたんだろう。景吾か? わふっ、と私たちがご飯を食べてるテーブルの横に座る。 ……どうやら、食べ終わったら遊んで、と言ってるみたいだ。 ちらっ、と景吾を見たら、仕方ねぇな、という表情。 「クリスティーヌ、食べ終わったらね!」 わふっ、と頷いた(?)クリスティーヌ。 手早くご飯を食べ終わると、クリスティーヌを撫で撫で。 彼女の遊び道具は、古くなったテニスボール。 ちなみに、ご自身で口にくわえて持参です。 広い庭で、ポーンと投げれば、ダァァァァッ!と走り抜けるクリスティーヌ。 ぱくっ、とくわえてまた一目散に持ってくる。 勢い余って飛びついてきたクリスティーヌに、尻餅をついてしまった。 「なにやってんだ……」 「あははははっ!いけ、クリスティーヌ!」 クリスティーヌが私から景吾に矛先を変える。 景吾はヒラリッとそれをかわすと、落ちていたテニスボールを拾って、思い切り投げた。 素晴らしく遠くへ飛んでいくボール。 クリスティーヌはそれに反応すると、身を反転させて追いかけていった。 「て、手馴れてる……ッ」 「当たり前だろ。……草、ついてる」 ポンポン、と景吾が背中についた草を払ってくれた。 景吾はゆっくりと私の隣に腰を下ろす。 戻ってきたクリスティーヌに、景吾がもう1度ボールを投げる。 「……やっぱり、景吾、力あるんだね……飛距離が全然違うよ……」 「お前な……男と女の力の差、考えてみろ」 う……でもさぁ、体格的には似てるから、そんなに感じなかったんだよね……。 そういえば、小さいがっくんやジローちゃんも、力は私よりも強いよな……。 「うーん……クリスティーヌ、男ってズルイよねぇ」 戻ってきたクリスティーヌを抱きしめて、頬ずり。 じっと私の抱擁を受けているクリスティーヌ。超可愛いvv と思ったら、景吾がもう1度ボールを拾って投げると、あっという間にクリスティーヌは私の手から離れてボールを追いかけていってしまう。 あぁ……私よりもボールがいいのね……! 両腕が、抱きしめていたものがなくなって、宙ぶらりんに。 私からクリスティーヌを奪った景吾を睨もうと、顔を向けると。 ぐいっと手を引かれて顔どころか、体全体が景吾の方へ。 しかも、手が引かれたから思いっきり景吾に抱きつく形で密着していて。 「け、けけけ、景吾!?」 「抱きつくなら、クリスティーヌより俺様だろ、あーん?」 「えぇぇっ、違っ」 「違わねぇよ」 そう言って、景吾は私がさっきクリスティーヌにやっていたのと同じこと(つまり頬ずり)をしてきた。 ぎゃ―――!恥ずかしいからやーめーてー! 「景吾、恥ずかしい〜!ここ、庭っ!庭ッ!」 「関係ねぇ」 「ある―――!!!」 叫んでも、もがいても景吾の腕は外れない。 ……こんなところで、男女の力の差をさらに痛感してしまったよ……! ブロロロ、という車の音が聞こえた。 なんとか視線をずらすと、玄関に向かって走り抜ける車が1台。 「景吾ッ、お客様だよ!」 景吾がようやく体を離して、車を見る。 そして、あぁ、と声を漏らした。 「客じゃねぇよ」 「えっ?」 景吾が立ち上がり、私も立たされた。 「……おじいさまのお帰りだ」 お、おじいさまっ!? クリスティーヌにバイバイをし、景吾と2人、屋敷へ戻る。 玄関の前には、さっき見た車があった。 「景吾……お、おじいさまって……」 「跡部家の現当主。財閥の社長も務めてる」 NO〜〜〜〜〜!! えっ、ちょっ、心の準備が出来てないって! そんなすっごい人とこれから会おうとしてるの!? クリスティーヌと遊んで、草もちょっぴりついた、この格好で!? 「ちょっ、景吾、無理!私なんかが会っちゃ……」 思いっきりマズイよね!? 「平気だ。……考えてみろ、あの親父を育てた人だぞ?」 あ―――……って、納得しちゃう私も私だけど。 でも、景吾パパは私を世界に呼び出した張本人だからまだしも、おじいさまは私となんの面識もないわけで……! 半ば強引に、景吾に引きずられるようにして屋敷の中へ。 玄関を入ると、1人のダンディーなおじさまがいらっしゃった。 あ……れ? おじいさん……いないじゃん……。 「、こちらが俺のおじいさまだ。……おじいさま、お久しぶりです」 景吾が紹介してくれたのは、ダンディーなおじさまで。 …………え?おじいさま? えぇぇぇえぇぇ!? おじいさまっていうから、白髪で小柄とか思ってたけど、全然そうじゃないじゃん! ダンディーで、『おじいさま』って呼ぶのがはばかられるくらい、カッコいいじゃん! 「景吾、元気そうだな。…………そちらのお嬢さんが、さんかね?」 うっ……声も渋くてカッコイイ……じゃなくて! やっぱり跡部家を束ねるものとして、すごい威厳に満ち溢れている。 私に向けられた目も、強い光を持ってる。め、目力……! 「は、はじめまして!、と申します!景吾くんとは、仲良くさせていただいて……!」 って、やっぱりなんか違―――! 景吾パパとかに初めて会ったときもそうだったけど……私って、自己紹介下手……!(泣) 1回、自己紹介文でも考えようかな……とか本気で思った。 「はじめまして。私は跡部景吾の祖父、跡部景蔵だ」 穏やかな微笑み。 その微笑みに、ホッと安堵の息が漏れた。 「景司たちが大分迷惑をかけたようだな……すまないね、さん」 「いえっ、あの……私、本当にここに来れて……景吾くんと会えて、跡部家の人たちと会えて、すごく、嬉しいんです」 じっとおじいさまは私を見ている。 なんだかしどろもどろになりながらも、感謝の言葉を伝えると、ふっとまた笑みを浮かべてくれた。 「…………いい、お嬢さんだな……景吾は、いい子に出会えた」 「えっ、イヤ、あの……ッ」 「えぇ、おじいさま」 景吾がぽん、と私の頭に手を乗っけながら、さらりと応対してくれちゃいまして。 恥ずかしさと緊張でいっぱいいっぱいの私は、うつむくことしか出来なかった。 「ところで、おばあさまはどうなさったんですか?」 「あぁ、今、宮田と話して―――あぁ、やってきた」 「景吾!」 抱きついた女の人は……やっぱりおばあさんとは呼べないくらい、若々しい人。 ……恐るべし、跡部家。年齢の壁をも越えるか……! 「おばあさま、お久しぶりです。お元気そうで、なによりです」 「えぇ、景吾も元気そう。……そちらの方が、さんね」 「は、はじめまして!」 ゆっくりと振り返ってきたおばあさんは。 ニッコリ微笑んで。 「はじめまして。景吾の祖母、跡部英子です」 うわぁ〜……ホントにこの人たち、景吾を孫に持ってるのか……? 親子といわれても、不思議じゃないぞ……!? 「そうそう、お土産があるんだよ。景吾とさんの分」 「…………お土産?」 「私たちの趣味は旅行でね……会社のことは、景司にほぼ引き継ぎを終えているから、世界旅行に行っていたのさ」 せ、世界旅行……! 規模が違う……!海外とかじゃないんだ、世界なんだ……! 「ようやくアジアの方面まで来たから、1度屋敷に戻って、孫と未来の孫を見ようと思ってね。ぜひともひ孫は私たちが生きてるうちにな」 …………………………………………………ん? 孫と……未来の、孫? ……………………ひ孫? 「景蔵さん、まだ気が早いですわよ。その前に、結婚してもらわなきゃ」 …………………………えぇぇえぇえ!? ちょっと待って、この人たちも、景吾ママたちと、同じ人種……!? 「だから言っただろ?親父を育てた人だって」 でもまさか、ここまでと思ってなかったんだよ! しかも、初対面は普通だったから! 「土産は後で運び込んでくれるだろう。どうかね?さん、一緒に食事でも」 しょ、食事……? 「おいしいフォアグラを食べさせてくれるところがあるのよ」 フォ、フォアグラ……! 金銭感覚がおかしくなる……! 「そこで、学校生活のこととかも、教えてくれないかい?」 景吾をちらっと見たら、軽く頷く景吾。 「よ、よろしければ、ぜひ……」 私の言葉に、お2人の顔に満面の笑みが広がる。 …………うぁぁ、テーブルマナーもう1度おさらいしておこう……! レストランで、学校生活のこと、部活のことなどをたくさん話して。 おじいさま、おばあさまからは、旅行の話を聞かせてもらった。 そのままレストランの前で、おじいさまとおばあさまと別れて(2人はこれからまた成田へ向かうらしい) 景吾と2人、屋敷に帰ると。 …………………………膨大なお土産の山が。 服に始まり、鞄、民族品、香水などなど……中には、なんの意味があるのかわからない、オブジェとかもあった。 跡部家の人間は……やっぱり、すごかった。 NEXT |